地域で働く人を支える「縁の下の力持ち」、地方連合会の取り組みを紹介する本シリーズ。9回目は男女の出会いをサポートする「恋コン(レンコン)」を開いている連合栃木をご紹介します。労働組合が婚活支援に乗り出した理由とは?そして、ここでの出会いは実を結んでいるのでしょうか。

左から児玉浩一事務局長、中島一実会長、宮坂孝副事務局長
家庭持って地元に定着してほしい 10年以上続くイベント
最初の「恋コン」が開かれたのは2009年と、10年以上も前です。当時、青年委員会の役員だった宮坂孝副事務局長は、きっかけを次のように振り返ります。
「当時は青年委員会の活動がやや停滞しており、幹事会でどうしたら活動が盛り上がるかを議論していました。その中で『最近同世代が婚活している』という話題が出て、1回試しにやってみようかと軽い気持ちで企画したんです」
最初は単発の企画で内容もさまざまでしたが、2012年から改めて連合と恋をひっかけて「恋コン」と名付け、毎年ほぼ2回、定例で開催するようになりました。
イベントの内容は「ただテーブルを挟んで話すより、参加者が一緒に手を動かしたほうが、相手の人となりも見えやすいだろう」と、2019年からいちご狩りとスイーツづくりを組み合わせました。男性は組合員に絞って募集しましたが、それでも応募者数は定員を超え抽選に。


こうした取り組みの背景には、人口流出、少子化という栃木県の地域課題があります。県内の産業は製造業の割合が高く、職場は男性が多くなりがちなため、男女の出会いの機会が少ないといいます。連合栃木の中島一実会長によると、一部製造拠点の撤退もあって、若い世代の流出は男女ともに増えています。こうした中、栃木県も行政として「とちぎ未来クラブ」を設け、出会いの場の創出や地元で結婚するカップルの支援に取り組んでいます。
「地元でパートナーと出会い家庭を持ってもらえれば、若い世代の流出に歯止めを掛けることにつながるのではないか。また恋コンは青年委員会が企画・運営するので、将来の組合活動を担う人材育成にも役立つと考えています」(中島さん)

71のカップルが誕生、うち6組が結婚 異業種交流も促進
「恋コン」は春と秋に開かれ、春はいちご狩りとスイーツづくり、秋はハロウィンイベントなどのパーティー形式が定番。1回につき18歳~40歳までの男女を10~15人ずつ募集し、男性は連合加盟の組合員が対象です。言わば男性の身元が証明された形になっていることも、女性たちの安心感につながっているようです。

一方、女性は組合員に限らず応募できます。介護職などで「出会いのチャンスがない」ことを理由に参加するケースが多いそうです。
「当日は、参加者が最初から友人同士だったかのように和気あいあいと作業しています。スイーツづくりでは『料理男子』が手際よく調理を進め、周囲を驚かせることもあります」(宮坂さん)
男性同士が意気投合して連絡先を交換し合い、その後食事に行くなどつながり続けることも。「組合員が産業の垣根を超えて交流する場も、昨今少なくなっているので『恋コン』は異業種交流会の役割も果たしています」と、中島さんは説明します。
これまで25回行われた「恋コン」で、成立したカップルは計71組に上り、少なくとも6組から「結婚しました」という嬉しい報告がもたらされました。「報告を求めているわけではないので、実際は他にも結婚に至ったケースはあるかもしれません」(宮坂さん)

ただ、悩みは女性が集まりづらいこと。男性組合員にはチラシや機関紙で告知できるため、たいてい募集人数をオーバーして抽選になります。しかし女性参加者は、組合員もいますが大半が口コミかウェブサイト経由で集まるため、告知が難しいのです。宮坂さんは「友だちと一緒に申し込む女性もいるので『お友達を誘ってきてください』と一言添えるなど、工夫も必要かもしれません」と語りました。

