2014年05月29日
産業競争力会議における労働時間制度等の議論に対する談話
日本労働組合総連合会
事務局長 神津 里季生
- 5月28日、労働者代表を加えていない産業競争力会議において、労働時間制度のあり方等につき、民間議員(長谷川閑史雇用・人材分科会主査)及び厚生労働省から、それぞれ提案がなされた。両者の提案内容は異なっているものの、いずれも労働者をさらなる長時間・過重労働へと追い込むものであり、極めて問題である。
- 民間議員は、労働時間と報酬のリンクを切り離した新しい労働時間制度を「業務遂行、労働時間等を自己管理し成果を出せる能力のある労働者」を対象に導入することを提案している。しかし、年収の下限要件が示されないなど当該労働者の範囲を画する法制上の基準が不明確であり、一般社員を含む幅広い労働者が対象とされる懸念が強い上に、法的な強制力を伴う労働時間の上限規制も盛り込まれていない。監督行政の強化に触れてはいるが、法的な規制が整備されない以上、実効性に欠けており、本提案はまさに“残業代ゼロ”で長時間・過重労働をもたらすものである。
- 一方、厚生労働省は、「成果で評価できる世界レベルの高度専門職」を労働時間規制の適用除外とすることや、「企業の中核部門・研究開発部門等で裁量的に働く労働者」を対象に新しい裁量労働制の枠組みを構築することを提案している。適用除外に係る提案は、民間議員提案に比べて対象となる労働者の範囲を狭くしようとはしているが、職務や年収といった高度専門職の要件が明らかにされていないことから、多くの懸念を抱かざるをえない。また、新しい裁量労働制の枠組みに係る提案についても、健康確保のための厳格な長時間労働防止策が講じられない限り、長時間・過重労働を誘発する懸念が大きい。
- 連合は、毎年100名を超える方が過労死で亡くなっている現実を直視し、すべての労働者を対象とする「勤務間インターバル規制の導入」や「労働時間の量的上限規制の法定化」といった長時間労働防止策こそ強化するよう、強く求める。同時に、その実効性確保のため、労働基準監督体制の抜本的強化など違法行為取り締まりに向けた具体的施策を実行するよう求める。いま我が国は、“残業代ゼロ”ではなく“過労死ゼロ”の実現こそ目指すべきである。
- なお、同日の会議では、民間議員から、「予見可能性の高い労働紛争解決システム」を構築するためとして、解雇の金銭解決制度を想起させる「金銭救済システム」を創設するよう、改めて提案がなされている。しかし、「金銭救済」の申立権を使用者にも認める限り、労働者の職場復帰の道を閉ざすものであり労働者の救済に資する制度とはなりえない。連合は、こうした各分野における労働者保護ルールの改悪を阻止する取り組みを一層強化していく。
以上