連合第95回中央委員会 会長挨拶
日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子
<はじめに>
皆様、おはようございます。中央委員、役員、顧問・参与、関係団体、傍聴の皆様、そして報道関係の皆様、ご多忙の中、第95回中央委員会にご参加いただき、まことにありがとうございます。本日は、中央委員会に引き続いて、「第27回参議院選挙 連合総決起集会」の開催を予定しておりますので、これまでの各種取り組みに関して4点に絞って簡潔に所見を申し述べ、中央委員会でのご議論に供したいと存じます。
<2025春季生活闘争について>
一つ目は、2025春季生活闘争についてです。
まずは、昨日の「全国賃上げ波及5.27街頭アピール行動」と、「地方連合会合同記者会見」にご参加いただいた皆様のご協力に心より感謝申し上げます。東京・丸の内に、47地方連合会の代表者の皆様にお集まりいただき、「みんなの生活向上につながる賃上げ」や、「組合づくり・仲間づくり」の必要性を訴えました。そして、その後には47地方連合会の代表者全員が出席し、合同の記者会見を開きました。
このような取り組みは、連合として初めての試みであったわけですが、その心は、
「2025春季生活闘争はまだ終わっていない!」ということを広く世間にも訴え、現在も真摯に交渉を続けている中小労働組合の背中を押したり、支えたりして、構成組織、地方連合会とともに、連合全体で中小・小規模事業所での賃上げを実現したいということに他なりません。のちほど、2025春季生活闘争の「中間まとめ」を提起いたしますが、現時点での状況は、基本方針に掲げた「5%以上の賃上げ」という目標を達成し、さらには33年ぶりに「5%以上」を実現した昨年を上回る賃上げ率となっております。ここまでの取り組みを踏まえますと、確実に新たなステージの定着に向け前進していると受け止めて良いと考えております。これは、幅広い産業で積極的な賃上げ要求を掲げ、粘り強く交渉を積み重ねてきた結果です。
また、地方連合会の皆様におかれましては、地方版政労使会議へのご対応も含め、地域の実情を関係者と共有し、地方でもしっかりと賃上げの必要性を訴えていただいた成果です。交渉にあたった加盟組合の皆様、交渉を支援した構成組織、地方連合会の皆様、そして、現在も交渉にあたっているすべての皆様のご奮闘に敬意を表したいと思います。
ただし、実質賃金の状況を見ると生活向上を実感できるとは言い難く、中小組合も健闘はしていただいておりますが、企業規模間の格差拡大に歯止めをかけるには至っておりません。適切な価格転嫁や適正取引がまだまだ実現しておらず、賃金原資を十分に確保できていないことだと推測しており、取り組みを強化しなければなりません。
もっとも、日本における商取引の慣行では、長い間、下請け企業が辛酸をなめてきましたし、「良いものやサービスには相応の値がつく」という当たり前の価値観が、長期間に及ぶデフレの影響によって定着してしまった「安さこそが正義」という別の価値観によって上書きされてきたことを踏まえますと、簡単に是正されるものではありません。
しかし、現在開会中の通常国会で、下請法が「中小受託取引適正化法」に、下請振興法は「受託中小企業振興法」としてそれぞれ改正され、2026年1月1日に施行されることになりました。このような画期的な法改正が行われたことを心から評価したいと思います。改正にご尽力いただいたすべての皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。
今後は、これらの法改正の周知を徹底し、中小企業も含め、「みんなの生活向上」につながる「賃上げがあたりまえの社会」を実現するため、連合もしっかりと取り組んで参りたいと思います。特に、それぞれの構成組織が対置する産業では、重層的な取引構造がいくつも存在しますし、地方に目を向ければ、地域内でも様々な取引慣行があるものと思われます。改正した法律を生かしていくためには、行政まかせではなく、働く者を代表する私たち連合も当事者として意識を高め、組織全体として適正な取引を求めていくことが必要です。
