会長挨拶

 
2024年5月31日
第92回中央委員会 会長挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

<はじめに>

 おはようございます。

 中央委員、役員、顧問・参与、関係団体、傍聴の皆さま、そして報道関係の皆さま、本日はご多忙の中、ご参加いただきまして誠にありがとうございます。連合第92回中央委員会の開会にあたり、ご挨拶申し上げます。

 はじめに、元日に発生した能登半島地震でお亡くなりになられた方々に哀悼の意を表しますとともに、被害にあわれた皆さまにお見舞いを申し上げます。振り返りますと、昨年の同じ時期に開催した第90回中央委員会でも、同年5月5日に発生した震度6強の「石川県能登地方を震源とする地震」について冒頭で触れさせていただいておりました。およそ半年後にさらに大きな地震が発生し、そして津波が押し寄せるとは、残念ながら想像することができず、大きな被害が生じたことに改めて深い悲しみを感じております。2011年の東日本大震災では、震災の1年前に南米チリでの地震による津波が東北沿岸に押し寄せたり、発災の2日前には大きな余震がありました。2016年の熊本地震では、3日間で震度7の揺れが2回も観測され、「前震」という現象があることに驚きと脅威を感じました。巨大な災害の前触れを探せばきりがありませんが、常々申し上げているとおり、身の回りの防災対策を確認し、安全を確保することの重要さを再認識したいと思います。

 能登半島地震に対しては、被災された当該地域の地方連合会の皆さまをはじめ、全国の地方連合会や構成組織の皆さま、福祉団体をはじめ関連団体の皆さまなど、多くの方々のご理解とご協力をいただきながら、連合としても復旧・復興のお役に立てるよう連合ボランティアなどの取り組みをすすめています。この場を借りて全ての皆さまに感謝を申し上げます。

 能登半島は複雑な地形と限られた交通ルートがあいまって、思うように復旧・復興の取り組みを進めることが困難な状況にあります。そのような中にあっても、構成組織では本来業務としてインフラをはじめ各業界の組合員の皆さまが努力していただいております。このことについても、改めて感謝申し上げます。

 また、発災直後から組織内外の多くの皆さまから救援カンパのご協力をいただき、約1億8,500万円が集まりました。今月初めに、新潟、富山、石川、福井の4県に義援金として、皆さまからのお気持ちを添えてお渡しして参りました。被災者の皆さまの今後の生活に役立てていただくことを願っております。

 被災地の状況は詳しく報じられてきましたが、被災地における女性や子どもへのケアに注目が集まる機会は、それほど多くはありません。これまでの大災害発生時の教訓として、弱い立場に置かれる女性や子どもへの支援は被災後の大きな課題であるとされてきました。今回の能登半島地震では、発災直後から女性や子どもの支援を優先課題の一つとして取り組んでまいりました。現地の教育、医療、福祉関係の皆さまからのご知見やご意見をいただきながら、女性や子どもの防犯対策として「防犯ブザーと笛」の配布や、放課後児童クラブへの防災用の折り畳み式ヘルメットの配備を進めています。なお、放課後児童クラブへはフード連合の皆さまのご協力のもと子供たちへのお菓子の提供の準備も進めています。フード連合の皆さまのご協力に改めて感謝申し上げます。

 また、これまでの災害でも見られたように、残念ながら被災地での性加害行為の懸念があります。そのため、現地の医療機関と連携した「緊急避妊薬のデリバリーに関する取り組み」についても準備を進めているところです。

 災害の規模から察するに、復興まではかなりの時間を要します。被災地の皆さまが復興を実感できるその日まで、現地に寄り添いながら連合が一丸となって力を尽くしてまいりましょう。引き続き皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。

