2014年06月17日
「日本再興戦略」の改訂(素案)における雇用・労働分野に関する提起に対する談話
日本労働組合総連合会
事務局長 神津 里季生
- 6月16日、政府の産業競争力会議は、今月末に閣議決定を予定している「日本再興戦略」の改訂の「素案」を取りまとめた。「労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した新たな労働時間制度」の創設や外国人技能実習制度の拡充を含む外国人材の受入れなど、労働者保護の後退を招くおそれのある項目が多く盛り込まれており、到底容認できるものではない。また、労働者代表が参加しない場で雇用・労働にかかる事項を決定していく政府の議論の進め方も、極めて問題がある。
- 「労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した新たな労働時間制度」の創設では、「一定の年収要件(例えば、少なくとも年収1,000万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者」を対象に労働時間規制の適用を除外することが企図されている。これはかつて世論の大きな反対を受けて断念した「ホワイトカラー・イグゼンプション」と酷似するものである。労働時間の上限規制を設けることなく成果で評価する制度が導入されれば、労働者は長時間働くことを余儀なくされ、過労死の増大等を招くことは明らかである。また、過重労働による労災支給決定件数の約3分の1を管理的職業従事者、専門的・技術的職業従事者、事務従事者が占めるなど、現状でさえホワイトカラー労働者の過重労働対策が不十分であるにもかかわらず、更に新たな適用除外制度を設けることは容認できない。毎年100名を超える方が過労死で亡くなっている現実を直視すれば、いま政府がなすべきことは“残業代ゼロ”ではなく“過労死ゼロ”であるべきである。
- また、「素案」では、外国人技能実習制度の拡充や、建設・介護分野に加え造船分野における外国人材の活用、更には国家戦略特区における家事支援人材の受入れ等も提起されている。外国人労働者の受入れは、国内労働市場への影響や外国人労働者の保護といった観点も含め、国民的な多角的論議を行うことが不可欠である。拙速に外国人受入れの拡大の方向性を打ち出した政府の姿勢は、乱暴に過ぎる。また、「外国人が日本で活躍できる社会」を掲げているが、その目的とするところは人手不足を理由とする受入れ促進であって建前と本音が乖離していると言わざるを得ない。今行うべきことは、外国人労働者の権利保護の強化と当該分野における処遇改善策をはじめとする根本的な国内人材確保策であり、人手不足の穴埋めとして安易に低賃金の外国人労働者を活用することはあってはならない。
- 「素案」にはこれらの項目の他にも、解雇の金銭解決制度をあたかも労働者側に立った紛争解決手段として「金銭救済できる仕組み」とする記述もなされているが、使用者による申立てが認められれば不当な解雇であっても「カネさえ払えばクビ切り自由」となりかねない。こうした労働者保護ルールの改悪阻止に向け、連合は、構成組織・地方連合会一丸となって取り組みを強化するとともに、強力に世論喚起をはかっていく。
以上