連合見解

 
2026年01月21日
経団連「2026年版 経営労働政策特別委員会報告」に対する連合見解
日本労働組合総連合会

 経団連は1月20日(火)、「2026年版 経営労働政策特別委員会報告 賃金引き上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』へ」(以下「報告」)を発表した。「報告」に対する連合見解を以下のとおり表明する。
 
Ⅰ.全体に対する見解
1.評価できる点
(1)賃上げに対する基本スタンスは共通
 「報告」は、「経営者には、設備投資と研究開発投資、人的投資を拡充する『投資牽引型』へとマインドセットを変えることが求められている。中でも、人的投資を拡充・促進し、賃金引上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』に向けて、経団連は社会的責務としてその先導役を果たすとの覚悟をもって今年の春季労使交渉に臨む」「賃金引上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』を通じた名目賃金の上昇の継続とともに、・・・実質賃金の安定的なプラス化の実現が社会的に求められている」としている。
 連合は、2022 春季生活闘争からスタートした「未来づくり春闘」のもと、賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せることを目標の一つとして位置づけるとともに、中長期的視点から企業の持続的成長、日本全体の生産性向上につながる「人への投資」の重要性を強く訴えてきた。2026春季生活闘争では、日本の実質賃金を1%上昇軌道に乗せ、すべての働く人の生活向上の実現をめざしており、労使のスタンスは、基本的に共通している。
 また、「民間企業による名目賃金上昇の取組みに加え、適度な物価上昇の持続的・安定的な実現が実質賃金の安定的なプラス化には必要である。・・・政府・日本銀行による2%程度の適度な物価上昇の実現が不可欠」の認識も共通である。政府も、2026年度の日本経済の姿として、個人消費と設備投資が経済をけん引する形で実質経済成長率1.3%、消費者物価1.9%をめざしている(「経済見通しと経済財政運営の基本的態度」2025年12月24日閣議了解)。政労使が問題意識を共有し、それぞれの役割を果たすことで、国民経済の安定と経済の好循環を実現すべきである。
 
(2)ベースアップを基本に据えた労使交渉を呼びかけたことを評価
 「報告」は、賃上げは「人への投資」であると明確化した「賃金・処遇決定の大原則」を基本方針とし、前年の「ベースアップを念頭に置いた検討」という表現から「ベースアップ実施の検討を『賃金交渉のスタンダード』と位置付け、各企業に対して自社に適した積極的な検討・対応を呼びかけていく」と一歩踏み込んだ。
 デフレマインドを完全に払しょくし、新たな経済社会のステージを定着させるためには、「人への投資」を強化すると同時に、将来の生活設計のベースとなる月例賃金を継続的に引上げることが重要である。2年連続で5%台の賃上げが実現したものの、生活が向上したと実感している人は少数にとどまり、個人消費は依然として低迷している。依然として多くの人が「自分の賃金がこれからも上がる」という確信を持てず、消費性向がコロナ禍前を下回ったまま推移している。経団連と連合が、社会的メッセージとして、「人への投資」として持続的な賃金引き上げを呼びかける意義は大きい。なお、ベースアップを賃金交渉のスタンダードと位置付けるのであれば、「多様な方法による『賃金引上げ』」という表現は見直すべきである。「人事評価・成果等に応じた査定配分の拡大」は「ベースアップ」とはいえない。
 また、「賃金水準自体の改定・見直し」の項目を新たに立て、「近年、物価上昇への対応と人材の確保・定着の観点から、大幅なベースアップを行う企業とともに、新規学卒者を中心とした若年者の採用競争激化に伴って初任給を大きく引き上げるケースが増えている。・・・賃金カーブの調整・是正にあたり、初任給の大幅引上げを行った場合には若年社員の賃金水準との整合性の確認はもちろんのこと、子育て世代や中高齢社員への配分度合いを含めた賃金カーブ全体のあり方の検討が求められる」としている。賃上げ原資の配分についても、人材の定着やモチベーションの維持・向上に大きな影響を及ぼすことを踏まえ、労使でしっかりと協議する必要がある。
 