 さて、私からは、この間の各種取り組みについて4点にわたり、所見を申し述べ、中央委員会でのご議論に供したいと存じます。

<2024春季生活闘争について>

 一つ目は「2024春季生活闘争について」です。のちほど、「中間まとめ」を提起し、ご議論いただきますが、春季生活闘争の基本方針に掲げた「5%以上の賃上げ」という大きな目標は、現時点で達成しております。顧みますと、2023闘争では「1993年以来の高水準で賃上げが実現した」と大いに喜びましたが、その成果を大きく上回る水準で賃上げが進んでいます。連合本部は、旗振り役として世間に賃上げの必要性を訴えて参りましたが、この成果はひとえに、単組、構成組織、地方連合会の皆さま、特に現場で交渉に当たられた組合役員の皆さまのご努力の結果です。最大限の敬意と感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。そして、今も交渉を継続している組合の皆さまには、これまでの仲間の成果をフル活用していただきながら、真摯な交渉により、良い結果を導き出されることを期待しております。

 この間の取り組みの詳細については、のちほどの議論に委ねますが、今次闘争の特徴をまとめると、“多方面での「心合わせ」の積み重ね”であったと思います。企業内の労使間の心合わせはもちろんですが、30年近くデフレに苦しむ日本の経済状況を踏まえたとき、この状況から抜け出さなければ未来はない、との危機感を労働界にとどまらずに共有するため、世論との心合わせ、政府・財界との心合わせ、地方での心合わせを行いました。危機感を共有するために行う心合わせは、すなわちその後の対応に向けて、一丸となって力あわせをすることにつながります。

 連合アクションデモをはじめ、街頭宣伝活動や決起集会など組織内外を問わず、世論に対する訴えも例年以上に力を入れて行いました。2023闘争の際に実現した「政労使の意見交換」は、大きな効果を発揮したことから、今次闘争では3度にわたって開催されました。そして、中央での開催にとどまらず、47都道府県すべてで「地方版政労使会議」が開催され、地方における賃上げ実現への心合わせが初めて実現しました。初めての取り組みのため課題もありましたが、春季生活闘争における新たな取り組みとして歴史的な挑戦であったと思います。

 今次闘争のスローガンにある「みんなで賃上げ」を実現するためには、賃上げが「大手企業だけ」とか「正社員だけ」というレッテルをはがす必要がありました。その最大のポイントは、中小・小規模事業所での賃上げの実現です。大手企業の利益の源泉は、それを支えるサプライチェーンにつらなる中小・小規模事業所の努力にあります。最終製品によって得られる利益は、その過程に適正に分配されてはじめて、それぞれの段階に携わる企業や労働者のモチベーションに直結し、そしてさらにサプライチェーンを強くしていくことになります。物価高や円安による原材料費の価格転嫁の必要性については理解が広がりましたが、それだけでは賃上げ原資の確保は困難であり、労務費を含めた価格転嫁が実現してはじめて賃上げにつながるということを「価格転嫁、価格交渉、環境整備」という3つの取り組みを繰り返し訴えることによって進めて参りました。ここまでの結果を見ると、その成果はあったと受け止めております。ただし、規模間格差が見られることから、最終まとめに向けて成果を分析していく中で、企業の大小にかかわらず、本当に適正な転嫁が行われたのかをしっかりと見ていかなければならないと思っております。

 また、もう一つのポイントは、組織化です。賃上げは、労働組合があるからこそ実現する、あるいは、労働組合がある企業の方が賃上げ率は高くなる、ということはすでにデータによって示されています。今次闘争では、連合に加盟する有期・短時間・契約等労働者の賃上げ率は、一般組合員を上回っています。そして、この結果は、のちの法定最賃の議論にも影響を及ぼすことになり、結果として労働組合に参加することができていない非正規雇用労働者の処遇改善にもつながっていくものと認識しています。労働者の処遇を改善するということは、労働組合の存在意義そのものであり、パーパスであり、フィロソフィです。雇用労働者の4割を占める非正規雇用労働者の処遇を蔑ろにすることは許されませんが、正規・非正規に関わらず、労働者として当事者意識を共有して、ともに処遇改善に向けて取り組む姿勢も必要です。そのためには、一緒になって活動するきっかけを作ることから始めなければなりません。すなわち、組織化です。連合の組織人員が微減していることは、労働者が豊かになるためのチャンスを減らしていくことと同じですから、現在の労働運動を担う私たちがより一層、仲間づくりに邁進することに注力してまいりましょう。これらを含めて、さまざまな格差は縮まったのか、労働組合という枠にとらわれずに処遇は改善したのかなど、つぶさに見ていかなければなりません。

