連合見解

 
2024年01月17日
経団連「2024年版 経営労働政策特別委員会報告」に対する連合見解
日本労働組合総連合会

 経団連は1月16日(火)、「2024年版 経営労働政策特別委員会報告-デフレ完全脱却に向けた『成長と分配の好循環』の加速」(以下「報告」)を発表した。「報告」に対する連合見解を以下のとおり表明する。
 
Ⅰ.全体に対する見解
1.評価できる点
(1)四半世紀に及ぶデフレからの完全脱却をはかる年とする決意

 「報告」は、序文において「2023年は『構造的な賃金引上げ』の実現に向けた起点・転換の年となった。しかし、これに満足することなく、今年の春季労使交渉にあたっては、昨年以上の熱量と決意をもって物価上昇に負けない賃金引上げを目指すことが経団連・企業の社会的責務と考えている。・・・・この背景には、昨年から起動した『構造的な賃金引上げ』実現に向けた歯車を、今年以降も確実に加速できるかどうかに、日本経済の趨勢・未来がかかっているとの極めて強い危機感がある。・・・わが国がデフレから完全脱却できるラストチャンスが巡ってきているとの認識を社会全体で共有して取り組んでいかなければならない」という時代認識を表明している。連合方針では、2024年は「経済も賃金も物価も安定的に上昇する経済社会へとステージ転換をはかる正念場」であり、「その最大のカギは、社会全体で問題意識を共有し、持続的な賃上げを実現することにある」としており、2024春季生活闘争の歴史的な意味について基本的に共通している。
 
(2)中小企業の賃金引上げと適正な価格転嫁
 「報告」は、「働き手の7割近くを雇用している中小企業において『構造的な賃金引上げ』を実現することが、わが国全体の機運醸成には欠かせない。そのためには、価格転嫁や価格アップに対するネガティブな意識を社会全体で変革していく必要がある」「今年は、賃金引上げのモメンタムをさらに強化し、企業内はもとより、サプライチェーン全体、日本社会全体に『環』るよう、実行・実現の年とすることが望まれる」としている。賃上げのすそ野を社会全体に広げていくためには、個別企業の努力のみならず、適正な価格転嫁と取引条件の改善が不可欠である。
 また「報告」の本文では具体的に「中小企業が提供する製品・サービスが市場で適正に評価され、付加価値に見合った対価が得られるよう、サプライチェーン全体を通じ、適正な価格転嫁は当然との認識を社会で共有すべきである。その際、原材料費やエネルギー価格だけでなく、運送料に加え、労務費・人件費の増加分を『人への投資』として価格転嫁することが重要である」、パートナーシップ構築宣言の取り組みと合わせて「内閣官房および公正取引委員会が公表した『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』を踏まえ、発注者および受注者双方の企業に対し、労務費を適切に転嫁するための価格交渉を積極的に進める行動を求めたい」としている。連合は、各業界レベル、会員企業レベルで速やかに実践することを求めるとともに、その広がりと実効性を注視していく。「報告」は、「消費者においては、適正な価格転嫁に対する理解と・・・意識改革が必要」としており、連合としても適正な価格転嫁に対する働く人・生活者の理解促進に取り組む。
 
2.相違点
(1)物価上昇に負けない賃金引上げの意味合い

 「物価上昇に負けない賃金引上げを目指すことが経団連・企業の社会的責務」(としながら、「物価動向との比較検討にあたっては、企業全体の賃金増加分(賃金総額の上昇率)だけではなく、働き手個々人における実際の賃金引上げ状況を表している『賃金引上げ率(制度昇給+ベースアップ)』を用いるなど、多面的な見方も必要である」としている。賃金は、労働者にとって生活の糧であると同時に労働の対価でもある。物価上昇によって切り下がった労働の価値を回復させるには賃金表の改定が不可欠であり、昇給分を含めた比較では物価を上回るベースアップが担保できず、生活向上につながらない。また、マクロの視点からみても、わが国全体の実質賃金の動向が重要である。社会的な視座を持って「成長と分配の好循環」を創り上げるのであれば、3%以上のベースアップを呼びかけ、実質賃金の反転と中期的な向上をめざすべきである。
 
