リーダーズボイス

連合リーダーの素顔に迫る!
~第7回 津村 正男  連合副会長・基幹労連中央執行委員長~

シリーズ第7回は、今年9月に基幹労連委員長に就任した津村正男連合副会長にインタビュー。最初に担当した「教育・広報」活動で労働組合の楽しさに出会い、機関誌編集委員会のメンバーとは今も交流を続けています。労働組合ならではの「縁」を大切にし、活動を支えるスタッフにも温かいまなざしを注ぐリーダーの素顔に迫ります。

津村 正男(つむら まさお)  連合副会長・基幹労連中央執行委員長

1984年三菱重工業(株)神戸造船所入社。三菱重工労働組合神戸造船所支部執行委員長、造船重機労連(現基幹労連)中央執行委員、三菱重工労働組合中央執行委員長、三菱重工グループ労働組合連合会会長などを歴任し、2019 年に基幹労連事務局長、2023年9月に基幹労連委員長、10月に連合副会長に就任。

物価が上昇し賃上げが強く求められている
時代の変化にしっかり対応していきたい

―労働運動を始めたきっかけは?

1984年、高校を卒業して三菱重工業(株)神戸造船所に入社しました。

略称「神船(しんせん)」と呼ばれる神戸造船所には、当時、コンテナ船などの商船を建造する部門のほかに原子力部門があって成長分野でした。

原子力発電所は、年に1度の定期検査が義務づけられていて、燃料を交換するほか、必要に応じて配管や機器の改造・更新を行います。私は、原子力部門に新たに設置されたアフターサービスを担当する部署の事技職で、主な仕事は通常の定期検査メニュー以外の改造工事や特殊工事の計画書などの作成です。

工事期間中は、発電所内の現地事務所に出張になりますが、そこでの出会いが労働運動を本格的に始めるきっかけになりました。

三菱重工労働組合神船支部では、「職場協議員」「職場委員」が機関誌配布や職場協議会の開催などの職場活動を担っていました。私は入社2年目に「職場協議員」になり、3年目には「職場委員」に。5年ほど務めて職場委員を降りたのですが、仕事で出張した関西電力美浜原子力発電所の現地事務所の事務長との出会いが、私を労働組合に引き戻すことになりました。

政策を実現するために自分たちの代表を政策決定の場に送り出すことは労働組合の重要な活動であり、当時の神船支部にも組織内議員がいました。

1992年の統一地方選挙で組織内候補の選挙事務所の責任者を務めたのが、美浜の現地事務所の事務長だった方で、私を選挙スタッフにと声をかけてくれた。その選挙でお世話になった先輩が支部執行部に入り、その先輩のすすめもあり、1992年10月、支部の専従執行委員になりました。

支部役員1期目(1992.10~1994.9)の研修会で機関紙を説明(30歳前後)

同時期に入社3年目の組合員に対するフォロー研修で開催趣旨を説明

大型企画では宮崎シーガイアを取材

—専従役員としての仕事は?

最初に担当したのは、教育・広報です。『神船』という機関誌を毎月発行していて、その編集委員会には若手組合員も参加しており、毎月みんなで企画を考え、取材に行き、編集する。年に1回の大型企画では神戸造船所が携わった宮崎のシーガイアにも取材に行きました。機関誌づくりは本当に楽しくて、当時のメンバーとは今もつながっています。

組合員に何をどう伝えるかを議論していくと、いろんな課題が見えてきます。教育・広報は組合活動の根幹だと思いました。

支部執行委員を4年務めた後、東京にある三菱重工労組本部の中央執行委員を2年、造船重機労連(現基幹労連)の中央執行委員を4年、計6年間を東京で過ごしました。

初めて「労使交渉」に臨む

—本部では?

賃金・一時金以外の「労働条件」を担当しました。教育・広報は組織内の活動ですが、労働条件は対会社との交渉が軸になります。ここで初めて、本部-本社レベルの「労使交渉」に担当として臨むことになりました。

最初の課題は「退職金引き上げ」。要求案を作成して執行委員会にかけますが、まず組合員の意見を集約し、組合員が納得できる要求根拠を示さなければならない。要求が決定したら、30歳そこそこの自分が、課長・部長と交渉しなければいけない。重責に緊張の連続でしたが、良い経験になりました。

その後、造船重機労連の中央執行委員になり「賃金」を担当しました。

造船重機労連は、産別統一闘争を重視し、要求提出から、交渉、妥結に至るまで足並みを揃えて進む「統一三原則」という考え方がありました。そのために主要単組のトップが集まって議論するんですが、普段はすごく仲が良いのに交渉の詰めの段階になると喧々諤々(けんけんがくがく)の議論になる。ここまで議論するからこそ、足並みを揃えて進めるのだと思いました。

とはいえ、当時の日本はデフレが深刻化し、「ベア不要論」も出される状況。本当に賃上げが全くできないような時期に担当していました。その後、私は2002年に神船支部に戻りましたが、翌2003年に鉄鋼労連・造船重機労連・非鉄連合が組織統合し、基幹労連が発足しました。

東京から支部に戻った2002年、関連組合の皆さんに対する講演(30歳代後半)

—神船支部に戻ってからは?

