- (1)食の安定供給と安心・安全の確保は、安心してくらすことができる社会を構築するうえで重要な要素の1つであり、具体的施策を着実に実行する必要がある。しかし、食を取り巻く環境は、国際的には人口増加に伴い食料需要が増大する一方、気候変動や国際情勢により、食料供給が不安定化し、入手が困難になっている。日本国内も人口減少・少子高齢化の進展などにより、農業の担い手の減少・高齢化が進み、食料自給率のさらなる低下が懸念されている。こうした中政府は、第213通常国会において、食料・農業・農村基本法を25年ぶりに改正した。「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民一人一人がこれを入手できる状態」を食料安全保障と定義し、基本理念の柱に位置づけた。
- (2)わが国の食料自給率(熱量ベース)は低下傾向にあり、2010年以降は40%を下回り先進諸国の中では最低水準にある。内訳をみると、輸入に依存している小麦や大豆の国内生産の拡大が自給率を押し上げた一方で、米などの消費量の減少が、食料自給率を押し下げた。政府は食料自給率の数値のみで政策評価することは困難であるとし、2025年春に策定予定の食料・農業・農村基本計画において、改めて食料自給率の要素を分解したうえで、政策にあったKPIを設定し、検証していく必要があるとしている。
- (3)わが国の農業の状況は、就業人口の減少・高齢化が進み、農村の過疎化や農地の荒廃により耕作面積が縮小するなど、生産構造の脆弱化が進行している。食料・農業・農村基本法では、農業を「農業従事者が減少する状況においても、農業の持つ食料の供給機能や多面的機能が発揮され、農業の持続的発展がはかられなければならない」と規定し、農業生産の方向性として、スマート農業の促進などによる「生産性の向上」、6次産業化などによる「付加価値の向上」、生産方式の転換などによる「環境への負荷の低減」の3点が示された。食料・農業・農村基本計画を通じ、農業の持続可能な産業基盤の確立と、競争力のある強い農業の実現が求められている。
- (4)森林は、水源涵養、生物多様性保全、土砂災害防止などの多面的機能を有するほか、二酸化炭素の吸収によりカーボンニュートラルの実現に寄与している。森林を健全で良好な状態に維持するには「植える→育てる→使う」とする森林資源の循環が重要である。しかし、わが国では人工林の約6割が50年生を超えており、大半が「使う」の段階にある。一方で、わが国の林業は丸太販売収入では再造林・保育のコストが賄えない産業構造であるため再造林率は約4割にとどまっており、林業においても適正な価格転嫁が求められる。あわせて、人材の定着に向けて、安全衛生の強化と所得の向上をはかる必要がある。
- (5)わが国の水産業は、水産物の自給による食料安全保障の確保や日本の食文化の保全、漁村の活性化など国民生活において重要な役割を果たしている。現在、水産業においては、持続可能性を維持するため、最大持続可能漁獲量(MSY)(注1)をもとに、資源が枯渇しないように年間の総漁獲可能量(TAC)を設定し、その上限の範囲内で各漁業者に個別漁獲枠(IQ)を割り当てる制度で資源管理が行われている。近年、気候変動により魚の生態系が変化しており、漁獲量に大きな影響を及ぼしている。そのため、顕在化する気候変動による漁業への影響を調査し、漁業の効率化をはかるとともに、より適正な資源管理が行えるようにする必要がある。また、漁業における労働災害発生率は陸上労働者(全業種平均)の5倍であり、安全衛生の向上が求められる。
- (6)農林水産業を持続可能なものとするため、生産性向上と市場規模の拡大に向け競争力・体質強化、地域振興をはかることは喫緊の課題であり、海外でも通用する農業の「農業生産工程管理(GAP)」、林業の「緑の循環認証(SGEC)」、水産業の「水産エコラベル(MEL)」などの「国際認証」取得へ向けた生産者への支援が必要である。「食料・農業・農村基本計画」(2020年3月閣議決定)、「森林・林業基本計画」(2021年6月閣議決定)、「水産基本計画」(2022年4月閣議決定)など基本計画の着実な遂行とともに、相互の連携を強化し、農林水産業の持続可能な産業基盤への再生・発展、成長産業化を早急かつ重点的にはかる必要がある。
- (注1)最大持続可能漁獲量(MSY) ~水産資源が自然に再生できる範囲内で漁獲を行うことにより、資源を枯渇させずに持続的に利用できる最大限の漁獲量