エッセイ・イラスト

今どきネタ、時々昔話
第24回 セクハラ大国ニッポン?!

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「性別・年齢・容姿」に着目

2025年3月31日、フジテレビが設置した第三者委員会の調査報告書が公表された。
発端は、昨年12月に週刊誌で報じられた中居正広氏の性加害事案。被害女性は、中居氏がMCを務めていたフジテレビの番組関係者とされたことから、同社が2度にわたって会見を開いたものの、事の重大性を認識していない経営陣に批判が殺到し、スポンサー企業が次々とCM出稿を停止。フジテレビは、信頼回復に向けて第三者委員会を設置し、何が起きたのか、何が問題であったのか、調査を委ねたのである。

夕刻からの会見をながら視聴していたのだが、竹内朗委員長(弁護士)が発する言葉に驚き、聞き漏らしてはいけないと画面に向きあった。竹内委員長は、フジテレビの女性アナウンサーが「中居氏によって性暴力被害を受けたものと認定」し、両者の関係性や権力格差、フジテレビの業務実態から「本事案は、業務の延長線上における性暴力であったと認められる」と言い切った。そして、経営陣が「プライベートにおけるトラブル」と判断し、同社幹部が中居氏の利益のために行動したことは、二次加害行為にあたると断じた。

この事実認定だけでも画期的だが、第三者委員会は「今回の事案以外にも、社員やアナウンサーを性別・年齢・容姿などに着目して取引先との会合に呼ぶことや、セクハラ行為を伴う飲み会などが存在。全社的にハラスメント被害が蔓延していた」ことを指摘。実際に中居氏と被害女性の接点となったのは、フジテレビ社員がセッティングしたスイートルームの会やバーベキューの会であり、その費用の一部は経費申請されていた。よくぞここまで踏み込んでくれたと思う。

女性をモノ扱いするハラスメント風土

スポンサー企業がCM出稿停止に踏み切った時、私は、企業が「ビジネスと人権」を真剣に考えるきっかけになるだろうと思ったが、一方でスポンサー企業だって同様の問題はないと言いきれるのだろうかという疑念を抱いた。
事の本質は、会社が取引先や権力者との関係を深めるために「若くて可愛い女の子」を道具にしてきたこと。古くは「上納」や「献上」と呼ばれた慣行が「暗黙の了解」となっていたとすれば、それはフジテレビだけの問題ではないはずだ。

「フジだけの問題でない #私の本当の退職理由」(朝日新聞 2025年3月11日)という記事で、同様の体験を告発する投稿が広がっていることを知った。〈取引先の重役から「デートしてくれたら契約する」と要求があったにもかかわらず、上司は長年黙認していた〉〈上司から相談があると言われ、ホテルの部屋に連れ込まれた〉〈重役から「同じ部署の社員と結婚してほしくて、採用した」と言われた〉…。記事の中で、弁護士の太田啓子氏は「会社側が性暴力やセクハラの加害者を厳しく処分せず、被害者が退職に追い込まれるケースが後を絶たない。そのうえ、退職理由やキャリアのブランクがある理由についてセクハラであると説明しづらく、再就職も難航しがちだ。職場での加害が、生涯年収の減少や貧困など重大な結果につながっている」と指摘している。

女性起業家や就活生へのセクハラも深刻

第三者委員会は「ビジネスと人権」という観点から、企業風土が変革されることを期待している。でも、セクハラはスポンサー企業でも起きているし、投資家だってセクハラをする。民間機関の調査(2024年)によると、女性起業家105人のうち52.4%が直近1年間でセクハラ被害を受けたと回答(朝日新聞 2025年1月25日)。打ち合わせだと思って出向くとデートのような対応をされたり、性暴力を受けたり、「愛人になれば月100万あげる」と言われたりという悪質なセクハラが日常茶飯事で、困り果てた女性起業家たちが相談や情報共有の場として「スタートアップユニオン」を設立したと書かれていた。

就活生のセクハラも深刻だ。学生は企業と雇用関係がないことから労働法の保護対象とされなかったが、労働政策審議会で対策が検討され、今国会に新たな条文を盛り込んだ男女雇用機会均等法改正法案が提出される予定だという。

