会長挨拶

 
2024年1月5日
2024年連合新年互礼会 会長挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

【はじめに】

 「ご安全に」、この言葉の意味と重みを再認識しています。

 本日は、岸田内閣総理大臣、武見厚生労働大臣、各党代表者の皆さま、経団連・小路副会長をはじめ多くの皆さまにご列席を賜りました。誠にありがとうございます。
 ご承知のとおり、1月1日に、石川県能登地方を震源とする大きな地震が発生しました。本日現在、70名を超える方々がお亡くなりになり、多くの方が負傷、さらには建物や家屋の損壊など、甚大な被害が発生しております。謹んでお悔やみとお見舞いを申し上げますとともに、一日も早く復旧されることをお祈りいたします。また、未だ安否不明の方もおられます。一刻も早い救出を切に願っております。
 連合としましても、対策本部を設置し、救援カンパなどの支援活動をはじめ、被災者の生活・雇用における安心や被災地の復旧・復興に向けた政府・政党、経済団体への要請行動など、必要な取り組みを展開して参る所存です。本日は、会場内に募金箱を設置しておりますので、ご理解とご協力をお願い申し上げます。
 なお、今回の地震に対して、ITUC、ITUC-AP、OECD-TUACなど世界の仲間からお見舞いのメッセージをいただいております。この場を借りて、国際労働運動の仲間の皆さんの連帯に心から感謝を申し上げます。
 このような状況でもありますので、新年祝賀のご挨拶は控えさせていただき、年頭のメッセージとして一言、申し上げたいと存じます。

【昨年の振り返りと2024春季生活闘争】

 昨年を少し振り返りたいと思いますが、年末恒例の世相を表す漢字を見ると何となくどのような年であったのかが分かると思います。
 2023年は、ご承知のとおり「税」が選ばれました。「今年の漢字」は、1995年から始まったそうですが、実は過去29年間で「税」という漢字が選ばれたことがあります。2014年です。
 この年は、消費税が17年振りに引き上げられたため、国民生活にも大きな影響があり、この漢字が選ばれたものと思います。
 翻って昨年は、一年を通して、防衛増税の議論や、税金ではありませんが社会保険料の負担などについての議論が行われたこともあり、具体的な税制改正が実施されていないにも関わらず、いつか大きな増税がやってくるのではないかとの不安から、「税」という漢字が選ばれたのではないかと推測します。
 2023年は30年ぶりの高水準で賃上げが行われましたが、物価高が続いたことによって、実質賃金はマイナスとなり、家計負担が増え、生活に苦しさを感じる方も多く、目先の生活への不安に加え、将来への不安も重なっています。
 新年早々に、このような経済・社会の厳しい情勢に触れることに躊躇(とまど)いもありますが、現実の課題として乗り越えていかなければならないと思っております。
 その意味でも、経済の好循環を実現するため2024春季生活闘争は、「経済社会のステージ転換」を掲げて取り組んで参ります。前回の春季生活闘争で、「賃金は上げることができる」ということを示すことができました。
 次は、「賃金は上がり続けるものだ」ということをしっかりと根付かせるための正念場となります。そのためには、何としても中小企業において賃上げが実現しなければなりません。
 物価高を背景に、企業間の取引において原材料費やエネルギー価格を取引価格に転嫁することは実現しつつあります。しかし、それだけでは足りません。
 労務費を含む価格転嫁が実現してこそ、それぞれの企業において賃上げ原資が確保されることに繋がるのです。
 昨年11月末に公正取引委員会から、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が公表されました。このような指針を策定していただいたことは、連合としても求めてきたことであり、本当に意義のあることだと思っています。
 ぜひとも、この指針に基づいて、適正な価格交渉が行われるよう、企業の皆さまにはご理解とご協力をお願いしたいと思います。
 加えて、政府におかれましても本指針が現場レベルで遵守されるよう環境整備をお願いします。2024春季生活闘争のキーワードは、「価格転嫁、価格交渉、環境整備」です。この3点を強調して参りたいと思います。
 なお、適切な価格転嫁が行われ、賃上げの原資が確保されても、実際に賃金に転嫁されなければなりません。あってはならないことですが、企業の営業利益が増えただけということにならないよう、加盟組合や構成組織は、しっかりと経営状況をチェックしながら春季生活闘争の交渉を進めていただきたいと思います。
 賃上げは、労働組合があるからこそ実現しやすいことは明らかとなっています。ぜひ、労働組合の存在価値を存分に発揮していきましょう。

