5.くらしの安心・安全の構築(食料・農林水産政策)

食料・農林水産政策<背景と考え方>

  1. (1)食の安定供給と安心・安全の確保は、安心してくらすことができる社会を構築するうえで重要な要素の1つであり、具体的施策を着実に実行する必要がある。しかし、食を取り巻く環境は、国際的には人口増加に伴い食料需要が増大する一方、気候変動や国際情勢により、食料供給が不安定化し、入手が困難になっている。日本国内も人口減少・少子高齢化の進展などにより、農業の担い手の減少・高齢化が進み、食料自給率のさらなる低下が懸念されている。こうした中政府は、第213通常国会において、食料・農業・農村基本法を25年ぶりに改正した。「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、国民一人一人がこれを入手できる状態」を食料安全保障と定義し、基本理念の柱に位置づけた。
  2. (2)わが国の食料自給率(熱量ベース)は低下傾向にあり、2010年以降は40%を下回り先進諸国の中では最低水準にある。内訳をみると、輸入に依存している小麦や大豆の国内生産の拡大が自給率を押し上げた一方で、米などの消費量の減少が、食料自給率を押し下げた。政府は食料自給率の数値のみで政策評価することは困難であるとし、2025年春に策定予定の食料・農業・農村基本計画において、改めて食料自給率の要素を分解したうえで、政策にあったKPIを設定し、検証していく必要があるとしている。
  3. (3)わが国の農業の状況は、就業人口の減少・高齢化が進み、農村の過疎化や農地の荒廃により耕作面積が縮小するなど、生産構造の脆弱化が進行している。食料・農業・農村基本法では、農業を「農業従事者が減少する状況においても、農業の持つ食料の供給機能や多面的機能が発揮され、農業の持続的発展がはかられなければならない」と規定し、農業生産の方向性として、スマート農業の促進などによる「生産性の向上」、6次産業化などによる「付加価値の向上」、生産方式の転換などによる「環境への負荷の低減」の3点が示された。食料・農業・農村基本計画を通じ、農業の持続可能な産業基盤の確立と、競争力のある強い農業の実現が求められている。
  4. (4)森林は、水源涵養、生物多様性保全、土砂災害防止などの多面的機能を有するほか、二酸化炭素の吸収によりカーボンニュートラルの実現に寄与している。森林を健全で良好な状態に維持するには「植える→育てる→使う」とする森林資源の循環が重要である。しかし、わが国では人工林の約6割が50年生を超えており、大半が「使う」の段階にある。一方で、わが国の林業は丸太販売収入では再造林・保育のコストが賄えない産業構造であるため再造林率は約4割にとどまっており、林業においても適正な価格転嫁が求められる。あわせて、人材の定着に向けて、安全衛生の強化と所得の向上をはかる必要がある。
  5. (5)わが国の水産業は、水産物の自給による食料安全保障の確保や日本の食文化の保全、漁村の活性化など国民生活において重要な役割を果たしている。現在、水産業においては、持続可能性を維持するため、最大持続可能漁獲量(MSY)(注1)をもとに、資源が枯渇しないように年間の総漁獲可能量(TAC)を設定し、その上限の範囲内で各漁業者に個別漁獲枠(IQ)を割り当てる制度で資源管理が行われている。近年、気候変動により魚の生態系が変化しており、漁獲量に大きな影響を及ぼしている。そのため、顕在化する気候変動による漁業への影響を調査し、漁業の効率化をはかるとともに、より適正な資源管理が行えるようにする必要がある。また、漁業における労働災害発生率は陸上労働者(全業種平均)の5倍であり、安全衛生の向上が求められる。
  6. (6)農林水産業を持続可能なものとするため、生産性向上と市場規模の拡大に向け競争力・体質強化、地域振興をはかることは喫緊の課題であり、海外でも通用する農業の「農業生産工程管理(GAP)」、林業の「緑の循環認証(SGEC)」、水産業の「水産エコラベル(MEL)」などの「国際認証」取得へ向けた生産者への支援が必要である。「食料・農業・農村基本計画」(2020年3月閣議決定)、「森林・林業基本計画」(2021年6月閣議決定)、「水産基本計画」(2022年4月閣議決定)など基本計画の着実な遂行とともに、相互の連携を強化し、農林水産業の持続可能な産業基盤への再生・発展、成長産業化を早急かつ重点的にはかる必要がある。
  1. (注1)最大持続可能漁獲量(MSY) ~水産資源が自然に再生できる範囲内で漁獲を行うことにより、資源を枯渇させずに持続的に利用できる最大限の漁獲量

