連合第94回中央委員会 会長挨拶
日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子
<はじめに>
此頃都ニハヤル物 夜討 強盗 謀綸旨
今から、およそ700年前、京都の二条河原に掲げられたという落書き。
当時の世相を風刺した落書きとして、歴史の教科書で『二条河原落書』と習ったことを皆様も覚えていると思います。
時を経て、今から少なくとも10年以上前に、現代の二条河原と言ってもいいかもしれませんが、インターネットの有名な掲示板に、およそ700文字の文章が投稿されました。少し過激な表現もありますので一部、省略をしたり、表現を変更してご紹介します。
“今までニートとか、派遣とか・・・自己責任だの、甘えだの・・・と叩いて、・・・残酷なことばかり吐き捨ててたけど、それらの行為の報いは全部自国、ひいては自分の企業、自分の生活に跳ね返ってくるんだよね。それに国民はおろか、為政者すら気付いてない。本来なら、「お願いしてでも」20~40代なんて安定雇用で「全員」が働いて「頂いて」、結婚してもらって子供をもうけてもらわないと困るのに、その現役世代が、最初の就職ごときですら悲壮感漂わせながら必死に求職活動しないといけなくて、つまずくような社会にしてしまった。そして一度つまずいたら二度と戻れない社会を、弱者を馬鹿にしてそのまま放置してきた。現役世代に金の不安を与えたら、それが非婚化・少子化に直結するのは当たり前のこと。・・・超少子高齢化・人口減少による内需の縮小で自分の所属してる企業が大赤字で潰れる。・・・昔の為政者は・・・「全員揃って豊かにならないと、国は決して繁栄しない」ことを知ってた。だから底辺を見捨てなかった。「自分だけ金持ちでいられる」なんてそんな虫のいい話はないんだよね。”
この文章は、その後、繰り返しネット上に登場して、その時々の世情と比較され、どのように日本が移り変わってきたのか、意見交換されたり、引用されてきたそうです。“伝説のコピペ”と扱われており、今年もまた、この文章がネット上でひそかに注目されています。
「賃金も物価も上がらない」という社会的規範、ノルム。私たちは、2025春季生活闘争で、この後ろ向きなノルムを変えようとしていますが、その前提として、ご紹介した伝説のコピペにある「全員揃って豊かにならないと、国は決して繁栄しない」ということを労働組合だからこそ、肝に銘じなければならないのではないでしょうか。
(2025春季生活闘争について)
改めまして、皆様、おはようございます。本日はご多忙の中、第94回中央委員会にご参加いただき、誠にありがとうございます。本日の中央委員会は、2025春季生活闘争の闘争方針をご確認いただく、きわめて重要な会議となります。この間、構成組織、地方連合会の多くの皆様からの真摯かつ積極的な討議を重ねて、本日、闘争方針としてご提案させていただきます。皆様の思いが詰まった方針として、満場一致でご確認いただきたいと思っております。この闘争方針をもって、連合700万人が心合わせをし、来年の初夏まで続く長丁場の交渉に挑む、その一歩を踏み出したいと思います。
2025闘争は、「未来づくり春闘」の中で確実に賃上げを実現してきた流れを確固たるものとすることができるか否かの分水嶺にあるといっても過言ではありません。今次闘争では、そのことを「巡航軌道に乗せる」と謳っております。賃金は上がらず、物やサービスの値段も低いままの世の中が当たり前と思われてきましたが、その間に、世界は賃金も物価も上昇する経済を実現し、気づくと日本だけが低空飛行を続けてしまっています。海外から見ると、“安い日本”と映り、日本を訪れる外国からの旅行者は爆発的に増加し、一度の旅行で、私たちには容易にまねのできないほど、とてつもない金額を消費していく様子が報じられています。
また、若い人たちは、海外へと働きの場を求め、日本国内では到底、支払われることのないような賃金を手にする人もいるようです。この数年、確実に賃上げが続いてきたことは、低空飛行から抜け出すチャンスであり、そして、それを巡航軌道に乗せることで、再び豊かさを実感できる社会へと動き出すことに繋がるものと確信をしています。
一方、その動きは、一部の層、一部の人たちだけのものであってはなりません。「全員揃って豊かにならないと、国は決して繁栄しない」。このことをしっかりと胸に刻んで取り組みを進める必要があります。その思いは、皆様からいただいた言葉を紡ぎ、「みんなでつくろう!賃上げがあたりまえの社会」というスローガンに込めましたので、このスローガンのもと2025闘争を闘い抜きましょう。
