特集記事

「36協定を遵守」
意識改革を通じて労働時間の大幅削減を実現

image_print印刷用ページ

サービス産業はインバウンド需要が急増する中、働き手の負担が重くなり離職を招くなどして、人手不足が深刻化しています。こうした中、都ホテルズ&リゾーツ労働組合連合会は労使で36協定の遵守に取り組み、時間外労働の大幅な削減を実現しました。同連合会の小岩雅之会長(サービス連合副会長)に、労働環境改善に向けた具体的な取り組みを聞きました。

繁忙で「泊まり込み」も頻発 時間外労働に地域格差

‐時間外・休日労働に上限規制が導入される前、職場にはどのような課題感がありましたか。
当時はコロナ禍前で、外国人の団体客が急増していましたが、客室や料理の単価水準は今ほど高くなく、収益確保のため稼働率を上げざるを得ませんでした。私は東京のホテルで勤務していましたが、団体客が立て込む時は、泊まり込みになることもしばしばでした。連続勤務も最大で6日間に及ぶことが多く、休日出勤もあって従業員の疲労が蓄積していました。中にはサービス残業が常態化する事業所もありました。
当社は関西を中心として都市圏や、リゾート地を含めた地方都市で宿泊施設を運営していますが、人手不足の度合いや労働実態は施設によって大きく違うため、36協定の締結や労務管理は、各事業所の裁量に委ねられていました。このため労使ともに、長時間労働の是正を指示しても各事業所の反応がまちまちで、全体としての取り組みが進みづらいという課題を抱えていました。

‐上限規制導入を機に、労働組合として何に取り組みましたか。
サービス連合の掲げる「年間総実労働時間1800時間の実現」を念頭に、自分たちの事業所を含めた業界全体で、労働時間削減に取り組まなければいけないという認識がありました。しかし当連合会は、所定労働時間が1800時間を超えるなど理念と実態に大きな差があり、事態の早急な改善が必要でした。そこでまずは各事業所の実態を把握するため、労働組合が残業時間と未消化の公休の日数、退職者数のデータを毎月集め、本社の労使協議会で経営側に共有しました。
データを最初に見た時は、時間外労働や公休未消化数が桁外れに多い事業所があることに驚きました。そもそも地域の人口が少ない事業所では働き手の確保が難しく、長時間労働が常態化していました。事業所や地域独特の労働慣行が定着し、労務管理があいまいな面もありました。都市圏でも離職率の高い施設では、職場に残された人が長時間労働を強いられていました。
データでこうした状況が可視化されたことで、具体的な対策を講じることができるようになりました。またある時期から、データ収集の実施主体も労働組合から経営側に移りました。労使双方で取り組むようになったことで、職場全体として主体的に労務管理を推し進めていかなくてはならないという意識を高めることができたと考えています。

単価を上げて現場が回るよう稼働率を調整 DXも推進

‐労働時間を削減するため、具体的にはどのような取り組みが進められましたか。
私たちの職場では、各事業所がそれぞれに過去の36協定を漫然と踏襲し続けており、協定が労働時間の削減にうまく結びついていませんでした。そのため、本社と組合本部との間で協定内容の方向性をそろえて、全体として取り組みの底上げをはかりました。経営陣も従業員の健康を守りたい、という意識を強く共有していたので、協議はスムーズに進みました。ただ、都市圏から外れた職場については、先ほどお話したように人手不足があまりに深刻で、他の事業所と同水準の協定を設定するのが難しく、若干緩和した上限を設けています。

‐長時間労働の削減に向けて、労働組合はどのような役割を果たしましたか。
本社の経営陣は、現場とは距離が離れていて実状を把握しづらい面もあったため、組合として各職場の組合員の声を伝えることに力を入れました。臨場感のある現場の声が、労働時間削減の取り組みを後押ししたと考えています。
さらに経営側に対して、客室や料理の単価引き上げを通じて、現在の人員でもオペレーションできる稼働率に調整することや、DXによる業務の効率化を求めました。これを受けて経営側も、単価を引き上げて高付加価値化に舵を切り、自動チェックイン機の導入などによる省力化も進めました。同時に会社は専門委員会を立ち上げて36協定の遵守状況などを確認し、各事業所を指導する体制も整えました。