1.食料自給力の向上を戦略的に推進し、安定供給体制の維持・充実をはかる。

  1. (1)国・地方自治体は、食料の安定供給に向けて、食料・農業・農村基本法の「国内の農業生産の増大を図ることを基本とし、これと併せて安定的な輸入及び備蓄の確保を図る」との趣旨にもとづき、農業・水産業の持続可能で健全な発展を通じて、食料自給力の向上を戦略的に推進する。あわせて、肥料・飼料をはじめとする生産資材の国内化などによる不測時に強い体制の構築と、安定的で効率的な備蓄・輸入の確保などを着実に進める。
  2. (2)不測時における食料供給困難事態対策法の運用にあたっては、生産転換の要請時に農業者に対し、技術支援、農機具や生産資材の確保などの支援を行い、農業者が協力しやすい生産体制を整備する。
  3. (3)国は、食料システムにおける合理的な価格形成に向けて、生産、加工、流通、販売などの各段階において、コスト上昇分の価格転嫁や付加価値を適正分配する、実効性ある仕組みを構築する。
  4. (4)国・地方自治体は、食料安全保障の確保には国民の理解醸成が不可欠なことを踏まえ、食料システムにおける合理的な価格形成や地産地消・国消国産の推進に資する、食育・消費者教育の取り組みを一層推進する。(「消費者政策」「教育政策」参照
  5. (5)国・地方自治体は、地産地消の推奨など国民運動の展開や、フードチェーンの連携強化などを通じて国産食品の消費拡大を促進する。食料消費は、高齢化や人口減少、ライフスタイルの多様化により食生活および国内市場構造が変化していることから、消費者視点を重視し、介護食品の開発・普及、薬用作物や加工・業務用野菜等の生産、地産地消、食育などを通じ、食品産業の現状を考慮した、きめ細かな新規需要の掘り起こしをはかる。
  6. (6)国は、「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」にもとづき、国産食品の輸出拡大を着実に実施する。(「産業政策」参照)
  7. (7)国・地方自治体は、食品ロス削減を推進すべく、食品関連事業者における消費期限・賞味期限の適切な設定(注2)、流通現場における納入期限・販売期限に関する運用ルール(「三分の一ルール」)の見直しなどを促がす。あわせて、食品ロス削減に向けた国民運動のさらなる推進をはかる。(「消費者政策」参照
  8. (8)国・地方自治体は、食品アクセス問題の解決に向けて、事業者と連携をはかりつつ以下の対策を実施する。

    ①高齢化や人口減少などの影響により食品の入手が困難となっている地域での移動販売や宅配サービスの展開など、事業者などとの連携をはかりつつ対応策を検討・実施する。(「産業政策」「地域活性化政策」「介護・高齢者福祉政策」「交通・運輸政策」参照

    ②フードバンクや子ども食堂などへの食品寄附推進に向けて、公共施設など活動場所の支援や、さらなる備蓄米の活用、寄附した食品に起因する意図しない事故の免責制度や税制優遇など企業の食品寄附を後押しする制度などについて検討する。

  9. (9)国は、輸入相手国のリスク分散や輸入相手国への投資の促進を着実に実施し、食品、原材料、生産資材などの輸入を安定的に確保する。あわせて、遠洋漁業水域における漁場確保に資する施策を推進する。
  1. (注2)消費期限・賞味期限の適切な設定 ~消費期限・賞味期限は理化学試験・微生物試験などを踏まえた客観的指標に、食品の特性に応じた1未満の「安全係数」をかけて設定される。食品ロス削減の観点から、安全係数は0.8以上を目安に設定することが望ましいとされるが、実際に0.8以上で設定している事業者は20.5%にとどまる(令和3年度食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム賞味期限に関する実態調査)。

