エッセイ・イラスト

今どきネタ、時々昔話
第36回 私のリアル健康課題

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横断歩道でバタンと転倒

同年代の友人・知人から「転倒」の体験談を聞くようになった。20代の頃と体型が変わらない素敵な先輩が、自宅の庭でつまずき手首を痛めたと知って驚いた。東海地方に住む同級生は、昨秋、大阪・関西万博の会場で転倒し、顔面と右肩を強打。楽しみにしていたイベント観覧を諦め病院へ向かったそうだが、全治に3カ月以上かかり、今でも長時間歩くと痛みが出るという。

私も気を付けないと、と思っていた矢先、思いきり転倒してしまった。現場は、自宅近くの片側3車線の幹線道路上の横断歩道。両手にレジ袋を持って店を出ると、目の前の信号は青。そろそろ点滅しそうだったが、走れば渡れる! そう思って走り出した瞬間、足がもつれてバタンと倒れ込んだ。幸い渡り始めてすぐだったので信号が変わる前に歩道に戻ることができたが、ど真ん中で転んでいたら危険だった。恥ずかしさであまり痛みは感じなかったが、帰宅して確認すると、手のひらと膝に血が滲んでいた。膝の傷は深くて履いていたレギンスに穴があいていた。

まさか自分が転ぶとは! 白昼、醜態をさらしたことだけでなく、走れなかったことがショックだった。今となっては誰も信じてくれないだろうが、私は中学時代、陸上競技部だった。不器用で球技は苦手だったが、握力や前屈、立ち幅跳び、50m走などの体力テストはA評価。体育祭の女子100m走で優勝した時の賞状は、今も手元に残っている。大人になってからはスポーツとは無縁だったが、約20年前、家庭内Z世代男子(以下、Z男子)の保育園の運動会で親子リレーのアンカーを務め、Z男子をおぶって颯爽とテープを切った記憶もある。しかし、今やまったく走れなくなっていたのだ。

もう一度走れる身体になりたい!

私のメインの仕事は原稿を書くことなので、締切が続くと座りっぱなしの生活になる。運動不足を心配した元家庭内Z世代女子(以下、Z女子)が、ふくらはぎの筋肉を鍛える「EMS機器」をプレゼントしてくれて時々使っていたのだが、太ももの筋力が著しく低下してしまったらしい。もう一度走りたい、走れる身体になりたいと切に思ったのが、この春先のことである。

では、どうやって筋力を鍛えるか。ジムで筋トレが定番だが、実は過去にいくつかジムを試してみたものの長続きしなかった黒歴史を持つ。最初は24時間営業のフィットネスクラブ。スタッフがいる時間に行けば、マシンの使い方を聞いたりできるが、何をどのくらいやればいいのかメニューがわからず、足が遠のいた。次はヨガやダンスのプログラムもある総合ジムに入会。前回の教訓から、パーソナルプログラムの作成を依頼したが料金の割に「ハテ?」という内容。とにかくコロナ禍のホームステイで急増した体重を何とかしたいとジムに併設されているエステの体験を申し込んだら、ひたすら高価なサービスやグッズをすすめてくる。一緒に入会したZ女子がマシンで酔う体質であることも発覚し、早々に退会した。

それからしばらくして近所にコンビニ型ジムがオープンした。実際に有効に活用しているという話も聞いていたし、会費もリーズナブル。早速入会したが、スマホの入館証で解錠して中に入ると誰もいない。無人ジムだから当然なのだが、掃除が行き届いていなかったり、マシンが故障したままだったり…。何より「無人」であることが怖くて退会してしまった。

「けいさん」とお呼びしていいですか?

というわけで、Z女子から「もうジムはやめておけ」とキツク言われたのだが、走れるようになりたい。最後の賭けで女性専用ジムに無料体験を申し込んだ。シニア世代の会員も多く、無理なく続けられそうなプログラムだった。

ところが、である。手続き中にスタッフからこう言われたのだ。「『けいさん』とお呼びしていいですか。ここではみなさん下の名前でお呼びしているんです。女性は結婚すると名字が変わりますからね」。しばし絶句してしまったが、「私は選択的夫婦別姓制度の導入を求めているので、そんな理由で下の名前で呼ばれるのはイヤです!」と言うのは大人げない。「別にいいですけど…」と答えて体験を始めたのだが、スタッフの人たちが「けいさん、頑張ってますね」「けいさん、次回はいつ来れる?」とやたら声をかけてくる。心が狭い私は、「けいさん」と呼ばれるたびに背中がぞわっとするようになってしまった。さらに営業時間帯がまったく「働く女性」向けではなく、仕事の合間に通うのは難しいことがわかった。