(2)持続的な賃上げと月例賃金へのこだわり
 昨年の「報告」では、「賃金引上げ」には月例賃金の引上げの他にもインフレ手当や賞与・一時金など「多様な選択肢」があるとしていた。今年の「報告」では、「多様な方法・選択肢」という基本スタンスを維持しつつも、「継続的に物価が上昇している局面では、基本給の水準引上げ(ベースアップ)で対応し、業績の変動は賞与・一時金(ボーナス)に反映することや、複数年度にわたって目指すべき賃金水準のあり方や賃金引上げの方針を労使で検討・決定することも一案といえる」と昨年より踏み込んだ表現となっている。デフレマインドを払しょくし、新たな経済社会のステージへと転換するためには、未来に向けた「人への投資」を強化すると同時に、将来の生活設計を左右する月例賃金を継続的に引上げることこそが重要である。将来の見通しが安定しなければ、給与所得から貯蓄に回す比率が高まり、経済の好循環が回っていかない。また、規模間、雇用形態間、男女間などで大きな賃金格差がある現状および、人材の確保・定着のためにも魅力ある労働条件の整備が急務であることなどの観点から、月例賃金の改善を優先して日本社会全体の賃金の底上げを進めるべきである。
 
(3)支払い能力偏重からの転換
 「報告」は、「①社内外の様々な考慮要素(経済・景気・物価の動向、自社の業績や労務構成の変化など)を総合的に勘案し、②適切な総額人件費管理(企業が社員を雇用するために負担する費用の総和)管理の下で、③自社の支払能力を踏まえ、④労使協議を経た上で、各企業が自社の賃金を決定する」ことが「賃金決定の大原則」であるとしているが、中期的なマクロの視点を付け加えている。すなわち、「適度な物価上昇を前提に、為替の水準(円安状態)、労働力需給の状況(需給逼迫)、実質GDP成長率の推移(安定上昇)なども勘案しながら、中期的に物価上昇に負けない賃金引上げを継続することが考えられる」、「政府・日銀に対して、2%程度の『適度な』物価上昇の実現に向けた政策を求めながら、『官民連携によるデフレからの完全脱却』をキーワードに、昨年以上の賃金引上げに果敢に取り組んでいきたい」としている。企業を取り巻く環境条件がダイナミックに変化している時代の転換点にあって、個別企業の支払い能力の視点に偏重したデフレ下の思考パターンを変えていく必要がある。個別労使の真摯な話し合いを大事にしつつ、その前提となるマクロ経済運営と国民生活の向上に資する賃金決定のあり方について、経団連と連合を中心に研究することを呼びかける。
 
(4)成長に見合った分配の実現
 今年の「報告」では、2度の石油危機の経験などを含め、物価、賃金、生産性などに関するTOPICSが増えていることも特徴の一つである。いくつかのTOPICSにおいて実質労働生産性の伸びを物差しの一つとして重視しているが、そもそも日本全体の生産性と賃金に乖離があり、経済成長しているにもかかわらず実質賃金が伸びない状況が四半世紀以上続いていることが問題である。「人への投資」を後回しにして賃金抑制を続けコスト削減で短期利益を追求してきたことが、日本の労働生産性の低下(OECD38か国中31位)の最大の原因である。また、労働分配率低下の長期トレンドは、「多くの先進国に共通」という認識が示されているが、実質賃金が四半世紀にわたり改善されずに労働分配率が下がり続けている国は主要国のなかで日本ぐらいである。これは、デフレマインドの形成・定着、国際的に見劣りのする日本の賃金、「安いニッポン」など構造的な課題を引き起こしてきた一因ともなっている。いまこそ、成長に見合った分配を実現し、働く人・生活者が生活向上の実感と未来への希望を持てる社会へと転換をはかるべきである。そのためには、建設的な労使関係を基礎として、雇用の維持拡大、労使の協力と協議、成果の公正な分配を柱とする生産性三原則をナショナルレベル、産業レベル、地域レベル、企業レベルで真剣に実践していく必要がある。

Ⅱ.「第Ⅰ部 『構造的な賃金引上げ』の実現に不可欠な生産性の改善・向上」の個別項目についての見解
※ 以下の項目番号は「経労委報告」の章建てに準ずる
1.「働き方改革」と「DE&I」のさらなる推進による生産性の改善・向上
(1)アウトプット(付加価値)の最大化