2.科学的根拠にもとづく国際的な枠組み原則(リスクアナリシス)に則り食の安全を確保し、安心して食生活を営める環境を整備する。

  1. (1)国・地方自治体は、消費者基本法と基本計画をふまえ、科学的根拠にもとづく国際的な枠組みによるリスク分析を行い、生産地から食卓にわたる食品の安全(注3)性の確保・品質管理の徹底をはかるとともに、消費者に対する適切な情報提供を行う。

    ①国は、輸入食品の安全確保に向けて、わが国の食品衛生基準にもとづく輸出国の責任による衛生対策と検査実施を原則とし、検疫所などにおける国内の監視・検査の強化をはかる。

    ②国・地方自治体は、食品や動植物に残留する農薬や農薬の植物代謝物および分解物について、ポジティブリスト制度の確実な実施を通じ、安全性の確保をはかる。

    ③国・地方自治体は、食品の安全性向上へ向け、食品中の化学物質および微生物、ゲノム編集など育種の安全性に関する課題に関し、適切な規制値の設定ならびに見直しを行う。また、重金属・環境汚染物質に関する調査と消費者に対する情報提供・摂食指導など、リスク低減のための対策を着実に実施する。あわせて、健康への懸念が示唆される物質については、予防的取り組み方法にもとづき、その情報を公開する。

    ④国・地方自治体は、畜産物の安全確保に関する調査・研究の強化および規制・流通管理の徹底を通じ、伝染病被害の拡大防止などの対策を強化する。ワクチン接種などの防疫対策の際には、国と地方自治体、隣接する地方自治体同士の連携体制を迅速に構築し、対応を行う地方自治体へ速やかな支援を行う。

  1. (注3)食の安全 ~食品には「絶対安全」はないということを前提としつつ、内閣府消費者庁・食品安全委員会、農林水産省、厚生労働省が地方自治体と連携し、産地から食卓までのそれぞれの段階で「どのようなリスクが存在するか」、「そのリスクを抑えるためにどのような対策が必要か」を検討したうえで、生産・流通企業の自主的な安全対策も加え、総合的なリスク管理を行っている。ただし、「安全」は科学的根拠により示されるが、「安心」は個々人の判断にゆだねられている。

3.農山漁村発イノベーションなどを通じて農林水産業の成長産業化と地域の活性化をはかるとともに、農山漁村の多面的機能のさらなる発揮を促進する。

  1. (1)国・地方自治体は「農山漁村発イノベーション」などを通じて農山漁村の発展をはかり、農林水産業の成長産業化と地域の活性化を重点的かつ戦略的に推進する。

    ①国・地方自治体は、農山漁村発イノベーションなど6次産業化に取り組む従事者・事業体に対する起業や経営の安定化に関する支援の充実をはかる。地方自治体は、自らが核となり6次産業化推進協議会を設置農林水産物などの地域の資源と地域金融機関の資金を活用して業を起こし、地域の雇用創出と経済成長をはかる。また、学校給食での地域食材の活用や、観光需要向けの直売所の活性化など、地域ぐるみの取り組みを支援する。

    ②国・地方自治体は、「6次産業化プランナー(注4)」の活用促進、「6次産業化プロデューサー(注5)」の育成を通じ、農水産物・加工食品などのブランド化や販路拡大など、農林水産漁業者が6次産業化を進めるにあたっての支援を着実に実施する。

    ③国・地方自治体は、個別相談や流通業者などとの商談会や情報発信の強化を通じて、6次産業化に関する施策の普及、生産者の意識啓発をはかる。

    ④国・地方自治体は、農山漁村の地域資源を活用し、農林水産業の健全な発展と調和の取れた再生可能エネルギーにかかる取り組みの拡大・深化をはかり、持続可能な自立・分散型エネルギーシステムを構築する。「資源・エネルギー政策」参照)

