特集記事

多様な性のあり方を認め、誰もがありのまま働ける職場へ
労働組合には何ができる?

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「SOGI」という言葉をご存じだろうか。好きになる性(性的指向)と自分が認識している性(性自認)を指し、性的マジョリティも含めたすべての人に当てはまる概念だ。しかし、多くの人はSOGIに関する事柄を「性的マイノリティの問題」ととらえがちで、社会全体の課題として十分に認識されているとは言い難い。連合男女平等月間の6月、SOGIにかかわらず、誰もがありのままで働ける職場、社会を実現するにはどうすれば良いか、当事者団体の代表と労働組合が話し合った。

※SOGIとLGBT
SOGIとは「Sexual Orientation and Gender Identity」の頭文字で、性的指向と性自認を表す。「好きになる対象が異性で、生まれた時に割り当てられた性と性自認が一致している」人も含め、すべての人に当てはまる属性。
LGBTはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーという「人」を示し、一般的に性的マイノリティの人たちに対して使われる(性的指向が定まらない人、わからない人を指すQ「Queer、Questioning」などが加わることもある)。

出席者】
松中 権氏 一般社団法人work with Pride代表。同性婚の法制化をめざすMarriage For All Japan理事、能登震災の復興支援団体「NOTOTO.(のとと)」共同代表も務める。
菊池 ゆかり氏 日本教職員組合(日教組) 中央執行委員(広報担当)
深見 正弘氏 全国労働金庫労働組合連合会(全労金) 中央執行委員長
進行:畠山 薫 連合総合政策推進局長

松中 権氏
菊池 ゆかり氏
深見 正弘氏
畠山 薫 連合総合政策推進局長

進み始めた職場の取り組み 現場の意識醸成には課題も

畠山(敬称略、以下同じ):まずは皆さんに、ご自身の活動についてお話しいただければと思います。

松中:私はゲイの当事者で、当団体の活動を2012年から行っています。当時はLGBTという言葉すら十分に浸透しておらず、企業に当事者の存在を認識してもらい、知識と理解を深めてもらうことが狙いでした。その後、当事者が職場で直面する壁を洗い出し、対策を講じる必要性も感じたことから、2016年に企業・団体のLGBTQ+に関する取り組みを評価する「PRIDE指標」をつくりました。応募数は、当初の約90団体から現在は約950団体に増え、企業の意識の高まりを実感しています。

ただ高評価を得た企業でも、現場と経営陣、地方と本社などでは理解度に温度差があることもしばしばで、そのために離職を余儀なくされる若者もいます。このように制度面は整っても、風土や文化の醸成については不十分な面もあると認識しています。

なお、私生活では、親友のトランスジェンダー1男性とシスジェンダー2女性のカップルに精子を提供し、子ども2人の子育てに3人目の親としても参加しています。

深見:全労金は、全国の労働金庫の労動組合が加盟する産業別労働組合で、組合員の約6割が女性です。私自身、女性組合員の声を聞く中で知識不足を痛感し、日々学びながら活動しているところです。

組織として、SOGIに関する「取り組み方針」を策定したほか、レインボーフラッグをつくって加盟組合や地方組織に配布し、大会や集会で掲げています。

髪やネイルの色などを定めたドレスコードを緩和する動きも広がり、「ほぼ自由」とする職場も現れています。ただドレスコードでは認めているのに、実際に金髪の職員が現れると反発が起きる、といった事例もあり、理想と現実の間で苦労している実態もあります。

菊池:学校現場でも近年、子どもが性別に関係なくスカートやズボンを選べるようになる、といった変化が起きており、それにあわせて教職員側も、意識変革を求められるようになりました。例えば日常の学校生活でも、男子は力仕事、女子は軽作業と性別で役割分担するのではなく「力持ちの人は机を運んで」と指示するなどの配慮が必要ですし、子どもからカミングアウトされた時、子どもの承諾なしに保護者にその事実を伝えてはいけない、といった対応も学ばなければいけません。

日教組では女性部を中心に、教職員の知識・理解を深める活動を進めています。2024年には、国際的な教職員組合の連合体である教育インターナショナル(EI)の「LGBTI+3ネットワーク」に参加しました。国内でも当事者同士が緩やかにつながるネットワークをつくり、現在24人が参加しています。いずれはこうした当事者の声を、政府への要望事項などに反映させられればと考えています。

  1. トランスジェンダー…生まれた時に割り当てられた性と性自認が一致していないひと ↩︎
  2. シスジェンダー…生まれた時に割り当てられた性と性自認が一致しているひと ↩︎
  3. LGBTI+の「I」…「インターセックス」を意味し、身体的性における発達が非典型で様々な状態にある人たちを指す。DSDs(Differences of Sex Developments)と表現することもある。 ↩︎
座談会の様子

SOGIは「マイノリティの問題」じゃない 組織全体の課題と認識を

松中:教師や親など、子どもにとって身近な大人の意識を変えることは、とても大事だと思います。私の子どもの友だちは、パパが2人いると知ると大抵は「まじ?」と驚きつつも受け入れてくれるのですが、もしかしたら、ネガティブな反応を示す子もいるかもしれません。

情報を収集する力が育ち切っていない子どもたちは、親や先生など身近な大人の態度や言葉を参考に、物事を判断せざるを得ません。性の多様性を初めて知った子どもたちが、バイアスを持たず多様な価値観を育めるか、せっかくのチャンスを失ってしまうかは、周りの大人にかかっている、といっても言い過ぎではありません。

