連合第97回中央委員会 会長挨拶
日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子
<はじめに>
皆様、おはようございます。本日は、ご多忙の中、第97回中央委員会にご参加いただき、誠にありがとうございます。第19期に入り、半年が経過しました。これまでの取り組みについて、いくつかの点に絞って所見を申し述べ、本委員会でのご議論に供したいと存じますが、それに先立ち、中東情勢に関連して一言申し上げます。
アメリカとイスラエルがイランを攻撃してから、今日でちょうど3カ月を迎えます。はじめは、武力を用いた国際問題の解決はいかなる理由があろうとも認めることはできないという平和を望む気持ちを持ちながら、そうは言っても、日本から遠く離れた場所での出来事として見ていた方も世の中には大勢いらっしゃったのではないかと思います。
しかし、日が経つにつれて、中東産の原油が日本に届かなくなるかもしれないという懸念から令和のオイルショックが起こるのではないかという不安が増し、そして、実際にホルムズ海峡が封鎖され、原油が届かなくなってしまいました。一般市民にとっては、ガソリンや軽油など日常生活でもっとも馴染みのある化学製品の供給が不安定になるだろう、ということはすぐに予想がつきましたが、原油由来の化学製品がありとあらゆるものに利用されて私たちの生活が成り立っていることを、これほど切実に実感することになろうとは、およそ予測がついていたとは言えなかったのではないでしょうか。まさに、対岸の火事として眺めてしまっていた、と我に返る方もいたのではないでしょうか。足止めされた船舶には、私たちの仲間の船員の皆さんもおり、早期に状況が打開されることを願っています。
折しも、春季生活闘争の真っただ中で起こったことで、労使交渉へ悪影響が出るのではないかと懸念いたしました。残念ながら、それは今、少しずつ現実のものとなっていますし、操業を停止する企業も出始め、労働者の生活に直接的な影響が出ているところもあります。
そこで、構成組織の皆様のご協力を得て現場実態調査を実施し、そこから得られた個別具体的な情報をもとに、中東情勢に伴う重要物資安定確保担当大臣でもある赤澤経済産業大臣に対し「緊迫が続く中東情勢から国民生活を守るための緊急要請」を行いました。ご協力いただいたすべての皆様に改めて御礼申し上げます。
赤澤大臣に対しては、「物資の供給動向に関する正確な情報の共有・発信」「事業者が雇用を守るための支援策などの拡充・周知」「国民の省エネ・倫理的な消費行動の推進、転売防止」について、迅速かつ機動的に対応するようお願いをいたしました。
政府は、流通の目詰まりの解消に取り組んでいるとしていますが、サプライチェーンで目詰まりが発生し、中小企業まで必要なものが回ってこないという声が多く寄せられるなど、政府の認識と現場の実態とに大きな乖離があるように感じております。改めて政府に対し、必要物資が中小企業まで行き届くように対策を講じるようお願いしたいと思います。そして、現場の実態を熟知している労働組合として、状況を注視しながら、必要な調査や要請を今後も行って参りたいと思いますので、引き続き皆様のご協力をお願いいたします。
<2026春季生活闘争について>
さて、ここからはこれまでの取り組みについて触れていきたいと思います。一つ目は、2026春季生活闘争についてです。
はじめに、昨日の「全国賃上げ波及5.27街頭アピール行動」と、「地方連合会合同記者会見」にご参加いただいた皆様のご協力に心より感謝申し上げます。東京駅前で47地方連合会の代表者が、みんなの生活向上につながる賃上げや、組合づくり・仲間づくりの必要性を訴えました。のちほど、「中間まとめ」を提起し、ご議論いただきますが、春季生活闘争の基本方針に掲げた「5%以上の賃上げ」という目標を現時点では達成しています。「人への投資」を起点とする好循環が回っていく「賃上げがあたりまえの社会」に向けて、着実に前進していると受け止めております。交渉期間中に中東情勢が激変し、日本経済や国民生活への影響が懸念される状況でしたが、危機感を持ちながらも今後の動向を冷静に見極め、交渉を進めた労使が多かったように思います。
結果にこだわり、粘り強く交渉を積み重ねてきた加盟組合の皆様、交渉を支援した構成組織、地方連合会の皆様、そして、現在も交渉にあたっているすべての皆様のご奮闘に敬意を表します。
中堅・中小組合も健闘しておりますが、適切な価格転嫁・適正取引の取り組みはまだまだ道半ばであると思っております。これからも、通年での取り組むべき大きな課題と位置付け、連合一丸となって取り組んで参りましょう。
2026闘争は、いま、この瞬間も続いています。構成組織、地方連合会とともに、連合全体で中堅・中小組合の粘り強い交渉を支援して参りましょう。そして、私たちのここでの頑張りは、これから始まる最低賃金の議論を通じて、労働組合のない企業で働く皆様の賃上げにもつながっていきます。さらには、人事院勧告にもつながるものです。加えて、このような取り組みを通じて、労働組合の存在意義を積極的にアピールし、仲間づくりにもつなげて参りたいと思います。
<労働法制について>
二つ目は、「労働法制について」触れたいと思います。
