懇談会全景
連合は1月22日、経団連との懇談会を都内で開催し、「春季労使交渉をめぐる諸課題について」をテーマに意見交換を行いました。
冒頭、十倉会長は、「今年は、ここ2年間で醸成されてきた賃金引き上げの強いモメンタムを『定着』させる年にしなければならない。経団連は昨日公表した『2025年版経労委報告』の周知活動等を通じて『ベースアップを念頭に置いた検討』を呼びかけるなど、全力で取り組んでいく。何より、賃金引き上げの『定着』には、約7割の働き手を雇用する中小企業と、4割近くを占める有期雇用等労働者の賃金引き上げが不可欠である。『賃金は上がっていくもの』『適正な価格転嫁と販売価格アップを受け入れる』、この2つの考えをソーシャルノルム、社会的規範として浸透させること、20年近く続いたデフレマインドからの脱却をはかることが望まれる。
この取り組みの一環として、先週16日に、経済3団体代表の連名で、『パートナーシップ構築宣言』の趣旨の徹底と実行を強力に働きかけるとともに、未宣言の会員企業に参画を求める旨の共同要請をとりまとめ、全会員企業に周知した。こうした取り組みに加え、サプライチェーンの外に存在する多くの中小企業と消費者に対し、適正な価格転嫁と販売価格アップへの理解と共感の輪を社会全体に広げていく必要がある。
経団連は、賃上げを通じて分厚い中間層を形成し、ひいては日本経済を成長と分配の好循環へと導く、これが企業の社会的責務と認識している。本日、連合の皆様と認識や方向性を共有し、先ほど言及した社会的規範化に向けて協調できればと願っている」と述べました。
芳野会長は、「昨年は33年ぶりに5%以上の賃上げが実現し、賃金も物価も経済も安定的に上昇する経済社会へのステージ転換がはかられた。しかしながら、物価上昇はディマンド・プル型の『安定的』なものとは言えず、コストプッシュ型の要因が続いており、決して『上げ潮』とは言えない。
連合としては、ここ数年にわたり真摯な労使交渉の結果によって、ようやく動き始めた賃上げの流れを、滞らせることは絶対に避けなければならないと強く思っている。
昨年の春季生活闘争で経済社会のステージ転換を果たしたとするならば、今年は、その新たなステージを定着させる年である。そのためには、賃金・経済・物価を安定した巡航軌道に乗せることを労使で努力していく春季生活闘争にしていきたい。
日本経済全体の底上げをはかるためには、中小・小規模事業者、さらには地方経済の隅々にまで賃上げが波及しなければならない。一昨年以降、労務費を含む適切な価格転嫁の実現こそが、中小・小規模事業者における賃上げ原資の確保に資するとし、政労使の共通認識のもとに環境整備をはかりながら、その実現に力を尽くしてきた。
取引先からの人件費の上昇には理解を示しながらも、事業経費と合わせた取引価格は変更しないというような事例もあると聞いているので、経団連の強いリーダーシップによって、労務費を含む適切な価格転嫁により『三方よし』の取引慣行を実現いただくようお願いしたい。
昨年、この場で、強靭な経済を取り戻すためには、『多様性』が重要なカギの一つであるとお話しした。
その上で、女性活躍推進に関連して、日本総研の調査によると会社役員における女性比率は着実に増加しているものの、女性役員における社内からの登用は15%程度にとどまり、85%は社外役員という実態がある。男性は60%が社内からの登用という実績と比べると、4倍の差が生じている。ぜひ、女性がキャリアを積んだ先に、自社の経営者としても活躍できるよう人材育成に力を注いでいただくことをお願いしたい。
そのためにも、女性の就労を阻害する要因はできる限り取り除くことは必須であり、第三号被保険者制度の廃止や、選択的夫婦別氏制度の導入については、経団連、連合ともに同じ考えを共有しているため、その実現に向けて引き続き共闘していきたい」と述べました。
続いて、連合による「2025連合白書」、経団連による「2025年版 経営労働政策特別委員会報告」の説明の後、意見交換において、連合側は「価格転嫁の必要性」「適正取引の必要性」「地域別最低賃金の引き上げ・特定最低賃金の活用」「選択的夫婦別氏制度の実現」「働き方などに中立的な社会保険制度に関する考え方」「組合組織化の重要性」などについて提起しました。
経団連側からは「成長と分配の好循環の実現」「日本のGDPの維持向上」「可処分所得向上」「価格転嫁交渉力の強化」「価格転嫁に対する消費者の意識や行動変容」「税と社会保障の一体改革の必要性」「GXの実現」「労使交渉の機会確保」などについて意見が示されました。
まとめのあいさつで芳野会長は、「本日の意見交換を通じて、労使が同じ方向を向いていることを再認識した。健全な労使関係のもと、これから春季生活闘争が始まる。真摯に協議・交渉していることが、国際社会においても誇れる日本の労使関係であると考えている。
連合は2025春季生活闘争において結果、とりわけ地方の中小・小規模事業所の結果にこだわっていきたいと考えており、連合としてできることについては積極的に行動していきたい。
今年の方針の中では、健全な労使関係の重要性を踏まえ、組織化の強化も盛り込んでいる。労働組合がある企業の方が、賃上げの率、額とも高い結果にあることは、労使交渉の結果、私たちの処遇が改善されているということであると考えている。
また、消費者のマインドの変革に向け、製品には適正な価格があるということも連合として発信していきたい」と述べました。
十倉会長は、「30年続いたデフレマインド、良く言えば安定して変わらなくても良かった時代に、別れを告げようとしている。これからは金利がある世界となり、それにより、個々の企業、業界、市場などに変化が生じるものであるが、変化を恐れず、立ち向かっていかなければならない。
経団連では、『FUTURE DESIGN 2040』をまとめ、副題を『公正・公平で持続可能な社会を目指して』としている。分配への配慮なくして安定した成長はあり得ないと考えている。
社会の混乱を生んだ最も大きな要因には、貧富、ジェンダー、世代間などの格差がある。政府に環境整備は求めるものの、良い労使関係を基盤に、経団連と連合が同じ方向を向いて、そうした課題の解決に向け『共闘』していきたい」と述べ、懇談会は閉会しました。