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今どきネタ、時々昔話
第34回 男女雇用機会均等法施行40年に思う

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働き続けるために

1986年4月1日に男女雇用機会均等法(以下、均等法)が施行されてから、今年で40年になる。私は、その1年後に小さな会社に就職し社会人生活のスタートを切った。入社当日、新人歓迎会を兼ねたお花見があり、夜桜はキレイだったけれども、メチャクチャ冷え込んで震えながら缶ビールを流し込んだ記憶がある。以来、今日まで、なんとか働き続けることができた。本当にありがたく思う。

40年前は、女性は結婚したら家庭に入り子育てが一段落したらパートなどで働くというライフコース(再就職型)が推奨されていて、実際に女性の年齢階級別労働力率は「M字型カーブ」を描いていた。職場では、女性は補助的な仕事に配置されることが多く、結婚退職などの慣行も存在した。でも、仕事に誇りを持ち、働き続けたいと願う女性もいた。労働組合の女性たちは、そんなあたりまえの思いを叶えようと均等法の制定やその後の法改正に全力で取り組んだ。その経緯はユニオン・ヒストリー「働く女性たちが求めたのは差別を禁止する『雇用平等法』の制定だった」(https://www.jtuc-rengo.or.jp/rengo_online/2023/06/05/1181/)に書かせてもらったが、均等法はこの40年、女性の社会進出を後押しする大きな力になったと思う。

新聞各紙も均等法施行40年を検証する記事を掲載していた。両立支援制度の拡充もあり、働き続ける女性は着実に増えて「M字型カーブ」が解消した一方で、男女間の賃金格差は依然として大きく、女性の管理職比率も10%台にとどまることが課題として指摘されていた。

連合は、春季生活闘争における格差是正の取り組みの柱の1つに男女間賃金格差を位置づけてきた。また、女性活躍推進法は、企業(従業員数101人以上)に男女間賃金差異や女性管理職比率の公表を義務づけている。

40年前に男性100:女性60であった賃金格差は、直近では男性100:女性75くらいまで縮小したが、それでもOECD平均より10ポイント以上低い。背景には、女性の非正規雇用比率が高く、管理職比率が低いことがあると言われるが、問題は、女性が働き続ける中で、その差がどんどん積み上がってしまうことなのではないか。少し前にそう思い知らされる場面に遭遇した。昨年の秋クールで放送された『ぼくたちん家』(日本テレビ系)というドラマのワンシーンである。

私がもらえなかったお金、3226万1570円

『ぼくたちん家』は、心優しきゲイのおじさん・波多野玄一(及川光博さん)が恋に落ちる話だと紹介されていたので、10年前にヒットした『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)的なドラマかと思いきや、そんなカテゴライズを軽やかに超えていく、生きることが愛おしくなるような不思議なドラマだった。

簡単に相関関係を説明しよう。波多野は動物園の飼育員。動物園に捨てられたペットを多数引き取って自宅で飼っていたら、契約違反だとアパートを追い出され、築60年の井の頭アパートへ。そこに住んでいたのが、中学3年の楠ほたる(白鳥玉季さん)で、その担任教師が作田索(手越祐也さん)で、後に波多野のパートナーとなる。ほたるは母の楠ともえ(麻生久美子さん)と2人で暮らしていたが、ともえは勤めていた会社から約3000万円を横領して逃亡。一人残されたほたるは、施設に入れられるのを避けるため、波多野に父親のふりをしてほしいとお願いするという流れでドラマがスタート。「女子社員の横領」というと「男に貢ぐため」が定番だが、そんな浅はかな考察を一蹴する驚くべき真相がドラマ中盤で明かされる。

第5話のタイトルは「私がもらえなかったお金、3226万1570円」。逃亡中のともえが、アパートの大家である井の頭今日子(坂井真紀さん)を喫茶店に呼び出す。今日子に、どうして横領なんかしたの? と問われたともえは、「なんか舐められてるなって気づいたんです」と答える。

43歳のともえは就職氷河期世代。正社員の就職先はまったくなくて、契約社員でその会社に入り、毎年契約を更新しながら経理の仕事をしてきた。不満がなかったわけではないが、不満を口にする人は「面倒くさい人」と見なされ、契約が更新されず職場を去っていったという。でも、さすがに黙っていられないことが起きたのだ。

