老いては子に従え
今年の7月は観測史上最高の暑さを記録。8月も厳しい暑さが続いている。
灼熱と豪雨の長い夏。カラダに堪えるが、もっと心配なのは農作物への影響だ。
さくらんぼやぶどうの被害に心を痛めていたが、まさかの「米騒動」である。
この原稿を書いている時点で、利用しているネットスーパーではお米が買えなくなり、店舗に行っても売り切れている。各地のフードバンクからは「届ける米がない」というSOSも出ているという。
かつて、米の不作の最大の原因は冷害だった。1980年の夏は記録的な低温・日照不足で、米作は「著しい不良」。受験生だった私の成績も冷え込んだまま、秋を迎えた記憶がある。1993年の冷夏による不作も深刻で、タイやアメリカからお米が緊急輸入された。幸い翌年は豊作で、日本産のお米が普通に買えることを有り難く思ったものだ。
ところが、今年の米不足の主な原因は、昨夏の猛暑による生産量減少だという。
気候変動問題は、1990年代にすでに提起されていた。1997年12月、京都で国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開催され、各国に温室効果ガスの排出量削減を義務づける「京都議定書」が採択された。
『月刊連合』は、COP3に向けて1997年の年間テーマを「環境問題」に設定し、表紙でも特集でも連載でも気候変動対策を取り上げた。取材した専門家からの「温暖化が進むと自然災害が多発し、農林水産業にも深刻な影響が出る」という警告も伝えた。
日々の生活でもエコライフを心がけたつもりだが、現状を見れば、やはり危機感が乏しすぎたとしか言いようがない。
家庭内Z世代女子(以下、Z女子)は、学生時代、グレタ・トゥーンベリさんに強く共感し、「家庭内気候変動アクティビスト」になった。そして、「地球がこんなに熱くなって災害も増えているのは、これまでエネルギーを浪費し温暖化対策を先送りしてきた昭和世代のせいだ」と私を責め、冷暖房の使用状況を細かくチェックするようになった。
返す言葉もなく、どうしたものかと悩んでいた時、尊敬する三浦まり上智大学教授のコラムを目にした。気候変動アクティビストについて、「未来への責任を負う10代の主張においては、大人はもっと耳を傾ける必要があるのではないだろうか。気候変動のような過去の想定が役に立ちにくい状況、そして高齢化の進展が激しい日本においてはなお一層、『老いては子に従え』を胸に刻みたい」と書いてあった(『生活経済政策』No.274)。
「老いては子に従え」。深く納得し、Z女子が決めた「クーラー設定温度28度、夜間停止」などのルールを守ってきたが、レベルアップしていく暑さに思考が停止してしまう時間もある。本当は最近見つけたドイツに関する本の話を書こうと思っていたが、まったく頭が働いてくれない。
言い訳が長くなったが、そういう訳で、今回はいちばん最初に書かなければいけなかった「子ネタ」の話を書いておきたい。
どうせ誰も読まないでしょ
コラムのタイトルにある「今どきネタ」の大半は、子どもがらみのネタ、「子ネタ」である。ネタにされるZ女子&Z男子は、ちゃんと了承しているのか、と思われる読者もいらっしゃるだろう。
世間一般に子どもをネタにすることには批判があると思う。
親が有名人の場合は、特定されて危険な目に遭わないとも限らない。
SNSでも、「子育てネタ」は炎上しやすく要注意だと言われている。
シングルマザーの日常を描いた作品が人気だった漫画家さんは、大人になった娘さんから「漫画のネタにされるのがすごく嫌だった」と責められたという記事も目にした。
やはり勝手に「子ネタ」を書いてはいけないと思い、連載スタート前にZ女子&Z男子に「書いてもいいかな?」と聞いてみた。
Z女子は「どんどん書いて! 世の中、えっ?って思うこといっぱいあるし、発信するツールがあるなら、代わりに書いてよ。ネタはいくらでも提供するから」と返答。
「ちなみにどんなネタ?」と聞くと「最近ね、『これってセクハラって言われるかもしれないけど』って前置きして、めっちゃセクハラ発言してくるオジサンが多いの。だったら言うなよって。とにかくその前置きをやめてほしい」。
これはZ女子だけなのかと思っていたら、その後、TBSの良原安美アナウンサーが、「セクハラをめぐる“枕言葉”に苦言を呈した」という記事を発見した。
Z男子は「別にいいけど、そんなコラム、需要あるの? どうせ誰も読まないでしょ。ボクも読まないけど」とのこと。長い文章を読むのが苦手で、情報源は主に動画だ。7月の東京都知事選の時、元市長が出馬すると知って「初めて投票したいと思える人が出た」と喜んでいた。私はその時点でその候補をよく知らなかったが、Z男子は動画をよく見ていたのだという。これは想定外の展開になるかもと思ったら、本当にその通りになった。ただ、Z男子は「いろいろ聞いていたらなんかちょっと違うかも」と思い始めたらしく、投票日にはすっかり熱が冷めていた。
子どもの話は「しない・聞かない」?
