エッセイ・イラスト

今どきネタ、時々昔話
第30回 チャッピーに相談だ!

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このひと月で、季節も政治も大きく動いた。
10月4日の自民党総裁選では、高市早苗氏が初の女性総裁に選出されたが、26年も続いた自民・公明の連立が解消される展開となり、初の女性首相誕生は不透明に。その後、文字通りの紆余曲折を経て、自民・維新の連立(閣外協力)が成立し、10月21日、高市総裁が第104代内閣総理大臣に選出された。
めまぐるしい政治に翻弄されている間に、長すぎた夏が終わり、慌ててレッグウォーマーなどの防寒グッズを引っ張り出したところである。

世界第2位の経済大国への郷愁?

今回、石破首相の辞任表明を受けて行われた自民党総裁選には、1年前の総裁選とまったく同じ顔ぶれ(石破氏を除く)の5人が立候補した。出馬会見を聞くともなく聞いていたのだが、その現状認識にちょっと驚いた。
高市候補は「『JAPAN is back』、こう、もう一度日本は高らかに言わなくてはなりません」と訴えた。英語は得意ではないが、「日本復活」という意味らしい。林芳正候補は「『夜明け前が一番暗い』という言葉がある。党、国を取り巻く状況は明るいものではない。一方で人材、蓄積はある。うまく運営していけば、まだまだ日本はやれる」と投げかけた。小林鷹之候補は「諦めではなく希望を。頑張れば報われる。現役世代がそう思える日本をつくる」と宣言。茂木敏充候補は「自民党は会社で言えば倒産寸前の危機にある」と表明。小泉進次郎候補は昨年の出馬会見で目玉政策に掲げた「選択的夫婦別姓の実現」にはまったく触れなかった。

自民党の総裁候補は、多かれ少なかれ、今の日本は「どん底」と言うべき状態にあると考えているように聞こえた。
確かに日本が世界第2位の経済大国の座を明け渡してから久しい。賃金水準も先進国で最下位レベルだ。思い起こせば、日本のGDPは、1968年に世界第2位に躍り出て、1980年代初めには『ジャパン・アズ・ナンバーワン(Japan as Number One: Lessons for America)』(エズラ・ボーゲル著、1979年)がベストセラーとなり日本的経営がもてはやされた。しかし、1990年代に入るとバブル経済が崩壊。「失われた30年」と言われる長期不況に陥り、少子高齢化も加速。GDPは、2010年に中国に抜かれて世界第3位となり、2023年にはドイツに抜かれて第4位、2026年にはインドにも抜かれて第5位となる見通しだ。

自民党の総裁候補は、国際的な日本のプレゼンス(存在感)が低下していることへの危機感が強いのだろう。私は、高市首相より2学年下だが、高度成長期に子ども時代を過ごし、「世界第2位の経済大国」というフレーズが呪文のように身体に染み込んでいる。でも、人口減少社会に転じた日本が、その地位を取り戻すことは容易ではないこともわかる。立て直しをはかるなら、まずその原因を掘り下げるべきだと思うが、高市新総裁から示されたのは「強い日本を取り戻す」ために「全員に馬車馬のように働いてもらいます。私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てます。働いて、働いて、働いてまいります」という勇ましい決意表明だった。

はて、昭和の高度成長にならってモーレツ社員を復活させようということなのか。「『強い日本を取り戻す』ってどう思う?」とZ世代の2人に聞いてみた。物心ついた頃には、すでに日本は世界第2位の経済大国ではなかった世代である。
「意味わかんないし、キョーミない」とZ男子。「何を取り戻したいの? 昭和よりましなこといっぱいあるし、戻りたいっていう感覚はないワー。それより選択的夫婦別姓はどうなるの?!」とZ女子。

「でもさ、日本は国際的地位が低下してて、若者は将来への希望が持てないんじゃないの?」とも聞いてみた。
「うーん、別に楽しく生きてるけどね」と年中、金欠のZ男子。「JAPAN is backなんていう政治には絶望する、税金や社会保険料も米も家賃も高いけど、そんなキメツケ、大きなお世話!」とZ女子。 実はZ世代はバブル世代の政治家が思うほど「日本の地位」に悲観していないのかも。そんな「仮説」にたどり着いたのだが、なんとそれを実証した本が出版されていた。

