2024年に改正児童福祉法が施行され、児童養護施設の出身者ら、親や家族を頼りづらい若者に対する支援が拡充された。しかし出身施設や居住自治体の方針などによって、受けられるケアには格差が存在し、とりわけ施設を経験していない若者は、支援へのアクセスが難しいのが現状だ。「あすなろサポートステーション」所長の福本啓介さんは「若者支援はまだまだ圧倒的に足りない」と訴える。

子どもが困る前につながる 施設や行政と連携
「あすなろサポートステーション(以下、あすなろ)」は2014年の開設以来、神奈川県藤沢市や海老名市などで、施設や里親家庭を経験した子ども・若者への相談支援を担ってきた。
「相談の多くに共通するのが、『日常生活』『住まい』『お金』『精神面』という『不安の4点セット』です。まずは雑談などを交え、相談者との信頼関係をつくります」と、福本啓介所長。
ゴミが溢れ電気や水道が止められた家庭で育ったり、親から深刻な虐待を受けたりした若者の中には、自分がどんな状態の時、助けを求めればいいのか分からない人もいる。教師や施設の職員らが、こうした当事者に代わって事情を説明したり、もともと相談者だった人が、恋人や友人の状況を見かねて「この人の相談にも乗ってあげて」と連れて来たりするケースもあるという。
このため福本さんらスタッフは、相談者に決して「困ったらおいで」という抽象的な言葉を使わない。「眠れなくなったら来て」「ご飯を食べられなくなったらメッセージを送って」など、各相談者にあわせて具体的な基準を伝えることにしている。
団体の強みは、若者が「困る前」につながる仕組みを設けていることだ。児童養護施設の職員が、あすなろサポーターとして施設退所前の子どもたちと、あすなろとの「つなぎ役」を務めている。
「サポーターが毎年、退所予定の子ども全員を当団体の事務所に連れてくる施設もあります。相談者の多くは、こうして事前につながった子どもたちです」
社会的養護の経験者は退所後に困難を抱えても、さまざまな事情から出身施設を頼りづらい場合がある。このため、あすなろだけでなく行政の支援窓口なども含めて、なるべく多くの頼れる場をつくっておくことが大事なのだという。
「やんちゃ系」から虐待被害に遭った若者へ 相談者の属性に変化
福本さんはあすなろで働く前、精神的なケアを必要とする子どもたちを対象とした「児童心理治療施設」の職員だった。当時は退所者支援の公的な枠組みはなかったが、福本さんを含めた施設職員の多くは、若者たちが施設を出た後も、自分の時間とお金を使って関わり続けていた。
「何気なく『次の休み、いつ?』と聞いてくる子が、実は友人との金銭トラブルなど、深刻な問題を抱えていることもありましたし、精神科入院病棟や少年院での面会など、業務の延長線上で関わることもしばしばでした」
施設の卒業生に対する支援も福祉として必要な機能であり、属人的な関わりに任せず公的な枠組みで行うべきではないか-。こうした考えを持った福本さんら支援関係者は2011年、「アフターケア勉強会」を立ち上げた。この活動を一つのきっかけとして2014年に事業化したのが、あすなろだ。
開設当時は、いわゆる「やんちゃ系」の相談者から「住む家がなくネットカフェを転々としている」「妊娠してしまった」などの困りごとが持ち込まれることが多かった。
「次々と横断的な課題が持ち込まれ、ため息の連続ではあったものの、本人たちに行動力があったので、支援しやすい面もありました」
しかし2018年以降は、2000年の児童虐待防止法制定後に保護された虐待被害者が大半を占めるようになり、通院同行や精神障害者保健福祉手帳の取得申請など、精神保健福祉領域のサポートを求める相談者が急増。就労に課題を抱え、生活保護を必要とする人たちも増えた。
その後、児童相談所が虐待死を防ぐために早期発見・早期保護を強化したこともあって、2021年ごろからは人生の大半を施設で暮らしてきた若者が団体を頼るようになった。
「こうした若者は支援の中ではうまくやれても、社会に適応できるとは限りません。彼ら彼女らが『実家』代わりである施設や『親代わり』の支援者と離れ、社会で生きていけるようにする、という新たな課題も生まれています」