ここで「子ネタ」を書こうと思ったのは、家庭内Z世代の言動や感覚に驚かされることが多く、このギャップは何だろうと思ったからであるが、もう1つ理由がある。
職場にもう少し「子ネタ」を持ち込みたいという思いがあるからだ。
昔は「職場に家庭を持ち込むな」と言われていた。今も子どもの話は「しない・聞かない」を良しとする風土は残っているように感じる。
文筆の世界でも、第一線の作家さんは、「子ネタ」を避ける傾向があって、子どもの話をするときは、「私事で恐縮だが」とかというお断りのフレーズが入っていたりする。
その代わり、「子育てエッセイ」や「子育てマンガ」という分野が確立され、テレビ番組でも「ママタレント」の活躍の場が広がっている。「ママ」系に分類されると格下扱いされることもあるが、実は需要は高い。
子育て中は、子育ての悩みが日々の関心事のかなりの部分を占める。だから、悩みや愚痴を吐き出せる場や、困っているのは自分だけじゃないと思える場があることは、当事者にとって救いになる。
私はとりあえず子育て期は過ぎたけれど、先日、「長女をもう一度育てたい」というキャッチに惹かれ、『夫が寝たあとに』(テレビ朝日系、4月27日放送)という番組を見た。
藤本美貴さんと横澤夏子さんがMCを務め、毎回、子育てママ(芸能人)をゲストに迎えて話を聴くという「ママ応援バラエティ」。その日のゲストは、高校生、中学生、小学生、保育児の4人を育てる、元「モーニング娘」の辻希美さん。まず、「同じ親から産まれて同じ環境で育っているのに、きょうだい4人とも性格も食べ物の好みもみんな違うの」という発言に激しく同意。
Z女子とZ男子もそうだ。性格も好みも得意なことも違う。Z女子はせっかちで生き急いでいるが、Z男子はすべてにおいてのんびり屋。小学生の時、「なりたいものは?」と聞くと「くまのプーさんか(ちびまる子ちゃんの)おじいちゃん。何もしないをしているから」と言われて絶句した。
持って生まれたものを受けとめるしかない、と今は思うが、Z女子が小さい頃は、ちゃんとしつけなきゃというプレッシャーがあった。特に外に出た時は周囲の目が気になって、必要以上に叱ってしまうこともあった。辻希美ママも、初めての子育てを振り返るともう少しこうすれば良かったという思いがあって、「長女をもう一度育てたい」という言葉が出たという。これも共感しかない。
「ママタレ」と侮るなかれ。人生の師として仰ぎたい思いがした。
振り返ると、ママ友との時間は貴重だった。でも、今は全面的に育児するパパも増えている。職場にパパも参加できる子ネタトークの場があったら、共感が広がりそうだ。
子育て当事者以外の人も含めた職場での「子ネタ」も、もっと許容されるようになるといいなと思う。同じ職場で働く人のお子さんの名前を知っていて、どんなふうに育っているのか普段から聞いていれば、保育園から「熱が出た」と連絡が来ても、「○○ちゃん大丈夫? 早くお迎えに行ってあげて」と心から思えるような気がするからだ。
以上、夏の“子ネタ”まつりでした。
★落合けい(おちあい けい)
元「月刊連合」編集者、現「季刊RENGO」編集者
大学卒業後、会社勤めを経て地域ユニオンの相談員に。担当した倒産争議を支援してくれたベテランオルガナイザーと、当時の月刊連合編集長が知り合いだったというご縁で編集スタッフとなる。