座談会出席者
岩崎 拓歩さん 慶應義塾大学3年生
金 台リン(てりん)さん 慶應義塾大学3年生
三枝 馨さん お茶の水女子大学3年生
静間 彩乃さん お茶の水女子大学3年生
清水 秀行 連合事務局長
【進行】佐保 昌一 連合総合政策推進局長(社会保障担当)
自分たちは、保険料負担に応じた年金を受け取れるのだろうか、そもそもシニアになった時まで、年金制度は続いているのだろうか…。若い世代には、こんな不安を抱える人も多いだろう。連合の清水秀行事務局長が、4人の大学生に「ホンネ」を聞いてみた。
払った額よりもらう額の方が少ない? 揺らぐ若者の信頼
清水(以下、敬称略):現在、5年に1度の年金制度改革に向けた政府の議論が、大詰めを迎えようとしており、連合も議論に参加して労働者、生活者の立場から意見を述べています。その中で、みなさんのような若い人たちの意見も、政策に反映させたいと考えています。まずは年金制度に抱くイメージや、率直な感想を話してもらえないでしょうか。
岩崎:僕はゼミで年金を専攻しており、金さんと一緒に、日本と韓国の若者のキャリア観や年金制度の違いなどを研究しています。ちなみにアルバイトの年収は103万円を超えていて、国民年金保険料も自分で払っており、学生には高いな、と思うこともあります。
年金に関して率直に言えば、高齢者が増え労働者の人口が減る中で、支払った額より受給額の方が少なくなってしまうんじゃないか、という不安を抱えています。


金:私は韓国・釜山出身で、大学1年から日本に留学しています。岩崎さんと、日韓の年金制度を比較した上で、制度改革のアイデアを提案しようとしています。
日本の年金制度については、女性が優遇されているイメージがあるのと、若者が年金に関心を持っていないと感じます。年金制度は将来、若者の生活にも大きな影響を与えますし、学校などでもっと年金のことを教えた方がいいと思います。
三枝:大学では女性の働き方や家族のあり方を研究しています。香川県出身で、寮に住んでバイトと仕送りで生活しています。年金保険料は親が支払ってくれていて、将来働いて返そうと思っています。
年金については、若者の信頼が揺らいでいると感じます。私も貯蓄しておかなければ、退職後生きていけないのではないかと恐れていますし、かといってどのくらいの資産を持てばいいのかもわからず、ただ漠然と不安です。国民に信頼されなければ財政も安定しないでしょうし、そうなると制度を維持するのも難しいのではないでしょうか。


国庫負担増加に積立金の運用 制度維持に政府も尽力
静間:私は女性のキャリア形成と社会保障制度との関係を研究しており、3号制度による女性の働き控えを考える中で、年金に関心を持ち始めました。年金保険料は社会に出るまで両親が負担してくれています。
日本の賦課方式の年金制度が、少子高齢化の中で持続できるのかは不安です。年金にあまり詳しくない友人たちは、払い損ではないかとも話しています。年金についてよく分からないままに、保険料を支払っている人が多いとも感じます。
佐保:ご指摘の通り、日本の年金制度は支給に必要な財源を、その時支払われた保険料収入で賄う賦課方式です。自分たちの年金を現役世代のうちに用意する積立方式もありますが、貯金と同じで積み立てを使い果たしてしまうリスクや、インフレで価値が目減りするリスクがあります。インフレや社会構造の変化に対応しやすいのが、賦課方式のメリットです。
清水:みなさんは20歳になった時から、年金保険料を負担していますよね。ただ親が肩代わりするケースも多いので、負担を意識していない若者も多いかもしれません。さらに会社員になると、給料から健康保険料と年金保険料が天引きされるので、当事者意識を持ちづらい。年金について学ぶ機会が必要だというご意見は、その通りだと思います。
少子高齢化が進む中、若い世代が年金制度の持続性に不安を抱くのはよく分かります。ただ政府も、国庫の負担割合を増やしたり積立金を運用したり、賃金や物価の上昇率よりも年金給付額の引き上げ率を抑える「マクロ経済スライド」という仕組みを導入したりと、制度維持のためさまざまな策を講じています。長期的には給付水準は緩やかに低下する見通しですが、それでも現役世代の5~6割はもらえるという試算もあり、ゼロになることはありません。日本の皆年金制度は、全ての人にセーフティネットを提供し、被用者には厚生年金も上積みされます。老後の生活を自己責任に帰すより、互いに支え合った方がいいと思います。


