連合大学院(正式名称:法政大学大学院連帯社会インスティテュート)は2015年4月に法政大学と連合との協力によって開講された。社会人向けに、労働組合プログラム、協同組合プログラム、NPOプログラムの3コースを設置し、将来、それぞれの組織が連携や協力をしあえる仕組みをコーディネートできるような視野の広い専門人材、リーダーの育成をめざしてスタート。
今回は、連合大学院設立以来、8年もの長きにわたって、連合大学院の運営委員長としてご活躍いただいた中村先生と、そのバトンを引き継ぐことになった禹(ウー)先生のお二人に、連合大学院で学ぶ意義について語りあっていただいた。
世界的にもユニークなコンセプトの大学院
永井:連合大学院は、日本国内でも、あるいは世界的に見ても、労働組合のナショナルセンターが協力して開講するという、きわめてユニークなコンセプトでスタートしました。このようなコンセプトについて、中村先生はどのように評価されていますか?また、開講から8年がたちましたが、振り返られてどうですか?
中村:そもそも労働組合を集中的に教える大学院はそうあるわけではなく、ましてや協同組合もNPOも教えるという大学院は極めて珍しい。また、院生は労働組合に所属している人だけでなく、協同組合やNPOに関心がある人も学んでいるという点でも大変ユニークな大学院です。
最初の2,3年はどのような授業にするか、試行錯誤でとても大変でした。労働組合に所属している院生たちに組合が持つ可能性を理解してもらうと同時に、協同組合やNPOに関心がある院生たちにも組合への関心を持ってもらう必要があるからです。労働組合論の最初の授業では、労働者だけに認められている独占する、団結する権利の現代的意義をきちんと理解してもらえるよう、しっかり講義ノートを作ったうえで臨んだことを覚えています。
私自身にとっても、協同組合やNPOへの理解を深めることができたことは大きかったですね。NPOスタディツアーで山谷(さんや)のドヤ街を歩き、日雇い労働者たちへのサポートの実情にふれたこと、労働者福祉協議会(労福協)の存在やその活動を知ったことも大変刺激になりました。
永井:禹先生は4月に着任され、中村先生の後を引き継いだわけですが、連合大学院のこのようなコンセプトについては、どのようにお感じになっていますか?
禹:今は社会的な分断や排除が深刻化しており、社会的統合が非常に大きな課題となっています。では、統合の主体はどこにあるのかと問うた時、連合大学院の意義は非常に大きいと思います。まさに労働組合と協同組合、NPOがつながって、現在影が薄くなっている中間団体を強化しながら、自分たちで統合を成し遂げる。そのために一方では実践をし、他方では必要な政策も探究して、今後必要となる社会的統合を自ら作り上げていく。その意味で非常に重要な意義を持っていると思いますし、さらに発展させていきたいと考えています。
教員たちによるきめ細かな論文指導も特色の一つ
永井:半年に一回ずつ、マイルストーンのように修士論文の進捗具合を発表しあうシステムなどは、特に連合大学院の特色の一つだと思いますが、このシステムを考案された中村先生に、その狙いや実際の効果などについてお話いただけますでしょうか?
中村:1年次の初夏の段階では、ほとんどの院生が漠然と「こういうことをやりたい」と思っているだけの状態です。それを3人の教員は厳しく突っ込み、時には否定もするわけですが、重要なのは院生たちに「自分でこのテーマを探究したい」と思わせること。論文指導のゼミなどで秋には少し具体的になってきて、文献購読やデータ収集をする中で、2年次の初夏にはかなり具体的になり、秋になるとしっかりテーマが固まってきます。また労働組合プログラム、協同組合プログラム、NPOプログラムの専任教員3人がそれぞれの視点から研究テーマについて質問や助言を行うのも、院生たちにとってメリットが大きいと思います。
永井:この他にも、毎年全員分の修士論文をまとめた修士論文集の発行や、すべての必修授業をオンデマンドで視聴できるシステムなどを導入していますが、禹先生はどのようにお感じになりますか?
