地域で働く人を支える「縁の下の力持ち」地方連合会の取り組みを紹介する本シリーズ。今回は、障がい者の就労支援などに取り組む連合奈良を訪問しました。店舗やカフェを運営して障がい者にはたらく場を提供する活動は、全国各地の自治体・NPOなどに見られます。単なる就労支援に留まらず、収益も意識してメニュー開発やマーケティングに力を入れる連合奈良のケースは、他団体の参考になるのではないでしょうか。
カフェにプロのノウハウ導入 売れるものを作ってもらう
「KIZUNA Café(キズナカフェ)」は、興福寺や奈良公園などの観光地に近い東向商店街にあります。多くの観光客が行きかう恵まれた立地に加えて、フルーツをふんだんに使ったかき氷(夏季限定)が口コミサイトでも「巨大」「フルーツがいっぱい」と好評。オムライスなどの洋食メニューも人気です。
カフェがオープンしたのは2010年9月。連合奈良と行政、福祉関係のNPOなどがつくる社団法人が運営しています。障がいを持つ人をスタッフに雇用することで「就労経験を積み、別の職場にステップアップしてもらうことが目的です」と、連合奈良の水野仁会長。実際にカフェでの就労を経て、別の職場に転職を果たした人たちもいます。またスタッフは一般就労枠で雇用し、最低賃金も適用されています。
カフェの店長には、奈良に本社を置き世界に支店を展開している飲食チェーンから「経営のプロ」を迎え、メニュー開発やオペレーションのノウハウを生かしてもらっています。さらに奈良が地域全体で打ち出している「かき氷」もメニューに加えました。こうした経営努力が集客に結び付き、黒字を確保しています。
店内では、障がい者の就労継続支援作業所で作られた工芸品なども販売しています。作業所の商品を販売する場合、品物を預かって販売し、売れなかった分は返品する「委託販売」が一般的ですが、キズナカフェは仕入れた商品をすべて買い取るため、作業所に喜ばれているそう。
「売れ残りを作らないよう、作業所へ改良を提案するなどして、商品の魅力を高める努力もしています。売り上げが増えればカフェが黒字を確保できるだけでなく、障害者に支払われる工賃の引き上げも期待できます」(水野会長)
コロナ禍でカフェ休業、経営危機に 関係者の熱量が運営を支えた
今でこそ順調なキズナカフェですが、開店当初はなかなか利益を確保できず苦労しました。時には連合奈良の職員が、地方でイベントがあるたびにキズナカフェの屋台を出して焼き鳥を売り、日銭を稼いだことも。
さらにコロナ禍でも、大きな打撃を受けました。カフェは休業を余儀なくされましたが、物販に力を入れることで、スタッフの雇用を維持しようと努めました。
「工芸品に加え、県内の高校生が作った野菜も売るなどして、利益を確保しようとしました。しかし雇用調整助成金を申請し、シフトを調整して1人当たりの出勤時間を減らすといった努力をしても、当時は借入金が膨らむばかりでした」
その後、コロナ禍の終息に伴いインバウンド需要が回復。稼ぎ頭の飲食部門が復活し、外国人観光客が増えたのを機に単価の引き上げなども行ったことで、借入金も完済できました。
苦労の多い中でも、カフェを維持できた力の源泉は、「立ち上げに関わった人たちの熱量」だと、水野会長は言います。
「当時の連合奈良の会長に『障害者雇用率を全国トップにしたい』という強い思いがありました。会長が県知事や知人の飲食チェーン創業者に声を掛けて、さまざまな人をカフェ事業に巻き込んだことが、成功につながったと思います」
カフェの存在は「奈良県は、官民がともに障がい者雇用に取り組む」というメッセージを県内外に発信することにもなりました。こうした努力が実り、2010年に2.08%だった奈良県の民間企業の障害者実雇用率は2023年、3.06%と全国平均の2.33%を大きく上回り、沖縄に次いで全国2位に入っています。
女性への支援を強化
連合奈良はこのほか、非正規の働き手をはじめとした女性への支援も強化しています。
きっかけはコロナ禍の時期、年3回実施していた労働相談に、パート・アルバイトの女性などから「職場が休業になって生活が苦しい」「休業補償の申請ができない」といった相談が多数寄せられたことでした。こうした声を受けて2022年7月、女性応援プロジェクト「MIMOSA(ミモザ)」を開始しました。
松田拓実副事務局長は「まずはコロナ禍で仕事や生活に大きな打撃を受けた女性を対象に、街頭で無料労働相談の場を設けることにしました」と説明します。JR奈良駅前などに連合のスタッフが立ち、労働相談に応じていることを知らせるとともに、ジェンダーに関する街頭アンケートなども実施しました。さらに女性弁護士にも街頭での活動に同席してもらい、相談体制を整えました。
「弁護士だけでなく、街頭で人々に呼びかけるのも女性役員に担ってもらうことで、女性たちが相談しやすい雰囲気づくりに努めました」(松田さん)