そして、このような私たちの取り組みは、夏の最低賃金の引き上げを通じて、労働組合のない企業で働く皆さんの賃上げにもつながっていきます。一つひとつの取り組みが有機的につながって、労働組合に加入しているか否かを問わず、誰かの生活を支えることになります。それをひたすら繰り返すことによって、労働組合の存在意義を広く世間に行きわたらせ、共感が生まれ、労働組合へのファンが増え、仲間づくりへとつながっていくということを認識して、丁寧に様々な取り組みを進めていくことが肝要です。
引き続き、皆様のご理解とご協力をお願いしますとともに、繰り返しになりますが、現在も2025春季生活闘争は継続中であるということを内外にお訴えていただき、中小組合の取り組みのご支援をお願い申し上げます。
<労働法制について>
二つ目は、「労働法制について」触れたいと思います。
長時間労働の是正や、労働環境の向上などをめざす「働き方改革関連法」が施行されてから5年が経過しました。現在、労働政策審議会において労働基準法制、同一労働同一賃金等の見直し議論が行われています。この5年間を振り返ると、労使双方の真摯な取り組みによって、課題の改善に一定の前進が図られています。
しかし、現状を直視すると、脳・心臓疾患などによる労災請求件数は依然として高い状況が続いており、必ずしも、「働き方改革」が定着したとは言えない状況にあることは、労使双方が重く受け止めなければならないと考えます。時代が変わり、働くことに対する価値観や働く環境そのものも大きく変化していることは間違いありませんが、働く上での最低基準を堅持することの重要性に変わりはありません。つまり、「労働者を守る」という信念は不変だということです。
したがって、これからも、時間外労働の上限規制をはじめとした、労働者保護の視点に立った労働時間法制の見直しや、その基盤となる労働組合を中心とした集団的労使関係の構築・強化を強めていく必要があり、連合はその先頭に立って取り組む決意を新たにしたいと思います。
そして、その際には、労働者に近い働き方にもかかわらず「請負契約」や「業務委託契約」とされている「曖昧な雇用」の保護ルールを強化するという視点も忘れてはならないと思っております。この点については、労政審の下に有識者検討会が設置され、「労働者性」の議論がスタートしています。連合としても、より多くの方が労働法の保護を享受できるよう、働きかけを行って参ります。私たちは、長時間労働によって健康を崩したり、尊い命を失った事例をいくつも見てきました。そのような悲惨な出来事をなくし、過労死ゼロの社会づくりや長時間労働に依拠した企業文化の見直しを、労使が「不退転の決意」として掲げて取り組んできた「働き方改革」をさらに進展させるためにも、労働者の健康確保という観点に加え、ワーク・ライフバランスのとれた豊かな生活の実現をめざして、政策・運動の両面での取り組みを全力で進めて参りたいと思います。
<政治について>
三つ目は、「政治について」です。
冒頭にも触れましたとおり、この後、参議院選挙の総決起集会を開きますので、簡単に触れたいと思います。
昨年の臨時国会以降、予算が修正されたり、先ほども触れた下請法の改正やその施行日が来年の春季生活闘争に間に合うように関係者が努力されたりするなど、これまでの政治のあり方が変わりつつあることを皆様も実感されているのではないでしょうか。
一方で、これまでのところ、少数与党という状態を踏まえた国会運営を意識し、さらには参院選を踏まえ、各党による個別の政策をめぐる国会の外での駆け引きが目立っているように思います。連合がこれまでも訴えてきている日本が抱える構造的な課題を解決し、持続可能な社会をつくっていかなければならないという視点から見ると、各党がそれぞれの理念をぶつけ合いながら大局観をもって将来の社会の基礎をつくるというような政治のダイナミズムは感じられません。「連合の求める政治」の実現には道半ばであると言わざるを得ません。
連合は、その実現の柱として「二大政党的体制」を掲げています。決して、「二大政党制」を望んでいるわけではありません。現与党に代わって政権を担い得るもう一つの政治勢力が必要であり、その両者が切磋琢磨することによって政治に緊張感がもたらされ、より次元の高い政策が実現されていくものと考えています。
昨年の総選挙の際には、立憲民主党と国民民主党に対して、もう一つの政治勢力の結集の核となることを期待し、「連合出身議員政治懇談会」の協力を得ながら両党に政策協議を求めてきました。総選挙には間に合いませんでしたが、「与党の過半数割れ」という目標で心合わせし、前述のような国会運営にたどり着いています。事実上、連合は、両党を支援政党のような位置づけで取り組んできたと言ってもいいでしょう。
