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「運賃上げられず廃業、倒産も」
産別が価格転嫁の相談会開催-苦境訴える声が相次ぐ-

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適切な価格転嫁を通じて、中小企業の賃上げを加速させることを狙いとした「中小受託取引適正化法(取適法)」が2026年1月に施行された。これを受けて各産業別労働組合は、価格転嫁の「出前相談会」を開いている。相談会では各業界から苦境を訴える声が相次ぎ、春季生活闘争で適正取引を求めることの重要性が、改めて認識されている。

荷待ち・荷受け作業が有償に 価格転嫁「最下位」のトラック業界

「取適法」は従来の「下請法」を改正し名称を変更した法律だ。発注者が価格協議に応じず、一方的に代金を決めることが禁じられたほか、事業の所管官庁に従来の調査権限に加えて指導・助言の権限も付与し、法律の執行体制を強化することなどが盛り込まれた。また下請法では規制対象外だった、荷主から運送事業者などへの運送委託取引が「特定運送委託」として対象に追加された。

出前相談会は、取適法の概要を説明し価格転嫁に向けた課題を話し合うことを目的としており、連合の呼びかけで12月から順次、各産別で開かれている。2025年12月中旬、第一弾としてトラックやバス、タクシーなど交通運輸産業の産別労働組合である交通労連が相談会を開催した。

交通労連「出前相談会」

当日は会場とオンラインをあわせて、組合役員のほか企業側の担当者ら40人あまりが参加。中央執行委員長の織田正弘さんは「この業界は、運賃をなかなか上げられない中で産業としても持続可能とは言い難い状況が続き、倒産・廃業する企業も見られます。事態を少しでも改善するため、特定運送委託が取適法の対象となったことは歓迎しています」と話した。

特に、トラック輸送の分野は価格転嫁が遅れ、賃上げの動きも鈍い。中小企業庁による2025年9月の調査によると、トラック運送業界は価格交渉の実施状況、価格転嫁率のいずれも、30業種中最下位だった。こうした中で十分なドライバーを確保できず、輸送需要に応えられなくなる懸念も強まっている。実際に相談会の数週間前には、大手物流事業者がブラックフライデーなどによる配送量の急増に対応しきれず、荷物の受付を一時停止したり配達の遅れを公表したりしていた。

「ドライバーの待遇改善が進まず、他産業への流出が加速すれば、配送量を制限するといった動きが他社にも広がり、国内経済にも悪影響を与えかねません」(織田さん)

トラック業界ではまた、ドライバーが荷物の積み下ろしや入庫の順番を待つ「荷待ち」など、輸送以外の業務を無償で負わされることも問題となっている。副中央執行委員長の齋藤洋次さんは「発注した発荷主だけでなく配達先である着荷主の倉庫でも、荷物の整理などの仕事が日常的に発生しています」と述べた。

取適法では新たに、無償で、荷積みや荷待ちといった運送以外の役務を提供させることは違法行為となることが明確化された。相談会で講師を務めた公正取引委員会(以下「公取」)の職員は「着荷主の元で生じた荷役などの費用は、輸送事業者が契約を結んでいる発荷主に請求し、発荷主が着荷主に請求する流れになる」と説明した。

織田正弘 中央執行委員長
齋藤洋次 副中央執行委員長

交渉の形骸化を懸念 値下げ競争の抑制も重要

相談会では、参加者からも多くの質問が寄せられた。その中には、発注者が著しく低い代金を不当に定めることを禁じる「買いたたき規制」について、「何をもって『著しく低い』と判断するのか」といった質問があった。

これに対し公取側は「市場価格から何%低い」といった明確な数値基準を設けるのは難しいため、取適法では比較的目に見えやすい「発注者が価格交渉に応じない」など一方的に代金を決めることを禁じる条項を別途設けた、と説明した。

ただ立場の弱い中小の受託事業者は、転注(発注者が受託事業者を変えること)や発注量の制限を恐れて、実質的には顧客が一方的に示した価格をのまざるを得ないケースもあると考えられる。こうした場合、交渉が形骸化する懸念もあり、参加者からは「こちらの要求とかけ離れた小幅な値上げでも、協議さえすれば合法とみなされるのか」という質問も出された。

