シリーズ第16回は、山中しのぶ連合副会長にインタビュー。電機連合事務局次長として労働政策を担当するとともに、連合ジェンダー平等・多様性推進委員会の委員長としてその推進をリード。多忙な日々の中で大切にしているのは「ワーク・ライフ・バランス」。趣味のアウトドアキャンプやスキーの時間を確保するために業務効率化の努力を惜しまない、アクティブなリーダーの素顔に迫ります。
山中しのぶ(やまなか しのぶ) 連合副会長・電機連合総合労働政策部門事務局次長
1994年日本電気(株)に入社。金融ソリューション事業部のセールスパートナーとして、営業事務(入札対応、ユーザとの保守契約締結、部門の予算管理等)に従事。NECスキーサークル所属。日本電気労働組合の職場委員、本社支部・支部委員、中央委員を経て、2009年本社支部執行委員(専従)。2010年電機連合男女平等政策委員会に参画、2011年NECグループ連合書記次長を兼務。2014年日本電気労働組合中央執行委員。2016年電機連合中央執行委員に就任し、総合産業社会政策部門書記次長を経て、2022年総合労働政策部門書記次長。2021年10月より連合副会長、連合ジェンダー平等・多様性推進委員会委員長。厚生労働省雇用環境・均等分科会、労働政策審議会本審、総務省情報通信審議会などで委員を歴任。
ここでなら成長できる!
—労働運動を始めたきっかけは?
1994年に短大を卒業し日本電気(株)に入社しました。金融ソリューション事業部に配属され、「営業アシスタント(事務職)」として、入札対応や保守契約、予算管理などの営業事務を担当。バブル崩壊後でしたが、職場は忙しく営業職は徹夜続きの激務でした。
労働組合のことは、よく分かりませんでしたが、その当時、役員選挙が競争選挙だったため、「組合って難しそうだな」と思ったことを覚えています。
2000年代には営業アシスタントがすべて非正規採用になり、事務職の業務量も増加。私は営業職の仕事を一部引き受けたり、派遣社員の指導を担当したりで、忙しくしていました。そんな頃、「支部委員と中央委員になってほしい」と依頼され、最初はお断りしたものの、最後は根負けして引き受けました。
当時、日本電気労働組合田町支部(後に本社支部)では、活動の見える化や活動スタイルの変革に取り組んでいました。活動方針を対談形式で解説したり、支部執行委員を似顔絵で紹介したり、外部講師を招いての研修にも力を入れていました。
それまでは長期に役員を担う人が多かったのですが、短期間で回していくようにしたら、若手で優秀な営業マンやSEが執行部に入るようになり、組合と職場の距離が近くなった。そんな執行部を見て、私も「ここでなら成長できるかもしれない」と思えたんです。それが労働運動を始めるきっかけでした。
現場を知っているという強みこそ
—専従役員になったのは?