  2. (2)国・地方自治体は、国土保全、地球環境保全、生物多様性に重要な里地里山保全、歴史や伝統ある棚田や疎水などの美しい景観の保全・復元、文化の伝承など、農山漁村・農林水産業の多面的機能のさらなる発揮を促進する。
  3. (3)国・地方自治体は、中山間地域の活性化と国土の均衡ある発展、環境と景観の保全、都市と農山漁村の交流の推進のため、Iターン、Jターン、Uターンなどにより地方で生活したい人のための定住環境を確保し、地域コミュニティを活性化する。
  4. (4)国・地方自治体は、農泊や二地域居住の推進などを通じ、将来的な移住や地域の担い手につながり得る関係人口(注6)の創出をはかる。
  5. (5)国・地方自治体は、鳥獣害被害への対策として、捕獲従事者を確保のもと、生息頭数目標の達成に向けた施策を推進する。また、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉(ジビエ)などへの有効利用をはかる。
  1. (注4)6次産業化プランナー ~各都道府県の6次産業化サポートセンターに配置され、6次産業化に取り組む農林漁業者などの相談に応じ、アドバイスを行う。
  2. (注5)6次産業化プロデューサー ~食の6次産業化を担う人材として、農林水産業者や食品産業、小売業、行政などで働く人が認定制度を通じて認定される。
  3. (注6)関係人口 ~観光などに来た「交流人口」以上、移住した「定住人口」未満の、地域と多様に関わる人々。地域外の人材として、地域づくりの担い手となることが期待されている

4.2025年に策定予定の「食料・農業・農村基本計画」について、農業の持続可能な産業基盤を確立するとともに、戦略的に競争力のある強い農業を実現するものとする。

  1. (1)国は、農業の担い手を確保すべく、農業従事者の所得の確保をはかり、環境変化に適応しつつ安定した生産活動が維持できる経営基盤の再生および体質強化をはかる。

    ①農作物の生産コストなどを踏まえた「合理的な価格形成」や、生産性向上、6次産業化の推進などを通じ、競争力のある強い農業の確立をはかる。

    ②農業生産による所得とあわせ、経営所得安定対策(注7)や、多面的機能に着目した日本型直接支払制度(注8)などにより、持続可能な農業に向けて再生産可能な所得を確保できているか検証し、必要に応じ、意欲ある農業従事者が報われ生産性向上に資する観点、食料安全保障や多面的機能の発揮の観点のもと、制度の見直しを行う。

    ③国産酪農・畜産物の安定供給と経営の安定を確保していくための所得補償制度については、国が産業の実情を踏まえつつ、その導入について検討する。

  2.  (2)国・地方自治体は、農業への新規参入や新規就農を促進するための支援・環境整備を充実し、持続可能な産業基盤の確立と成長産業化に資する担い手の育成・確保を重点的にはかる。

    ①次代を担う新規就農者に対しては、国・地方自治体が経営・技術、資金、農地に対応する財政面・実務面における支援制度の維持・充実をはかり、幅広い多様な担い手・就農者を確保する。

    ②国・地方自治体は、集落・地域の農業従事者の合意を前提に企業の農業参入をはかるとともに、法人雇用による就農の拡大、大規模家族経営や集落営農や経営の法人化など、多様な農業生産組織による担い手を育成・支援し、地域の再生および新規雇用の創出をはかる。

    ③国・地方自治体は、酪農・畜産業をはじめとする雇用就農者の労働負担の軽減など、労働条件・労働環境の整備・改善への支援をはかり、担い手の確保・定着につとめる。

  3. (3)国・地方自治体は、農地の確保および生産性向上の観点から、耕作面積の維持・拡大および農地の有効利用をはかる。

    ①国・地方自治体は、「農地法(農地を所有できる法人の要件)」のあり方を検証し、転用規制による農地の確保を前提に、農地の取得に関する諸規制の緩和をはかる。

    ②国・地方自治体は、地方自治体が地域計画を適正に策定・運用できる体制を整備し、集落・地域単位で合意形成をはかりつつ地域農業のあり方を明確化し、中心となる経営体を特定したうえで農地集積を進める。

    ③荒廃農地の発生防止・解消に向けて、地域計画の策定・実施、農地バンクの活用などにより農地集積と担い手の確保を進めるとともに、荒廃農地の解消に向けた各種事業を着実に実施する。

