会長挨拶

 
2023年12月1日
第91回中央委員会 会長挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

<はじめに>

2022年 25,768、2023年 32,189。

 この数字は、帝国データバンクが食品メーカー主要195社における価格改定を調査した、それぞれの年での値上げ品目数の結果です。2023年は年末までの予定を含んでいるそうです。

物価高が止まりません。
 「いつもは3千円くらいで済んでいた夕食の買い物が、4千円とか5千円もかかってしまう」「品数を減らして出費を抑えている」
 生活者からこんな声が聞こえてきます。昨年、物価の優等生といわれる卵が、1パック300円前後にまで値段が上がって、家計が悲鳴を上げているというニュースが話題になりました。いまや店頭では200円後半から300円前半の価格に高止まったままになっています。
 経済成長にとって、物価高そのものがすべて悪いわけではありません。物価高に負けない賃上げが伴わなければならないのです。
 2023春季生活闘争では、30年ぶりの高水準で賃上げが実現しました。交渉に当たられた現場の組合役員の皆さんのご奮闘に本当に感謝しております。しかし、その成果を超える物価高が続き、実質賃金はマイナスを更新しています。
 長い間、賃金が上がらないという日本の負の構造を2023春季生活闘争で打破し、「賃金は上げることができる!」という事実を作ることができました。まさしく、ターニングポイントとなった闘いでした。
 今度は、「賃金が上がった」というステージにとどまるのではなく、経済の成長とともに、「賃金は上がり続ける!」ということを根付かせ、次のステージへと転換する社会経済を作っていかなければなりません。
 そのための闘いを精一杯進めるため、今日ここに、連合700万人の力をあわせ、心あわせをしたく、2024春季生活闘争の初陣として、鬨の声を上げたいと思います。
 改めまして、第91回中央委員会にお集まりいただいた中央委員、役員、顧問・参与、関係団体、傍聴の皆さま、そして、この思いを、臨場感をもってお伝えいただく報道関係の皆さま、おはようございます。ご多忙の中、ご参加頂きまことにありがとうございます。

<2024春季生活闘争の取り組み>

 春季生活闘争は、700万人の組合員の生活を左右する重要な闘いです。真剣勝負、すなわち協心戮力して、すべての働く者の賃上げを実現しましょう。まさに、スローガン案にある「みんなで賃上げ。」です。
 そのためには、企業の99.7%、労働者の7割を占める中小企業で賃上げが実現されなければなりません。2023闘争では、賃上げの機運が中小企業での賃上げにもつながりましたが、2024闘争こそ正念場です。中小企業の経営者からは「前回、賃上げしたから今回は難しい」、「無い袖は振れない」という声が聞かれます。原資がなければ賃上げできないのは当然のことです。そこで、サプライチェーンの中で、原材料費やエネルギー価格の高騰分だけではなく、それぞれの企業で働く方々の労務費を含む価格転嫁が行われるか否かが、中小企業での賃上げの成否を分けるということを強く訴えたいと思います。
 11月15日に「政労使の意見交換」が開催されました。市場の番人、競争の番人ともいわれる公正取引委員会の古谷委員長からは「我が国の雇用の7割を占める中小企業が、労務費を適切に転嫁できるよう、取引環境を整備することが重要であると認識している」との見解が示され、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」について説明がありました。経団連の十倉会長からはパートナーシップ構築宣言の締結状況についてご紹介がありました。中小企業三団体からは、中小企業・小規模事業者においても賃上げを積極的に検討するべきであることは充分に理解しているとしながらも、労務費の価格転嫁は厳しいとの現場の訴えを代弁されつつ、商習慣を変える好機となることへの期待や政府による強力な価格転嫁対策の継続への要望が示されました。
 これらを踏まえますと、2024闘争のポイントは、「価格転嫁、価格交渉、環境整備」、この3点セットであると言えます。大手企業は能動的に価格転嫁の努力を、中小企業は遠慮せずに価格交渉を、そして政府はその環境整備に力を入れて欲しいと思います。特に、公正取引委員会のガイドラインは作って終わりではなく、使って初めて意味をなすものです。現場の調達部門レベルまでその内容を周知して、実際の取引の場面に活かしていただきたいと思います。調達部門で働く組合員も大勢いらっしゃるかと思います。ご自身の仕事が取引先の賃上げにつながることを想像していただきながら相対していただくことを望みます。
 加えて、すべての労使交渉において、発注側であっても受注側であっても、自社の取引が適正に行われているのか、経営のチェック機能を果たしていただきだいと思います。また、消費者の立場としても、安さを追求するのではなく、商品やサービスには、その価値に見合った値段があることを認め合いましょう。
 今こそ、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の精神が求められていると思います。

