会長挨拶

 
2025年11月28日
連合第96回中央委員会 会長挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

<はじめに>

 まもなく、クリスマスがやってきます。クリスマスの定番と言えば、ケーキ。帝国データバンクの調査によりますと、4人~6人向けのホール型5号の値段は、2021年から2024年にかけておよそ2割ほど上昇しており、今年のクリスマスケーキもさらなる値上がりが予想されているそうです。そのため、小ぶりで値段を抑えたケーキのニーズを見越して、一回り小さいサイズの4号以下の品ぞろえを3割増しにするお店も出てきているそうです。クリスマスの先には、お正月が控え、お節料理も数年前と比べ10%~15%ほど値上がりが予想されているそうです。バズっている言葉ではありませんが、ひと昔前と比べると、驚くような値段になってしまっていることをさして、「令和値段」などと呼ぶ声もSNSでは見かけられるそうです。
 未来づくり春闘を掲げて5年目。確実に賃金は上がってきました。本来なら、生活にゆとりを感じる人たちが少しずつ増え、クリスマスケーキだって、苺がたくさんのった大きなホールケーキを買える世の中になっていなければなりません。デフレ経済下で萎んでいた中間層が再び息を吹き返し、徐々に大きくなっていくはずです。
 「物価がどんどん上がるなら、それに伴って給料もそのぶん上がって欲しいな」
 「どんな節約をしていますか?」というテレビの街頭インタビューで聞かれたこの言葉にすべての思いが集約されているように受け止めています。“良いモノ、良いサービスには値がつく”と言うように、物には適正な値段があります。物の値段が上がっていくこと自体がすべて悪いわけではありません。しかし、物価が上がっていくなら賃金も上がっていかなければなりません。その釣り合いが取れなければ、経済は縮小し、また「失われた30年」に逆戻りしてしまいます。
 ノーモア・デフレマインド。
 未来づくり春闘評価委員会の報告書に記載されたこの言葉を、しっかりと心に受け止めて2026春季生活闘争を取り組んで参りましょう。

<2026春季生活闘争について>

 改めまして、皆様、おはようございます。本日はご多忙の中、第96回中央委員会に、ご参加いただきまして、誠にありがとうございます。本日の中央委員会は、2026春季生活闘争の闘争方針をご確認いただく、非常に重要な会議となります。構成組織および地方連合会の皆様には、これまでの間、中央討論集会を含め積極的に議論に参画いただきました。現在、それぞれの闘争方針策定に向けて、精力的にご検討いただいているものと思います。
 2026春季生活闘争を進めるにあたり、「こだわろう!くらしの向上 ひろげよう!仲間の輪」というスローガンをかかげることにいたしました。スローガン策定にあたり、たくさんの案をお寄せいただきましたことに感謝申し上げます。皆様からお寄せいただいた2026春季生活闘争に対する思いを少しずつ紡いで作ったスローガンです。ぜひ、このスローガンを高く掲げて取り組みを進めて参りましょう。
 これまでの皆様のご奮闘により、2年連続で5%台の賃上げを実現することができました。しかしながら、冒頭で触れましたように、私たちのくらしは、ゆとりを感じるような状況にはいたっておりません。良くなってはいない!
 とりわけ、中小企業や労働組合のない職場で働く仲間への賃上げの波及は、濃淡があり、この間も課題としてきました。2026闘争では、格差是正に向けた取り組みを強化して参ります。そのための基盤整備として、サプライチェーン全体で生み出した付加価値の適正分配、適切な価格転嫁・適正取引の推進を今次闘争でも、しっかりと訴えて参ります。
 企業規模間格差の是正に向けては、格差是正分1%以上を加えた6%以上、額にして18,000円以上を目安に取り組みます。中小組合におかれましては、この間の賃上げ結果や賃金水準を点検し、格差是正分の積極的な要求をお願いします。構成組織におかれましては、すべての加盟組合の要求・解決状況を把握し、取りこぼしのないよう取り組みをお願いしたいと思います。
 また、雇用形態間格差の是正に向けては、7%を目安に、少なくとも地域別最低賃金の引き上げ率を上回る賃金引き上げに取り組みます。これによって、雇用形態間の格差是正をさらに前進させたいと思います。
 まとめると、2026闘争では、3年連続で5%以上の賃上げをめざし、あわせて格差是正にこだわり、中小組合は6%、有期・短時間・契約等労働者にあっては7%と、「5、6、7」と賃上げ水準を並べて相乗的に訴えて参ります。
 みんなで実質賃金を「1%上昇軌道」に乗せ、それをこれからの“賃上げノルム”にして参りましょう。
 なお、今週初めに開催された「政労使の意見交換」に参加し、賃上げノルムの早期定着に向けて、政労使三者で認識の共有をはかりました。その際、1月1日施行の取適法や、労務費転嫁指針の周知徹底、公的分野も含む適切な価格転嫁・適正取引の促進などの基盤整備、物価高対策、そして賃上げと適正な価格転嫁の機運醸成に向けた地方版政労使会議の効果的な実施を求めました。地方版政労使会議につきましては、地方連合会の皆様に、昨年に引き続き積極的な対応をお願いいたします。
 一方、春季生活闘争は、労働組合だからこそ、労使交渉の機会が保障されているという強みをアピールしながら、労働組合に集う仲間を増やす絶好のチャンスとしていかなければならないと思っております。
 厚生労働省の調査によれば、労働組合がある職場は、ない職場と比べ賃上げ率が約1ポイント高いとされています。連合の調査でも、労働組合のある職場の方が仕事の満足度が高いという結果も出ています。誰もが「くらしの向上」を実感できるよう、仲間の輪を広げ、「みんなの春闘」を展開して参りましょう。
 改めて、2026闘争は、賃上げノルムを定着させ、デフレマインドから完全に脱却することができるのか、日本社会全体の正念場となります。私たち一人ひとりが「未来づくり春闘」をけん引する主役であることを自覚し、それぞれに求められる役割と責任を果たして参りましょう。

