連載：クミジョ・ファイル
［正真正銘のパートナーシップづくりに挑む］（3）

連合は2024年10月、「203050（2030年に女性参画50％）」を最終目標とする「ジェンダー平等推進計画」フェーズ2をスタートさせた。フェーズ1では、5つの目標のうち「女性役員を選出」した構成組織は3分の2にとどまり、さらなる取り組み強化が求められているという現状にある。
なぜ、労働組合のジェンダー平等参画は思うように進まないのか。
30年以上労組と付き合い、150人超のクミジョ※¹にインタビューしてきた本田一成 武庫川女子大学経営学部教授は、「クミジョとクミダンが見事にすれ違っている」と指摘する。そこで、これまでの研究や交流をもとに、「本音を語りたくても語れない」と思い悩むクミジョと「クミジョが増えない」と困惑するクミダンの間をつなぐメッセンジャーとして、本田先生に一肌脱いでいただくことにした。真のパートナーシップを築くのは、今しかない！（連載6回）

1. クミジョ：労働界でがんばる女性（労働組合や関係団体の役員、職員、組織内議員など）の総称 ↩︎

現場が腑に落ちていなければ

クミジョが出現して増えるほどに、心穏やかではないクミダンが増える。クミジョの増強を決めた中央や本部から指示されても、現場のクミダンが腑に落ちていなければ、そのしわ寄せは結局クミジョに向かう。もし中央や本部に半信半疑なクミダンがいるなら、アクセルとブレーキを同時に踏んでいることになるから、混乱するのは当然である。
多くのクミジョが、女性だったら役員になれるのか、下駄を履かせてもらっているって自覚している？ などの言葉を耳にする。女性はいいよな、と面と向かって言われたクミジョが、じゃああなたが代わりにどうですか、私はいつでも降りますよ、と言うと口を閉ざすクミダン。いくつかのハードルを乗り越えて腹をくくっているクミジョにとっては、めんどくさっな存在だ。

めんどくさっ、では済まされない

機関会議で、決して女性だから選ばれたということにならないように、と意見が出されたり、とっくに引退しているOBから、へええ女性が役員をやる時代なのか、と驚かれたりするのも、めんどくさっ。無理矢理連れてこられたのに歓迎されない。そこはうそでもいいから、よろしくお願いします、だろう。
ああだから、いるだけでいいよ、そんなに無理しなくていいから、から、組合員のために24時間対応しろ、退路を絶て、まで、なぜクミダンたちの対応がブレるのか、後になって納得できる。

部下のクミダンと他組織に行くとクミダンの方が上司だと勘違いされたり、電話を受けたのが女性だとわかると、今誰かいないの？とか、オレが誰だかわかる？（わかるか！）、と言われたりする。クミダンと同席して協議している会社側の男性がクミダンとばかり話しているのを体験すると、めんどくさっ、では済まないことに気づく。要するに、一人前として扱われていないのだと、クミジョは思い知る。

女にしとくのはもったいない？

それを改められる組織能力がない労働組合は、口では女性参画推進だと言っても、やっぱり男性型組織の流儀を続けたいわけである。
目標数値の達成のため、アリバイづくりのために、手当たり次第に声をかけてクミジョをこしらえているにすぎない。ただし、やってみろよ、と挑まれ、やってやるよ、と成り上がるクミジョは、女にしとくのはもったいない、と仲間にして優遇する。それができるクミジョは生き残り（そこから別の苦悩が始まる）、できないクミジョ、やりたくもないクミジョは、巻き込まれたあげく選別されていく。
これは、「機会の平等」であって「結果の平等」ではない。「男女雇用機会均等法」制定（1985年）の時に、それをよしとする男性の意見に押し切られた昭和の残像が、連帯、仲間、一枚岩、全員野球と言われる令和の労組に持ち込まれている。
日本の女性運動に大きな影響を与えた田中美津氏を描いたドキュメンタリー映画『この星は、私の星じゃない』（古峯美和監督、2019年公開）が好きだというクミジョは多い。ジェンダー平等と言ったって、日本は何も変わっていない。実に働きにくい。それなら、ここはあえて居る場所ではないのだろうと、思う。
何とか正気を保ちながら仕事を続けていると、「クミジョを登用しろと言われても、そのクミジョにやる気がない、能力も上昇志向もない。だから、登用できない」などというクミダンの声が聞こえてくる。実にめんどくさいのだ。

夜の「黒」と早朝の「青」

どうしてクミジョは増えないのですか？ とたずねると、労組がブラックだからです、とストレートに言い放つクミジョは少なくない。でもクミジョを続けていますよね、とかぶせると、「うーん」と考え込んでいる。このうーん、の後がポイントなのである。
その前に、労組のどこがブラックなのか？（労働界ではよく知られていても、国民はそんなこと知らないので、念のため）。
まず、何と言っても労働時間が長い。仕事量が多い。オフィスにいれば、終電近くになるのはザラだし、出張が多くスケジュールもタイトである。連続勤務だらけで休日は少なく、しかも労組の活動が集中する土日祝祭日がつぶれる。さらにどの活動にも飲み会とゴルフがつきもので、夜の「黒」と早朝の「青」の二色の空で目がチカチカして何だか体調が……。

だからと言って、残業や深夜・休日勤務の手当がつくわけではない。精勤や成果で賃金や一時金が変わるわけでもない。役職手当1本の「コミコミプラン」だ。役員の人数と仕事量が見合っていないし、労働に見合う報酬でもない。
要するにマネジメントが脆弱な組織なのである。それを指摘するとよく、労組にマネジメントなんか要らない、と言われる。だが、みんなのための組織が、そこで働く人たちにとって、ブラックな組織であっていいのだろうか。

しょうがないよ、で押し切られ

これは専従者だけに該当する話ではない。非専従で職場や支部の活動を続けていたが、会社の仕事との板挟みになって、過労で心身の危険を感じ、逃げるために専従になったというウソみたいなホントの話をしてくれたクミジョがいる。労組がブラックであるのは、しょうがないのか、それとも改めようと思えばできるものなのか。判別に苦しむ。
また、サービス産業では、非正社員の役員がいる労組がある。労組でも、職場の時給で換算された賃金で働いている。この仕事量でそれじゃあんまりだ、と不満を言ったクミジョがいるが、しょうがないよ、で押し切られた。コミコミプランだ。
本来ならそんな労組で働くのは嫌だが（とっくに悪評が広まっている）、それを口にするのは憚られる。誰もそんな不満を口にしないし、だいたいその機会も時間もない。口では、残業はよくない、早く帰れ、休め、と言われても、上司が誰よりも遅くまでオフィスにいて、休みもとらないから空々しい。

ブラック許容度の問題

さて「うーん」の後の話である。私の問いかけで、改めていろいろなことに気づいたというクミジョがいた。労組に得体のしれない疑念があったのは、ブラックであることを変えない、変えようとしないことに引っかかっていたんだ。働きやすさへの取り組み方だったのか、と。
クミジョが、未婚、既婚子どもなしと子どもが大きくなったシングルマザー、既婚子どもありの順に少なくなるのはブラック許容度の問題だったんだ（そういえばクミダンの妻は専業主婦が多く、「かあちゃん」の話も多い）。身を粉にして働いているから、飲み会やタクシー券やゴルフも多少は目をつぶってほしいんだ。そんな働き方ができて、それに耐えて選抜されたのがクミダンのリーダーたちなんだ。
私はそれを聞いていて、別のことを考えていた。「会社人間が会社を滅ぼす」というマネジメントの格言があるが、さて「労組人間」はどうなんだろう？

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