(3)賃上げのすそ野の拡大と“賃上げノルム”の確立をめざす姿勢も基本的に共通
 「報告」は、「賃金引上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』には、企業規模にかかわらず賃金引上げが波及する必要がある。大企業を中心に大幅なベースアップが続いている中、約7割の働き手を雇用する中小企業においても賃金引上げを継続できることが不可欠である。近年の中小企業の月例賃金引上げは約30年振りとなる高水準を記録したものの、業績改善がみられない中で実施された側面が強い」とし、賃上げ原資の安定的な確保のためにも「賃金は上がっていくもの」と「適正な価格転嫁と販売価格アップの受け入れ」の2つの考え方を「社会的規範(ソーシャルノルム)として浸透」させる必要があるとしている。
 中小企業などへの賃上げの波及の重要性、「賃上げがあたりまえの社会」に向けた賃上げノルムの確立、消費者の立場からも「良いモノ、良いサービスには相応の値がつく」という意識をもって適切な価格転嫁を進めていく必要があることなど、連合の考え方と共通している。
 「報告」では具体策として、「経団連は引き続き、『パートナーシップ構築宣言』への参画拡大を呼びかけるとともに、『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』や取適法・振興法の周知徹底、価格転嫁に関する好事例の展開を通じて、経営層から調達・営業といった取引現場に至るまで趣旨を浸透させることで実効性の確保を図るなど、適正な価格転嫁のさらなる進展と望ましい取引慣行の実現に貢献していく」としているが、その実効性が課題である。公正取引委員会や中小企業庁の調査によると、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の認知度は約6割、平均的な価格転嫁率も5割にとどまるなど道半ばといわざるを得ない。経団連には、各業界レベル、会員企業レベルで結果につながる取り組みのより一層の徹底を求める。労働組合の立場からも適切な価格転嫁・適正取引の取り組みを進めるとともに適切な価格転嫁に対する働く人・生活者の理解促進に努めていく。

2.相違点
(1)成長に見合った分配の実現
 「報告」は、TOPICSの「労働生産性の状況」「実質賃金」「国際的にみた賃金に関する状況」「労働分配率」のなかで統計データの分析とその解釈をしているが、労働側への分配が妥当であったのか、最も重要な論点についてほとんど言及していない。経済が成長しても日本全体の賃金水準が上がらなかったため、賃金の国際比較で日本はG7の中で最下位に転落し、付加価値を構成する賃金が安いから日本の一人あたり労働生産性はOECD38か国中29位と低迷しているのである。
 2年連続で5%台の賃上げが実現するなど新たなステージへと移行しつつあるものの、マクロで見た労働側への分配はいまだ不十分である。日本の時間当たり実質労働生産性は、2021年度から4年間で3%上昇している一方、実質賃金は4%低下している(日本生産性本部「日本の労働生産性の動向2025」、厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。賃金、経済、物価を安定した巡航軌道に乗せる新たなステージ定着の成否は、マクロの生産性向上と実質賃金の乖離を解消し、多くの働く人が生活向上を実感できる分配構造へ転換できるか否かにかかっている。
 「報告」は、「各ステークホルダーと『協創』した付加価値を、賃金引上げや総合的な処遇改善により働き手に公正かつ透明性高く分配して可処分所得の増加と個人消費の喚起・増大につなげ、・・・『成長と分配の好循環』の実現可能性を高める」、中期的に「国際的に遜色のない賃金水準の達成と実質賃金の安定的なプラス化の実現を展望している」としている。経団連には、これまでの労働側への分配が不十分だったことを率直に認め、経済や賃金における国際的ポジション回復への第1歩を踏み出すのは今年だという気概を持って「報告」の中身を実践することを期待する。
 