    ④条件不利地域に対しては、国・地方自治体が多面的機能の発揮を推進する見地に立って、総合的な政策を策定・実施する。

  4. (4)国・地方自治体は、農業における生産性向上に向け、さらなる品種改良やスマート農業をはじめとする省力化の推進について、研究開発を推進する。また、スマート農業機械などの維持費についても支援策を講じるとともに、リースやサービス事業体の活用などを通じ、普及促進をはかる。
  5. (5)国・地方自治体は、有機農業をはじめとする農業における環境負荷低減の取り組みを推進する。

    ①有機農業や地産地消の農産物など、生産時・輸送時の環境への負荷低減が価値として認められるよう、消費者教育などの取り組みを進める。

    ②有機農業に関する技術的支援を行い、人材の確保・育成をはかる。

    ③有機農業への転換に向けた支援については、有機JAS認証(注9)を取得するためには播種または植付け前から2年以上の転換期間を要することを踏まえた支援を行う。

    ④ほ場の団地化に向けた計画策定・調整や、食育や販路確保につながる農産物の学校給食での活用など、地域ぐるみの取り組みを推進する。

  6. (6)国は、自由貿易協定への対応について、「食の安全保障」と食の安心・安全の確保、農林水産および関連産業への影響などを回避するため、万全の体制で保護・支援する。
  7. (7)食の安心・安全の確保、競争力のある農業に向けて地方自治体は、国民共有の財産である種子・種苗を守り、良質で安価な主要農産物種子の安定供給をするための種子条例の制定を推進する。(「産業政策」参照
  1. (注7)経営所得安定対策 ~諸外国との生産条件の格差から生ずる不利を補正する交付金(ゲタ対策)や、農業経営のセーフティネットとして、当年産の収入が減少した場合に、その減少額を補てんする交付金(ナラシ対策)、戦略作物の本作化や水田の畑地化を推進する水田活用の直接支払交付金など、政府による交付金などを通じた農業者の経営所得安定対策が実施されている。
  2. (注8)日本型直接支払制度 農業の多面的機能の維持・発揮のための地域活動や営農活動に対する支援として、水路や農道の維持などの「多面的機能支払」、傾斜地など条件不利地における「中山間地域等直接支払」、緑肥・堆肥の活用などの「環境保全型農業直接支払」の3種の直接支払からなる制度。
  3. (注9)有機JAS認証 「有機野菜」「オーガニック」などの名称表示ができる認証制度。栽培を開始する2年以上前から圃場に禁止された農薬・化学肥料を使用していないことなどが取得要件。

5.「森林・林業基本計画」を着実に実行し、林業の持続可能な産業基盤を確立するとともに、森林資源を循環利用する新たな仕組みを構築する。

  1. (1)国・地方自治体は、林業事業体(森林組合・林業会社など)の育成を通じ、林業従事者の所得確保ならびに持続的かつ安定的な森林経営の確立をはかる。

    ①国は、植え付けや間伐、路網整備など森林を育成し健全な状態に保つべく、「森林整備事業」を着実に実施する。

    ②国は、路網整備の推進や技術活用、作業の省力化などによる生産性向上の施策を着実に実施するとともに、国産材の活用推進や適正な価格転嫁の促進による収益の確保を通じ、持続的かつ安定的な森林経営の確立をはかる。

    ③国・地方自治体は、農山漁村発イノベーションの推進や木質バイオマス発電など地域資源を活用した再生可能エネルギーの活用を通じ、山村などにおける就業機会の創出と所得水準の上昇をはかる。(「環境政策」「地域活性化政策」参照

  2. (2)国・地方自治体は、木材自給率の向上ならびに森林資源の適正な循環、二酸化炭素の固定に向けて、国産材の利用促進をはかる。

    ①国・地方自治体は、木材活用の推進に向けて、木づかい運動など国民運動の推進をはかるとともに、CLT(注10)や木質耐火部材(注11)などの技術開発・普及を着実に推進する。

    ②国は、合法伐採木材等の流通・利用を促進する「クリーンウッド法」について、事業者の負担を踏まえたうえで、違法伐採木材の流通を規制する内容への改正を検討する。さらに、木材生産国などにおける違法伐採に係わる情報収集など監視を強化する。