というわけで、入会はキャンセルし、NHK『あしたが変わるトリセツショー』で紹介されていた健康体操を時々やりながら、相変わらず座りっぱなしの生活を続けている私である。誰かここから抜け出す良い方法をご存知の方がいたら教えてほしい。

今年に入ってばね指が再々発

さて、もう1つの私の健康課題は、「メノポハンド(更年期の手)」だ。代表的な症状にへバーデン結節、ブシャール結節、ばね指、関節リウマチなどがあるが、私はここ数年薬指のばね指に悩まされている。キーボードはなんとか打てるが、手をぎゅっと握れないので、蓋を開けたり、着火具(お線香用)を使ったり、字を書いたり、包丁を使うのに支障がある。加えて身体のどこかに痛みを抱えていると、集中力が低下し気持ちも落ち込んでしまう。

これまで2回、指の付け根付近にステロイド注射をしてもらい症状が軽減したのだが、今年に入って再々発。3回目はリスクが高く、残る選択肢は手術らしいが、元通り使えるまで1カ月程度かかるという。そこでネットで検索した保存療法を試してみることにした。原因の1つは女性ホルモンの不足と言われているので、それを補う大豆由来のエクオール含有サプリを購入。「手指の変形 痛み・はれ・こわばりが自力でよくなる!」という本を買ってストレッチを開始。痛みを軽減するというサポートテープやマグネシウムバームも買いそろえた。テープは水仕事に弱いので、代わりに薬指の第2関節にごっつい指輪をはめると同様の効果があることも発見した。そんなこんなで2カ月ほどケアを続けたところ、左手の違和感はほぼ解消し、右手も痛みで眠れなくなることはなくなった。ただ、良いというものを片っ端から試してしまったので、何が本当に効いたのかは不明である。

そんな自己流の対処をするより、医療機関にかかったほうがいいと言われるかもしれない。私もそう思って整形外科に行ってみたが、シニア女性の手指の痛みは基本的に「年齢的なものだから仕方ない」という対応で、気休めの塗り薬と痛み止めを処方されて終わり。それでステロイド注射を行っているクリニックを探したのだが、3回目はやめたほうがいいと言われての選択だったのである。

あらゆる政策にジェンダーの視点を

手指に限らず、「女性の痛み」に寄り添ってくれる医療機関にはなかなか出会えずにきたが、それは、私がたまたま不運だっただけではなさそうだ。『「女の痛み」はなぜ無視されるのか?』(アヌシェイ・フセイン著、堀越英美訳、晶文社)という本を読んで、これは世界共通の問題なのだと知った。著者のアヌシェイ・フセインさんは、バングラデシュ出身の米国人政策アナリスト。自身の出産時に痛みを訴えても取り合ってもらえず死にかけた経験から、女性の痛みが社会や医療の中で軽視されてきた歴史や構造を検証していて興味深い。確かに女性が痛みを訴えても、「気にしすぎ」「病気じゃないのだから我慢しなさい」と言われることが多かった。生理痛や子宮内膜症、妊娠時のつわり、出産時の痛み、更年期障害など女性特有の症状は当事者にとって耐え難いものであることも多いのに、それに関する医療的な研究やケアは十分ではなかったと思う。

でも、最近ようやく女性の健康問題への対応の遅れは社会的損失につながると認識され始めた。厚生労働省は、2024年に「女性の健康総合センター」を設置。2025年に改正された女性活躍推進法には「女性活躍の推進は女性の健康上の特性に配慮して行われるべきこと」が明記され、現在検討されている「女性版骨太の方針2026」にも女性の健康課題への支援が盛り込まれる見通しだ。

これは「あらゆる政策にジェンダーの視点を」というジェンダー主流化の働きかけが続けられてきたからこその一歩。「痛み」は当事者にしかわからない。この機運を女性たちが本当に必要としている支援や政策につなげるには、医療や研究をはじめ、あらゆる分野への女性の参画が不可欠なのだと改めて思う次第である。


★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

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