労使の本気度が伝わった 協定違反を大幅に是正

‐36協定の見直しを行った後の遵守状況はいかがでしょうか。
当初は、一部事業所の労働時間が協定の上限を超過し、協定違反が生じました。この時、上限を緩める案も出たのですが、組合員の命と健康を守るためには緩めるべきでないと考え協議した結果、上限は据え置かれました。翌年、本社の専門委員会が各事業所に強く指導したことで、その事業所の労働時間の状況も大幅に改善しました。労働組合としても、妥協せず本質を守ることの大切さを学んだ出来事でした。
労働時間の削減が進んだ最大の要因は、労使の「本気度」が現場に伝わったためだと思います。36協定は昔からあるだけに、労使ともにどこか漫然と決めてしまう面がありました。法改正を機に、36協定は「残業を可能にする」ためではなく「時間外労働を抑える」ためのルールだ、と労使が改めて認識したからこそ、現場を説得できたのです。

‐労働時間の短縮に向けて、新たに導入された人事制度や働き方はありましたか。
会社として、繁忙度合いにあわせて法定労働時間内で月単位の労働時間を配分する「変形労働時間制」の導入を進めました。忙しい日は長時間シフトの人に、比較的繁忙度が低い日は短時間シフトの人に入ってもらいます。当初は急に忙しくなった日に突然、長時間シフトの人が割り当てられるなど現場に混乱もありましたが、次第に職場に定着しつつあります。従業員が複数の業務を担うことで、職場の稼働人数を減らす「タスクシェア化」も始まりました。
組合としては、こうした取り組みに対する組合員の声を率直に経営側に伝え、制度導入の狙いなどを従業員に丁寧に説明するよう求めました。ただタスクシェアについてはなかなか浸透が難しかったため、研修などを通じて「働き手の成長につながる」といった説明をした上で、取り組みを促しました。また最近は各事業所単位で、タスクシェア以外の業務効率化の方法も講じられているようです。

「働きやすさ」打ち出し労働者が集まる業界に 管理職の長時間労働が依然課題

‐今後もインバウンド需要の増加が見込まれる中、業界としてどのような取り組みが必要だと考えていますか。
ホテル学校や料理学校の生徒など、宿泊業の将来の担い手は減っているのが実状です。賃上げに加えて「働きやすさ」をアピールし、若手を中心とした人材にとって、魅力的な業界にしなければいけません。
このためサービス連合は、2026年の春季生活闘争で6%の賃上げを要求しています。近鉄・都ホテルズ労働組合では同率の賃上げを求めるほか、秋の労使協議などで年間休日の増加も進めており、数年前は105日だった年間休日数が、2026年4月から114日に増える予定です。これによって年間の所定内労働時間は、前年の1905時間から1882.5時間に減り、サービス連合が目標とする「年間総実労働時間1800時間以内」の達成にも近づきました。賃上げや休日の増加とともに、離職率が低下し新卒採用者も増えており、施策の有効性も実感しています。

‐現在の職場の課題や、労働組合として進めたい取り組みを教えてください。
非組合員である管理職の負担増が、大きな課題です。私たちの職場では、30代を前に離職する人が多く、年齢構成が20代の若手と50代のマネジャー層に偏っています。このためマネジャーが、管理職業務に加えて夜勤など現場の仕事も担い、労働時間が非常に長くなっているのです。管理職になりたがらない組合員も多く、組合から経営側に、管理職の働き方を是正するよう伝えています。
また特に女性の離職を防ぐ必要もあります。時間単位で取得できる有給休暇の導入など、仕事と家庭の両立支援策も講じていますが、根本的には労働時間のさらなる削減が不可欠です。
近年は外国籍の組合員も増えているので、組織になじんでもらうために交流会などを開き、経営側にも参加してもらって親交を深めています。国籍の違いによる物事の捉え方の違いもありますが、日本人と外国人の従業員双方が、お互いの考え方を理解し学ぶことで、国籍の違いによる課題に対応していきたいと考えています。

(執筆:有馬 知子)

3月6日は「サブロクの日」前編はこちら

RANKING
DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
RECOMMEND

RELATED

PAGE TOP