事務局長談話

 
2019年07月25日
厚生労働省「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」報告書に対する談話
日本労働組合総連合会
事務局長 相原 康伸

  1. 副業・兼業を行う者の健康管理、上限規制、割増賃金について選択肢が示される
     本日、厚生労働省「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」(座長:守島基博 学習院大学経済学部教授)は、報告書を取りまとめることとした。「報告書」では、副業・兼業を行う者の健康確保対策を強化する方向性が示されている。他方、時間外労働の上限規制と割増賃金については、労働時間の通算を行わず、事業主ごとに適用することが選択肢として示されており、懸念を抱く。

  2. 上限規制と割増賃金の事業主ごとの適用は法の目的を没却する
     労働基準法第38条は、労働時間に関する規定の適用については事業場が異なる場合も労働時間を通算する旨を定め、事業場を異にする場合とは事業主が異なる場合も含むとの行政解釈が示されている。「報告書」で示された、上限規制と割増賃金の規定の適用にあたっての労働時間の通算について、副業・兼業の上限時間を月単位などで設定して労働時間をその時間内に収めるようにするなど、実務を容易にする方法を設けるという選択肢は、検討すべき課題である。しかし、異なる事業主のもとでの労働時間を通算せず、事業主ごとに上限規制と割増賃金の規定を適用するという選択肢は、労働者の健康確保という法の目的を没却すると言わざるをえない。

  3. 健康管理に関する選択肢は現行制度から前進するもの
     労働者の健康管理に関しては、労働安全衛生法において、定期健康診断や長時間労働者への医師の面接指導などの実施が、事業者に義務づけられている。ただし、実施対象者の選定にあたって労働時間の通算は行わなくて良いこととされている。「報告書」では、労働者の自己申告によって把握した通算労働時間などにもとづいて、健康確保措置を講ずるように配慮することを事業者の公法上の責務とするという選択肢、長時間労働者の労働時間の短縮措置を講ずることなどを事業者に課すという選択肢、副業・兼業の申告があった場合に、現行の健康確保措置の枠組みの中に組み込むという選択肢が示されている。いずれも現行制度から前進するものである。

  4. 副業・兼業を行う労働者が十分に保護されるように取り組む
     「報告書」では、副業・兼業の場合の労働時間管理について、「労働政策審議会において、引き続き積極的な議論が行われることを期待する」とされている。しかし、副業・兼業は、長時間労働となるおそれがあるうえ、労災保険など様々な法制度に関する課題も山積しており、それらについても早急に議論を深め結論を見出す必要がある。連合は、労働基準法をはじめとする法制度が、副業・兼業を行う労働者にも趣旨に沿った形で適用され、実際の運用においても十分な保護が及ぶものとなるよう、取り組みを強化していく。
    以 上