②労働時間法制における環境整備
 「報告」は、「『労働時間をベースとする処遇』と、・・・『労働時間をベースとしない処遇』『仕事や役割・貢献度を基軸とする処遇』の組み合わせを可能とする労働時間法制への見直しの検討が必要」としているが、労働者が安心して働き続けるためには、時間外労働の上限規制の遵守徹底をはじめとした労働者の健康とワークライフバランスの確保に向けた取り組みを一層推進すべきである。
 また、「一律・画一的な法制ではなく、過半数労働組合をはじめ、企業労使が積極的に話し合い、働き手の多様なニーズと自社の実態に応じた働き方が柔軟に選択できるような仕組みを検討することが望ましい」とするが、労働基準法は最低基準を定めたものであり多様な働き方は現行制度でも十分に可能である。個別労使による選択の尊重という名の下に労働関係法令の規制緩和につながる議論がなされることがあってはならない。
 
③「DE&I」のさらなる推進
(b)DE&I推進の課題

 「報告」において、「『家事・育児は女性が行うもの』といった役割分担意識をもつ経営者や上司、同僚によって、女性社員の就業・成長機会や男性社員の育児機会が喪失している可能性」について指摘し、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)への対策をDE&I推進の重要な課題と位置付けたこと、「LGBTQをはじめとする性的マイノリティへの理解を深めることは、DE&Iの推進はもちろん、人権尊重経営の観点からも欠かせない」と述べている点は評価できる。
 なお、「働き手が自身のアンコンシャス・バイアスに気付き、改める機会を提供すること」に関しては、働き手のみの問題ではなく、経営者自身の課題でもあることを認識し、自ら取り組んでいくことが重要である。
 性的マイノリティに係る課題に関しては、「報告」が指摘するように、「包摂」と「心理的安全性を高める環境整備」に向けた取り組みを一層促進することが重要であり、誰もが多様性を互いに認め合うことのできる職場環境を醸成していく必要がある。
 
2.「円滑な労働移動」の推進による生産性の改善・向上
 「報告」は、「円滑な労働移動を推進」し、成長企業・中小企業等が人材ニーズを満たす「労働力を確保することで、社会全体での生産性を改善・向上させることが不可欠」「硬直的とされるわが国の労働市場を円滑な労働市場に適したものへと創り上げていく必要がある」としている。成長産業や人手不足産業では、まずは、労働者が自ら移動したいと思えるよう、処遇や雇用環境の改善、および能力開発機会の拡充等を通じて「雇用の質」を高めることが重要である。労働移動の促進が目的化することで、個別企業の人材育成意欲が削がれるようなことがあってはならない。

(1)働き手の取組み
①主体的なキャリア形成

 「報告」は、「働き手自ら」が「企業による支援策も活用しながら、主体的にキャリアプランを設計することが望まれる」としている。労働者が適切にキャリア形成を行うためには、企業は人材育成方針等を明らかにしたうえで、非正規雇用で働く者を含む、すべての労働者に対して等しく能力開発機会を提供すべきである。その際には、労使協議等をつうじて、費用補助や休暇制度等の導入、適切な評価と処遇改善を一体的に行い、「報告」が指摘する「仕事と学びの好循環」につなげていくことが重要である。
 
(2)企業の取組み
 今年の「報告」では、ジョブ型推進に関する本文の直接的な記載は大幅に減っており、「メンバーシップ型雇用の持つメリットを活かしながら、ジョブ型雇用の導入・拡大を検討し、最適な『自社型雇用システム』を確立することが肝要である」との言及のみである。これまでの連合見解および連合白書で指摘しているとおり、ジョブ型雇用の定義や内容についての共通理解が不十分であり、社会全体の雇用慣行を含めた雇用システムと個別企業の人事処遇制度を峻別する必要がある。個別企業の人事処遇制度については、それぞれの職場の実態を踏まえて労使で話し合い、合意の上で改定していくべきものである。イメージ先行のジョブ型論では、人材獲得競争の激化や技術革新等による仕事内容の変化のスピードに十分対応できず、現場の実態と乖離する懸念がある。
 また、日本企業の競争力を弱めてきた一因として、長期にわたり「人への投資」を削減した結果であることを率直に反省すべきである。TOPICS「人材投資額・OJT実施率の国際比較」で諸外国と比べ見劣りする日本の現状分析をしているが、要員不足・現場力の低下などで将来を見据えた人材育成ができないという根本原因を直視し現実的な解決策を検討すべきである。人材を育てずに初任給をはじめとする採用時の賃金水準だけ高くし、人材を引き抜いて企業経営を行うといった小手先の対応では長続きしないことは言うまでもない。
 