(2)格差是正に対する姿勢
 「報告」は、中小企業の賃上げや同一労働同一賃金法制を踏まえた雇用形態間格差の是正に関する記述を前年より増やすなど、日本社会全体へ賃上げのモメンタムを広げていこうとする姿勢がうかがえる。かつての“横並び賃上げ”批判や中小の賃上げ要求は高すぎるなどの文言も姿を消したものの、格差是正に焦点を当て社会全体の取り組みとしていく観点が弱いと言わざるを得ない。
 この3年間、中小組合の賃上げは額・率ともに全体平均を下回り、生活が厳しさを増している家計も多い。公的統計に基づく「連合賃金レポート」によると、規模間賃金格差は2023年以降拡大に転じている。格差拡大に歯止めをかけられなければ、「報告」でも触れられている「分厚い中間層」の形成は進まず、社会の不安定化につながる恐れがある。
 経団連とその会員企業には、「報告」に明記されている「①中小企業による生産性の改善・向上、②サプライチェーン全体を通じた取組み、③政府・地方自治体等による取組み、④社会全体における環境整備」について、自らしっかりと実践し、取引先やグループ企業などへの協力・支援をすることを求める。
 中小企業の経営者には、勇気をもって労務費を含む適切な価格転嫁を行うとともに、「賃上げがあたりまえの社会」になるとの認識のもと経営計画を立て、企業も労働者もともに成長する経営を求める。
 また、厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、過去2年間、労働組合の有無によって賃上げ率で1ポイント弱の差がある。日本全体に賃上げのすそ野を広げていくためには、労働組合のない企業の賃上げも重要である。政府、地方自治体、経営者団体には、4月から6月ごろに2回目の地方版政労使会議を開催し、賃上げの波及を促すことを求める。
 
(3)「生産性の改善・向上」に対する見解
 「報告」は、新たな付加価値の創造や生産性の向上のためには、「労働移動の推進」と「柔軟で自律的な働き方の実現」が不可欠であると指摘する。労働移動は労働者本人の意思が尊重されなければならないことは言うまでもなく、移動先産業分野における「職場環境の整備」や「雇用の安定」、「充実した処遇」の取り組みを進めることが重要である。柔軟な働き方については、「働き手の希望に応え、エンゲージメント向上につなげるには、『労働時間をベースとしない処遇』(仕事・役割・貢献度を基軸とする処遇)との組み合わせが可能な労働時間法制へと見直し、労働時間法制の原則を複線化」することが必要だと「報告」は述べるが、労働時間法制を定める労働基準法は労働条件の最低基準を定めるものであり、原則を複線化するべきではない。くわえて、「柔軟で自律的な働き方」として、「裁量労働制の拡充」が不可欠とするが、柔軟で自律的な働き方は、テレワークやフレックスタイム制など、現行法制の活用により既に可能である。裁量労働制は2024年に専門業務型における本人同意の義務化などの適正化がはかられたばかりであることを踏まえれば、適正な運用の徹底に取り組むべきであり、さらなる規制の緩和は全く不要である。

Ⅱ.個別項目についての見解
 ※ 以下の項目番号は「経労委報告」の章建てに準ずる
Ⅱ.賃金引上げの力強いモメンタム「さらなる定着」に向けた基本的な考え方
2.経営側の基本スタンス
(1)賃金引上げ原資の安定的な確保に向けた「生産性の改善・向上」
① 「働き方改革」の深化
(a) 付加価値の最大化
・多様な人材の活躍推進による労働力の「質的向上」
 「報告」において、「『ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)』の実装を前提として、女性や若年者、高齢者、障害者、外国人、有期雇用等労働者など『多様な人材』の能力開発・スキルアップを図る」とした点は評価できる。しかし「『タレント・パイプライン』の強化や、『L字カーブ』解消に向けて正社員での復職支援など」については、「主体的なキャリア形成と実現を希望する女性」限定するのではなく、誰もが利用できるようにする必要がある。
 