女性のキャリア形成には、3号制度以外の障壁も撤廃を
佐保:次に3号制度について、話し合いたいと思います。連合は10月に3号制度を廃止すべきという考えを打ち出しました。ただ3号被保険者は約670万人いるので、すぐに廃止するのは難しく、トータルで20~25年かけて経過的・段階的に進める案をまとめました。
夫が会社勤めなら、扶養に入る妻は3号被保険者となり保険料が免除されますが、夫が農業などの場合、妻には保険料負担が生じます。夫の働き方で妻の負担が変わってしまうのは、フェアではありません。また保険料負担が生じないよう、妻が年収を一定額に収めようとするため、女性のキャリア形成を阻害し、男女間の賃金格差を拡大させる一因にもなっています。3号制度について、皆さんはどのように考えますか。
岩崎:3号制度は廃止し、女性がキャリアアップしやすい環境を整えた方がいいと考えています。ただ研究の一環で行ったアンケート調査では、年金が担保されるなら3号制度を維持すべきだ、という声も多数ありました。廃止にするなら情報発信や教育を通じて、正しい知識を持ってもらうことが大事だと感じました。
社会保険の被保険者を、20時間以上働く短時間労働者すべてに拡大するという方向性にも賛成です。2号被保険者の中には独身者もいて、なぜ自分が他人の扶養家族の保険料を賄うのかという不公平感が生じています。適用拡大によって2号に移る人が増え、結果的に3号被保険者が減る効果も期待できます。
三枝:3号制度は廃止した方がいいと思いますが、それだけでは女性のキャリア形成は進まないと思います。女性が退職に追い込まれる最大の理由は、家事育児の大半を担いながら仕事もするという負担の重さです。社会に出ている先輩からは、子どもができたら今と同じ職場では働けない、という声も聞きます。収入が下がっても休みやすい職場へ転職する女性もたくさんいます。男性が主に家計を担うという性的役割分業や長時間労働など、3号制度以外の障壁も排除する必要があると思います。
また非正規の働き手の中にはスキル不足や、高い教育を受けられなかったなどの理由から、低賃金で働かざるを得ない人たちもいます。3号制度の廃止や社会保険の適用拡大で、こうした人が新たに保険料を支払うことになり生活を維持できなくなるなら、そこに対する手当は必要だと考えています。

女性活躍に年金制度、年代超えた議論でより良い仕組みに
静間:3号制度は、家族のあり方や働き方が多様化した今の時代には、そぐわないと思います。ただ非正規の女性たちには、3号になっておいた方が「お得」だという考えも根強く、どれだけの人が廃止を望んでいるのか、実態を知りたいです。
私たちのヒアリングでは、長時間労働や転勤がキャリアパスに組み込まれている職場で、子育てを両立するのは非常に難しいという話がありました。結局は男性側の転勤で女性がキャリアを諦めたり、転職して子どものケアに回ったりしており、男性のキャリアに振り回されてしまっています。
ある女性は「私は子育てのためにそそくさと退社するのに、夫は際限なく働けて、ずるい」と話していました。一方で「お付き合いしている人は将来高収入が期待できるので、私は専業主婦になりたい」という人もいて、女性側の価値観もさまざまです。
佐保:岩崎さんと金さんは、日本と韓国の年金制度を比較しているそうですが、女性優遇の制度は韓国にはあるのでしょうか。
金:韓国には女性優遇の制度はありません。ただ日本と違って韓国の年金は2階、3階部分がない上に国民年金の保険料率も日本より低く、そもそも年金があまり大きな機能を果たしていません。
韓国の合計特殊出生率は0.7人と、非常に低下しています。女性はキャリアを望むようになったのに、依然として「男性は外で働き、女性は家庭を守る」という考え方が根強く残っていて、未婚女性や結婚しても子どもを産まない女性が増えているのです。女性のマインドの変化に応じて、制度や社会通念も変えていかなければ、少子化は深刻化するばかりですし、日本でも働き続けたいという女性が増えている以上、3号制度は廃止すべきです。
清水:皆さんのお話で、3号制度の廃止だけでは女性が活躍できる社会は実現できず、他のことにもあわせて取り組む必要があることを改めて認識させられました。世代を超えて年金や働き方を議論することは、きっと制度や社会を良い方向へ動かす力になるはずです。 日本は「シニア民主主義」と言われ、高齢者の反対があると改革がなかなか進まない面もあります。若い人たちにはぜひ政治に参加し、社会を変える担い手となってもらいたいとも思います。今日の議論が、みなさんにとって少しでもプラスになればと願っています。
感想
3号は廃止すべきだと単純に考えていましたが、670万人もの人が影響を受けることは知らずに議論していました。広い視野を持つことの大事さを学ぶ機会を頂けてありがたかったです。
普段話すのは同じ大学生が多いので、自分の世代を中心に考えてしまう部分がありました。世代だけでなく性別や国籍なども含めて、違う立場の人たちと話し合って新たな制度をつくるのが大事だと感じました。
将来は働いてキャリアを築きたいので、3号制度は不要だと思っていましたが、その裏には制度を必要とする人たちもいることが分かりました。社会にはさまざまな人がいて、年収以外にもいろんな「壁」がある。そこを乗り越えるための制度をつくることが大事だと思います。
さまざまな立場の人が納得できる制度をつくることがどれだけ難しいか、少しだけ理解できた気がします。より多くの人が年金制度に関心を持って意見を出し合えば、もっと良い年金制度にできるのではないか、と感じました。