その思いは、来たる参議院選挙にも引き継いでおり、4月17日の中央執行委員会では、「国の根幹に関わる基本政策に対して共有する考え方」について、立憲民主党・国民民主党・連合の三者で合意をはかることができました。これまでの政治情勢の変化もあり、当初イメージした申し合わせとは異なりますが、新立憲民主党、新国民民主党になってから連合との間でこのような形で合意に至ったのは初めてのことです。
改めて、その重みを皆様とも共有させていただき、来たる参議院選挙の闘いにおける一つの拠り所として、連合一丸となって取り組んで参りたいと思います。皆様のご理解とご奮闘をお願い申し上げます。
<ジェンダー平等・多様性推進について>
四つ目は、「ジェンダー平等・多様性推進について」触れたいと思います。
昨年10月に、「ジェンダー平等推進計画」フェーズ2がスタートしてから半年が経過しました。各組織の状況に応じたアクションプランを策定し、取り組みを推進されていると思います。
また、連合が加盟する国際労働組合総連合(ITUC)では、「ITUC女性リーダーシップキャンペーン」の取り組みがスタートしており、2027年のITUC世界大会までに各国のナショナルセンターは意思決定機関において女性参画率を50%にするとの誓約書の提出が求められています。
どうぞ、会場を見渡してください。今回は中央委員会ですが、連合の最高決議機関は定期大会となりますので、今日よりも多い人数の代議員が集まり、その半数が女性でなければならないということです。連合にとって、非常に高いハードルが横たわっているということをまずは共有したいと思います。
そのうえで、フェーズ2の目標1は「トップリーダー自らが、男女平等参画・ジェンダー平等推進についてのメッセージを発信する」ということです。トップリーダーの思い一つで達成できる目標です。ぜひ、各組織において力強いメッセージを発信していただき、男女平等参画・ジェンダー平等の推進に向けて組織を牽引していただくようお願いいたします。
そして、選択的夫婦別氏制度の導入について触れたいと思います。この間、公明党、立憲民主党、社民党、国民民主党、日本維新の会の5党に緊急要請を行い、今次国会での制度導入を強く求めて参りました。取り組みの内容については、組織内向けのニュースのほか、連合ホームページや特設サイト、SNSでも発信してきましたので、改めてご確認いただきたいと思います。
しかし、残念ながら国会における議論が低調で、制度導入に向けた各党の姿勢に温度差があることに、大きな失望の念を禁じ得ません。選択的夫婦別氏制度が法制審議会で議論され、その法案要綱が答申されてから30年が経過します。昨日今日に議論が始まったわけではありません。あくまでも「選択的」であることを冷静に受け止めていただくとともに、夫婦や家族のあり方は、その夫婦や家族に委ねていただきたいと思います。
制度導入に対する賛否の声は、それぞれが日本の社会のあり方を思えばこその声であると思います。そうであるからこそ、お互いの思いが一致する部分を探り、たどり着いたのが1996年の法制審の答申ではないでしょうか。現在、皆様には、選択的夫婦別氏制度の導入を求める請願署名に取り組んでいただいております。短期間の取り組みにもかかわらず、現時点でおよそ12万筆の署名が集まっています。連合の組織内だけではなく、一般の方からも多くの署名や応援メッセージをいただいています。今月末の〆切まで、さらに増えていくことでしょう。いただいた署名は6月2日までに取りまとめ、衆議院議長と参議院議長に提出する予定です。
この署名活動の取り組みを通じ、制度導入に対する賛否にかかわらず、この問題が個人の尊厳に関わる問題であることをより多くの方々に知っていただき、単に制度の改正を求めているだけではなく、人権を守る取り組みを行っているということを知っていただきたいと思います。その上で、連合としては、30年の歳月を経てきたことを踏まえて、選択的夫婦別氏制度をただちに導入していただきたいと、改めて、改めて、改めて訴えておきたいと思います。この間の皆様の取り組みに感謝いたしますとともに、最後までの積極的な取り組みをお願いいたします。
<結び>
結びに、2025春季生活闘争をはじめとする、様々な取り組みへのご理解とご協力に改めて感謝申し上げ、冒頭の挨拶とさせていただきます。引き続き、ともに頑張りましょう!ありがとうございました。
以上