(3)政府・地方自治体等の取組み
②「労働移動推進型」セーフティーネットへの移行

 「報告」では、雇用調整助成金を含むセーフティネットについて、「失業予防機能は維持しつつ、『労働移動推進型』のセーフティーネットへと移行していく必要がある」と指摘している。しかし、平時においても雇用調整助成金が雇用維持に果たす役割は極めて大きく、在籍出向や教育訓練による活用も含め、今後も雇用の安定・維持のための重要なセーフティネットとしての機能を維持すべきである。
 また、労働移動の推進に向けて「労働者保護の観点から、(解雇無効時の金銭救済)制度の創設の検討を急ぐべきである」としているが、同制度は安易な解雇を促進し、結果として不当解雇を正当化しかねない。さらに、職場環境を改善せずとも労働者に金銭を支払うことで労働契約の解消を可能とし、本来守られるべき労働者の地位をないがしろにするものであり、断じて導入すべきではない。
 
3.人口減少下における労働力問題への対応
 「報告」は、「女性や若年者、高齢者、障害者、有期雇用等労働者など多様な人材の活躍推進」に関し、「特に、女性と高齢者、有期雇用等労働者のさらなる活躍推進が、『量』と『質』両面における対応の鍵」「外国人材の受け入れ拡大とその環境整備も必須」「自社およびグループ会社、サプライチェーン全体にかかる人権を尊重した経営・行動が求められている」など、労働力問題への対応の一環として、活躍促進および人権を論じていることは問題である。
 「多様な人材の活躍促進」や「人権を尊重した経営・行動」は、労働力不足の有無を問わず、各企業、職場において取り組まれるべき大前提であり、労働力問題への対応手段ではない。労働者の人権が守られる職場環境は、多様な人材の確保と活躍のための最も重要な土台であることを認識すべきである。

(1)女性
①女性の就業状況・動向と課題

 「報告」は、「『就業調整(年収の壁)』については、抜本的な見直しも含めて検討する方針が示されており、その動向に留意する必要がある」とし、TOPICSの1項目として取り扱っており、「働き方に対して中立的な制度の構築に向けた抜本的な議論」の必要性の認識は一致している。雇用形態や勤務先の事業所の規模などの違いにより社会保険の適用有無が変わることは不合理であり、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」のような弥縫策ではなく、各要件の撤廃や見直しにより、すべての労働者への社会保険の適用を進めることを通じて、いわゆる「年収の壁」の解消をはかるべきである。
 なお、「報告」にある「年収『106万円』を超えると、勤務先の社会保険に加入」との記載について、厳密には短時間労働者等の社会保険の加入要件は年収ではなく月額賃金であり、誤った認識を生みかねない。いわゆる「年収の壁」の解消には労使による正しい制度理解も極めて重要であり、正確な情報を発信すべきである。
 
②働き続けられる環境の整備
 「報告」が、働き続けられる環境整備のために、「女性に偏っている家事・育児の負担を軽減すべく、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)を払拭するための研修の実施や、男性による長期の育児休業取得の促進などが求められる」と指摘したことは、連合の考えと一致している。
 また「報告」は、女性の活躍を一層推進し、男女の賃金格差を解消するために重要な取り組みとして、「出産・育児・介護などのライフイベントに応じて柔軟な働き方を選択することで就労を継続できる環境づくり」「自身の健康等によりやむなく離職した人材が正規雇用で復職できる環境づくり」などを挙げ、「出産や子育て、介護等の理由で休職した社員に対しては、適切なトレーニングやスキル向上の支援、能力・スキルが発揮できる場の提供など、キャリア形成のサポートが重要である」などを挙げており、これらの取り組みはいずれも重要である。
 なお、これらは女性に限って必要な取り組みではないことを踏まえれば、「女性」という項目を掲げ、女性だけの課題であるかのような「報告」の記載は問題である。長時間労働を前提とした働き方の見直しとあわせ、男女がともに家庭とキャリアの両立、調和を図ることができるようにすることが重要であり、男女のいずれにも関係する課題であることを認識すべきである。
 