10%割れた組織率、情報発信と組織化が課題。
栃木県では、組合に加入している労働者は就労人口約93万人のうち約9万人と、組織率が10%を割り込む計算で、全国平均(2023年6月時点で16.3%)も大きく下回っています。「恋コン」は、非組合員の女性たちに連合を知ってもらう取り組みのひとつではありますが、それだけではアプローチの対象は限られてしまいます。幅広い情報発信によって連合の認知度を高め、組織化に結び付けることが喫緊の課題となっています。
事務局長の児玉浩一さんによると、過去5年ほど高校・大学生らも含めた若年層へのアプローチを特に強化しているといいます。「例えば連合のティッシュひとつとっても、あえて学生にも配ることで、社会人になってトラブルを抱えた時などに『そう言えば、ティッシュを配っていたおじさんたちがいた』と思い出してもらえるかもしれません」(児玉さん)
もちろんFacebookやXも活用してはいますが、内容が若者に届いているかというと、やや心もとない面も。「若い世代の注目を集めるには、彼らの関心のありどころを『受信』する力も必要。私たちが一方通行の発信をするのではなく双方向でつながれるよう、組織として変えるべき部分は変えていく必要があると考えています」と、中島さんは言います。
また組織化に向けて、専任のアドバイザーによる未組織企業への訪問も強化しています。労働組合から企業側にアプローチするのは容易ではなく、春闘に関する情報交換を理由に労務や人事の担当者を訪問し、組合に関する説明を織り込むといった工夫もしているそうです。さらにアポなしで「突撃訪問」することもあります。
中島さんは「組合のない職場の労働者は、集団的労使関係に守られずハラスメントや解雇などがあった時に身を守る術が非常に限られてしまいます。組織化には経営側の理解も不可欠なので、連合から情報を提供し存在意義を理解してもらうよう、これからも努めていきます」と話しました。

これがイチ押し!地元の名産・名所
関ヶ原の合戦ゆかりの地「小山市」、知られざる重要史跡も
小山市にある「小山評定跡」は、徳川陣営が石田三成討伐を決めた場所で、この決断がその後の関ケ原の合戦と、徳川幕府開府のきっかけともなりました。ただ「歴史的にも重要な史跡なのに、観光客の姿をあまり見たことがない」(中島さん)ということで、歴史マニアなら一度訪れるとお友達に自慢できるかも?また小山市は徳川幕府を開くきっかけになった「開運のまち」をアピールしており、市内にはお酒や食品、グッズなどさまざまな「開運」商品も販売されています。
関東平野を一望!スカイツリーも見える太平山
栃木市の太平山は約330メートルの低山で、車で気軽に登れます。低いとはいえあなどれず、見晴らし台からは関東平野を一望でき、よく晴れた日には東京スカイツリーや富士山まで見えるとか。また山頂近くにある太平山神社は、春は桜並木、梅雨時はアジサイを楽しめるため、観光客も多数訪れます。「名物であるおだんごと焼き鳥、出し巻き卵の3点セットを食べつつ、花を見るのも一興では」(宮坂さん)

レア商品の「武平(ぶへい)まんじゅう」 創業100年超える老舗の味
創業100年を超える日光市の老舗、和田菓子店の「武平まんじゅう」は「甘すぎないあんこがおいしい」(中島さん)とのこと。ただ店の場所が市の中心部からやや離れている上、午前中で売り切れてしまうレアなお菓子なので、購入の際はあらかじめ問い合わせた方が無難かもしれません。

郷土料理「しもつかれ」 見た目は…でもお酒のつまみに最適
「しもつかれ」は、正月に使われた鮭のあらや大豆、粗く下ろした大根やニンジンなどを酒粕で煮込んだ栃木県の郷土料理。薄目のしょうゆ味で適度な食感があり、今はお正月に限らず食卓に上るといいます。児玉さんは「見た目は今一つですが、酒のつまみには最適。お店で食べる場合は、地元のおかみさんが営むようなローカルな居酒屋で注文すると、間違いのない本場の味を楽しめるでしょう」。

(執筆:有馬知子)