労働組合を知ろう

戦後・被爆80年
平和と、民主主義と、労働運動と。

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第2次世界大戦の終結から80年。世界の現状に目を向けると、長期化するロシアのウクライナ侵攻、人道危機が深刻化するイスラエル・パレスチナ紛争、ミャンマーの軍当局による市民への暴力・弾圧など、いたるところで平和が脅かされ、分断と対立が深まっている。
連合は今年も、6月の沖縄から、8月の広島・長崎、9月の北海道(根室)へと続く平和4行動を展開するとともに「戦後・被爆80年」特設サイトを開設。平和メッセージや折り鶴行動など職場や地域における取り組みを共有し、2026年の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議に向けた「核兵器廃絶1000万署名」に取り組んでいる。
こうした連合の平和運動について、連合が加盟する国際労働組合総連合(ITUC)も、その重要性を認識し、今夏の広島・長崎の平和行動には、リュック・トリアングルITUC書記長とITUC主要組織のリーダーなどが参加して平和への思いを深めた。
武力紛争が絶えない世界の現状をどう見るか。なぜ労働組合が平和運動に取り組むのか。国際労働運動がめざす平和とは何か。広島の地で、リュック・トリアングルITUC書記長と芳野友子連合会長が語り合った。

〈Luc Triangle〉ベルギー出身。インダストリオール・ヨーロッパの書記次長、書記長等を経て、2023年5月にITUC書記長代行、同年10月のITUC第6回臨時世界大会で正式に書記長に選出。精力的に行動を提起する発信を行っている。

■ITUC(国際労働組合総連合)とは・・・
世界167カ国・地域に、337加盟組織、1億9,000万人(2022年12月現在)の組合員を擁する、世界最大かつ実質的に国際労働組合運動を唯一代表する労働組合組織。主要な加盟組織は、日本の連合(JTUC-RENGO)、アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)、ドイツ労働総同盟(DGB)、イギリス労働組合会議(TUC)など。フランス、イタリア、スウェーデン、インド、韓国などでは、複数のナショナルセンターが加盟。国際労働機関(ILO)では労働側グループの事務局を務め、国連経済社会理事会(ECOSOC)では総合諮問資格(general consultative status)を保有し、国連食糧農業機関(FAO)や国際通貨基金(IMF)、世界銀行、世界貿易機関(WTO)などの国際機関から諸会議に参加する承認を得ている。G7、G20、APEC、ASEMなどの政府間会合に対しても政策提言を行っている。

平和が脅かされている世界の現状への思いとは?