また、昨今、人手不足が急速に進行し、その結果、若い人たちを中心に処遇の良い職場へと転職する傾向が定着しつつあります。そのため、若年層の獲得競争が激しくなり、賃上げが実現してもその分配に偏りが見られるようになりました。賃金カーブは緩やかになり、勤続年数が経過しても賃金の上昇は期待できず、そのことに悲観する中堅以上の労働者の声も寄せられています。
そして、そのような様子は、若年層にとって所属組織へのエンゲージメントを高めるどころか、将来への不安となって、転職をさらに促すことにより、負のスパイラルが生じているように見えます。このような悲観や不安は、企業規模の差、雇用形態の差、男女間の差についても同様に見受けられます。働き手のモチベーションを下げるという問題に正面から向き合う必要があります。先の総選挙では、国民民主党が「手取りを増やす」との主張を掲げ、若い人たちから大きな支持を得ました。働いても生活にゆとりを感じず、何のために働いているのか、虚しさを感じるのだと思います。まさに、「はたらけど はたらけど猶(なお) わが生活(くらし) 楽にならざり ぢつと手を見る」と詠んだ石川啄木の名歌が令和の時代に共感を生むような状況を放置してはいけません。
企業経営においては、トップライン、つまり売上高を上げることが重要です。売上高が上がれば、経費をコントロールすることで利益を生み出すことができます。そして、経費のコントロールはまさに経営者の腕の見せ所でもあります。これを家計にスライドするならば、収入を増やすことであり、収入が増えれば、あとはどのように生活していくのか、個人の生活観や価値観に委ねられます。私たちが雇用労働者である以上、収入を増やすためには、今、働いている場所の賃金を上げることが一番ですから、その意味でも、賃上げを実現し、なおかつ、継続していくことに全力を尽くしましょう。
ところで、今年のノーベル経済学賞は、「社会制度と国家の繁栄の関係」を研究した3名の研究者に贈られました。その研究内容の中に、“大衆を搾取するために作られた制度は長期的な成長に悪影響を与え、一方で基本的な経済的自由や法の支配を確立する制度は、長期的な成長に有益”だと書かれています。
そして、“たとえ搾取的な経済システムが支配層に短期的な利益をもたらしたとしても、より包括的な制度を導入し、搾取を減らし、法の支配を確立することで、長期的には全体に利益がもたらされる”としています。短期的な利益の追求よりも、中長期を見据えることが多くの人たちに利益をもたらすことを指摘しているものと受け止めることができると思います。
これまで30年にわたって短期的な利益を追求してきた、あるいはそうせざるを得なかったために、賃金は上がらないというノルムを生み出した社会から、賃上げの流れを巡航軌道に乗せ、将来に希望を感じる社会へと、未来づくり春闘の新たなステージへみんなで移行する取り組みを進めて参りましょう。
(連合「ジェンダー平等推進計画」フェーズ2について)
次に、ジェンダー平等・多様性推進について申し上げます。本日は、連合「ジェンダー平等推進計画」フェーズ2を確認いただきます。具体的な内容は、この後提案しますので、私からは新たに追加した目標に絞ってお話しをいたします。
日本は世界的に見てもジェンダー平等の取り組みが遅れていますが、労働組合の女性参画はより大きく遅れています。「役員の成り手がいない」など、悩みの声も聞こえてきますが、このようなことも含めて、環境を整えていくのがトップリーダーの役割であり、「ジェンダー平等推進をどのように進めていくのか」についてメンバーと意識を共有することが大変重要です。
そこでフェーズ2では、まずやるべきこととして「トップリーダー自らが、男女平等参画・ジェンダー平等推進についてのメッセージを発信」するという目標を入れました。
また、「女性役員の育成・選出を目的とした研修や、役員選出後のフォロー」を新たに目標に追加をしました。単組における女性参画調査によれば、最も経験年数が長い執行委員の通算経験年数は、男性の中央値が10年を超える一方、女性は4年程度となっています。十分に経験が積めていない背景に、女性が活動を継続しづらい実態がないか検討することが重要ですし、現状を踏まえて、育成・フォローの視点を持って登用していくことも重要だと思います。
また、「いきなりは無理」「経験が足りない」という言葉を耳にしますが、本当にそうでしょうか。任せつつ、見守りながら育成していくことが大切です。女性の皆さんも、「教えられていない、フォローしてくれない」と受け身でいるのではなく、自分自身で勉強することや、自身の意識改革を行うなどの努力が必要です。これらのことが、将来的には「三役への女性登用」や「執行機関への女性参画率50%」につながります。