菊池:ご指摘の通りだと思います。ただ一方で、組合員の多くはSOGIを自分には直接関係のない、一部の人の問題だととらえがちです。それゆえに組織としての取り組みの優先順位が下がっていると感じることもありますし、広報誌に心・体・人間関係・権利・ジェンダーなどを含めて、幅広く学ぶ「包括的性教育」に関する記事を掲載する際も、組織内部からは時期尚早ではないかという意見が出ました。ジェンダーの問題を、組織全体の課題として認識してもらうことに、大きな壁を感じていますし、学校という狭い世界に留まらず、学外の人とつながる場を設けることで、性に関する多様な価値観に接してもらうことなども必要だと考えています。

深見:私たちも、各職場にこの問題を「自分ごと」としてとらえてもらうことの難しさに直面しています。2020年にSOGIの対応方針をつくった時も、多くの加盟組合は経営側に「だれでもトイレ」の設置などの要望は出すのですが、経営側に「無理だ」と言われると交渉は止まってしまいました。そこで2025年、活動を巻き戻す形で、全体方針を踏まえた上で加盟組合が主体的に取り組みをつくる形に変え、各職場で必要なことは何か、自ら考えてもらうようにしています。

畠山:松中さんは、SOGIに関わる課題を「自分ごと」化するには、どのような方法があるとお考えでしょうか。

松中:LGBTに関する勉強会などでは、職場の同僚や上司・部下だけでなく、「あなたの兄弟姉妹や子ども、そして子どものパートナーなどが当事者かもしれない」という切り口で伝えると、すべての人が関わる問題だと納得してもらいやすいです。また教育現場なら性教育に関する保護者の要望、金融機関なら「同性パートナーにも、連帯債務者として住宅ローンを組むことを認めてほしい」という顧客の声など、外部のステークホルダーのニーズを契機として、多様な性のあり方を認める組織風土を醸成していく、という方策もあり得るかもしれません。

先ほどレインボーフラッグのお話がありましたが、目に見える旗を掲げ続けること、「LGBT当事者のことを考えている」と声を上げ続けることも、実はとても大事です。こうしたメッセージは、カミングアウトしていない当事者にも必ず届いていますし、いざ困った時にSOSを出してくれる可能性も生まれます。

同性婚実現の前に失われた命も 「時間軸」意識して法整備を

畠山:LGBT理解増進法の施行から3年が経過し、ようやく6月16日に基本計画が策定されました。連合も2017年、SOGIに関する差別禁止に向けたガイドラインを策定し、時代にあわせた改訂作業なども進めています。それぞれの組織で今後取り組もうとしていることや、連合への期待をお聞かせください。

深見:生活に苦しむ労働者を助けるためにつくられた労働金庫には、社会課題の解決に貢献する使命があります。SOGIについては当面、各職場の「取り組み方針」の策定に注力しますが、活動を通じて全労金が、当事者に寄り添っていることを社会に認識してもらい、働く人たちの信頼を得ていきたいとも考えています。

また、私は2年前にプライドパレード()に参加したのですが、その時一緒に参加した仲間から「誰もが自由に振る舞う姿を見て健やかに過ごせた。子どもたちにもいい刺激になった」と喜んでくれたのが印象的でした。性にまつわる差別や壁をなくすことは、誰もが自分らしく過ごせる社会の実現につながることも実感しました。ただ、私たちのような規模の小さい組織が、社会に及ぼす力には限界があるので、連合のような大きな組織に、社会全体のうねりをつくりだしてもらいたいと期待しています。

プライドパレードとは…
プライドパレードは、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の権利と尊厳を求め、世界の主要都市で50年以上にわたって開催されている。日本では1994年に初めて開催され、年々参加者が増え、2026年は約15,000人が参加。このパレードは2014年から「東京レインボープライド」(2025年から「Tokyo Pride」に改称)のイベントとして開催されている。

プライドパレード参加中の深見氏(写真中央、2025年6月)

菊池:多様な性のあり方を含めた人権や尊厳が守られなければ、たとえ賃金が上がっても生きやすい社会にはなりません。SNSを通じた性被害などのリスクが生まれる中で、保護者からも「人権に根ざした包括的な性教育をしてほしい」というニーズが高まっています。こうした声を受け止め、子どもたちが安心してありのままの自分でいられる学校にすること、そして子どもたちに「いつでも不安を受け止めるよ」と伝え続け、困りごとを抱えた子が「相談しよう」と思える教育現場にすることが、私たちの大きな役割です。

また連合に関しては、芳野友子会長が就任して以降、多様性への取り組みが加速したことを実感しています。今こそ連携してジェンダー平等を前に進められれば、と思っています。

松中:性的マイノリティに関する法整備は、まだまだ道半ばです。LGBT理解増進法は、差別禁止ではなく「理解を広げる」段階に留まりましたし、トランスジェンダーの「性同一性障害特例法」で定められた戸籍変更の要件も、最高裁で違憲の判断が出たものの法律の見直しには至っていません。

同性婚については、早ければ年内にも最高裁判決が出される見通しです。私たちも判決に向けて法制化の機運を盛り上げようとしていますが、連合をはじめとする労働組合にも後押しをお願いしたいです。

同性婚の実現を見ることなく亡くなった当事者もいます。法や制度を変える際は、とかく時間をかけることを良しとしがちですが、政治家や行政など法整備に関わる人たちには、「いのち」を意識した時間軸で物事を決める視点を忘れないでいただきたいとも考えています。

(執筆:有馬知子)

【関連サイト】 連合が今年参加したプライドパレードの様子

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