【ジェンダー平等・多様性推進関連】

 会長就任以来、連合のあらゆる取り組みにジェンダー平等の視点を取り入れることを訴えて参りました。構成組織、地方連合会の皆さまのご協力もあって、連合本部の女性役員比率は40%を超えることができました。
 ただし、世界標準は50%ですので、最低ラインを超えたに過ぎないことを認識して取り組みを進めなければなりません。このように、ジェンダー平等・多様性推進の取り組みは、定量的に結果を把握することができますが、目標を定量化するには、この取り組みへの定性的な理解が伴わなければなりません。
 今年は、連合のジェンダー平等推進計画フェーズ1の最終年となります。本年9月末までに計画を達成しなければなりませんが、単なる数合わせで実現するのではなく、ジェンダー平等や多様性があらゆる人にとって当たり前に必要であることを理解し、中身の伴った取り組みにしていきたいと思います。
 連合内の取り組みに限らず、ジェンダーギャップ指数に表れているとおり、日本は世界から大きく後れをとっています。年頭にあたり、ぜひ、この点について、皆さまと心合わせができれば嬉しく思います。

【国際関連】

 世界の不確実性はますます高まっています。ウクライナ、イスラエル、ガザ地区、ミャンマー、北朝鮮など、暴力や人権弾圧により無辜の人々が苦しみ続けています。
 多くの方々が命を落とし、恐怖に苛まれているなかで、私たちにできることは何かを常に考えながら、平和を希求していかなければなりません。
 「平和なくして、労働運動なし」という信念は、私たちのすべての活動の根幹にあるものですが、「平和なくして」という前提は、あらゆることに通じる共通の前提条件です。何事も平和あってこそです。
 武力や暴力や抑圧は、平和を実現する手段にはなり得ません。連合は、社会的な対話を重視した活動に力を入れていきます。言葉を用いたコミュニケーションを何よりも大切にし、コンセンサスを得ながら、一つひとつの課題に向き合って参ります。

【政治関連】

 政治家への不信感が高まっています。今は聞かれなくなりましたが、その昔、「末は博士か大臣か」というフレーズがありました。揶揄ではなく、子どもたちにとっても、なりたい職業、憧れの職業、目指すべき職業であった時代があったということです。
 政治家は世の中を支える立派な仕事です。コロナ禍の4年間を振り返ってみても、未曽有の危機を前にして世界中の政治家の皆さんが努力されている姿は、多くの市民が目にしているところです。
 正義を語り、未来を語り、人々に生きる希望を与えるのが政治家の仕事です。自らその価値を貶めるようなことをするべきではありません。
 誰もがなろうと思ってなれる仕事ではないからこそ、多くの人々の願いが託されているということをもう一度、胸に刻んで、その信頼を裏切ることのないようにしていただきたいと思います。

【結び】

 帝国データバンクの調べによると、企業が選ぶ2023年を表す漢字は変化、変革の「変」だったそうです。「生活や働き方の変革、人手不足、物価上昇など世の中が急激に変化している」「DXなどにより時代の変化のスピードが速い」という理由が見られるそうです。
 これらは、一過性のものではなく年が明けた今年以降も続いていくものと思います。コロナ禍を経て、企業だけではなく、人々もまた、様々な変化を感じ取っており、大きな時代の変革の波の中に身を委ねているような感覚にあるのではないでしょうか。
 連合もまた、こうした時代の変化を恐れるのではなく、働くもの・生活者にとって安心な社会を築くため変化を先取りし、運動方針で示した「社会を新たなステージへ、ともに歩もう、ともに変えよう」とのスローガンに沿って、ジブンゴト化とスピードアップに、より真摯に取り組みを進めています。
 変化、変革には不安も付きまとうものですが、仲間とともに、誰一人取り残されることの無いよう、歩みを進めていくことをお誓い申し上げます。
 最後に、1月2日の羽田空港での航空機事故に関して、お亡くなりになられた海上保安庁の職員の方々のご冥福をお祈りしますとともに、ケガを負われた方や損害を被った方々へお見舞いを申し上げます。また、壮絶な事故の中、乗客乗員を一人残らず避難させた旅客機の乗員の皆さまの対応に心から敬意を表します。日頃から徹底した訓練を重ね、いざというときに訓練通りに行動した結果であると思います。今後も安全第一を最優先としていただくよう期待しております。
 結びに、本年も連合に対する一層のご支援をお願いし、皆さまのますますのご健勝とご活躍を祈念いたしまして年頭のメッセージといたします。ご清聴ありがとうございました。

以上