暑中お見舞い申し上げます。
今年の梅雨は比較的過ごしやすい日が続いたが、梅雨が明ければ一気に「猛暑の夏」になりそうだ。2026夏クールの新ドラマも続々スタートしているが、すべてをフォローできずにいる。ドラマの数が多すぎることに加え、今春、家庭内Z世代男子(以下、Z男子)に懇願されNetflixに加入したことも一因だ。Netflix独占配信となったWBC(WORLD BASEBALL CLASSIC)2026を視聴するためだったが、侍ジャパンは決勝リーグ初戦でまさかの敗退。不完全燃焼のZ男子から「すぐに解約して」と言われたのだが、ずっと見たかった韓国ドラマ『愛の不時着』をイッキ見したら期待以上の名作。その後も、次々と話題の独占配信ドラマをオススメされてはイッキ見してしまい、いまだ解約できずにいる。
すごろくの上がりは「奥様」
そんな訳で、目下、地上波でリアル視聴しているのは、NHKの朝ドラ『風、薫る』だけだ。番組公式サイトでは「当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う ― 明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな二人のナースの冒険物語」と紹介されている。
W主演のヒロイン、りん(見上愛さん)と直美(上坂樹里さん)は、日本で初めての「トレインドナース(Trained Nurse)」として専門的な訓練を受け、看護師という職業を確立していった先駆者だ。フローレンス・ナイチンゲールが確立した近代看護とは何かという問いを縦糸としながら、明治という時代の女性の生き方を横糸として編み込み、ドラマは進行している。
物語がスタートしたばかりの頃、りんとその妹が楽しげに遊んでいたのは「江戸娘一代双六」。上がりは「奥様」(=結婚)だった。りんの父は小藩の筆頭家老だったが、御一新後は百姓に転身。晴耕雨読の穏やかな生活を送っていたが、コロリ(コレラ)で急死し、りんは家族の生活を支えるために裕福な商家に嫁ぐ。娘に恵まれるが、周囲からは早く跡取り(男子)をと責められ、夫からは「女は出しゃばるな、女に教育なんて必要ない」と罵られる日々。ついに耐え切れず、幼い娘を連れて出奔する。この時のシーンにもすごろくが登場するのだが、明治版「新双六淑女鑑」の上がりは「鹿鳴館の貴婦人」で、医師や音楽家、新聞記者などの職業婦人も描かれていた。結婚以外にも女性が生きる道はあるはずだと励まされたのだろう。シングルマザーとなったりんが選んだのは、再婚ではなく、トレインドナースになることだった。

自分の力で生きることは諦めたくない
ナイチンゲールに直接教えを受けた英国人のバーンズ先生を迎えて開設された梅岡女学校付属看護婦養成所の1期生は、りんと直美を含めて7人。それぞれの背景がていねいに描かれたが、印象深いのは最年長の喜代(菊池亜希子さん)の選択だった。
実習先の病院で、喜代は、診察の間、患者の子どもを預かり世話をしていた。それを見た看病婦のツヤ(東野絢香さん)が「仕事が増えるんで、患者の子ども預かるのやめてくれませんか?」と咎めると、喜代は「子どもの相手って、思ったよりも大変ですよね。私ね、子どもができなくて離縁されたんです。だから子どもの扱いに慣れてなくて……。離縁して実家に戻ったんですけど、兄が家を継いでいるものだから、居場所がなくて……。それで家を出て看護婦養成所に入ったんだけど、まさか病院で子守りをすることになるなんて……」と打ち明けた。
のちにツヤも子どもができなくて離縁され、看病婦になったことがわかるのだが、「最初はね、赤ん坊を見るのもつらかったけど……だんだん楽しくなってきてます」という喜代の言葉に心動かされたツヤは、自身も看護婦になりたいと勉強を始めることに。喜代は、養成所卒業後伝道師となり、ツヤも過労で看護の勉強を中断せざるを得なくなったが、「子なきは去れ」と言われた時代、看護婦という職業は、「結婚=生活保障」とは別の、新たな選択肢として確立されていった面もあったのではないかと思う。
さて、7月13日からの第16週では、担当患者の死を受けとめきれず、看護の仕事ができなくなったりんが、再婚するか、新潟で舎監の仕事に就くかの選択を迫られ、「自分の力で生きることは諦めたくない」と新潟へ向かうという展開になっている。