いずれにしてもセクハラの背景にあるのは権力関係だ。労働政策審議会の委員も務める、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の矢島洋子氏は「男女の役割分業意識が強かったり、女性が男性の補佐的立場にいることが固定化したりしている職場では、セクハラが起きやすい。社員のなかでも契約社員や派遣社員など、より弱い立場に置かれている人ほど被害に遭いやすい」「加害者がどんなに業績を残す人であっても、セクハラ行為に対し職場がきちんとペナルティーを与えられるかが重要だ」と指摘している(日本経済新聞 2025年2月24日 )。

均等法にセクハラ防止規定を導入することを求めて連合・連合東京が作成したセクシュアル・ハラスメントに関するハンドブック

「負けたくない!」

改めて第三者委員会の報告書をダウンロードして目を通したが、胸に迫ったのは、被害を受けた女性アナウンサーの揺れる心情だ。彼女は、先輩女性に号泣しながら「誰にも言ってほしくない。大ごとにもしてほしくない」「知られたら生きていけない」「仕事も続けていきたい」と話し、中居氏との共演について尋ねると「かまわない」「負けたくない」と答えたという。ダメージはあまりに大きく「前の自分に戻れない気がする」「みんな生きている世界と自分に大きな隔たりがあって、もう戻れない」とも語っている。努力を重ねてキー局のアナウンサーの職に就いたのに、その仕事を突然、性暴力によって奪われ、どれほど絶望したことだろう。

私は、彼女の「負けたくない」という言葉に、わが娘・Z女子を重ね合わせてしまった。去年の今頃、Z女子は激おこで帰宅した。「○○部長、セクハラで訴えてやる!」とすごい剣幕だ。当時、新しい部署に配属されたばかりで、上司はダンディーなイケオジだと聞いていた。取引先を回る時は、必ずZ女子を一緒につれていってくれて、本人も勉強になると張り切っていたのだが、何があったのか。

いつも自分ばかり同行しているので、「どうして○○さん(=若手男子)は連れていかないんですか」と部長に聞いたら、「男子は連れていかないよ。だって女子のほうが取引先もなごむでしょ」と返されたらしい。
「なごむって何なの!営業の道具?オンナをバカにしてるよね」とZ女子。
さて、その話を聞いて私はなんと答えたか。
「気持ちはわかるけど、そこは飲み込んで連れてってもらいなよ。仕事にはプラスになるんだから」。この言葉を、今は心から反省している。

第三者委員会の報告書について、フジテレビの元女性アナウンサーが「セクハラもかわして、笑いに変えてこそアナウンサーだった。これが当たり前と思ってきたが、自分たちがそうやって耐えてきたことが、ハラスメントを容認する社風が続いてしまった要因になったかもしれないと感じ、若い人たちに申し訳ないという思いがある」とコメントしていたが(朝日新聞 2025年4月4日)、私も申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

Z女子は、真剣に仕事をしているのに「女子のほうがなごむ」と言われて負けたくなかったのだ。結論から言うと、彼女はこの問題をセクハラだと担当部署に訴えた。イケオジ上司は仰天したことだろう。でも、後輩の女子社員からは「Zさんは私の希望です!」と慕われることになったらしい。

無敵のセクハラ回避策

最後に1つ、セクハラから身を守る秘伝を書いておこう。
私も、20代の頃は、飲み会で偉い人にお酌して回り、二次会では、カラオケでデュエットの相手をし、肩に手を回されてもガマン。食事の誘いを断っただけでイヤな目に遭うことも多々あった。セクハラの存在を前提に、女性は身を守る術を持つべきだと言われていた時代だったが、カナダの若き女性映画監督のインタビュー記事を見て衝撃を受けた。彼女は、映画監督を志し、脚本をプロデューサーや制作会社に持ち込むのだが、必ず性的な誘いを受け、断ると脚本を突き返されるということが続いた。このままでは映画を作れないと悩んだ彼女は、「体重を増やす」という荒技に打って出た。プラス20キロを達成して改めて脚本を持ち込むと、性的な誘いは一切なくなり、ちゃんと脚本を読んでくれるプロデューサーにも出会えたという。

私自身も「小太りのオバサン」の無敵さを実感する日々を送ってきた。が、最近健康診断で引っかかり、医師から減量を指示された。時代は変わろうとしている。これを機に、みずからも「性別・年齢・容姿」の呪縛を解かなければと思う次第である。

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

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