・より柔軟で自律的に働ける環境整備
 「報告」は、「『時間外労働の削減』に資する取組みに企業が過度に注力したことが、付加価値の維持・増大にマイナスの影響をもたらし、日本の労働生産性の国際的な低迷を招いた可能性がある」とするが、日本では、国際的にみても長時間労働が横行し、悲惨な過労死等を招いてきたことから、2017年の「労使合意」を踏まえて法改正を行い、「働き方改革」の取り組みを進めてきた。「時間外労働の削減」を労働生産性の低下要因とすること自体が「長時間労働に依存した企業文化や職場風土」が払しょくされていないことの証左である。労働者が働きがいをもって効率的に働くためには、労働者自身の健康・安全確保に加え、家庭生活・社会生活を営むための生活時間を保障する労働時間規制の強化こそ進める必要がある。
 そうした観点からすれば、「報告」が、デジタル技術やAIの活用によるコスト削減や業務効率化、そして、高付加価値の創出につなげていくことの重要性を訴えるとともに、「適切な労働時間管理と業務遂行に必要な要員確保に資する多様な人材における労働参加のさらなる促進が必要」としている点は基本的に共通であり、労使での取り組みを一層推進していくべきである。
 一方、「報告」は「『労働時間をベースとしない処遇(仕事・役割・貢献度を基軸とする処遇)』との組み合わせが可能な労働時間法制へと見直し、労働時間法制の原則を複線化していく必要がある」とするが、労働時間以外をベースとする処遇は現行法の下でも導入可能であり、そのことを理由として労働時間法制の見直しを行う必要は全くない。労働基準法制は労働条件の最低基準を定めた強行法規であるとの労働者保護の基本原則を堅持しつつ、「働き方改革」の実効性を高める観点での機能の維持・向上をはかるべきである。
 また、「報告」は「裁量労働制の拡充は喫緊の最重要課題」長時間労働の是正と労働者の健康確保を大前提に、企業と過半数労働組合など労使で対象業務を決定できる仕組みの創設を強く求めたい」とする。しかし、裁量労働制については、「報告」も言及している「長時間労働の是正」と、2024年の省令等改正を踏まえた適正運用の徹底こそ取り組むべき課題であり、その対象業務を拡大すべきではない。「報告」の脚注は、裁量労働制適用労働者の8割が制度の適用に満足しているとの厚労省調査が示されているが、当該調査は適用労働者の年収が高くなるにつれ満足度が高くなっており、必ずしも制度適用への満足度とはいえないものと考える。
 さらに「報告」は、「企業単位またはブロック単位での労使委員会の決議を可能とする見直し」も要望しているが、制度の適正かつ厳格な運用という観点から、労使協議などは職場ごとの実態を踏まえて行うことが重要であり、手続きの緩和や簡素化は不要である。裁量労働制の対象業務にかかわらず、「労使コミュニケーション」の名の下に、法規制の解除を労使合意に委ねる仕組みの拡大は必要ない。
 なお、「報告」は「企業のマネジメントにおける対応」として、「『時間外労働削減』に向けた取組みが一律的かつ過度に行われている可能性」や、「管理職の人事考課項目における『部下の時間外労働の削減』の設定」などを挙げ、現場の働きたいニーズに応えられず、「管理職の業務負担が増大」し、「業務の削減やプロセス見直しの未着手・停滞」などが生じていると述べるが、これはあくまでマネジメント上の課題であり、これらを理由とした労働時間法制の柔軟化は必要ない。
 
(b) 労働投入の効率化
・多様な人材における労働参加のさらなる促進
 「報告」において、「女性については、男女ともに仕事と育児・介護を両立しやすい職場環境の整備を通じた『共働き・共育て』の推進によるキャリア継続と早期復帰支援策の拡充が考えられる」としたことは、連合の考えと共通している。一方で「これらの取組みを同時並行で進めることで、人口減少による労働供給制約に対応しながら、景気変動に伴う労働需要の増大にも対応可能な労働力の確保を図ることが求められている」としているが、労働者が互いに多様性を認め合いながら、安心・安全に働き能力を発揮できる職場環境の整備が重要である。
 