街頭での活動だけでなく、はたらく女性たちに役立つワークルールなどを「Q&A」で伝える冊子を作り、いつでも手元に置けるよう配布することも計画しています。
MIMOSAの取り組みは、はたらき手のサポートだけでなく女性組合員・役員の育成も目的としています。連合奈良の女性役員比率は29.9%にとどまり、女性役員のなり手不足も課題となっているためです。
松田さんは「人前に立つことの少ない女性役員に、活動を引っ張る経験を積んでもらいたいという思いもありました」と振り返りました。
2017年からは加盟組合の女性役員を集め、不定期の学習会「女性未来塾」も開いています。これまで3回ほど開かれ、人材育成コンサルタントの辛淑玉さんや参議院議員(当時)の矢田稚子さんらを講師に招きました。
松田さんは「未来塾だけでなく女性委員会などでもリーダーシップを学ぶ場を設けて、より多くの女性に労働組合の中でステップアップしてほしい」と話しました。
SNSの発信強化 新しい活動の形も模索
コロナ禍で活動が大きく制限されたのを機に、SNSでの情報発信にも積極的に取り組むようになりました。YouTubeチャンネルを立ち上げ、西田一美会長(当時)と連合の芳野友子会長や市議会議員などとの対談、活動紹介などの動画を公開しています。中には「メーデーあるある」をお題に「挨拶だーれも聞いてない」と、ちょっとブラックなネタで笑いを誘うコンテンツも。
「コロナ禍の間にリアルでつながりを作れなくなった分、私たちからいろんな人との接点を作りに行こう、と考えて動画や写真を投稿するようになりました。漫才仕立てにするなど、見てもらう工夫もしています」(松田さん)
また本村秀史事務局長によると、コロナ禍でオンラインの活用が進んだのを機に、リアルでの活動が復活してからもオンラインを併用する「ハイブリッド化」を模索しているといいます。
「議決権をどう行使するのかといった課題はありますが、より多くの人に活動に共感してもらうには、まず活動に参加してもらわなければいけません。完全に元の形に戻すのではなく、なるべく多くの人が関われる形にしていきたい」
水野会長は連合の強みを「多様な人がつながれること」だといいます。キズナカフェも、連合が企業やNPO、行政にはたらきかけてつながりをつくり出すことで実現しました。
「官民や産業、男女、地方の枠を超えたプラットフォームを生み出し、そこで生まれるエネルギーを生かして政策を実現したい。それによってより多くの仲間に『連合奈良があってよかった』と思ってもらいたいのです」
これがイチ押し!地元の名産・名所
「氷の聖地」の由来とは? かき氷推しの奈良
水野会長によれば、奈良がかき氷推しなのは「市内の氷室神社が氷の神様を祀っているから」だそう。
「昔から、夏場に皇室へ献上するための氷を貯蔵していたとか。市内では、購入に整理券が必要なほど人気のかき氷店もあります」
酒どころの奈良 会長のおススメは?
一説によれば奈良は日本酒発祥の地とか。「諸説ありますが、水がおいしい土地柄なのは事実なので良いお酒はたくさんあります」(水野さん)
水野さんのおススメは「百楽門」(葛城酒造)や「みむろ杉」(今西酒造)。一方、松田さんは油長酒造の「風の森」だそうです。
本村さんおすすめ!テレビでも紹介された「だんご庄」
本村さんのお勧めスイーツは、橿原市の「だんご庄」。テレビでも紹介された、きな粉のおだんごです。また最近は「まほろば大仏プリン」も人気とのこと。
「ただ、奈良の人は商売っ気がないと言われ、確かに早じまいの店も多い。観光地だから店も開いているだろう、と思わず営業時間は確認した方がいいかもしれません」
観光スポット目白押し 「じっくり回ってみて」
神社仏閣に鹿のいる奈良公園など、有名な観光地が目白押しの奈良。そんな中で水野会長が勧めるのは、吉野町の山々です。
「吉野は春の桜が有名ですが、桜が終わった後の目が覚めるような新緑もすばらしい。個人的には青森県の奥入瀬渓流にも匹敵すると思います」
また十津川村にある「谷瀬の吊り橋」は、日本最長の吊り橋と言われ有名ですが、渡るのにちょっとした勇気が必要かも。
奈良の夜景、「逆さ風景」もSNS映え
奈良は、季節に応じて多くの観光地でライトアップが行われ、夜景を楽しめます。サイトなどをチェックし、夜の奈良を散策してみては。また美しい山が間近に迫っているため、市内に点在する池や沼などのほとりでは、地上の風景が水面に映りこむ「逆さ風景」を撮影できる場所もあるそうです。
また奈良市内の奈良町や橿原市の今井町は、江戸時代の面影が残る通りに、おしゃれなカフェやお店が点在しています。
「奈良はさほど混んでいないシーズンもあるので、観光地のお店にふらっと立ち寄って並ばず入れることも。喧騒を離れて静かに過ごせる穴場も多いので、ぜひじっくり回ってみてください」(水野さん)
(執筆:有馬知子)