連合ニュース 2023年

 
2023年06月23日
「連合 政策・制度推進フォーラム」第4回総会を開催
慶應義塾大学経済学部の井手英策教授より記念講演
井手英策教授
 2023年6月20日(火)、都内で「連合 政策・制度推進フォーラム」(連合フォーラム)第4回総会を開催しました。 連合フォーラム議員52名・秘書27名、構成組織15名・地方連合会4名など計116名が出席しました。芳野友子会長による連合挨拶の後、慶應義塾大学経済学部の井手英策教授より「ベーシックサービス論~財政を鋳直し、社会のあるべき姿を構想する~」と題して講演を受けました。最後に、清水秀行事務局長より閉会挨拶を行いました。

Ⅰ.連合挨拶 芳野友子会長
〇2017年10月の第48回衆議院選挙後、旧民主党勢力が分かれる政治情勢になった。そのような中にあっても政策実現に向けた歩みを進めるため、議員一人ひとりとの関係に重きを置いた新たな枠組みが必要との考えから、同年12月に連合フォーラムの設立を確認した。翌2018年2月16日の設立総会で来賓挨拶をいただいたのが井手英策教授である。ご挨拶で述べられた「人間の共通の土台」におけるニーズを満たすものが「ベーシックサービス」であると認識している。
〇財源の使いみちを民主的に決め、必要であれば苦しくても国民に負担を求めることが政治家の役割のはずである。しかし、コロナ禍から続く物価高の中、選挙の都度、政府・与党からは給付金の話、一方の野党からは減税の話が持ち出されてくるという状況が繰り返されている。今回、設立5年という節目で井手教授にご登壇をお願いした意味を、講演を聴いて感じとっていただきたい。
 
Ⅱ.記念講演「ベーシックサービス論 財政を鋳直し、社会のあるべき姿を構想する」
  慶應義塾大学経済学部 井手英策教授
〇内閣府の国民生活調査では、「中流」と答えた人は93%で、「下流」と答えた人はわずか4%。4%が喜ぶ政策で選挙に勝てると思っていたら能天気。また、ISSPの調査によると、弱い立場に置かれている人たちに救いの手を差し伸べようという意思をこの国に住む多くの人は持っていないことがわかる。先進国で最も冷淡。「格差是正」「反貧困」ではこの国の人たちには届かないという民意がある。
〇しかし、World Values Surveyによると、“困っている人を助けるのではなく、自分も含めたすべての人たちが幸せになれるような社会をつくってほしい”と76%が答えている。方向性は明らか。ベーシックサービスとは「あらゆる人が生存、生活のために必要とする/必要としうる基礎的なサービス」。また、学問的には「健康・精神的自律・社会参加」がベーシックニーズ。ただし、何が普遍的なニーズで何がベーシックサービスかは各党の理念が反映される。一つだけ、すべての人々に保障される権利だということは見逃さないでほしい。
〇ただし、ベーシックサービスが無償化されただけでは安心して生きていくことができない人たちがいる。したがって、もう一方の車輪として「品位ある最低保障」が必要。ベーシックサービスで中間層の将来不安をなくし、それをもって寛容さを引き出せる。あらゆる人々が直面する共通のリスクに社会全体で備え合うような状況をつくっていくことがベーシックサービスの根底にある理念。
〇もちろん、財源が必要。皆さんは日本を愛しているか。自分は愛している。すべての個人が人間らしく生きていけるための統一的な条件をつくっていくために理想を掲げて政治をやっているのではないか。「人間らしく」「人間性」という言葉を胸に刻んでほしい。“借金して返済に60年”という無責任の人たちの中に人間性は見出せない。日本を愛するからこそ、きちんと財源の話をしてほしい。
〇自分は、大学・医療等の無償化などに加えて住宅手当をずっと提案している。この社会は消費税が6%あれば実現する。2019年10月に消費税率が10%になったが、実施前後で賛否がひっくり返った。幼保無償化と一部大学無償化があったから。政策パッケージを上手に出せば半数近い人が賛成するのは明らか。自党の支持率より明らかに多くの人たちが応援してくれる政策をなぜ採用しないのか。
〇消費減税ほど理解が難しい政策はない。5%減税で富裕層には年間23万円が戻り、低所得層には8万円だけ。なぜ金持ち擁護のようにしか映らない政策を選択するのか。理由は野党共闘。選挙区調整はやればよい。しかし、なぜわざわざ「野党共闘」という名前をつけて一蓮托生みたいなアピールをしないといけないのか。タチのよくない政策に揃えて勝とうする姿を国民はどう見ているか。
〇社会保障と税の一体改革で民主党はバラバラに。消費税がトラウマというのは理解できるが、学者としては一体改革のスキームは完璧。ところが、財務省との関係か、借金返済を高めたために大きな悲劇を生んだ。このスキームしかないのだから堂々と自信を持ってほしい。もう一つ、連合もなぜ自分たちの期待を裏切る人たちを文句も言わずに応援し続けるのか。組織内議員もいるだろう。政党を割ってほしい。連合新党をつくってほしい。連合も“その人たちしか応援しない”とはっきり言ってほしい。皆さんにとっての理想とともに闘う仲間を増やしていくことが一番大事ではないか。2017年の(民進党の)マニフェストを議論していた時点では我々が最先端に立っていた。まだ間に合う。連合の選挙総括の中にだけは自分が訴え続けた魂が生きている。皆さんで共有してほしい。
〇政治の本質は極に走ることではなく、極と極の中庸を模索すること。人類の歴史において、喜びだけを分かち合うことで成立したコミュニティはない。ともに痛みを分かち合ってでも満たさなければならない何かがあったから。消費税は貧しい人も払わなければならない。だからこそ、堂々とサービスを受け取る権利を手にする。何がベーシックサービスか、どの税で・だれに・何パーセントということを全部話し合わないといけない。国民がほしいものをバラまくなら国会も財政も要らない。必要なものを議論して財源を議論するから、議会、民主主義が必要。義務と権利、受益と負担の間の中庸を模索することが皆さんの使命。“とって使う”という当たり前のことを言えない政治、リベラルに未来はない。

Ⅲ.連合フォーラム「政策勉強会」について(司会の川島千裕政治センター事務局長より紹介)

Ⅳ.閉会挨拶 清水秀行事務局長
〇政府の「こども未来戦略方針」では財源の確保策が先送りとされた。防衛費の財源しかり、与野党で審議すべきところ、国会では十分な説明を行わず、会期の外で重要な方向性を事実上決定するような手法は極めて問題である。
〇一方で、野党はどうだったかという話が、井手教授の講演の中であった。「野党が財源確保に関する基本的な考え方を明らかにしたうえで、格差是正や、くらし・子育てなどの安心につながる施策や財源の使いみちを競い合って示すことには大変意義があると考える」。「第50回衆議院選挙の基本方針(素案)」で記載した内容である。是非、このような思いを受け止めていただきたい。
以 上
  • 芳野友子会長
  • 清水秀行事務局長