<労働時間規制の緩和に対して>

 次に、労働時間の規制緩和の動きについて触れたいと思います。
 労働基準法の制定以来70年ぶりの“歴史的な大改革”であった「働き方改革」ですが、2017年3月の「時間外労働の上限規制等に関する労使合意」では「長時間労働に依存した企業文化や職場風土の抜本的な見直し」をはかり、「過労死・過労自殺ゼロの実現と、女性や若者、高齢者など多様な人材が活躍できる社会の構築に不退転の決意で取り組む」と明記されています。
 これこそが「働き方改革」の出発点なのです。「働き方改革はやりすぎだった」などという声も一部で聞きますが、「働き方改革」は労働時間の縮減とあわせて、長時間労働への依存から脱却するための企業内システムの見直しや意識改革を含む総合的な取り組みであったはずです。
 2019年より「働き方改革」に関する法律の施行が始まって約6年が経過し、この間、私たち労働組合も職場での取り組みに邁進してきましたが、残念ながら、いまだに一般労働者の総労働時間は高止まりし、過労死等による労災認定の件数も過去最多を記録しています。
 そのような中で、時間外労働の上限規制や、裁量労働制の拡充をはじめとする労働時間規制の緩和を求める意見が出ていることには、強い違和感を覚えます。「働き方改革」の実現を後押しする規制の強化こそあれ、緩和などあってはなりません。
 人は、皆、平等に1日24時間しか与えられていないのです。特に、少子化、高齢化が加速度的に進んでいる日本では、仕事に費やす時間のみに価値を置いていては、それを望む一企業は栄えたとしても、社会全体が持ちません。自分たちのための時間、家族のための時間、社会のための時間、仕事の時間とバランスよく配分されなければならないのは明らかです。
 AIを中心とする最先端技術がどんどん進歩している状況にあって、働きたいから労働時間を長くする、という昭和的な発想は進歩に逆行していないでしょうか。
 労働時間のみを見て「ホワイトすぎて成長しない」という声もありますが、そこに至る多くの犠牲の上に整備された労働環境であることへの思いが不足しているように感じます。労働時間が足りなさ過ぎて生活できないのは、労働時間のせいではなく、そもそも賃金が低いのであって、所定労働時間で十分に生活できるだけの賃金水準にしていくべきことです。
 働き方改革を進めてきた今だからこそ、過労死等ゼロの早期実現や、働く者の健康と豊かな生活時間を確保するための「働き方改革」の実効性向上に向けた法改正こそが必要です。連合は構成組織・地方連合会と一丸となって、政策・運動の両面から取り組みを強化して参ります。その一環として、本日18時から「労働時間規制に関する緊急学習会」を開催いたします。皆様の積極的なご参加をお願いします。