②労働移動の積極的な推進
 「報告」では、「リスキリングを含むリカレント教育支援の拡充」などについて記載されており、時代や環境の変化に合わせ、労働者の学び直しを推進していくことは理解できる。一方で、「『労働移動推進型』雇用セーフティーネット」への移行など雇用保険制度の見直しが必要であるとしている。しかし、雇用保険制度は、失業者の生活保障や失業予防・雇用継続を通じ、「雇用の安定」をはかることなどを目的としており、今後も、その趣旨を踏まえた施策を進めることが求められる。
 なお、「報告」は、企業におけるキャリア形成や能力開発の推進に向けて、制度面の整備が重要としているが、能力開発については、非正規で働く者を含めた「すべての労働者」が活用できる仕組みとすることが必要である。
 
Ⅲ.賃金引上げの力強いモメンタム「さらなる定着」の具体策
1.多様な方法による「賃金引上げ」の実施
(1)月例賃金引上げ
 「急激な物価上昇への対応や、働き手の実質的な生活水準の維持、人材の確保・定着、働き手のエンゲージメント向上などの観点から、賃金水準自体を引き上げる『ベースアップ』(賃金カーブ自体の引上げ、賃金表の書き換え)が賃金交渉における重要な論点となっている」との認識は理解できる。賃金の社会性を踏まえた労使交渉を期待する。
 「報告」は、「経済成長・景気指標・物価指数の動向や労働市場の需給関係等の『社外』の考慮要素と、業績や労務構成の変化、支払能力、総額人件費、労働分配率等の『社内』の考慮要素を総合的に勘案しながら、労働組合等との真摯な協議を経て、各企業が中期的な価値向上に不可欠な『人への投資』として、自社の実情に即した賃金引上げと総合的な処遇改善を決定する必要がある」としている。現場の努力などにより、中小企業も含めた企業業績は総じて維持・改善されており、損益分岐点の低下、現預金の増加などストック面も改善されている(別紙1)。企業を取り巻く経済社会のステージは大きく変化しており、「賃金引上げを『コスト増』ではなく、自社の競争力と付加価値の源泉であり、事業の継続と発展に不可欠な『人への投資』との認識に立って、積極的に対応する必要がある」との「報告」を実践すべきである。
 また、格差是正の観点から、上げ幅のみならず、社会的指標と比較した賃金水準の確保が重要である。連合や構成組織が掲げる目標値などを指標として、自社の賃金実態について労使で検証する必要がある。「報告」では「企業労使による検討・協議を経て、複数年にわたる引上げ額・率をあらかじめ合意しておく方法や、到達すべき賃金水準と時期を定めた上で、毎年の引上げ額・率はその都度決定するスキームなど」が例示されている。中期的な計画を立て格差是正をはかる一つの手法として理解できる。

③同一労働同一賃金法制への対応による有期雇用等社員の賃金引上げ・待遇改善
 「報告」は、「賃金引上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』には、わが国の雇用者の約4割を占める有期雇用等労働者の賃金引上げ・待遇改善が欠かせない」としたうえで、「いわゆる同一労働同一賃金法制を踏まえた対応が肝要」とする。
 この視点は重要であるが、パート・有期・派遣労働者の待遇改善に向けては、いわゆる同一労働同一賃金法制さえ遵守すればよいというものでもない。法が禁止する「不合理な待遇差」の解消は当然のこととして、無期転換労働者を含む無期雇用フルタイム労働者も含め、法を上回る取り組みをはかり、もって雇用形態にかかわらず誰もが安心・納得して働くことができる環境整備が求められる。なお、「報告」の脚注でも触れられているとおり2026年度中に「同一労働同一賃金ガイドライン」の改正などが見込まれていることから、その動向も意識した労使協議を積極的に行うことが必要である。