 スローガンのつづきには「ステージを変えよう!」と掲げています。これまでガチガチに固まっていたさまざまな課題を打破し、私たちの取り組みが社会を動かすきっかけにしていくことが絶対に必要です。そのためにも、のちの議論において、ぜひ、現場のリアルな声をお聞かせいただき、今後の取り組みにつなげてまいりましょう。

<労働法制について>

 二つ目は、「労働法制について」です。

 労働基準法制定からおよそ80年を迎える中、厚生労働省は、今年1月に有識者検討会を設置して、今後の労働基準法制のあり方についての検討をスタートさせています。そこでの検討範囲は、労働時間や休日労働の規制、さらには労働基準法が保護対象とする「労働者」とは何かも含めて、非常に多岐にわたっています。

 ここで1つ強調しておきたいのは、労働基準関係法制がなぜ誕生し、何を目的にしているかという点を見失ってはならない、ということです。労働契約を自由にしてしまうと、企業よりも弱い立場にある労働者は、低賃金や長時間労働など劣悪な労働条件で働かざるを得なくなります。そうしたことにならないように、労働者の命と健康を守る最低限のルールとして労働基準関係法制はあるのです。昨今、「労使コミュニケーション」という表現によって、労使間の力関係が無かったかのように錯覚させてしてしまうような声がありますが、これは労使関係の本質を見失わせるだけなく、中長期的にみれば、労使双方にとってもマイナスの影響をもたらすのではないかと疑問を感じております。わたしたち労働組合が、春季生活闘争などを通じてより良い労働条件を勝ち取っていくためにも、労働者の命と健康を守る土台としての労働基準関係法制はしっかり堅持、強化していく必要があります。

 人口減少社会にある日本が、再び成長を感じられる社会を築いていくには、わが国の社会にとって本当に必要な改革の方向性はどこにあり、絶対に守らなければならないものは何かを見定めた議論が必要です。そのようなメリハリのある議論を私たち労働者側の認識も含めて、公労使三者に求めたいと思います。

<政治について>

 三つ目は、「政治について」です。

 4月に、東京、島根、長崎で衆議院の補欠選挙が行われ、いずれの選挙でも立憲民主党の候補者が当選しました。また、先週末の静岡県知事選、目黒区での東京都議補選でも野党系の候補者が当選しました。昨年末から大きな問題となっている、自民党内での「裏金問題」が「政治とカネ」の問題として有権者の目に映り、そのことへの不信感、怒りがこの選挙結果に表れたものと受け止めています。

 加えて、物価高によって国民の生活は疲弊する一方で、政府・与党の国政運営は、説明責任を果たしているとは言えないような新たな負担を国民に押し付けることを伴い、政治そのものへの不信感も増幅しているように見えます。このことも相俟っての補欠選挙の結果ではなかったかと思います。

 政治とカネの問題や国民生活の疲弊から目を背ける政治は、将来世代への責任を語るまでもなく、今すぐにでもリセットする必要があることは明白であり、私たちが果たすべき正義です。もっとも、この状況は一強多弱で緊張感のない政治が続いてきた結果です。このような政治はもう終わりにしなければなりません。そのためには、現与党に代わって政権を担い得る、もう一つの政治勢力の結集が必要です。そのプロセスとして、各政党が高いレベルで政策を競い合い切磋琢磨する姿を国民に示し、有権者一人ひとりが真剣に選択するような成熟した民主主義を実現しなければなりません。

 今般、このような考えのもと、当面する国政選挙に対しては、「働く者・生活者の立場に立つ政治勢力の最大化」を前提に置きつつ、「与党を過半数割れに追い込み、今の政治をリセット」することを明確な目標として掲げることを確認しました。近づく総選挙において、目標実現に向けて連合として一丸となって取り組んで参りましょう。