<組織拡大について>

 次に、今期の最重要課題の一つに掲げている「組織拡大」について触れたいと思います。
 このあと「組織拡大実績」をご報告いたしますが、2025年度は計115組合・150,468人の拡大となりました。前年比では8,499人増です。構成組織、地方連合会の皆様が精力的に取り組んでいただいた成果であり、心より感謝申し上げます。
 今後、さらに組織拡大を進め、同時に組合員の減少に歯止めをかけるためには、私たち自身の「自覚」が大事です。ズバリ、連合は、若者と女性に人気がありません。まずは、そのことを改めて自覚しなければなりません。魅力のない組織に、人は集まってきません。
 本日、第1号議案として「組織拡大プラン2030 フェーズⅡ」をご確認いただきます。せっかくの計画も、自分たちが世間からどのように見られているのか、どんなイメージや印象を持たれているのか、なぜそうなのかを理解しようとしなければ、絵に描いた餅になってしまいます。
 連合本部の役職員はもちろんのこと、構成組織、地方連合会など「みんな」で、これらの危機感を共有し取り組まなければ、連合に未来は訪れません。今日を機会に連合全体として本気を見せて参りましょう。
 その上で、フェーズⅡでは、同じ職場で働く未組織・未加入者の組織化をより一層強化して参ります。連合が行った加盟組合調査でも、民間・公務ともに、同じ職場に未組織の正社員・パート・有期契約・再雇用などの従業員が大勢いることが分かりました。
 組織拡大の一歩は、隣で働く仲間との連帯にあります。同じ職場という共通のフィールドで、働くことを軸としてつながる一人ひとりと連携して、より良い職場を実現し、より良い職業人生を共に歩む、そんな仲間づくりを進めて参りたいと思います。
 労働組合に携わるすべての役職員について、専従・非専従を問わず、さらには老若男女すべての皆様に関わっていただきたいと思います。決して、簡単なことではありませんし、地道な活動となります。組織の総力を挙げて、縦・横・斜めとすべての角度から一緒に働く仲間に向けてコミュニケーションを続けていくことが、組織拡大や減少への歯止めにつながると信じて取り組んで参りましょう。
 また、組織拡大と合わせて、質の向上も重要です。単に集まりを大きくするだけでは意味がありません。「健全な集団的労使関係」が構築されてこそ、そこに集う人たちの職場環境が向上し、処遇の改善につながります。ひいては企業や社会の発展につながっていくのです。その重要性を、対置する企業をはじめ経営者団体や業界団体などへも伝え、労働組合の存在意義を社会全体に広げていくことが必要です。その際、構成組織・地方連合会の果たす役割は非常に大きいものがあります。ぜひ、組織拡大に向けたトップメッセージを発信していただくなどして、その役割を最大限発揮していただくようお願いいたします。連合本部・構成組織・地方連合会が、これまで以上に組織の垣根を越えて、組織拡大・強化に全力で取り組んで参りましょう。

<その他の主な取り組みについて>

 最後に、いくつかの取り組みについて、簡潔に触れておきたいと思います。
 その一つは、フリーランスの取り組みです。連合フリーランス労災保険センターが設立され1年が経過しました。「フリホケ」の加入者は、先週時点で2,000人を超えました。当初予想を大きく上回り順調に加入者を増やしています。構成組織、地方連合会の皆様のご協力に感謝申し上げます。引き続き積極的なご案内をお願いいたします。
 また、フリーランスが抱える重大な課題の一つに、発注者との対等な契約に向けた契約書を求める意見が多くありました。それを受けて、手始めにイラストレーター向けの契約書のひな形を作成しました。多くのイラストレーターの方々にこの契約書のひな形をご利用いただけるよう、皆様からもご紹介をお願いしたいと思います。そして、現在、イラストレーター以外の分野でもご利用いただける契約書のひな形を策定すべく検討を進めております。フリーランスの方々が発注者との関係において、公正な取引ができる環境が当たり前のものとなるよう、連合は今後も全力を尽くして参ります。
 その二つは、ジェンダー平等・多様性推進の取り組みです。
 ジェンダー平等推進計画フェーズ2がスタートして、本日でちょうど1年が経過しました。皆様それぞれの組織における進捗状況はいかがでしょうか。「203050」をめざし、徐々にではありますが、女性のトップリーダーも増えてきました。計画期間は残り5年を切りました。人を育てるということに着目すると5年はあっという間に過ぎてしまいます。目先の対応で乗り切れるほど簡単なことではありません。組織全体を俯瞰して、どのように女性リーダーを生み出していくのか、どのように意思決定の場でクリティカルマスである30%を超える女性を配置していくのか、具体的に計画しなければ実現できませんので、引き続き各組織の対応をお願いいたします。
 その三つは、物価高対策に関連して、ガソリン・軽油のいわゆる「暫定税率」の廃止に関する法律が本日、参議院本会議において可決・成立する見込みです。連合は、物価高に苦しむ生活者や中小企業の実態を踏まえ、かねてより地方連合会や構成組織と連携し、政党や自治体、地方議員などに対して「暫定税率」の廃止に向けた要請を行って参りました。そもそも、「暫定税率」の廃止を含む自動車関係諸税の軽減・簡素化は、10年以上前から連合の重点政策として、その実現を訴えて続けてきたものです。今回、このタイミングでその一部が実現したことは、構成組織・地方連合会の皆様の粘り強い取り組みのおかけです。改めて、感謝申し上げます。

<むすび>

 以上、様々な課題について述べて参りましたが、改めて2026春季生活闘争は、私たちの生活を含む今後の日本の行く先を決める正念場となります。使用者側も厳しい環境に置かれていることは間違いなく、これまで以上に難しい労使交渉が展開されるものと思います。連合に加盟するすべての組織は一人で闘うわけではありません。一丸となってみんなで賃上げを実現して参りましょう。そして、その果実を労働組合に加入していない労働者にも届けることができるよう取り組んで参りましょう。本日は、そのための心合わせを改めてお願いし、冒頭のご挨拶とさせていただきます。ともに頑張りましょう!ご清聴ありがとうございました。

以上