連合見解

 
2020年01月22日
経団連「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」に対する連合見解
日本労働組合総連合会

 経団連は1月21日、「2020年版 経営労働政策特別委員会報告 -Society 5.0時代を切り拓くエンゲージメントと価値創造力の向上」(以下「報告」)を発表した。
 「報告」に対する連合見解を以下のとおり表明する。
 

1.全般に対する見解
(1)日本全体の問題に関わる危機感が感じられない
 「報告」からは、残念ながら日本全体の問題に関わる危機感が感じられない。わが国は全ての問題において、持てる力を発揮するどころか、どんどんと「しぼんでいく国」になってしまっているのではないだろうか。深刻なのは少子・高齢化の問題だけではない。わが国における約20年間にもわたる格差拡大は、社会全体の貧困化をもたらし、世界の流れとの隔絶とも相まって抜き差しならない状況になっている。賃金水準も先進諸国に比して圧倒的に劣後している。大企業と中小企業の格差を拡げ続け、低処遇で不安定な雇用の姿を増大させ続けてきた20年でもある。一方で、雇用の世界からはじき出された無業者や引きこもりが増加し、他方で、深刻な人手不足に慌てて外国人労働者に門戸を開いたものの、日本を「選んでもらえない」実態も露わになっている。
 税財政の問題も同様である。根本的なところにフタをしたままで、目先の支出削減策が毎年繰り返されるばかりである。雇用や生活保障のセーフティネット等、欧州先進国の状況や先進事例とは無縁のままに行き詰っているのがわが国の実態ではないか。「報告」では、こうした問題意識にあまり触れられておらず、日本全体の課題がどこまで視野に入っているのか、疑問を持たざるを得ない。
 
(2)大企業の立場に偏った問題意識が大半を占めている
 20年間にわたるわが国の格差拡大のなかで、中小企業やいわゆる非正規と言われる雇用形態に関わる諸課題は置き去りにされたままである。「報告」では、それらの課題克服に対する問題意識が決定的に弱く、大企業の立場に偏った問題意識が大半を占めている。財界総本山ともいわれる経団連としての務めは、これらの問題に対して注力をし、世に発信をすることなのではないのだろうか。
 そもそも中小企業や非正規と言われる雇用形態は、賃金が上がらない仕組みに埋没させられているのであり、そのことがどれだけ負の状況をもたらし続けてきたと認識しているのか。一人ひとりの働き甲斐を阻害し、生活力をそぎ落とし、ひいては日本経済にダメージを与えてきたことへの振り返りが全く見られない。
 「報告」は、労働組合の組織率の減少と同一業種の企業の間で経営環境や収益の動向に大きな差が生じている事を背景に、「いわゆる『春闘』が主導してきた業種横並びによる集団的賃金交渉は、実態に合わなくなっている」としているが、そもそも横並びを崩してこれらの問題を招来してきたのは経営側ではないのか。それらに目を覆ったままでは、格差是正に向けた中小企業の10,500円以上の要求水準に対する評価を語る資格はないと言わざるを得ない。
 
(3)「転換期を迎えている日本型雇用システム」とはどこに向かっての言辞か
 「報告」には「転換期を迎えている日本型雇用システム」とあるが、建設的な労使関係のある企業では、いわゆる正社員の採用・育成については、すでに労使の知恵と工夫でかなりの改善が積み重ねられてきている。一方で、中小・零細企業や正社員以外の様々な雇用形態で働く労働者においては、そもそも議論の対象となるような雇用システムが確立していないケースがほとんどである。日本の企業の99%は中小企業であり、いわゆる正社員以外で働く労働者が雇用労働者の4割を占める中、「転換期を迎えている日本型雇用システム」という文言自体がミスリーディングと言わざるを得ない。
 一方で大企業においても、外国人労働者を含めた高度人材の起用が不十分に思われるが、それは単に経営側の対応に踏み込みが足りないからであって、労使関係に責任を押し付けられるような事柄とは次元が異なると考える。
 「報告」は、日本全体の雇用のセーフティネット構築に意を払うことなく、経営サイドの都合のみが優先されていると言わざるを得ない。わが国が「しぼんでいく国」であるとの危機意識のもとに、内向き志向を脱却することが不可欠である。業種によって雇用情勢にかなりばらつきがあるなかで、今後の外国人労働者の受け入れ対応や、AIの導入見込みやその影響等を見通しながら、分野ごと・業種ごとに雇用の将来像を描いておくことが不可欠である。多くの労働者を雇用する責任ある立場として、そのことこそ強調すべきである。
 