組織担当になり、2003年の統一地方選挙を迎えました。ところが、年明けに支部委員長が急逝され、組織担当の私が単組回りをすることに。「どうして委員長がこないのか」という視線も感じてつらかったですが、何とか当選できた。実はその年の夏に髪型をスッパリと丸刈りにしてから現在に至ります(笑)。

—その後、支部の書記長を経て委員長に…

2010年夏、会社から「神戸造船所は商船事業から撤退し、長崎と下関に集約する」との提案を受けました。神船支部の造船関係の組合員は500人以上、そのうち300人以上を再配置する必要がありました。最大限、神船内での再配置を模索しましたが、他の事業所に移らざるを得ない組合員も出てしまいました。「造船所」なのに商船建造がなくなるのは本当につらかったです。

判断を間違えてはいけない

—その後、三菱重工労組の本部執行委員長に…。

前回は、家族帯同で東京に行きましたが、家族は言葉や習慣の違いになじめなかったようで苦労をかけました。だから、また東京に行くと伝えたら、即答で「いってらっしゃい」と(笑)。以来、単身赴任生活は12年になります。

委員長になって責任の重さを痛感しました。脱炭素などの環境変化の中で、企業は事業構造の転換を迫られています。会社から提案を受けた時は、それにどこまで注文をつけるのか、組合員が納得できるところはどこか、見通しをもって対応しなければいけない。最終的な判断は委員長である自分がしなければいけない。だから、その判断を間違えてはいけないのだと肝に銘じました。

また、人事についても考えるようになりました。今までは声をかけてもらう立場でしたが、これからは自分が人材育成を考えなければいけないと。

—2019年に基幹労連の事務局長に就任されました。

今年で、基幹労連結成から20年になりますが、今も鉄鋼、造船重機、非鉄という部門ごとに運営している部分もあります。だからこそ安定した活動ができているのだと思います。

鉄鋼労連は、いわゆる春闘において1998年から2年サイクルの「複数年協定」に移行し、基幹労連もそれを継承しました。デフレ下にあって賃金要求にかかる人材や労力を他の課題に振り向けたほうが組合員のニーズに応えられるという判断の中での1つの選択であったと思います。

しかし、時代が変わり、物価上昇も踏まえた継続した賃上げが強く求められる状況にあります。この時代の変化にしっかり対応していきたいと思っています。

—尊敬している人は?

いろいろな方に仕えてきましたが、すごいな、と思ったのは基幹労連の前執行委員長である神田健一さんです。喋りも文章も上手で、よく勉強され、記憶力も素晴らしい。事務所でも酒席でも、私のことを「事務局長」としか呼んでくれないのですが、そのひと言で私は自分の立場を自覚することができた。芯が強く信念は曲げないけど、私がどうしてもと意見した時は聞いてくれた。リーダー的な要素を勉強させてもらいました。

—ご自身が委員長になられての抱負は?

委員長は、産別組合のトップとして、加盟組合のための取り組みを進める舵取りをするのはもちろんですが、同時に基幹労連中央本部という職場の責任者でもある。活動の継続性を高めるために、組織の土台を支えているのはプロパー職員の皆さんだと思っています。委員長として、職員が気持ちよく働き続けられる環境づくりも、意識していきたいと思っています。

労働組合は人と人の縁でつながれていく世界

—趣味は?

好きなのはゴルフです。コースを回りながらの会話も終わってからの懇親会も楽しい。

お酒も好きです。現地事務所への出張時は、毎晩民宿で先輩たちに日本酒や焼酎を飲ませてもらいました。よく飲むのはパンチが効いた「芋焼酎」。ワインは苦手ですぐに酔いが回ってしまいます。

—休日の過ごし方は?

ゲーム(ソリティア)をするか、ゴルフ番組を観るか、映画を観るか。家族でいくつかの配信サービスに入っているので、映画はいろいろ楽しめます。最近感動したのは『オットーという男』(トム・ハンクス主演、マーク・フォースター監督、2022年製作)。オットーは妻に先立たれ、後を追おうとするんですが、隣近所の人たちがなかなかそうさせてくれない。私は感情移入してすぐ泣いてしまうんですが、身近にいる誰かと重なって本当に心温まる映画です。邦画では『キングダム』かな。

実は若い頃は漫画が好きで、毎週漫画雑誌を買って読んでいました。言葉の使い方や感情表現など漫画から学んだことは多いと思っています。

—動物になるなら?

動物といえば、家には次男が拾ってきた茶トラの猫がいまして、当時猫嫌いだった妻は、今では娘と奪い合ってご機嫌取りをしているくらいです。私はあまり家にいないせいか、会うと警戒されます。たぶん彼(猫)の中のランクは私が最下位だと思います。だからじゃないけど、私が動物になるとしても猫じゃないですね(笑)。

動物になるなら、空を飛びたいですね。人間は地上を走れるし、水中にも潜れる。でも、空だけは自力では飛べない。だから、優雅に空を飛ぶ鳥にあこがれますね。

—読者へのメッセージを

労働組合は、会社のように成績評価で処遇が決まるのではなく、人と人との縁でつながれていく世界。自分の意思だけで進んでいけるものではなくて、自分の存在が誰かの目に留まって初めて道が拓かれる。だから、組合の機関要員や役員として声をかけられたら絶対に断らないでほしい。思い切ってこの世界に飛び込んでみてほしいと願っています。

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