禹:本当の意味で専門性を深めるためには、自分の専門領域の知識習得だけでなく、たくさんの人々と議論しながら考え、広い視野から自分の研究を相対化することが重要です。連合大学院のプログラムは、労働組合プログラムの院生であっても、必修として協同組合概論、NPO論を学ばなければならない。NPOプログラムの院生も、労働組合論、協同組合概論を受講し、基本はしっかり学んでおかないといけない。そのうえ、教員と院生同士の議論を通して、自分の論文、あるいは自分の問題意識を深めていくというのは非常にいいことです。今後の私の期待としては、それぞれのプログラムだけのテーマに限らず、複数の分野にまたがる学際的なテーマを設定し、論文を執筆する院生がでてきてもおもしろいのではないかと思います。
実務者から学ぶオムニバス授業や次なるアイデアについて
永井:連合大学院には他にも様々なユニークな取り組みがありますが、中村先生からご覧になって効果的だと思う取り組みはありますか? また禹先生は、こんなことがしてみたいというようなアイデアをお持ちですか?
中村:オムニバス授業の「連帯社会とサードセクター」は、今後もぜひ継続してほしいと思います。労働組合、協同組合、NPO/NGOの現場の第一線で活躍する実務者を講師に迎え、経験や本音を語っていただくのですが、院生や教員にとってとても勉強になる機会となっています。
禹:私としては、まずは中村先生を中心にしっかり育ててこられたレガシーを継承していくこと。そして、OB・OGの懇談会を実施し、連合大学院修了生たちがどのように活躍されているか、大学院で学んだことが自身にとってどのように役立っているか、そして後輩たちのための要望などを聞いてみたいですね。また、連合大学院修了後も引き続き研究や議論ができるよう、修了生たちが集まり、お互いに切磋琢磨する場を設けたいとも考えています。
より大きな連帯を築くための学びを手にしてほしい
永井:禹先生はこれから連合大学院でどのようなことをしていきたい、どのような学生を育てたいとお考えですか?
禹:当大学院がめざすのは、連帯社会や新しい公共をいかに構築していくかです。そのための政策議論の場は東京になると思いますが、他方で実践の場は地域になります。となると、地域で連帯社会作りのニーズと経験を持っている方々が、当大学院でいかに学べるかが重要になってきます。政策と実践の循環、東京と地域の循環、この好循環を今後どのようにして作り上げれば、院生たちによりよい教育を提供できるのか。それを一つの課題として考えていきたいですね。
中村:確かに現状では地域に有為な人材がいても、なかなか連合大学院の教育が届きません。私自身は基本的には対面授業がいいとは思っていますが、地域にアウトリーチするためにはオンライン授業、放送大学のようなやり方を検討する余地もあるかもしれません。
永井:禹先生をお迎えし、新たな体制となった連合大学院で引き続き多くの方に学びを提供していきたいと思いますが、先生方からぜひメッセージをお願いします。
中村:あるべき社会を考えるのではなく、良い方向へ少しでも社会を変えていくことを考え、実践していく。その主体になれるのはアソシエーション(団体)の人だけです。アソシエーションとして最初に浮かぶのが労働組合であり、協同組合、NPOです。アソシエーションの中の人々が、自分たちが抱えている問題をいかに解決するかを考え、行動を起こし、少しずつ日本社会をよくしていく。連合大学院は、そんなことを考えさせてくれる他にはない場ですので、ぜひとも参加していただきたいですね。
禹:大学院でなぜ学ぶのか。自分で問題関心を深め、自分なりに解決策を探ることが後々の自分の人生にとって大きなエネルギーになるからです。特に連合大学院は、追求するテーマが自分にとっても社会にとっても意義があるものです。そういうテーマを一緒に追求する、ともに苦労しながら何らかの答えを見つけ出す。他ではなかなかできない経験の場がみなさんを待っています。ぜひ連合大学院の門を叩き、貴重な示唆を得ていただきたいと思います。
永井:ありがとうございました。
連合大学院の詳細についてはこちら
http://recss.jp/postgraduate.html