事務局長談話

 
2019年06月13日
厚生労働省「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」 「論点の整理」に対する談話
日本労働組合総連合会
事務局長  相原 康伸

  1. 「論点整理」は「一定の見直し」にとどまり具体的な方向性を示さず
     本日、厚生労働省「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」(座長:山川隆一 東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、「論点整理」を取りまとめることとした。本検討会は、民法改正によって、債権が消滅して請求できなくなる消滅時効の期間が大幅に改正されたことを受け、労働基準法第115条が規定する賃金等請求権の消滅時効の在り方について検討してきた。「論点整理」は、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要としたが、具体的な方向性については、「速やかに労働政策審議会で検討」すべきとするにとどまっており、不十分である。

  2. 実務に及ぼす影響は大きいが十分な論点整理はなされたのか
     「論点整理」は、賃金請求権の消滅時効期間について、労使の意見の隔たりが大きいことなどに留意しつつも、労基法上2年の消滅時効期間を将来にわたって「維持する合理性は乏し」いとの見解を示している。また、年次有給休暇については、発生した年のなかで取得するという年休権の制度趣旨を踏まえれば、賃金請求権と同様の見直しを行う必要性はないとの考え方で概ね意見の一致をみている。さらに、賃金請求権の消滅時効を見直す場合の適用基準について、①労働契約締結日、②賃金等債権発生日という2つの考え方を示している。しかし、労働者や実務に及ぼす影響が大きい課題であり、論点整理として十分なのか懸念が残る。

  3. 労働債権の消滅時効期間は改正民法と同じにすべき
     連合は、賃金や退職金等労働債権に関する原則的な時効期間については、契約に関するルールを規定する改正民法と同様に5年とすべきとの考え方を2017年6月に取りまとめ、検討会のヒアリングにも臨んだ。連合に寄せられる労働相談には、残業代や未払い賃金請求に関して、2年の消滅時効により全額を請求できない事例などもみられる。最低基準の労働条件を保障する労基法が、民法の定める一般的な権利保護水準を下回ることは、労働者保護という労基法の性質を変質させかねず、問題である。

  4. すべての労働者の労働債権に関する権利保護を求めていく
     今後、「論点整理」を受けて、労働政策審議会にて議論が行われる見込みである。労働者保護をはかるために賃金については、民法が定める1年より長い2年という消滅時効を設けた労基法の趣旨を踏まえれば、賃金の確実な支払いを確保し、労働者の権利保護がより強化される方向で改正を行うべきである。連合は、労働者の誰もが等しく、2020年4月1日の改正民法施行と同時に改正民法同様5年の消滅時効期間の適用を受けられるよう、今後の労働政策審議会における議論に臨んでいく。
    以 上