先日、経団連は裁量労働制の拡充を求める提言を発表し、政府に対しても積極的なロビー活動を行っています。そして、経済界の要望を受けた政府は、「成長戦略」の中にそれを盛り込もうとしています。メーデー中央大会でも触れました通り、連合としては裁量労働制は長時間労働につながる制度であり、労働者の命と健康を守る観点から、制度の拡充を認めることはできない、というスタンスで政府へ要請を行い、シンポジウムを開いて連合の意見を広く伝える取り組みをしています。
使用者側は、ともすると「自由で柔軟な働き方」という甘美な表現を用いて、労働者を誘惑しようとしていますが、これは「働き方」ではなく「働かせ方」です。使用者にとって、自由で柔軟に労働者を働かせたい、最低基準を定めた労働基準法の呪縛から解放され、会社にとって都合の良いように働かせたい、という願望を表現したものと理解するのが自然です。「主体的」「自律的」「ニーズの多様化」「環境変化」「メリハリある」などなど、現場の労使交渉では、あらゆる案件に多様される表現ですが、どれも定性的であり、定量的に施策の効果を説明できる裏付けが、この裁量労働制の議論でも示されてはおりません。なぜ、裁量労働制を拡充すると生産性が伸びるのか、生産性が伸びた分を労働者にどの程度、還元するつもりがあるのか、労働者にとってメリットとなるはずの理屈が示されずに、やりたい気持ちだけで前のめりになっています。
先週、働き方改革を考える緊急シンポジウムを開催し、過労死を考える家族の会の方からお話しをいただきました。長時間労働は、最悪の場合、過労死を引き起こすことは科学的にも経験的にも明らかになっていることです。長時間労働が人ひとりの命を奪うことにつながるという危機感が使用者側には、決定的に欠如していると言わざるを得ません。生産性を錦の御旗に掲げ、仮に対象業務を拡充しても生産性が思うように高まらなければ、拡充の対象をさらに広げ、それでもダメならさらに広げ、と繰り返していくことは、火を見るより明らかです。そして、気づいたときには、日本の労働法から時間管理という概念が消えていた、などというミステリーが生じることのないようにしなければなりません。
日本の生産性が低いというのは事実とは異なりますが、生産性が低いと思っている状態は、労働者の働き方さえ変えれば解消されるということではなく、なぜ、生産性が低いと思うのか、冷静になって多角的に検証し、真の原因を突き止めなければならないのではないでしょうか。逆に言うと、労働者を使用者の意のままに自由に働かせるだけで経済は再生すると思い込んでいるとしたら、一生、日本経済は浮上することなく、チャンスを逃していくことになります。働き方については、あらためて人の命と日本経済の再興、さらには未来の社会のあり方に関わる重要なこととして、冷静な議論を呼びかけたいと思います。
<政治について>
三つ目は、「政治について」触れたいと思います。
先週開催した第8回中央執行委員会において「第51回衆議院選挙の取り組みまとめ」を確認いたしました。改めて、急な衆議院解散とそれに伴う激動の中で、地方連合会、構成組織の皆様には、大変なご苦労があったと思います。一連の取り組みに対し、心から敬意と感謝を申し上げたいと思います。衆議院は、常在戦場と言われるように、いついかなる時にも選挙に備えておかなければならないことは確かですが、その態勢を整えるためには、何と言っても日頃から政治活動へ取り組む足腰を強くしておかなければなりません。
先月行った「第10回政治アンケート」の結果を見ますと、「労働組合が政治活動に取り組む必要性」については、回答者の8割が理解していると答えました。選挙における労働組合が推薦する候補の認知度も同じく8割を超えており、政治活動や選挙に取り組む土壌は整っていると推測しています。しかし、選挙における労働組合からの働きかけが年々、減少していることも明らかとなり、実際の投票行動を左右する力が小さくなってきているように見えます。
これに加え、YoutubeやSNSなどのデジタルツールによる選挙が本格的に展開されているものの、その対策が打てずに、特に若い組合員に対する訴求力が乏しいと言わざるを得ません。労働組合としての強みは、何と言っても組合員どうしのネットワーク力であることは間違いありませんので、改めてその力を最大化するための取り組みに注力することに加えて、後手に回っているデジタル戦略にリソースを割き、理解・共感・参加のすそ野を広げる取り組みを進めて参りたいと思います。
<ジェンダー平等・多様性推進について>
四つ目は、「ジェンダー平等・多様性推進について」触れたいと思います。
昨年来の「第6次男女共同参画基本計画」を巡る議論は、それまでの議論経過を蔑ろにする手続きに対する連合の抗議にもかかわらず、今年3月に政府の思惑どおりの内容で閣議決定されたことは記憶に新しいと思います。しかしながら、最大の焦点の一つであった「旧姓の通称使用の法制化」という政権の目論見は、ひとまず、今次国会での法制化を見送るということになりそうだと報道されております。
