選択的夫婦別姓に反対する候補には「投票しない」

6月20日、わずかながら「コラム配信されてないけど、どうしたの?」という連絡をいただいた。何かのアクシデントではなく、特集記事との調整で当面の間、20日から5日配信に引っ越しとなった次第。
というわけで、前回配信からは約5週間が経過。季節は一気に進んで猛暑の日々が始まり、第217回通常国会は閉幕して「選択的夫婦別姓法案」は継続審議となった。
私は、この厳しい国会情勢の中で「継続審議」に持ち込めたのは、法案を提出した政党や、運動を進めてきた連合、関係団体の尽力によるものと思ったのだが、個人的に署名をお願いした人たちからは「早く成立させてよ!」と苦情が入った。
私に言われても困るのだが、彼女たちは今、実際に困っているのだ。
関西に「所長」として単身赴任している知人(旧姓を通称として使用)は、「私の名前で契約書を交わしたり、社外監査役を頼まれたりすることが増えたんだけど、そこでも戸籍名かビジネスネームの旧姓かという話になるの。本当に面倒で…。法案が成立したら、こんな苦労もしなくて済むのに、どうなってるの!」と怒って電話をかけてきた。「旧姓の通称使用拡大を主張している政党には、こんな場合はどうするのか、もっと細かく解決案を示してほしい」とも言っていた。
当コラム(22回)で婚姻届をめぐる顛末を書いたZ女子(家庭外Z世代女子)は、お相手のご両親と話し合い、無事、婚姻後の姓は「2人で決める」ことで了解いただいた。そして「別姓待ち」(選択的夫婦別姓法案の成立後、別姓で婚姻届を提出する予定)をしていたのだが、法案が成立しなかったと知って「なんでダメなの?選択できるようにするだけなのに。一生無理ってこと?」と涙目に。私は「継続審議だから、まだ可能性はあるよ」と励ますしかなかった。
実は福利厚生問題をクリアするために、自分が改姓して早く婚姻届を出してしまおうかとも考えたそうだ。そう聞いて「まだ20代のヒラ社員だから、今変えてしまえば、そんなに仕事には支障ないかも」と思ったのだが、そうでもないらしい。会社のIDは入社時の氏名で登録していて、セキュリティ上簡単には変えられない。メールアドレスも変更すると混乱する。だから、Z女子の会社では、結婚で改姓しても、旧姓の通称使用がデフォルトなのだそうだ。でも、パスポートや銀行口座、各種保険は戸籍名への変更が必要。2つの名前を持つのはかえって面倒だし、95%は妻が姓を変えている現制度にも疑問がある。どちらが変えるにしても改姓の負担が重いからと「別姓待ち」になったという。
「ねえ、どうしたら法案が成立するの?」とZ女子。
答えは1つしかない。7月3日公示・20日投開票で実施される参議院選挙で選択的夫婦別姓に賛成している政党の候補者を1人でも多く当選させることだ。
すでに今年4月には、元法政大学総長の田中優子さんが代表、ジャーナリストの竹信三恵子さん、東大名誉教授の上野千鶴子さんらが共同副代表を務める「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」が「選択的夫婦別姓に反対する候補には投票しない」との声明を発してくれていた。田中代表は「夫婦同姓は明治31(1898)年から。別姓の方が日本古来の伝統に戻れる。反対する人は『(旧姓の)通称使用拡大』というが、働く女性たちの不自由さを見ていない」とコメント(「東京新聞」2025年4月4日)。
「夫婦別姓」をめぐってはネットで反対意見が噴出することから、そちらに配慮する政党も少なくないのだろう。でも、本当に目を向けるべきは誰なのか。今回の参院選は、サイレント・マジョリティ化している「別姓待ち」の有権者が意思表示する最大のチャンス! Z女子も「3連休だけど、絶対投票に行く!」と少し元気を取り戻してくれた。
「第3号被保険者制度の廃止」検討へ

もう1つ、先の国会で注目されたのは、年金制度改革関連法案だ。政府は法案提出の先送りを決めていたが、野党の批判を受け、急きょ提出に至ったものだ。「あんぱん」に例えられた基礎年金の給付水準底上げ策や社会保険適用の拡大(106万円要件の撤廃)のほか、付則には「第3号被保険者制度見直しの検討を進める」ことが盛り込まれた。「年収の壁」の1つとなっている第3号被保険者制度については、昨秋、5年に1度の年金制度改革に向けて、連合が廃止を提言したのに続いて、経団連や経済同友会、日本商工会議所などの経済団体も廃止を提言。女性の活躍に向けて、選択的夫婦別姓と同じく労使の意見が一致したことは、本当に感慨深い。
今から40年前の1985年に新設された「第3号被保険者制度」とは何だったのか。
その背景を解き明かしてくれているのが、『主婦論争を読むⅠ・Ⅱ 全記録』(上野千鶴子編・勁草書房)である。初版は1982年。私は大学の自主ゼミでこの本を輪読した。
論争の根源的なテーマは「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業の下で女性の社会進出をどう考えるか。逆に言えば、女性が担っている家事・育児・介護などのケア労働を誰がどう担うのか。上野先生が執筆された「解説」には、高度経済成長を背景に「国内労働市場でなお不足する労働力を、埋め合わせるためにひっぱり出されたのが、主婦という労働予備軍であった」と書かれている。そしてケア労働の価値論争を経て選択されたのは、女性に「家庭も仕事も担ってもらおう」という2重負担。「主婦パート」という働き方が奨励され、これを支えたのが第3号被保険者制度だったのだ。
不当な低賃金・低待遇が経営上のリスクに
さて、「主婦パート」は、その後どうなったのか。RENGO ONLINEで「クミジョ・ファイル」を連載中の本田一成先生の著書『主婦パート 最大の非正規雇用』(集英社新書、2010年)によれば、「主婦パート」は、その数が急増しただけでなく、1990年代には戦力化され、さらに基幹化されていった。
「主婦パートは、低い賃金で従順に働くという、企業にとって貴重な労働者である。そして、家庭では、その収入で家計を支え、妻や母として、家事・育児・教育・介護などの大きな家庭責任をほぼ全面的に引き受け、忍耐強く献身的にこなす。…今や、多くの企業でパートの『基幹化』が進み、主婦パートが人件費以上の働きを見せている」。しかし、その賃金・処遇は「年収の壁」で低く押さえられたまま。本田先生は、この不当な低賃金・低待遇が経営上の大きなリスクになると警鐘を鳴らしたのだ。
労働組合は、その後、パートタイマーの処遇改善、正社員登用、社会保険の適用拡大などの取り組みを強化し、組織化も進んだ。企業の側も、人手不足を背景にパートの処遇を改善し、能力を発揮できる環境の整備を進めてきた。
現在、第3号被保険者の対象者は2024年5月時点で675万人(厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」より)。うち98%が女性だが、正社員として継続就業する女性が増え、短時間勤務者の社会保険適用も拡大していることから、ピークである1995年度の1,220万人からはほぼ半減している。野村総合研究所の調査(2025年3月)では、就業調整する有配偶パート女性の67.4%が「年収の壁」を解消して「今より働く時間を増やして収入を増やしたい」と回答している。
本田先生が著書で言うように「主婦パートが反対するから、現行制度を維持すべきだと主張するのはおかしい。もっと働きたい主婦パートが保険料負担に反対せざるを得ないような歪み切った制度を解消することが先決である」と、私も思う。その上で、現役世代の価値観や働き方の変化に対応した年金制度にどう改革するのか、今度こそ、抜本的な検討が行われることを期待したい。
★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。