犠牲になるのは一般の人たち 
だから、いかなる戦争にも反対する
齋藤 現在、ウクライナ、パレスチナ、ミャンマーなど世界各地で武力紛争が続き、労働者の権利が侵害されています。ITUC書記長として、平和が脅かされている世界の現状について、また戦禍に巻き込まれている人々への思いをお聞かせいただけますか。
トリアングル 多くの国・地域で武力紛争が拡大している今、私が何より訴えたいのは、いかなる戦争であっても、そこで常に犠牲を払わされるのは一般の人たちだということです。その代償は大きく、家や仕事、コミュニティ、日々の生活がすべて破壊され、家族や友人、自身の人生が奪われる。いったん戦争が起きると、そこから逃れることができない人々が大きな被害を受ける。だからこそ、私たちはいかなる戦争にも反対をしなければいけない、平和を求めて取り組みを進めていかなければならないと考えます。
齋藤 今年は戦後・被爆80年になりますが、連合の取り組みは?
芳野 連合は1989年の結成以来、平和運動を連合運動の柱の1つに位置づけ、戦争の実相を知り、平和を学び、次世代に語り継ぐ取り組みとして「平和4行動」を展開しています。毎年、6月の沖縄、8月の広島・長崎、9月の根室の地をリレーで結び、全国の連合組合員が平和への思いを共有してきました。ITUCのトリアングル書記長には、昨年の広島・長崎の平和行動にご参加いただきましたが、戦後・被爆80年となる今年は、ITUCの主要組織のリーダーの皆さんにも声をかけていただき、再び行動をともにしていただきました。心から感謝申し上げます。
 「平和と民主主義なくして労働運動なし」と言われるように、平和はすべての大前提です。その信念とあわせて、唯一の戦争被爆国として、日本が体験した戦争の実相を国内外に発信していくことが重要なミッションだと考えています。その思いから、2026年のNPT再検討会議に向けて「核兵器廃絶1000万署名」を展開していますが、今回、ITUCの賛同を得てともに署名活動に取り組むことができていることに改めて感謝申し上げます。
齋藤 昨年も参加いただきましたが、連合の平和行動に参加されて感じたことは?
トリアングル 日本の平和運動をリードしているのは、紛れもなく連合の皆さんだと感じました。連合が世界平和のために積極的に行動されていることを高く評価し、連合本部、構成組織、地方連合会の皆さんに心から敬意を表します。
昨年、広島、長崎の被爆地を訪れ、ピースウォークや平和集会に参加して心を動かされ、ITUCとして世界の平和を求める強い行動が必要だと思いました。そして、私の体験を反映させた新しい平和推進方針を提起し、昨年12月のITUC執行委員会で確認されましたが、この素晴らしい平和行動を多くのリーダーに体験してほしいと、今年は主要組織にも参加を呼びかけました。ここ広島の地で一緒に折り鶴を折り、慰霊碑をめぐり、平和の大切さに思いを馳せたことは、忘れ得ぬ体験になったと思います。
芳野 核兵器は、人類史上最も破壊力のある非人道的な兵器であり、三たび使用されることはあってはならないと訴えてきた「日本被団協」が、昨年ノーベル平和賞を受賞しました。核兵器使用の脅威が高まる国際情勢の中で、戦争被害ではなく、核兵器の悲惨さを伝えたいという「ノーモア・ヒバクシャ」という訴えが世界の人々に受けとめられたのだと思います。
先の戦争を実際に経験した方々は高齢になり、語り継ぐことが非常に難しくなってきていますが、一方で高校生平和大使の皆さんをはじめ、平和への思いを引き継いで行動する若い世代も出てきています。彼ら・彼女らとともに、「核兵器のない世界」の実現に向けて、平和への運動を強化していきたいと思っています。
トリアングル 平和集会には、若い世代がたくさん参加されていて感銘を受けました。世界中を見回しても、連合のように平和運動を推進する部署を設けているナショナルセンターを、少なくとも私は知りません。こんなに素晴らしい取り組みをされているのだから、国外への発信ももっと強化されることをおすすめします。
芳野 国内ではパネル展示をはじめ様々な工夫をしているのですが、国外への発信は弱かったかもしれません。早急に取り組みたいと思います。

なぜ、労働組合が「平和」に取り組むのか?

世界の永続する平和は社会正義を基礎としてのみ確立できる

齋藤 ITUCにおける平和への取り組みとは?
トリアングル 国際労働運動において、平和への運動は100年以上前から続いています。19世紀における奴隷制度、その後の脱植民地化のための闘い、そして2度の世界大戦を経て、戦争の惨禍を決して繰り返さないという決意を受け継ぎ、今日のITUCの平和推進運動があります。それはITUC全体の活動の中で極めて重要な運動であると位置づけられています。
ILOは、第一次世界大戦終結直後の1919年に設立されましたが、その憲章には「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」と書かれています。すなわち社会正義が確立している社会の状態こそが平和であると言えます。
そう考えるならば、世界は今、非常に悪い方向に動いています。武力紛争が拡大し、軍事費の支出額が増大。さらに、この動きは、民主主義という価値観に対する攻撃とセットになっていて、多くの国で権威主義的・全体主義的な指導者が生まれています。それがたとえ民主的な選挙プロセスで選出された人たちであっても、いったんリーダーになると、民主的な価値観に対して攻撃を始めます。ジェンダー平等と女性の権利、LGBTQ+の権利、報道や言論の自由、そして結社の自由や団結権という、自由と民主主義の基本的権利を否定し、反民主主義、反労働組合の立場を鮮明にします。なぜ、労働組合が攻撃の対象になるのか。それは労働組合が世界最大規模の民主的な組織であり、民主的な価値観を擁護する組織だからです。

平和と民主主義を守るための行動とは?