TOPICS
【女性の活躍推進】
 「報告」において、女性の活躍推進に関し「日本国内ではDEIへの取組みを緩めることなく、一層の推進と定着が求められる」としていることは、連合の考えと共通している。しかし一方で、「女性の多様なキャリアを支える環境づくりに取り組むことが求められている」「女性が出産・育児等のライフイベントを経ても活躍し続けられる社会の実現」との指摘は、女性に限らず男女ともに必要不可欠であり、「DEIは『特定の属性を優遇する』ためのものではなく、『誰もが公平に能力を発揮できる環境を整える』ための基盤である」ことを踏まえた対応が必要である。
 「報告」で、「夫婦同氏制度や専業主婦世帯を前提とした社会保障制度・税制の抜本的な見直しはされておらず、積年の課題のままである」との指摘は連合の考えと共通しており、第3号被保険者制度の廃止や選択的夫婦別氏制度を実現する必要がある。また、「企業には、障害児・医療的ケア児を育てる社員を含め、介護等を抱える社員への両立支援制度の整備が求められる」と指摘されているように、キャリア形成において「仕事と家庭」の両立が課題であることに異論はなく、男性が育児や介護を担うことがあたりまえの働き方を定着させ、男女ともに仕事と生活を両立できるようにすべきである。
 女性活躍を進めるうえで、「報告」で「意思決定層への女性の登用も重要」と指摘しているが、東証プライム市場上場企業を対象として、2030年までに女性役員比率30%以上の実現を目標に掲げたものの、内閣府調査で18.4%、経団連調査で19.0%に留まっている。2026年1月に閣議決定される「第6次男女共同参画基本計画」に掲げられた「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度」を着実に実現する必要がある。
 また、「報告」が「企業における女性役員・管理職比率の低さは、男女間賃金差異の要因の一つとなっている」と指摘しているように、勤続年数や管理職比率の差異が男女間賃金格差の主な要因となっている。女性活躍推進法の改正により、2026年4月以降、常時雇用する労働者の数が101人以上の企業に「男女間賃金差異」「女性管理職比率」の状況把握・分析、公表が義務づけられる。男女の賃金実態の把握・分析を行うとともに、問題点の改善と格差是正に向けた取り組みを労使で進めていかなければならない。
 「報告」が女性の健康課題について、「社員一人ひとりが、活き活きと働くには、心身ともに健康であることが前提となる」「女性の健康課題への対応にあたっては、当事者だけでなく、マネジメント層も含めて企業全体のリテラシーを向上していく必要がある」としていることは、連合の考えと共通している。また、「報告」が指摘しているとおり、「女性の健康支援を進める上では、女性だけでなく労働者全体を対象として取り組む」ことが重要である。
 
TOPICS
【法定最低賃金制度】
 「報告」は、 地域別最低賃金について、「予見可能性を高めながらできるだけ早期に引き上げていくことを目指しつつ、その際の引上げ幅とスピード感については雇用や経営など地方経済への影響を十分注視する必要がある。とりわけ、引上げの影響を受けやすい地方の中小企業の賃金支払能力を高め、最低賃金引上げに対応できる環境整備が重要となる。政府には、各企業による生産性の改善・向上の取組みに資する支援策の拡充・確実な実行と効果検証を強く求めたい」としている。
 日本の最低賃金の水準は国際的に低く、最低生計費にすら満たない水準である。現下の物価高のもと、最低賃金近傍で働く人の暮らしは極めて厳しく、大幅な引き上げを継続していく必要がある。2023年の中央最低賃金審議会より、最低賃金の引き上げによる雇用の減少や企業倒産の増加などをデータで検証しながら、引き上げスピードを加速してきた。引き続き、現行の制度のもと、公労使三者がデータにもとづく議論を尽くしていく必要がある。なお、発効日が大きくばらついたことについて、「報告」は、「2026年度の目安審議の開始前に、中央最低賃金審議会等で整理・検証することが求められる」としている点については賛成である。労使双方にかかる影響について、現場の声やデータによる検証を行い、一定の方向性をとりまとめるべきと考える。
 「報告」は、特定最低賃金について、例年同様に廃止のルール化を提起しているが、今年は新たに「各地域で成長が期待される産業や医療・介護といった日常生活を支える産業等において、健全な競争条件の確保や人材の確保・定着を促す手段として、特定最低賃金を積極的に活用すべきとの指摘がある。当該産業の関係労使のイニシアティブにより、産業集積地の魅力を高めるべく、地域別最低賃金引上げとの調整を図りつつ、当該産業の賃金水準や賃金支払能力を反映した特定最低賃金額を設定することはあり得る。特定最低賃金のあり方について、各地方最低賃金審議会で関係労使を中心に丁寧かつ徹底的な議論を重ねていくことが望まれる」としている。
 人手不足のもとで産業間の人材獲得競争が課題となっていることなどを鑑みれば、医療・介護分野を含め魅力ある産業づくりのために特定最低賃金を積極的に機能させるべきであり、地域別最低賃金を引き上げれば特定最低賃金は不要とする“屋上屋論”の考え方を明確に転換すべきである。なお、地域によっては、関係労使ではない一部の使用者側委員が「関係労使を中心に丁寧かつ徹底的な議論」の障害になっているケースがあることも付言しておく。また、積極的な活用には、使用者側の積極的な関与も重要であり、地方の審議会に丸投げするかのような提起は無責任だと言わざるを得ない。
 「報告」は、企業内最低賃金について、「当該産業集積地の魅力向上のために、産業労使のイニシアティブにより特定最低賃金を設定・活用するとの考えの下、当該産業の各企業が最低賃金協定の締結を前向きに検討することは選択肢となり得る」としている。企業内最低賃金協定未締結の企業は、労働組合の要求に対して誠実に対応し、協定を締結すべきである。
 