2.連合「2020春季生活闘争方針」への見解について
(1)企業内最低賃金協定の締結は「個別労使の自主性に委ねるべき」としていることについて
 「報告」では、連合の基本的な認識については「共有しているといえる」とし、「様々な賃金要求指標を示した上で、具体的な要求水準の決定を産業別労働組合などの構成組織に委ねることは、実態に適った現実的な交渉の実現に寄与すると考える」としている。一方で、「底支え」の要求指標である「企業内最低賃金協定の締結」については、「協定締結の是非とその内容は、個別労使の自主性に委ねるべきである」としている。労使自治の原則においては、すべての要求項目の交渉が個別労使の自主性に委ねられているが、企業内最低賃金協定だけを特筆しているのは、第2章の5.(2)特定最低賃金にある「企業内最低賃金協定の影響は、締結した企業にとどまらない可能性があることに留意が必要」との考え方が背景にあるものと考える。まさに、企業内最低賃金協定の締結には、企業内で働くすべての労働者の生活の安心・安定および産業の公正基準を担保する役割があることを今一度認識した上で、真摯な交渉に臨むべきである。
 

3.2020年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスに対する見解
(1)「多様な方法による賃金引上げ」だけでは、分配構造の転換にはつながらない
 「報告」は、「『賃金引上げ』と・・『総合的な処遇改善』を車の両輪として位置付け、多様な選択肢の中から自社に適した方法・施策を検討・実施していくことが重要」とし、「その際、正社員と同様に、パートタイム・有期雇用社員についても、適正な利益配分とエンゲージメント向上の観点から検討していく必要がある」としている。具体的な方策としては、「『基本給』『諸手当』『賞与・一時金』の3つを柱に据えながら、各企業において、多種多様な方法による組み合わせを含めて議論」としているが、そもそもこうした手法がとれるのは大企業だけである。賞与・一時金は「大手を中心に」とあるとおり、中小企業やパートタイム・有期雇用社員には支給されないケースも多く、基本給において職務給や役割給などへの賃金項目の配分を厚くしても、賃金制度のないパートタイム・有期社員の賃金は引き上がらない。デジタル革新への対応やサプライチェーン全体の生産性向上を経営上の大きな課題とするならば、生み出した付加価値を大企業の中だけでなく、中小企業や様々な雇用形態で働く人も含めどのように分配すべきか、その手法についてこそ、経団連が示すべきである。
 

4.個別項目についての見解
(1)第1章 1.(2)Society 5.0時代にふさわしい労働時間制度
 「報告」は、「企画業務型裁量労働制の対象業務を拡大する法改正を早期に実現するよう強く求めたい」「高度プロフェッショナル制度は、・・イノベーションの担い手である高度専門職の能力を最大限発揮させる上で有効であり、導入する企業の増加が期待される」としているが、企画業務型裁量労働制は、手段や時間配分など業務の遂行方法について労働者の裁量が真に認められる業務のみ対象とされるべきであり、対象業務の拡大は、長時間労働・過重労働につながるおそれがあり、行うべきではない。また、高度プロフェッショナル制度は、長時間労働を助長しかねずワーク・ライフ・バランスの実現も困難にする恐れがあり、本制度の導入には慎重を期すべきである。
 
(2)第1章 4.地域の中小企業の新たな取組み
 「報告」は、中小企業について「日本経済や社会の牽引役として発展し、中小企業の充実こそが日本の強みとして競争力向上に大きく貢献してきた」「地域創生の担い手としての大きな役割が期待されている」と述べた上で、今後については「業界の枠を超えた地域の企業共通のプラットフォームの形成・活用などの様々な取組みが必要」「地域では新たな価値創造に向けて、工夫を凝らした様々な取組みが進められている。・・こうした事例は、他地域で応用できるものが多く、今後、行政機関や経済団体等が連携し横展開を進める必要がある」としている。連合としても中小企業の経営基盤の強化と地域の活性化に向けたつなぎ役として「連合プラットフォーム」を立ち上げ、様々な関係者との対話の場づくりを進めており、経団連にも積極的な参加を期待したい。
 
(3)第2章 1.働き方改革関連法への対応
 「報告」は、2020年4月より適用が開始される中小企業への時間外労働の上限規制に対する早急な対応および、「同一労働同一賃金」の法施行に対応した体制整備の必要性を指摘しており、法令遵守のための取り組みの徹底を求める連合の考え方と認識は同じである。働き方改革が真に職場に定着したものとなるよう、職場慣行や商慣行の見直しを含め、労使やサプライチェーンが一体となって取り組むことが必要である。
 