  3. (3)国・地方自治体は、「緑の雇用」事業(注12)などを通じ、段階的かつ体系的な林業人材の確保・育成を推進する。
  4. (4)林業労働力の確保と定着に向けて、全産業平均と比べても高位にある労働災害について、安全衛生関連のガイドラインの周知や、「緑の雇用」における安全向上対策費の拡充などを通じて防止対策の強化をはかる。あわせて、所得を含めた労働条件の向上などの取り組みを推進する。(「雇用・労働政策」参照
  5. (5)国・地方自治体は、森林管理経営制度(注13)の運用などを通じ、条件不利地域をはじめとする林業経営に適さない森林については公的な管理を促進する。
  6. (6)国・地方自治体は、森林所有者・境界の特定といった課題へ適確に対応し、施業集約化を効率的に進める。あわせて、所有者不明森林の発生を防ぐため、相続などによる権利取得の届出義務の周知をはかる。
  7. (7)国は、市町村の林業施策の推進に向けて、「フォレスター(注14)」の育成・活用の着実な実施、「地域林政アドバイザー(注15)」の活用などに向けた支援の強化をはかる。
  8. (8)国は、森林環境譲与税について、森林整備に費用を要する地方自治体への支援を拡充するよう、さらなる譲与基準の見直しを進める。
  9. (9)国・地方自治体は、森林管理にかかる競争入札において、地元雇用の安定的確保を通じた山村地域の活性化をはかるべく、地域の事業体が優先的・安定的に事業を受注できる方式への変更、植栽以降の森林管理も視野に入れた複数年契約の導入、林業の特殊性を踏まえた労務単価の設定など入札制度の改善を行う。(「産業政策」参照)
  10. (10)国・地方自治体は、適正な森林管理を促進する観点から、外国資本による山林買収の適切な規制について検討する。
  11. (11)国は、花粉症発生源対策である「スギ伐採加速化計画」を、スギ材の伐採を通じた供給増による木材市場への影響を考慮したうえで、着実に実施する。
  12. (12)国・地方自治体は、森林生態系の不確実性をふまえた順応的管理の観点から、その土地固有の自然条件などに適した様々な生育段階や樹種から構成される森林となるよう、生物の生息環境に配慮した森林管理を行う。
  1. (注10)CLT ~ひき板を繊維方向が直交するように積層接着したパネル。欧米を中心に、壁や床、階段等に活用した中高層を含む木造建築物が建てられており、わが国においては「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」のもとで「CLTの普及に向けた新たなロードマップ~需要の一層の拡大を目指して~」が取りまとめられ、政府を挙げてCLTの普及に取り組んでいる。
  2. (注11)木質耐火部材 ~林野庁において、国産材活用に向けた製品・技術の開発・普及の取り組みを進めている。木材を石膏(こう)ボードで被覆したものや、モルタル等の燃え止まり層を備えたもの、鉄骨を木材で被覆したものなどがある。
  3. (注12)緑の雇用事業 ~「林業労働力の確保の促進に関する法律」にもとづき都道府県知事の認定を受けた林業事業体に対し、新規就業者を雇用して行う研修などに必要な経費を支援する。「トライアル雇用研修」などによる新規就業者の就業支援対策、「林業作業士(フォレストワーカー)研修」による新規就業者の育成対策、「現場管理責任者(フォレストリーダー)研修」、「統括現場管理責任者(フォレストマネージャー)研修」などによる現場技能者キャリアアップ対策で構成される。
  4. (注13)森林管理経営制度 ~森林所有者自らでは森林の経営管理を行うことができない場合に、市町村が森林所有者から経営管理を受託し、林業経営に適した森林は地域の民間事業者に再委託するとともに、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理する仕組み。
  5. (注14)フォレスター 森林総合管理士。市町村森林整備計画の作成・実行や森林経営計画の認定など、市町村に対の森林・林業行政について、技術的な指導・支援を行う。都道府県や国有林の職員が多くを占める。
  6. (注15)地域林政アドバイザー 森林・林業分野における市町村が担う役割は増加する中、人員体制が不十分な実態を受けて創設。技術者を雇用(または技術者が所属する法人などに委託)し、市町村の森林・林業行政に携わる。経費については特別交付税措置の対象(措置率0.7、上限額350万円)だが、2022年度時点で204市町村・アドバイザー数307人にとどまる。