「1年前に入ってきた若い男性の契約社員が正社員になったんです。私が何十年働いてもなれなかった正社員に、たった1年でポンってなって。さすがに面倒くさくない人でいられなくなって理由を聞いたんです。理由は15分だって。その人、私より毎朝15分早く来て15分遅く帰るんです。そのやる気を評価されたって。なんじゃそりゃって思いました。…私の朝の15分は、可愛くしてるのも仕事のうちとか言ってくる奴らのためにファンデ塗る時間で、早く帰る15分はほたるのためにご飯を作る時間。…ひとつ気になったら他のことも気になって、経理経験を全部活かして調べていくと、男性と女性の給料に差がありました。1時間あたりで504円。なんで差があるかちゃんとした理由はなかったです。…それで計算してみました。私が契約社員だからもらえなかったお金。私が女だからもらえなかったお金。全部足して 3226万1570円」

横領しようと思って計算したわけではなかったが、娘から高校進学について相談されたともえは、娘にお金の心配をさせてしまう自分が情けなくて「もらえなかったお金」に手を付けたのだった。私は気づいたら家事の手を止め、正座して彼女の話を聞いていた。

仕事して褒められたり、認められたりしたかったのに

大家の井の頭さんは、近く還暦を迎える均等法第1世代。ともえの話を聞いて、自分の体験を語り始める。商業高校を卒業して大企業のOLになったが、3カ月で退職。「初仕事は、社員のマグカップに名前を書くこと。若くてフレッシュな女性が名前書いてくれて、ついでに名前覚えてくれたら男性社員もやる気になるからって上司は言ってたけど。…私が思い描いていたOLと違った。もっと仕事して褒められたり認められたり、そういうことがしたかったのにできなかった」という言葉に胸の奥が疼いた。私も同じような経験をしたからだ。

均等法施行から40年も経ったのだ。男女間の格差を何とかしなければという思いに駆られてあれこれ検索していたら、連合総研の『DIO』(No.406)が昨年春に「男女雇用機会均等法制定40年を前に」という特集を組んでいて、お茶の水女子大学の永瀬伸子教授の論考『日本の労働市場のジェンダー平等はなぜすすまないのか』が格差問題に鋭く切り込んでいた。

総務省『就業構造基本調査』(2022年)によると、20-59歳の学校に在学していない男性の70%が300万円以上の年収を得ているのに、女性は28%。女性雇用者の非正社員割合は、20歳代では25%だが、30歳代前半35%、後半44%、40歳代で51%と上昇。永瀬教授は、この実態の背景にある「ジェンダー化された雇用構造」に着目する。

「大企業は正社員の年功的な賃金上昇が最も大きく、賃金水準も最も高いことは様々な調査からよく知られている。しかし大企業こそ、驚くほど大きい男女の雇用構造の差が見られる。5,000人以上企業で働く男性の正社員割合は7割である。一方、女性は7割が非正社員なのである。また総合職という幹部候補生の割合を見ると5,000人以上企業で働く男性の45%である。一方女性は12%に過ぎない。日本を代表する大企業が、非正規雇用の女性を大勢雇い、女性総合職となると女性従業員の12%に過ぎないというジェンダー化された日本の企業組織の構造に改めて驚かされる」(『DIO』No.406より引用)

この数字には、私も改めて驚かされた。永瀬教授は、大企業に根強く残るジェンダー化された雇用構造は「子育ては雇用者の配偶者に委ねるか、あるいは子どもを持たないことを推進する特徴を内在している」と指摘し、「若い世代がキャリアのリスクを考えずとも子どもを持てる雇用慣行と社会保障に転換しない限り、ジェンダー賃金格差は今後も変わらないままに、さらに出産する女性が減少していくだろう」と警鐘を鳴らす。

先日、社会人4年目のZ世代女子が「先輩が転職活動を始めたんだけど、最終面接で結婚しているの? 子どもはいるの? って聞かれて、既婚で保育園に通う子どもがいると答えたら落とされたんだって。でもさ、男にはそんなこと聞かないよね」と言っていた。やはり根源的な問題はそのあたりにあるのだと私も思う。

※参考文献

『月刊DIO』No.406

https://www.rengo-soken.or.jp/dio/2025/03/240900.html

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

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