TOPICS
【ジョブ型雇用の現状】
 今年の「報告」では、2023年までのジョブ型推進のスタンスから一定の距離を置き、TOPICSの1項目として取り扱われている。「ジョブ型雇用」について世間一般に言われていることを概要として記載したうえで、経団連「2025年人事・労務に関するトップ・マネージメント調査結果」と内閣官房・経済産業省・厚生労働省「ジョブ型人事指針」(2024年)を紹介している。
 これまでの連合見解および連合白書で指摘しているとおり、ジョブ型雇用の定義や内容についての共通理解が不十分であり、社会全体の雇用慣行を含めた雇用システムと個別企業の人事処遇制度を峻別する必要がある。記載されている内容は、個別企業の人事処遇制度に関するものであり、読者の誤解を招く「ジョブ型雇用の現状」というタイトルは不適切である。
 なお、ジョブ型人事制度については、「ジョブ型人事指針」が示すように各社の制度が多様であり、企業規模や職種などによってはジョブ型人事制度がなじまない場合や無理な導入によって人材定着に逆行しないよう、個別労使における丁寧な協議等による決定が不可欠である。

Ⅲ.おわりに
 
経団連の賃上げに関する情勢認識や問題意識は、連合と重なるところが少なくない。「報告」では、「賃金引上げの力強いモメンタムは2023年を『起点』として2024年に『加速』し、2025年には『定着』が実感できる状況となった」と評価し、2026年は「さらなる定着」をめざし、その先には賃上げノルムの確立を視野に入れている。2022春季生活闘争以降の「未来づくり春闘」のもと、その時々の情勢を踏まえつつ労使が真摯な交渉を積み重ねてきた結果、短期・中長期の時間軸でベクトルがそろってきたものといえる。お互いの寄って立つ立場の違いはあるものの、わが国社会の明るい未来と働く人・生活者の幸せを実現したいという大きな目的に違いはないと考える。「報告」では「社会的責務」「社会的規範」など「社会的」というキーワードを繰り返し用いている。会員企業のみならず社会全体を俯瞰し、未来志向の労働条件決定を促し、機運醸成をはかることを期待したい。
 2026春季生活闘争は、賃上げのすそ野を社会全体にひろげ、実質賃金の持続的な上昇を伴う“賃上げノルム”の確立に向けた正念場である。労働組合は、その実現に向けて、結果にこだわり全力で交渉に臨む必要がある。連合は、建設的な労使関係を基礎として、雇用の維持拡大、労使の協力と協議、成果の公正な分配を柱とする生産性三原則を堅持し、「こだわろう!くらしの向上 ひろげよう!仲間の輪」を合言葉に5回目となる「未来づくり春闘」を展開していく。



大企業と中小企業の比較
以 上