6.「水産基本計画」を着実に実行し、水産業の持続可能な産業基盤の確立と、水産資源の維持管理強化ならびに水産食料の安定供給確保をはかる。

  1. (1)国・地方自治体は、既存の新規漁業就業者総合支援事業に加えて、漁船取得など初期投資に対する支援、新規就業後の継続的技術指導などの支援を拡充し、雇用機会の拡大と雇用のミスマッチ解消をはかる。また、漁業における労働条件および安全操業も含めた安全衛生管理体制の整備を推進し、雇用管理の改善につとめる。
  2. (2)国・地方自治体は、計画的に資源管理に取り組む漁業者を対象とする漁業共済・積立プラスの加入率向上ならびに漁獲金額の減少による損失補填水準の引き上げ、漁業経営セーフティーネット構築事業における積立への新規加入者の拡大を支援し、漁業従事者の所得確保ならびに持続的かつ安定的な漁業経営の確立をはかる。
  3. (3)国・地方自治体は、人為的要因以外の資源変動や地域特性に応じて、各地域がめざす地方創生に資する沿岸漁村を構築する。また、水産資源の維持管理強化、水産食料の安定供給の確保、水産物の管理拡大へ向けて、漁業者と企業経営体とが協調できる体制を構築する。

    ①国は、水産資源量の正確な把握や各魚種の生態、気候変動が漁業に与える影響などについて調査を推進し、適正な水産資源管理を行う。漁獲量の個別割当(IQ)については、現行の漁獲実績にもとづく配分を見直し、公平性の向上をはかる。また、違反操業に対する防止対策と監視・防止体制を強化する。

    ②国・地方自治体は、環境保全、森林整備、河川の生態系に配慮した改修、水質汚染の回避および削減に努め、河川、湖沼、沿岸における水産資源の保護・回復策を推進する。(「環境政策」参照)

    ③わが国の周辺水域については、国・地方自治体が周辺国・地域との連携を強化し、適切な漁業関係を構築する。あわせて、IUU(違法、無報告、無規制)漁業の取締りを強化するとともに、操業の国際取り決めを遵守する。また国は、韓国、中国、台湾などの漁船に対する漁獲割当量および許可隻数の遵守を徹底するとともに、漁業協定にもとづく暫定水域などを含め適切な資源管理を推進する。

    ④国は、国連海洋条約のもとで再開した商業捕鯨について、科学的根拠を示しつつ鯨類を含む海洋生物資源の持続可能な利用に関する国際的な理解を進める。

  4. (4)国・地方自治体は、海難事故の発生率が高い漁業従事者への安全対策として、海上保安庁の装備・人員の拡充とともに、AIS(注16)導入の促進、MICS(注17)の活用、海中転落時の自動通報システムの普及促進、ライフジャケット着用などの安全確保の徹底に向けた周知・広報などを行う。
  5. (5)国は、日本を含めたアジア諸国が未批准である漁船安全条約議定書(トレモリノス条約)の発効に向けたケープタウン新協定(注18)の採択にもとづき、わが国の批准に向けた国内法令化の検討を進める。
  1. (注16)AIS ~Automatic Identification System:沿岸海域では入出港の連絡、船位通報、航行の安全、遭難通信、外洋では船舶相互間通信に使用する無線を利用した自動船舶識別装置。
  2. (注17)MICS ~Maritime Information and Communication System:海上保安庁が漁船等の船舶運航者やプレジャーボート、磯釣り、マリンレジャー愛好者に対して、漁業活動の状況、船舶の動静、気象警報・注意報、航路標識消灯など海の安全に関する情報を提供する沿岸域情報提供システム。
  3. (注18)ケープタウン新協定 ~トレモリノス条約の発効ができていない現状をふまえ、国際海事機関(IMO)は2012年、漁船の長さをトン数で読み替え(長さ24m総トン数300トン以上)、自国の排他的経済水域及び共同漁業規制水域は適用除外できるなど、アジアの実態に配慮したケープタウン新協定を採択した。

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