私が会長に就任をしてから、「意思決定の場に女性を」「すべての連合運動にジェンダー平等の視点を」としつこく言ってきました。先日、「次期運動方針には『ジェンダー平等の推進』と明記します」と約束した加盟組織が、有言実行で今期の運動方針に明記してくれました。フェーズ2では、成果を出さなければなりません。皆様の積極的な取り組みに期待し、私も先頭に立って取り組んで参ります。
(第50回衆議院議員選挙について)
続いて、10月27日に行われた第50回衆議院議員選挙について申し上げます。
まずは、全国の仲間の皆様のご奮闘に心からの敬意と、感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。衆議院は常在戦場と言われるものの、この間、いくつもの解散風が吹き、その都度、決戦に向けて身構えて参りましたが、とうとう解散総選挙となり、その結果、連合は最終的に204名の候補者を推薦し、小選挙区で100名、比例代表で49名、合計149名の皆さんが見事、当選を勝ち取りました。前回より5割増の結果となったことは、繰り返しになりますが、全国の地方連合会、構成組織の皆様のご奮闘の結果です。
また、女性の当選者は73名、当選者に占める割合は15.7%で、過去最多となり、女性の政治分野への参画は徐々にではありますが、確実に進展しています。
今回の総選挙では、「与党を過半数割れに追い込み、今の政治をリセット」することを明確な目標として取り組んで参りました。チャレンジングではありましたが、分かりやすい目標を掲げたことによって、取り組み方針が組織内に浸透し、大きな結集軸になり得たのだと考えています。
しかしながら、立憲民主党と国民民主党と連合の三者での「申し合わせ」と「支援政党としての位置づけ」もないまま、総選挙を迎えることになりました。連合福岡や連合兵庫をはじめ、いくつかの地方連合会では三者で力を合わせる態勢が構築されていたことからも、それらの好事例を後押しし、また、全国に広げることができなかったことは連合本部として忸怩たる思いであります。
総選挙後の政治情勢は不安定さを増していますが、改めて、立憲民主党と国民民主党には、自公に代わって政権を担い得る、もう一つの政治勢力の結集の核となることを強く期待をしています。今次総選挙で掲げた「与党を過半数割れに追い込み、今の政治をリセット」するとの目標をさらに前進させるために、次期参議院議員選挙での推薦候補者全員の必勝を期して、総力を挙げて活動を展開して参りましょう。
(その他の個別施策について)
最後に、いくつかの施策について申し述べたいと思います。
一つ目は、組織拡大についてです。
「2024年度組織拡大実績」は、104組合・141,969人となり、昨年より約4万人の組織拡大となりました。この成果は、構成組織、地方連合会、加盟組合、地域協議会、オルガナイザーがそれぞれ連携しながら、取り組みを前進させた成果であり、改めて敬意を表したいと思います。「連合組織拡大プラン2030・フェーズⅠ」は残り1年を切りました。あらゆる機会を通じて組織拡大を「ジブンゴト」にして、連合全体で総力を挙げて取り組んで参りましょう。
二つ目は、「働き方などに中立的な社会保険制度」について申し述べたいと思います。
現在、厚生労働省の社会保障審議会年金部会で被用者保険の適用拡大や第3号被保険者制度のあり方などの議論が行われているところです。組織討議を経て確認いただいた「働き方などに中立的な社会保険制度に対する連合の考え方」にもとづき、就労を阻害せず働き方などに中立的な制度の構築をめざし、「被用者保険の完全適用」と「将来的な第3号被保険者制度の廃止」について、引き続き意見反映に努めていきたいと思います。
三つ目は、地方連合会に対する本部監査実施細則の制定です。
本日は、第5号議案として、「地方連合会に対する本部監査実施細則」の制定についてご審議いただきます。連合本部としては、連合本部および地方連合会の財政と活動のガバナンスが確保されていることが、この中央会費制度への移行の大前提となると考えております。監査にあたっては、地方連合会において、お手間をおかけすることになりますが、制度の趣旨をご理解いただき、ご協力をお願い申し上げます。
以上、多岐にわたり触れましたが、改めて2025春季生活闘争の肝は、「賃金も経済も物価も安定した巡航軌道に乗せること」です。そのために、連合一丸となって取り組んでいくとの決意と心合わせをお願いし、冒頭のご挨拶とさせていただきます。ともに頑張りましょう!ご清聴ありがとうございました。
以上