
「推し活」のせいだけにしてはいけない
前回、解散総選挙の報を受けて「『推し活』政治に対抗できますように」と書いたが、結果は想像を絶する厳しいものとなった。2月中は報道番組を観る気になれず、海外ドラマや時代劇に逃げ込んだ。ミラノ・コルティナ冬季オリンピックにも救われた。今も気分は晴れないが、何とか現実に向き合えるようになった。そして、野党側の敗因を「推し活」のせいだけにしてはいけないと強く思うに至った。これまでの政治の常識が通じなくなっていることを受け止めきれず、有権者が求める政策を具体的に打ち出せなかったことが、本質的な問題なのではないかと思う。
それにしても小選挙区制度の威力はすごい。今回、自民党は小選挙区で約49%の得票率に対し86%超の議席数を得た。今から32年前の1994年3月、細川護煕内閣(非自民8党会派連立政権)の下で、小選挙区比例代表並立制、政治資金規正法改正、政党交付金の導入などを柱とする「政治改革関連4法」が成立しているが、この時の政治改革の1つの目的は政権交代可能な政治体制をつくることであり、そのために導入されたのが小選挙区制度だった。そして一連の改革をねばり強く推進したのは、労働組合のリーダーも多数参画した「民間政治臨調(政治改革推進協議会)」だった。
古い話で大変恐縮だが、「月刊連合」1993年新年号では、亀井正夫民間政治臨調会長(日本生産性本部会長)と山岸章連合会長による新春対談が組まれている。タイトルは「今年中に政治改革のめどをつけたい。そうすれば日本の未来はまた開ける」。両人の共通認識は「1925年に導入された中選挙区制は制度疲労を来している。また、保守合同と社会党統一(1955年)以来、一度も政権交代がない。これでは権力が腐敗する」というものだった。
平成デモクラシーとも呼ばれた当時の政治改革の熱気を知る世代にとっては、「政権交代」自体が大きな目的になり得るし、そのために政党が大きなかたまりになることが重要だと思える。しかし、時代は今、令和である。選挙期間中、家庭内Z世代男子(以下、Z男子)に「消費税って社会保障のために大事な財源じゃないの? 食料品ゼロにして大丈夫なの?」と問われ、「そうなんだけど、かたまりをつくるためにそういう判断をしたんじゃないかな」と答えたが、「ふーん」と納得できない表情を浮かべていた。今の現役世代の多くは、平成デモクラシー的言説にはもはや共感できないのではないか。それを思い知ることとなった選挙結果であったとも思う。
戸籍にしかない姓とは何なの?
選択的夫婦別姓制度が実現したら、婚姻届を出そうと考えていた元家庭内Z世代女子(以下、Z女子)は、選挙直後「もうムリってことだよね」と絶望していたが、しばらくして「今の状態(事実婚)でも特に支障はないから、このままいくことにした」と報告があった。
高市首相は、かねてから選択的夫婦別姓制度に強く反対してきた方であるが、第2次高市内閣が発足した2月18日には「旧氏(姓)の使用拡大・周知を一層推し進めるとともに、旧氏の単記も可能とする基盤整備の検討を進めるよう男女共同参画担当大臣などに指示した」と報じられた。住民票やマイナンバーカード、運転免許証などの公的証明書も、戸籍名との併記ではなく、旧姓のみを単独で記載できる「旧姓の単記」を可能とする制度を検討するという。
はて? 旧姓が単独で使えるのなら「戸籍にしかない姓」とは何なのか。それなら選択的夫婦別姓制度でいいのではないか。政治状況が激変したとはいえ、連合として長い間求めてきた選択的夫婦別姓制度である。多様な生き方を尊重する社会の実現に向けて、丁寧な議論と理解の広がりを期待したい。
そんなことも知らないの?