りんと直美にトレインドナースになることを勧めたのは、鹿鳴館の貴婦人である大山捨松(多部未華子さん)。新潟行きを決めたりんに「女の新しい職業、女教師や女医は男の人たちがつくった道。男だけの世界が女にも開かれたものです。おそらくこれから西洋のように様々な男の人の職業に女の人が就くことになるでしょう。けれど、看護婦は少し違います。この国ではまだ確立されていない看護という仕事を女であるあなたたちが見たこともないまま形づくってきたものなのです。まずは同じ職場の医師に理解を得るだけでも努力がいったはず。りんさんも直美さんも私に苦労は語りませんが、容易ならざる道に引き込んだ自覚は私にもあります。そんなりんさんの姿そのものが女学生たちにとっては何よりの手本になるはずです。期待しています」という言葉をかける。女性たち自身がどんなふうに看護という仕事を確立していくのか、これからの展開が楽しみだ。
平安貴族の権力闘争
さて、りんを演じる見上愛さんは、表情豊かで笑顔も泣き顔も素敵だが、2024年の大河ドラマ『光る君へ』(大石静脚本、吉高由里子主演)での藤原彰子役の繊細な演技も印象に残っている。大石静さんの脚本は秀逸で、藤原道長と紫式部・まひろの運命的な出会い、同じ物書きである清少納言との友情など、心に残るシーンがいくつもあるが、いちばん衝撃を受けたのは、道長の兄である関白・藤原道隆(井浦新さん)が、一条天皇の中宮となった娘の定子(高畑充希さん)に「早く皇子を産め! 皇子を産め! 皇子を産め!」と叫ぶシーンだ。聡明な定子は一条天皇の寵愛を受けていたが、子どもはまだいなかった。平安貴族にとって娘は出世の道具。娘を天皇に嫁がせ、その子が天皇になれば、自らの地位は盤石になると…。道隆の死後、定子は皇子を産むが、皇太子の地位を得たのは、その後に一条天皇の2人目の中宮となった道長の娘・彰子が産んだ皇子であり、道長は「この世をば 我が世とぞ思ふ望月の 欠けたることも なしと思へば」という歌を残すことになる。
そんな権力闘争の渦中にありながらも、彰子は、まひろに出会い、自分の意思を持った愛情深い女性へと成長していく。その様を見上愛さんは見事に演じ切っていた。

デリカシーなさすぎ
「男子を産め」と言われたり、「子なきは去れ」と言われたりする時代は、遠い過去のものだと思っていたのだが、そうでもないらしい。
6月28日、中曽根弘文参議院議員が講演で「愛子さまが天皇になったら、結婚する人もいない。愛子さまが天皇になった場合には男子を産まないといけないという、すごいプレッシャーがある」などと発言したと聞いて、耳を疑った。元家庭内Z世代女子からは「デリカシーなさすぎ。おんなじ空気吸いたくない」とのコメントがきた。
終盤国会の焦点は皇室典範改正となっている。現行制度では、女性皇族は結婚すると皇族を離脱することになっているが、今回の改正の柱は、女性皇族が結婚後も皇族に残れるようにすることだと思っていた。ところが、提出された法案には、旧宮家の男系男子を養子縁組で皇族に迎える案が追加され、しかも、女性皇族が皇族に残ることになっても、その配偶者や子どもは皇族としないという立て付けになっているという。
その根幹にあるのは、「男系主義」だ。戦前の家族制度がそうであったことはよく知られているが、実は戦後も国籍法には「男系(父系)主義」が残された。父が外国人、母が日本人の場合、その子は父の国籍となり、日本国籍は取得できないという状況が1980年代半ばまで続いたのだ。これは、国連女性差別撤廃条約に照らして女性差別に当たるとして指摘され、条約批准にあたって1985年に父母両系主義に改められた。Z女子やZ男子が日本人として日本で暮らせているのも、外国人父を持つスポーツ選手が日本代表チームで活躍できているのも、女性差別撤廃条約のおかげである。
それでもなお、ジェンダー平等とは相いれない世界があるというのだが、それがいまだに「皇子を産め」というプレッシャーにつながり、当事者に心の痛みを強いるとわかっているのなら、その呪縛を解くことを考えてもいいのではないか。そんなことを考える夏の夜である。
★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。