(4)第2章 2.ハラスメントをめぐる法改正と企業の対応
 「報告」は、多様性の尊重を掲げつつも、性的指向・性自認に関するハラスメントおよび望まぬ暴露であるいわゆるアウティングもパワーハラスメントになり得ることについて全く触れておらず、その姿勢に疑問を呈さざるを得ない。加えて、職場のパワーハラスメント防止に向けて、「『雇用管理上講ずべき措置』を実施することがまず基本」としているが、すでに法制化されているセクシュアル・ハラスメント等の措置でさえ不十分な企業が多い中、その方針は消極的な対応と言わざるを得ない。ハラスメント対策の実効性を高めるためには、指針を踏まえ、衛生委員会の活用など、労働組合や労働者の参画を通じて、労使の取り組みを強化することが重要である。
 また「報告」は、女性活躍推進を「ダイバーシティ経営の中でも・・最も重要なテーマの1つ」としているが、日本のジェンダーギャップ指数が153カ国中121位と過去最低を記録し、世界から大きく後れを取っている中、その取り組みは改正女性活躍推進法にもとづく対応に留まっている感が否めない。
 今後、「報告」が掲げる「様々な属性、キャリア、価値観を有する多様な働き手の一人ひとりが、互いに刺激し合いながら、能力や特性を最大限に発揮し、活躍できる組織づくり」を推進するためには、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を払拭し、ハラスメントの根絶、男女間賃金格差の是正を含めた積極的な取り組みを行っていく必要がある。
 
(5)第2章 3.70歳までの就業機会の確保に向けて
 「報告」は、「①雇用以外の措置のみを採用する場合、労使合意を得るための努力が求められること、②対象者を限定する基準の設定が可能であること、③複数の措置の組み合わせが可能であることなどに留意する必要がある」としているが、70歳までの就業を考えるうえで、雇用形態に関わりなく希望者全員が65歳まで働くことのできる環境整備を行うことが先決であり、「同一労働同一賃金」に関する法律への確実な対応が前提となる。
 その上で、雇用以外の措置のみを採用する場合には、集団的労使関係による労使合意がその要件とされることから、労使合意がなされていない場合には改正高齢法の努力義務を完全に履行したとは言えないことを労使双方が認識しておくべきである。加えて、労働組合がない職場などにおいても労使合意の実効性を担保していく必要がある。
 
(6)第2章 4.障害者雇用の現状と今後の課題
 「報告」は、「障害者の受入れに当たっては、障害特性に配慮したきめ細かな支援を行い、持てる能力を最大限発揮できる職場づくりを行うことが重要である」としているが、2020年度末までに法定雇用率の引き上げが予定される中、現状においても未達成企業が半数近くあり、より一層の努力が必要である。また、法定雇用率の達成だけでなく、そこで働く障がい者のディーセント・ワークの確保が重要である。さらに、雇用政策と福祉施策の一体的展開の推進に向けて、就業中や社会活動参加の際にも、収入を得つつ生活支援を受けることのできる制度の整備について検討する必要がある。
 
(7)第2章 5.最低賃金制度に関する考え方
 地域別最低賃金について「報告」は、近年の決定プロセスと結審から発効までの期間、中小零細企業への実効性ある支援が課題である等指摘しているが、現行水準が適正であるかどうかについては言及がない。連合は今後とも、最低賃金法の主旨に鑑み、セーフティネットとして実効性ある水準をめざしていく。
 一方、特定(産業別)最低賃金については、引き続き、地域別最低賃金を下回ったものは「廃止すべき」としているとおり、自らの産業に対する矜持が全く感じられない。日本の多くの産業がもはや世界に伍していくことが難しくなっていることと二重写しになっており、遺憾を通り越して情けないと言わざるを得ない。
 廃止することを目的化するのではなく、産業における公正競争を確保し、公正な賃金決定に資するという特定(産業別)最低賃金の意義と目的を今一度認識し、その役割を発揮できる環境を整えるという経営者としてあるべき態度に立ち返り、各審議会に臨むことを強く求める。


5.結びに
 「報告」は、「働き方改革」における中心的な課題の1つは、「働き手一人ひとりの自発性と主体性を高める『エンゲージメント』の向上である」と位置づけている。
 まさに労働者は、単なるコストではなく、新たな付加価値を創造する源泉である。日本の産業・企業は、一人ひとりの懸命な働きによって成り立っており、成長の原動力は「人財」に他ならない。労使を取り巻く環境が大きく変化する今こそ、「人」を大事にしてきた日本的経営の意義を再認識する必要があるのではないか。
 「人を活かし、人が活きる」社会、企業、職場としていくためには、すべての働く者の「働くことの尊厳」を守り、「豊かに働く」ことのできる環境が不可欠である。
 一人ひとりの働きがいを高め、持てる能力を最大限に引き出すための環境整備は、労使の責務と考える。
 これらの認識を踏まえ、私たちは、日本の将来を切り拓く、意義ある2020春季生活闘争を展開していく。

【PDFファイル】
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/2020/hoka/20200122kenkai.pdf?5130


 

以 上