<ジェンダー平等・多様性推進について>

 四つ目は、「ジェンダー平等・多様性推進について」です。

 NHKの連続テレビ小説を欠かさず見ているファンの方も多いと思いますが、現在、放送されている『虎に翼』をご覧いただいているでしょうか。昭和初期における法曹界の女性のパイオニアを描くだけあって、現代では絶対に「アウト!」と指摘されるようなシーンやセリフが登場しますが、その大半は実は現在にいたってもなお、散見されるものであると考えさせられます。名セリフとしてネットでまとめられているものもあるほどです。

 法曹界に飛び込もうとする主人公に対して、女性と言うだけで蔑み、時期尚早だと男性が指摘したシーンで、女の幸せは結婚であるという価値観のもと娘の将来を案ずる主人公の母親が、その男性に対して「何が時期尚早ですか。泣いて逃げ出すですか。そうやって女の可能性の芽を摘んできたのはどこの誰?男達でしょう。自分にその責任はないと?そうやって無責任に娘の口を塞ごうとしないでちょうだい。」と強い口調で反論します。母親自身も時代の流れの中で口を塞がれてきた悔しい思いが娘の姿に重なった瞬間として描かれたのだと思います。現在、政府は「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう目指して取組を進める」との目標を掲げていますが、2020年代も半ばに差し掛かっても、その目標からは大きくかけ離れた状況を見ると、このセリフが口をついて出てしまいそうに感じます。

 主人公が司法試験に合格した際の祝賀パーティで話したセリフも核心をついていました。女性として初めて合格した主人公らをもてはやすマスコミに対して、「私達、すごく怒っているんです。法改正がなされても、結局女は不利のまま。女は弁護士にはなれても、裁判官や検事にはなれない。男性と同じ試験を受けているのにですよ。女ってだけで、出来ないことばっかり。まあ、そもそもがおかしいんですよ。元々の法律が、私たちを虐げているのですから。」と祝賀の雰囲気に反する言葉を投げかけます。今は、男女雇用機会均等法があり、男女の雇用差別は法律上はありませんが、男女で同じ仕事をしていても、実際には差がつく場面はあり、それが男女間賃金格差となって表れていることは、皆さんもご承知のことと思います。特に、その典型の一つは「マミートラック」であり、しかも、直近のSNSでは「子持ち様」というハッシュタグを用いて、子持ち社員に対する不満が述べられ、職場の分断が生じ始めているという、心が締め付けられるような状況が生まれています。

 連合ジェンダー平等推進計画のフェーズ1が、9月末に計画期間の終わりを迎え、10月以降はフェーズ2の取り組みをスタートする予定です。現在、ジェンダー平等多様性推進委員会の下にPTを設置し、この間の取り組みと次期計画について鋭意検討されていると認識していますが、フェーズ1で2024年9月末必達として掲げた5つの目標を、中央委員会にお集まりの皆さんは、もちろん覚えていらっしゃるものと思います。5つの必達目標は、機関会議で確認し、連合全体で達成を目指すものとして掲げた目標です。女性や若者など、組織の中に多様な視点を取り入れることは、持続可能な社会、職場、労働組合を作り出すために必須の取り組みです。多様な視点を入れることのできない組織は取り残されるだけでなく、そもそも組織が維持できなくなるのではないかと強い危機感を持っています。

 なお、さきほどのセリフには続きがあります。「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います。いや、みんなでしませんか?しましょうよ。私はそんな社会で、何かの一番になりたい。そのために良き弁護士になるよう尽力します。困っている方を救い続けます。男女関係なく。」

 私たち連合がめざす社会像は、まさにこのセリフに凝縮されています。加えるならば、男女と言う切り口だけでなく、一人ひとりが自分らしく生きることのできる多様性が実現できる社会です。今一度、「なぜ多様な人の参画が重要なのか」を振り返り、取り組みを加速するための準備をお願いします。このセリフのとおり、みんなでそんな社会を実現してまいりましょう!

<結び>

 結びに、2024春季生活闘争の取り組み、能登半島地震の取り組みなど、この間の様々な取り組みへのご理解とご協力に改めて感謝申し上げ、冒頭のご挨拶とさせていただきます。引き続き、ともに頑張りましょう!ご清聴、ありがとうございました。

以上