公取側からは「双方が納得した状態をもって『十分協議した』と言える。発注者は、コストアップに見合わない引き上げ幅を一方的に決めてはならないことに、十分注意する必要があります」との回答があった。

政府に対して、運送事業者間の値下げ競争をなくすための環境整備を求める声も上がった。織田さんは、不当に低い運賃を示す一部の事業者によって運賃水準が下押しされ、労務費への価格転嫁が進まない原因になっていると指摘。「安値競争を放置していたら、コストに見合った運賃を実現し賃上げ原資を確保することは難しい。業界が『国内の輸送需要に応える』という社会的使命を果たすためにも、政府にはすべての業者が値上げの方向で動くよう促す政策を進めてほしい」と要望した。

一方、公取側は高付加価値を追求するのか安売り戦略を取るのかは各企業の経営判断であり、コスト割れの価格を提示する「不当廉売」でない限り、取り締まるのは難しいとの見方を示した。ただ、発注者が競合事業者による安値の見積りなどを示し、転注や取引量の削減をちらつかせて、受託事業者に不当に低い運賃を強要することなどは、違法行為に当たる可能性があるとした。

織田さんは閉会後、こうした相談会について「業界の課題を行政の担当者に伝える有益な機会になった。現場の声を政策に反映してほしい」と話した。また副委員長の齋藤さんは「労働者側も法改正の趣旨を理解し、経営側が適正な価格転嫁を実現できているかをチェックする役目を果たさなければいけないと考えています」と述べた。

交通業界の春闘交渉にあたっては、2026年4月に軽油の暫定税率(1リッターあたり17.1円)が廃止されることが追い風となる一方、利用者や顧客からは暫定税率の廃止を理由に、運賃引き下げを求める声も上がっているという。織田さんは「労働組合としては経営側に対して、発注者に適正運賃を要求し労務費を確保するよう、繰り返し求め続けるしかない」と強調した。

相談会閉会後、お話をうかがった織田中央執行委員長(右)、齋藤副中央執行委員長(左)

多重委託構造が賃上げの壁に 個別の問題把握も課題

12月下旬には、情報通信産業の産別労働組合である情報労連でも、出前相談会が開かれた。情報労連の傘下には、通信インフラの建設やメンテナンスを担う職場も多く、多重委託構造の中で価格転嫁が進みづらくなっている。前述した中小企業庁の調査でも、通信業の価格転嫁率は30業種中25位に留まった。産別役員の永渕達也さんは「長年の商慣行の中で、適正な価格交渉が行われず受託企業が不利な扱いを受けているケースも多いと考えられます」と話す。

相談会では、こうした商慣行に悩む職場の事例が紹介された。ある企業では、形式上は協議の場が設けられているものの、実際には前例を踏襲した決め方で価格が設定され、現場の実情やコスト増が十分に反映されにくい構造になっていたという。相談に対応した産別役員の齋藤久子さんは、「価格協議は行われていても、最低賃金や仕入れ価格の上昇を踏まえた、実効性のある価格調整につながっていない場合もあります」と述べ、「慣行として定着している運用が果たして適切なのか、発注者側にも改めて見直す姿勢が求められます」と訴えた。

情報労連「出前相談会」

永渕達也さん
齋藤久子さん

また中小・零細企業では、人事や総務、労務といった総務系の業務をすべて1人の社員が担うケースも多く「こうした企業同士の交渉は、協議によってではなく過去から続く慣行や日ごろの付き合いでの『貸し借り』のような関係性で決まりがちだ」との指摘もあった。

永渕さんはまた、産別労組の課題としてこうした個別のケースを把握しきれていないことを挙げる。「企業へのヒアリングで、春季生活闘争で十分な賃上げを行えない理由として、発注者が価格転嫁に応じず労務費を確保できない、という説明を受けたこともあります。産別としてこうした具体的なケースを把握し、単組の交渉に伴走する必要もあると感じます」

加盟組合には中小だけでなく、発注者の立場になることが多い大手の職場も含まれる。このため産別が情報発信などを通じて、各単組に「価格転嫁は賃上げに不可欠」というマインドを形成することも重要だという。
永渕さんは「今回の相談会のような場を通じて、単組に価格転嫁の必要性をインプットし、取引を適正化する風潮を醸成したいと考えています」と話した。

(執筆:有馬知子)

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