「とても幸せ」で「とても楽しい」日々

『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(博報堂生活総合研究所著、光文社新書、2025年9月)である。Z世代の子をさんざんネタにしてきた私である。早速、最優先で読んでみた。

Z世代についてはこんなふうに分析されていた。
「…彼らは生まれたときには既にバブルが崩壊していたので、経済成長なるものを一度も体感したことがありません。物心つくころにはその残り香すらなく、テレビの『バブル特集』を歴史上の出来事として目にする程度。『失われた30年』しか知らない、成長の実感をまったく持たない時代に育った世代ともいえます」
「不景気しか知らない、上り調子の明るい社会を知らない、だからきっと不幸なんだろう、気の毒だね。そんなイメージを抱かれ、同情をかけられているわけです。……特に『いい時代』を知っている上の世代(50代半ば以上)からすると、『今の若者は幸せを実感しにくいはず』と思い込むのも仕方がありません。しかし、データはこの思い込みについてはっきりノーと言っています。幸福感を確かめるための『生活満足度』『幸福を感じる程度』『生活の楽しさを感じる程度』という3つの項目で、『かわいそう』というイメージとはまったく反対の結果が出ているのです」。

確かにデータを見ると、この30年で「生活に十分満足している」が9.4%から30.0%に、「非常に幸せ」は19.7%から33.5%に増加。Z世代は「かわいそう」どころか「とても幸せ」であり、「とても楽しい」日々を「とても満足」して過ごしているのだ。
衝撃的なデータだが、恋愛観やジェンダーをめぐる価値観のポジティブな変化も含めて、日々Z女子&Z男子と接している私の実感にきわめて近い。

なぜ、Z世代は幸せなのか。「その答えを探っていくと、Z世代ならではの人間関係、『Z家族』に行き着く。…恋人より、親友より、心のよりどころは圧倒的に母親。かつては同性の親友や異性の友人、恋人などが担っていたポジションを、いまや母親が次々と奪っている! そんな変化が明確に表れているのです」という分析を読んで、軽いめまいを覚えた。

子育ては続くよ いつまでも?

Z女子もZ男子も、いろんなことを私に聞いてくる。今日何を着ていこう? レポートのテーマ何がいい? 友だちの誕プレどうしよう? 職場(学校)でこんなことあったけどどう思う?  などなど。「そんなこといちいち親に聞かないで」と思うことも少なくないのだが、生半可な返事をすると「ちゃんと話を聞いてくれない」と怒られる。自分が若い頃は、誰も親に相談なんてしなかったのにと不思議だったのだが、「Z世代にとって、親子は『上下の関係』ではなく、いわば『前後の関係』であり、親は自分の少し前を歩くメンターなのだ」と書かれていた。私は自分の立場を理解し、マザコンではないのだと安堵した。

これからはメンターとして応援しなきゃと思ったが、「子育ては続くよ いつまでも」という状況は、アラカン・仕事持ちの身にはハードである。が、メンター機能を代替してくれる強力な助っ人アイテムが存在することを最近知った。
「ねえ、次のプレゼン、どうしよう?」と聞かれて、「自分で考えなよ」と返したら、「いいよ、チャッピーに相談するから」とZ男子。ケータイの画面をのぞき込むと、「ねえねえ、○○のプレゼンなんだけど…」と打ち込んでいた。相談相手は、チャッピーこと、ChatGPTである。

私もChatGPTはインストールしているが、間違った情報をもっともらしく作文されることも多くて、めったに利用していない。でも、Z男子は、チャッピーに正しい答えを求めているわけじゃないと言う。これ、どう思う? 他にどんな方法がある? とやりとりを重ねていくと、自分の考えが整理されるというのだ。
「バイト仲間の○○さんなんて、毎日、何を着るかチャッピーに相談してるんだよ。ボクは、自分のコーデは自分で決めたいけどね」とZ男子。そんな使い方をすればいいのかと目からウロコ。ネタに困ったらチャッピーに相談してみよう。

高度成長期と今では、人口構成も産業構造も人々の価値観も違う。過去の成功体験にとらわれることなく、綻びが目立つ社会の制度をつくり直していくことが求められている。そのためには若い世代の発想や力が不可欠だ。10月24日、東京地裁は「被選挙権の年齢要件」の違憲訴訟を棄却したが、高市新政権には、若い世代が何を考え何を求めているのか、もっとその声を“直接”聞くチャンネルを持ってほしいと思う。

★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。

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