2009年、当時の副委員長(後の中央執行委員長)からの誘いで本社支部の専従執行委員に。登用の理由は、副委員長曰く、「営業アシスタントとの意見交換会の時、身振り手振りで一生懸命発表する姿が印象に残ったから」。
私が引き受けた理由は「執行部に入れば、苦手(人前で話すこと)を克服できると思ったから」。労使協議で経営層の考えを直接聞きたいという思いもありました。
本社支部は、社内のすべてのビジネスユニット(BU)を抱えていて、経営対策を重視していました。執行委員になると、いくつかのBUを担当し労使協議を担うのですが、私は「事務職」から職種転換して専従役員になったので、経営対策の知識が乏しく、初年度は営業BUの副担当に就いて先輩から必死で対応を学びました。
2年目に独り立ちして「パブリック(宇宙・防衛等社会インフラ)BU」の担当に。長時間労働が大きな課題でしたが、パブリックBUの業務内容も職場状況も分からない。そこで、足しげく職場に出向き、直接組合員に話を聞きました。断られたり、呆れられたりもしましたが、懐に飛び込んでいく中で、課題が見えてきました。特に中途入社した方の外部目線からの指摘は得るものが大きかったです。
単に要員を増やせば長時間労働が解消できるわけではありません。ヒアリングで築いた関係性をベースに経営側と労使協議を重ね、業務改善に向けて一定の成果をあげることができたと思います。この「小さな成功体験」を通じて、「現場を知っている」という強みがないと本当に価値のある労使協議はできないことを学びました。
男女が同じ課題に向き合い考える時間を
—その後、NECグループ連合や電機連合の役職も兼務されます。
当時は、「女性だから」という理由で、様々な役割を割り振られることが多く、そのことで、私自身はモチベーションが低下しました。
2010年に電機連合男女平等政策委員会の委員になりましたが、最初は何を話しているのかまったくわかりませんでした。2011年にはNECグループ連合の書記次長を兼務。これも3人配置のうち1人は女性にという「女性枠」。
職場組合員との距離が縮まって支部の仕事に専念したいのに、出張や懇親会ばかり増えて困ると、支部委員長に真剣に抗議したこともありました。
しかしある日、「このままではいけない。与えられた業務はしっかりやろう」と思い直しました。
当時は、女性組合員向けのイベントは実施していませんでした。私は、ニーズはあるのだからと支部内の反対を押し切り、人事部門とコラボした「全国女性営業職交流会」や「女性の健康を考えるセミナー」などを開催。「ワーキングマザーサロン」では、参加者の「短時間勤務社員は会社のお荷物のように見られているが、自分たちだって会社に貢献したい」という率直な声に共感が広がりました。その後、参加者同士がつながり、定期的に活動しているとの報告もあり、うれしかったです。
組合執行委員向けの「女性執行委員情報交換会」は「男女共同参画意見交換会」に衣替えし、女性役員だけのグループディスカッションに加え、男性役員も交えたグループディスカッションも実施しました。「女性の活動」から「組織としての活動」に転換し、当時は珍しかった育休や時短を取得した男性役員との意見交換を実施すると、参加者が回を追うごとに増え、課題が組織全体に共有されていきました。
「女性枠」が、「女性はいてくれればいい」というだけなら、キャリア形成の阻害要因にもなります。でも、必要な知識やスキルを身につければ、ワンランク上の立場で活動ができて、視野も広がるのだと実感しました。
学ぶことは自分を変えること
—本社支部役員として印象に残っている出来事は?
2008年秋のリーマンショックの影響で会社の業績が悪化。回復が遅れ、2012年3月の春季生活闘争終了後に賃金カット・人材活用施策が提案されました。
本部は、労使のトップ交渉や労使協議を何度も行い、会社提案の妥当性や今後の成長戦略を検討する中で苦渋の決断として施策を受け入れました。
各支部では、職場会を開き、組合員への説明を行いました。私も毎日のように相談を受けましたが、後に退職することになった方の切実な表情は今も忘れられません。
前後しますが、2011年1月に参加したJCM1「労働リーダーシップコース」は貴重な学びの機会になりました。約2週間の宿泊研修で、自動車総連やJAM、基幹労連など様々な業種・職種の組合役員の皆さんと、意見の不一致を恐れず、納得がいくまで話し合えたことは新鮮な体験でした。講義では、改めて労働組合の成り立ちや意義・役割を学び、組合役員としての機軸をつくれたように思います。
新型コロナから妊婦を守る取り組み
—2014年には中央本部へ。
中央本部では、ワークライフバランスや男性の育休取得促進に積極的に取り組んでいたのですが、わずか2年で電機連合の中央執行委員に。最初は社会政策を担当し、2020年からは書記次長として総合産業社会政策も担当。2022年からは総合労働政策部門担当の書記次長です。
電機連合は、男女平等政策委員会が起点になって、両立支援や不妊治療などへの支援、LGBT・SOGIの課題などに先駆的に取り組み、産別統一闘争の協約化の成果を原動力に法制化を実現してきました。
2020年春、新型コロナウイルスのパンデミックの中、女性組合員から電機連合組織内議員(当時)に「妊婦は感染リスクが高い。出勤停止や在宅勤務の措置をとるように要請してほしい」と訴えがありました。組織内議員が直ちに国会質疑で取り上げたところ、4000件を超える働く妊婦さんの切実な声が届き、マスコミでも取り上げられました。最終的には、厚生労働省が職場における配慮を求める「母性管理措置指針」を策定し「休暇取得支援助成金・PCR検査補助」などの施策も実現。一人の職場の声から始まりましたが、政策・制度要求の重要性や意義を痛感しました。
ワークライフバランスのために業務効率化
—趣味や休日の過ごし方は?