労働分配率が低下し労働者が取り残されている

齋藤 平和と民主主義を堅守するための行動は?
トリアングル ITUCは2024年、「For Democracy(民主主義のために)」というグローバルキャンペーンを開始し、今年はそれを「For Democracy that Delivers(実効性のある民主主義のために)」に進化させました。
なぜ、世界的に民主的な選挙プロセスを通じて権威主義的なリーダーが次々と選出されているのか。それは、労働組合員を含めた労働者も、有権者としてそうしたリーダーを支持し投票しているという事実があるからです。
私たちは、反民主的なアジェンダを掲げ、反労働者・反労働組合的なスタンスを持つ政党が、なぜ労働者の支持を得ているのかをよく考えなければいけません。おそらく民主的なアジェンダを掲げる既成政党が、労働者の求める政策を実現できなかったことが、その一因として挙げられます。この数十年にわたって、世界経済は成長してきましたが、各国のGDPにおける労働分配率は低下傾向にあります。富は創出されているのに、労働者への配分は公正なものにはなっていない。億万長者がどんどん生まれている一方で、地道に働く人たちは取り残されていく。この格差の拡大こそが、民主的な政党への支持低下と反民主的なアジェンダを掲げる政党への支持拡大につながっているのだと私は理解しています。
芳野 同じ認識です。日本においても、今年7月の参議院議員選挙で排外主義的な主張をする新興政党が躍進する結果になりました。若い候補者を多数擁立し、20〜50代の現役世代の票を集めました。今後、慎重に注視していく必要があると考えていますが、これまでの連合運動において重視してきた「差別を許さず、ジェンダー平等、多様性と人権の尊重を推進していく取り組み」は不変です。連合が連携する立憲民主党、国民民主党とともに、すべての労働者、すべての国民が安心して暮らしていける社会をつくっていく取り組みをいっそう強化していきたいと思っています。
トリアングル そうですね。世界各国で極端な政策を掲げるポピュリズム的政党が登場し、労働者・有権者に対して「皆さんの抱えている問題はよく分かっている。その問題がどこから生じているのかもよく分かっている」と投げかける。その政策は、反労働者・反民主的なものであるにもかかわらず、労働者の支持を集めている。
労働組合はどうすればいいのか。私たちは今まで以上に民主主義を必要としています。だから、その民主主義を労働者が求める形で展開して、その手元に届けなければいけない。そういう思いで、ITUCは、民主主義の再生に向けたビジョンを示し、「For Democracy」というキャンペーンを始めたのです。
今、武力紛争のリスク拡大を背景に世界各国の軍事費は膨れ上がり、総額で過去最高の約3兆米ドルにのぼります。軍事費により多くの予算が振り向けられるということは、社会保障や福祉、雇用、教育など、人々の暮らしを支える政策への予算が削減されることにつながります。軍事支出を抑制し、本来使われるべき分野に適切に予算を配分するよう政府に求めていくことも、平和と社会正義の確立に向けた重要な取り組みだと考えています。
芳野 ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナなど、ITUCの同じ仲間である国同士が戦争状態にあることに対し、非常に心を痛めています。そして、社会対話による問題解決の重要性を再認識しています。幸い日本においては、様々な政策課題について、政労使が対話できる関係があります。新興政党が台頭する状況についても、私たちが築いてきた社会対話を通じて解決していければと思っています。
齋藤 最後に連合への期待やアドバイスをお願いします。
トリアングル 民主的で平和な社会に暮らしたい。それが私たちみんなの願いです。連合が、労働者の権利や労働条件だけでなく平和と民主主義を守る取り組みを進めていること、人間を中心に据えたアジェンダを掲げて運動していることは、本当に素晴らしい。ITUCは連合の平和運動を全面的に支持します。連合には、ITUCの主要組織として、国内だけでなく、国外にもこの平和の取り組みを広げてほしいと思います。
広島、長崎での平和行動に参加して、唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶に取り組まれてきた強い思いを受けとめました。その上で、連合に期待したいのは、今、拡大している武力紛争のリスクへの対応です。世界各国で核兵器以外の武器への支出が増大しています。核兵器廃絶・核軍縮に加えて「すべての武器を削減し、社会的な支出を増やそう!」というアジェンダも強く掲げていただけたらと思います。そうすれば、連合の平和運動は、世界の平和運動を大きく動かすものになるでしょう。
芳野 貴重なアドバイス、ありがとうございます。戦争は最大の人権侵害です。日本の労働組合は二度と戦争を起こさせない、加担しないという強い思いを継承し続けています。国外への発信強化も含めて、ITUCとともに平和運動を強化していきたいと思います。
齋藤 ありがとうございました。

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