改めて申し上げますが、連合は、選択的夫婦別氏制度の導入こそが、自らのアイデンティティにかかわる氏を婚姻によって強制的に変更せざるを得ないという、世界の中でも日本だけに残された人権問題を解決する唯一の手段であると位置づけています。今般、国会日程の都合から法制化を見送ることになったのだとしても、声を上げ続けてきたことが少なからず効果をもたらしたのだと思っています。
ジェンダーや人権の根幹の一つに関わる問題を解決していくためには、ジェンダーバランスが偏っていては、力を最大化することは困難です。ジェンダー平等推進計画フェーズ2では、クリティカル・マスとしての女性執行委員比率30%をめざし、それを足掛かりに203050として完全なジェンダー平等を実現するとしています。これは、単なる数値目標であって、これを達成することで選択的夫婦別氏制度の議論に見られるように、抑圧された声を可視化して政策につなげ、ジェンダー平等社会を実現することにつなげるためのものです。
しかし、連合としての景色はどうでしょうか。1991年に「第一次女性参加推進計画」を策定した後、手を変え品を変え様々な取り組み計画を立ててきましたが、男性が大勢を占める景色は大きく変わっていません。91年の計画策定から今年で35年です。これほど長い年月を費やしてきたにも関わらず、未だに結果を出せていないということは、数ある連合の他の施策と比べて、ジェンダー平等の取り組みについては、相対的に価値が低いと位置づけられてきたとしか思えません。このままでは、半世紀取り組んでも結果が出ない、ということになります。連合の綱領にある「力と政策」の「力」とは、特定の性の人たちだけが中心となるものではありません。ジェンダー平等によって集まる声こそが真の力なのではないでしょうか。各組織の本気の取り組みを期待しております。
<その他の取り組みについて>
最後に、その他の取り組みについて触れておきたいと思います。
その一つ目は、組織拡大についてです。第19期の最重要課題の一つに組織拡大を位置付けていることは、これまで繰り返し訴えて参りました。現在、連合組織拡大プラン2030を実行中ではありますが、4月に開催した第7回中央執行委員会で確認したとおり、登録人員数は直近10年間で最も低い状態にあることを改めて認識しておきたいと思います。
同様に、この10年で労働組合を取り巻く環境は大きく変わりました。中でも、コロナ禍によって働き方が多様化し、常に職場に労働者が居るわけではなくなり、仲間づくりの声がけが困難になっています。また、経済状況も変わり、企業の合従連衡も積極的に行われ、その影響によって労働組合が消滅することも多くなりました。このような状況から、組織拡大を行う組合役員のなり手やスキルなども弱体化し、ひと昔前のような組織拡大の手法がそのまま通じる状況でもなくなってきたことは十分理解できます。
しかし、成り行きに身を委ねていては、何ら改善することはないということを誰もが知っているはずです。状況に応じた新しいやり方を模索していかなければなりません。本当に良いモノや良いコトは、自信をもって他者にお勧めできるはずですから、組織拡大は、すなわち組織をより魅力的に磨くことと表裏一体なのだと思います。単に、数を増やすことは、多くの人にとってもハードルの高い行為であるに違いありませんが、自分が取り組んでいるコトをより魅力的にすることも、組織拡大につながる大切な取り組みです。日々の連合運動が多くの人たちにとって、魅力あるものとして実感してもらえるように、一人ひとりが連合を代表する気持ちで取り組んで参りましょう。
そして、女性や若者の加入を増やしていくことは組織拡大にとっても、組織の持続可能性にとっても重要なことです。そのためには、対象となる女性や若者と同じ目線で仲間づくりできることが大切です。等身大の悩みに共感できる人どうしでの声がけが安心感や信頼感を醸成しやすいのではないでしょうか。そのような視点で組織拡大の取り組み手法を模索することも必要だと考えております。新しいことにチャレンジしながら、一歩ずつ、組織拡大の取り組みを進めて参りましょう。
その二つ目は、中央会費制度について触れたいと思います。
本年1月1日から、中央会費制度への移行期間に入りました。2005年の第9回連合定期大会において、連合結成以来の課題として「連合会費の一元化(中央・地方会費の一括徴収)について今後、本格的に検討を行う」と明記した『地方連合会・地協改革の具体的実施計画』が確認されてから20年を経て、ようやくここに至りました。
20年にわたり、制度設計に携わった多くの皆様が、それぞれの知見を惜しみなくご提供くださったことに敬意を表します。また、移行にあたり、さまざま煩雑な作業があり、お手数をおかけした構成組織および地方連合会の皆様、とりわけ財政担当者の方々に、心より感謝を申し上げます。
移行期間は2034年12月まで、9年間の長期にわたります。今後もさまざまな手続きが発生いたしますが、財政・内部統制検証委員会による検証や提言・勧告をいただきつつ、しっかりと進めて参りたいと思いますので、引き続きのご協力をお願いいたします。
<結び>
結びに、2026春季生活闘争をはじめとする、連合の様々な取り組みへのご理解とご協力に改めて感謝申し上げ、冒頭のご挨拶とさせていただきます。引き続き、ともに頑張りましょう!ご清聴、ありがとうございました。
以上