③人材育成の強化
 「報告」における、「女性の理工系人材が不足している」という課題について、家庭やマスコミを含めた周囲の固定観念・偏見の払拭が不可欠であることや、ロールモデル女性との交流、理工系職場見学・就労体験などが必要との認識は一致している。学校や地方自治体、企業が協力し、理工系女性人材の確保・育成に取り組む必要がある。
 
5.法定最低賃金に関する考え方
 地域別最低賃金について、政府が「2030年代半ばまでに全国加重平均1,500円」という中期目標を表明したことを受けて、「報告」は、「この目標を見据えながら、毎年度の各地方最低賃金議会での審議を経て決定される引上げ額を積み上げていくことで、全国加重平均額が上がっていくことになる。その際、最低賃金決定の3要素を総合的に勘案しながら、毎年度の事業環境を丁寧に確認した上で議論する必要がある」としている。連合も、毎年の上げ幅については、現行制度のもと、公労使三者がデータに基づき議論を尽くして決定すべきと考える。一方、中期目標については、働く貧困層の解消に向けて国際的な動向も踏まえ、より高い水準をめざすべきである。また、「報告」は、「十分な準備期間の確保に向けて、発効日は柔軟な設定が可能であることを踏まえ、現行の10月にこだわらず、例えば、区切りのよい年初めの1月や年度初めの4月を有力な選択肢としながら、関係者間で早めに議論を始める必要がある」としている。最低賃金水準近傍で働く人の暮らしは物価高等によりさらに厳しさを増しており、できるだけ早期に適用すべきであり、1月発効など論外である。
 特定(産業別)最低賃金について、「報告」は、昨年に引き続き「廃止のルール」化を提唱しているが、「事業の公正な競争の確保に資する」という制度の主旨を一顧だにしておらず、まったく受け入れがたい。事業の継続・発展のために人材の確保・定着が喫緊の課題となる中、魅力ある産業づくりのためにも労使のイニシアティブを発揮し継続・強化すべきである。改めて経団連に対し、特定(産業別)最低賃金の意義と役割を認識し、会員企業および各地方経営者団体に対して適切な助言を行い、真摯な審議が実施されるよう環境整備を求める。

Ⅲ.おわりに
 「報告」は、昨年に引き続き「持続的な賃金引上げの実現、日本全体の生産性向上による『成長と分配の好循環』の必要性、2024年春季労使交渉がわが国経済社会のステージ転換をはかる正念場との認識など、連合が2024闘争方針で示している基本的な考え方や方向性、問題意識は、経団連と多くの点で一致している」、「わが国が抱える社会的課題の解決に向けて、未来を『協創』する労使関係を目指していく」としている。
 世界情勢は一層不安定化し、自由と民主主義の価値観が揺らいでいる国も少なくない。経団連と連合は、これまでも、民主主義社会における合意形成の一翼を担い、社会の安定帯としての役割を担ってきたが、これからも未来に向け、その役割を果たしていかなければならない。なお、連合は建設的な労使関係を基礎とし、社会的な広がりのある労働運動を展開しているが、憲法に基づく労働基本権の行使は否定されるべきではない。
 連合は、2024春季生活闘争がステージ転換の正念場であるとの強い決意のもと、企業レベルの労使関係のみならず、国・地方・産業各レベルでの問題意識の共有化と建設的で未来志向の話し合いを行い、すべての働く人の先頭に立って「未来づくり春闘」を推進していく。
 なお、能登半島地震への対応についても、行政機関とともに労使を含めた日本全体で、復旧・復興を支援していく必要がある。わが国の経済社会が新たなステージのもとで好循環と活力を取り戻すことが、復旧・復興支援の環境を整えスピードアップにもつながるものであり、その点からも2024春季生活闘争の意義と役割は一層重要性を増している。

以 上