各施設とも、心地よい雰囲気と温かい空間が用意されている
施設に入れる虐待被害者はごくわずか 未経験者の深刻な困難
2024年に施行された改正児童福祉法によって、施設の年齢要件が弾力化されて20歳以降も利用しやすくなったほか、社会的養護の経験の有無にかかわらず、18歳を超えて困難を抱えた若者を支援する社会的養護自立支援拠点事業も法制化された。
これによってあすなろには、行政の担当者や学校関係者などから、施設を利用したことのない若者について「高校を卒業すると居場所がなくなってしまう」「つながれたのが18歳の誕生日直前で、社会的養護を利用できない」といった相談が寄せられるようになった。
「社会的養護から漏れてしまった若者に関しては、相談件数自体は多くはありませんが、依存の問題や自殺企図など深刻な困難を抱える割合が高いと感じます」と、福本さんは言う。スタッフが夜、自傷行為をした当事者のもとに緊急で駆けつけるなど、従来の相談業務を超えた対応も求められるようになり「こども家庭福祉の領域だけでは支援が難しいとも感じています」。
また福本さんは「社会的養護につながれず困難を抱える若者たちは、実は非常に多いのではないか」とも指摘する。「被虐待児が一時保護される割合は全体の1割程度で、一時保護所から児童養護施設や里親などのケアを受けられるのはさらにその1割です。つまり児童相談所などが関わる『要保護児童』の99%は、社会的養護にたどり着けていないのです」
しかし団体に寄せられる相談件数は、施設退所者だけで年間のべ5000~6000件に上り、限られたマンパワーで、社会的養護からこぼれ落ちた若者にまでアウトリーチするのは難しい。
拠点事業に関しても、施設の未経験者は利用する道が狭まってしまう。アフターケアの運営事業者は増えてはいるものの十分ではなく、どうしても施設出身者が優先されがちなためだ。
「本来なら希望者全員に公平に提供されるべきだと思いますが、大きな格差が存在します。特に施設に入れそうで入れない、というボーダーにいた人は、深刻な困難を抱えているにもかかわらず受けられる支援が限られてしまうのです」
若者がゆっくり「育つ権利」を保障 希望を捨てず見守って
「日本には、少年院出院者らへの更生支援や若者向けの就労支援はあっても、福祉やケアを提供するという意味での『若者福祉』は圧倒的に不足している」と、福本さんは言う。行政にも母子支援や高齢者支援はあっても「若者支援」を主管する部署は存在しないことがほとんどだ。
しかし警察庁によると2025年、高校生の自殺は356人と過去最多を記録した。言い換えれば、自死するほどの悩みや困難を抱えた若者たちの存在が、社会から見過ごされていることになる。
「支援を充実させるには、高校生などを対象に大規模な調査を実施して、大人の目が届く年齢のうちに、『普通の若者』の困り感を正確に把握するべきです」
一方、労働組合に対しては「施設の子どもを行事に招待するなど、平素からのご支援にはいつも感謝しています。選挙権がなく自分からは声も上げづらい子どもたちの権利を守るため、ぜひ一緒に活動していただければと思います」と述べた。
またあすなろの利用者は、初めは就労が難しくても、年齢を重ねて精神的に落ち着いてくると、働き始める人も少なくないという。このため労働組合と企業に対して、挫折した若者が何度でもチャレンジできる環境を整えゆっくり「育つ権利」を保障してほしいとも要望した。
「多くの若者が、社会と大人の都合で苦しい幼少期を歩まざるを得なかったために、18歳を超えても困難を抱えています。若者たちが幸せに暮らせる社会は必ず来る、という希望を持ち、当事者を見放さず細く長く諦めずに受け入れてほしいです」
■困難を抱えた若者のためのクラウドファンディングにご協力ください!
地域課題の解決に取り組む組織・団体のネットワーク「ユニバーサル志縁センター」は11月15日まで、連合のプラットフォーム「ゆにふぁん」を通じて、困難を抱えた若者を支援するためのクラウドファンディングを実施している。寄付金は若者支援団体への助成や、若者に働く場を提供する「体験就労プログラム」の運営に充てられる。 生きづらさを抱えた若者たちが当たり前に学び働き、生活できる環境を整えるため、ぜひ温かいご支援をお願いいたします。

クラウドファンディングページ(https://readyfor.jp/projects/wakamono2026)をご覧ください
(執筆:有馬知子)