それにしても世の中は急激に変化している。特にDXの進展は凄まじく、私はもはやお手上げ状態だ。つい最近まで、デジタル化には必死でついてきたつもりだった。1980年代、いち早くワープロを習得し、1990年代初めにはアップル社のMacintosh(パソコン)を購入。ローマ字入力ブラインドタッチとDTPソフトを習得し、インターネットの普及の恩恵を享受し、その後の通信環境の進化や携帯電話との連携にも対処してきた。ところが、この間、生活のあらゆる分野で進むDXにおいては、スマホアプリの操作がマスト。老眼でフリック入力が苦手な私は、あっという間に取り残されてしまっている。
Z男子に対しては「そんなことも知らないの?」とパソコンやインターネットの使い方を教えてきたが、いまや立場は完全に逆転した。「そんなことも知らないの?」と驚かれるのは、つねに私のほうである。
昨年秋、Z男子とショッピングセンターに買い物に行った時のことだ。3,000円がキャッシュバックされる「○○カード新規入会キャンペーン」をやっていて、駐車場も無料時間が延長されると聞いたZ男子はその場で申し込むことにした。店員さんは「簡単な手続き」だと言うのだが、その複雑さに仰天した。メールアドレスと基本情報を入力したあと本人確認の免許証をカメラで読み込んだり、引き落とし銀行口座を設定したりするのだが、不正防止のための認証コードが何度もメールで届く。その度に画面を切り替え、行ったり来たり。そんなスマホでの作業を、Z男子は難なくスイスイとこなしていく。ダメダメなところの多い息子だと思っていたが、この時は心底尊敬した。店員さんは、私にも「一緒にカードをつくると特典がありますよ」と勧めてくれたが、人前でモタモタ操作して冷や汗をかきたくはない。丁重にお断りした。
同じ頃、年金事務所に厚生年金受給の手続きに行った。1962年生まれの私は、老齢厚生年金特別支給の対象者なのだ。申請書は紙に書けばよかったが、そのあとマイナポータルアプリの登録を勧められる。これまたスマホで情報を打ち込んだり、マイナンバーカードを読み込んだりと冷や汗ものだが、この時は付き添ってくれたZ女子がぜんぶやってくれた。年末には、Z女子のパートナーが、「ふるさと納税」を私のスマホで手際よく手続きしてくれた。ふるさと納税については、居住する自治体の財政がダメージを受けても困るし、何より手続きが面倒そうでやったことがなかったのだが、おかげで生まれ育った自治体に念願のふるさと納税をすることができた。近々、11,000円分のポイントがもらえるという「東京アプリ」の手続きもやってくれるという。
でも、ポイントを利用するには、スマホにポイントが使えるアプリを入れておかないといけないらしい。その下準備として、Z男子が私のスマホを全面チェックしてくれた。コロナ禍時代の古いアプリや買い物先でQRコードを読み込んだまま放置していたアプリ、パスワード不明のアプリなどが多数。まず使わないアプリを削除し、使う可能性のあるアプリは、使える状態になるよう登録作業をしてくれた。
いつも使っている大手スーパーのアプリがリニューアルしたからと、その更新もしてくれた。ついでに系列の電子マネーもスマホで使えるようにしてくれた。クレジットカードは登録してあるが、銀行口座との連携も必要になるから、銀行のアプリもインストールしたほうがいいという。
「口座の管理ってどうしてるの? 振り込みとかは?」と聞かれて、「毎月、通帳に記帳してるよ。振り込みはATMでやってるよ」と答えたら、「えっ? ぜんぶスマホでできるのに? 通帳なんて必要ないんだよ」と絶句された。Z男子が3年前に開設した銀行口座は、印鑑登録もない通帳レス口座でちゃんと管理できるのか心配だったが、私の取り越し苦労だったようだ。
そんなこんなでDXジゴクに日々向き合う私だが、私の夫はもっと取り残されている。忙しい時は、夫に近所のフードコートでハンバーガーやフライドチキンを買ってきてもらっていたのだが、先日「もうハンバーガーは買えないから」と暗い顔で帰宅した。注文が自動化され、そのタッチパネルの操作が難しすぎるというのだ。モタモタしていると迷惑だし、サポートを頼めそうな人も近くにいないという。タッチパネルの前で立ちすくむ、おじいちゃん(夫)の姿が目に浮かび、涙がこぼれそうになる。店員さんが満面の笑みで「ご一緒にポテトはいかがですか?」と聞いてくれた時代が、今となっては懐かしい限りだ。

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。