学生時代に競技スキーを始め、今もNECスキーサークルで活動しています。合宿中は業務を忘れ、仲間とのスキー談義でリフレッシュ。ただ、タイムを競うスポーツなのでケガはつきもの。足を骨折した翌日、何事もなかったかのようにオンライン会議に参加したこともあります。
休日は、夫婦でアウトドアキャンプへ。虫の声を聞きながら就寝し、鳥のさえずりを聞きながら起床する、格別の癒し空間です。
—誰にも負けないことは?
ワークライフバランスへの取り組みです。職場にいた時は、度重なるシステム変更や人材の流動化で残業の嵐。私自身も大変な業務量でしたが、趣味や家庭も大事にしたいとワークライフバランスや仕事の効率化の本を読み漁りました。中でも、東レ経営研究所社長などを歴任した佐々木常夫さんの『ビッグツリー〜私は仕事も家族も決してあきらめない~』『部下を定時に帰す仕事術』などの著作は、今も私のバイブルです。
—好きな映画は?
『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』などのアニメ映画をよく観ます。次はどうなるのかというワクワク感がたまりません。スキーの試合前は『進撃の巨人』の主題歌を聴いて気持ちを盛り上げます。スマホで読める漫画も愛読していますが、やめられなくなるので、時々アプリごと削除してデトックスしています。
—尊敬している人は?
NECスキーサークルの大先輩たちです。仕事で悩んだ時は、スキー場に向かう車中で相談。人生の先輩からのアドバイスは、目からウロコでいつも助けられています。
—座右の銘は?
あきっぽい性格なので、「継続は力なり」と自分に言い聞かせています。スキーは唯一継続しているスポーツかな。
—ご自分を動物に例えると?
例えると言われると思い浮かばないのですが、好きな動物は犬ですね。実家で飼っていましたが、人の言葉を理解し、惜しみない愛情を与えてくれて、癒されます。
—連合副会長、連合ジェンダー平等・多様性推進委員会委員長としてメッセージを。
ジェンダー平等は、なぜ必要なのか、腹落ちしないまま進めると良い結果につながりません。「女性の権利保護」「組織の活性化・組織力強化」「多様な価値観を尊重する社会の実現」という目的を、まずしっかり共有してほしいと思います。そして、そのことは、労働組合や社会の持続性を高めることにもつながると思います。
これからリーダーになっていく女性には、躊躇しないでチャレンジしてほしい。勤務時間や場所が問題なら、環境整備を求めてもいいんです。
私自身は、電機連合や連合の役員になったことで、公職に就く機会も増え、厚生労働省雇用環境・均等分科会では、パワハラ防止立法や男性育休の柔軟化などの審議に関わりました。またILOのハラスメント防止条約議論の会議では、政労使の激しい攻防や世界的なジェンダー平等の潮流を肌で感じることができました。
ぜひ「女性枠」を活用して自身のキャリア形成をはかり、組織や運動の活性化にも貢献してもらえたらと思います。
- JCM:全日本金属産業労働組合協議会(金属労協) ↩︎