 また、2024闘争の取り組みを進めるにあたり、具体的なアクションを通じて機運を高めて参ります。「連合アクション」の一環としてデモ、街宣行動、情報発信を連合本部、地方連合会、構成組織が一丸となって進めて参ります。春季生活闘争は、組合員のものだけではなく、働く者すべての取り組みであるという認識に立ち、一人でも多くの働く方々と心をあわせて、この闘いを進めていきたいと思います。「はたらくのそばで、ともに歩む」、2024春季生活闘争もまた、この思いにつらなる取り組みであることを強く訴えたいと思います。
 さて、今年も、残りわずかとなり、年末に向けて気ぜわしくなってきました。また冬休みがやってきます。学校が長期のお休みのとき、給食を食べることができないため、十分な食事がとれずに体重が減った状態で新学期を迎える子どもたちがいることをお話したことがあったと思います。今は、それに加えて、未曽有の物価高で日常的に満足な食事ができなないために痩せていく子どもたちがいるそうです。「お腹がすいたら水を飲んでごまかす」「子どもに食事をさせるために大人は食事を控えていると、大人はごはんを食べなくても大丈夫なのかと思ってしまう子どもがいる」など、連合が様々な活動で連携しているNPOの「キッズドア」のホームページにはそのような事例が紹介されています。子どもの未来を語るのと同じくらい、目の前の苦しさに手を差し伸べる必要があるのではないでしょうか。
 連合本部にも「物価高で生活が苦しく、ダブルワークをしなければ生活できない」というシングルマザーからの相談や、「10年間パートで働いているが時給が変わらない」という小売販売業の方からの相談、「技能実習生として来日したが賃金が安く毎日の食事を確保することに必死だ」という製造業の方からの相談などが寄せられています。昨年もこの場で同じような声を紹介させていただきました。つまり、厳しい状況は大きく変わっていないということです。だからこそ、春季生活闘争は、目先の賃上げにとどまらず、生活に困窮している方々にも寄り添う取り組みと合わせて行っていくべき機会の一つだと思うのです。
 地方連合会や構成組織の皆さまには、日頃からフードドライブやフードバンクの取り組みを継続的に実施いただいていますが、春季生活闘争もそれらの取り組みを後押しする期間として、働く人も、生活に困難を抱えている人もみんなで助け合う取り組みにして参りましょう。

<ジェンダー平等・多様性推進の取り組み>

 働いているのに生活が困窮してしまう方々は、シングルマザーや、非正規雇用の女性労働者であることが多いことはご承知のとおりです。女性の声が様々なステージで届きにくかったり、意思決定に反映されなかったりすることが原因です。開会中の臨時国会では、質問者に女性議員を増やしたところ、男女格差や子育てなどを前面にだした質問が多くなり、質問の幅が広がったという新聞記事を見かけました。女性の発言機会が確保されることによって、扱われる問題の幅が確実に広がるのです。先の定期大会では、連合本部の女性役員比率が40%台を超えましたが、世界標準は50%です。女性枠を駆使して確保している現状を認識し、それに甘んじることなくジェンダー平等が実現できるようにしていかなければなりません。構成組織、地方連合会においてもぜひ、具体的な計画を立てて取り組んでいただくことを心から願います。とりわけ、2年後に役員人事となる組織が多いと認識しています。「そろそろ対応しないとな」と先を見るのではなく、2年後からバックキャストして、今、何をしなければならないのかを考えながら取り組んでいただきたいと思います。
 皆様のお手元に、本年5月から6月にかけて実施した『構成組織、地方連合会における女性の労働組合への参画に関する調査報告書』を配布しております。調査にご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。労働組合における男女平等参画の進捗状況および課題を把握し、今後の取り組みに反映することを目的に毎年行っています。2021年10月にスタートした「連合ジェンダー平等推進計画 フェーズ1」は、いよいよ残り1年となりました。ぜひ、本調査結果を活用しながら、取り組みの強化をお願いします。各組織のご奮闘を期待しております。

<政治の取り組み>

 岸田政権が発足して2年が経ちました。
 10月20日には、臨時国会が召集されましたが、山積する課題に対し、抜本的な解決が行われず、場当たり的な政策が打ち出されています。例えば、所得税減税は、税の還元とか、経済対策とか、あるいは子ども子育て対策とか、物価高に苦しむ国民を前に目的が右往左往してはっきりしません。加えて、実施されるのは6月から、というスピード感に疑問が残る政策が打ち出されています。国民の多くは、選挙目当ての政策であると感じており、その結果、内閣支持率が劇的に低下しています。
 また、この間、防衛費の問題、子ども・子育て支援の問題など、国の重要な課題について、国会で十分な説明を行わずに、国会の外で方向性を事実上決定するような手法が繰り返されてきました。内閣を支える重要なポストの人たちの不祥事が続くなど、国政運営そのものへの不信感が頂点に達しつつあるように見えます。
 このような時こそ、野党はその場しのぎではなく、財源確保に関する基本的な考え方を明らかにしたうえで、格差是正や、くらし・子育てなどの安心につながる施策について、現実的かつ建設的で信頼の置ける政策を掲げて与党と対峙し、選挙で闘う構図をつくることが極めて重要だと思います。また、そのような選択肢があることが民主主義の基本でもあります。
 連合は、11月9日に開催した第2回中央執行委員会で「第50回衆議院選挙の基本方針」を確認しました。年内の解散を見送ったという報道もありますが、衆議院は常在戦場です。いつでも闘いに備えておかなければなりません。政治には、緊張感が必要です。「基本方針」では「現与党に代わって働く者・生活者の立場で政権を担い得る政治勢力をつくりなおす必要がある」と、改めて決意を明記いたしました。構成組織・地方連合会・連合本部全体でその思いを共有し、今後の政治活動を進めて参りましょう。
 その上で、先行して推薦手続きを進めてきましたが、推薦候補者は現時点で86名にとどまっています。「基本方針」の考え方を理解し、連合の政策実現に向けて協働する立場で活動してきた、または、活動し得ると判断できる候補者について、今後、推薦手続きを加速していきたいと思います。「人物重視・候補者本位」という基準を改めて噛みしめていただき、各所での取り組みをお願いいたします。

<そのほかの課題について>

 最後に、各種組織課題について一言触れておきたいと思います。

 1つ目は、イスラエルとパレスチナの衝突について触れたいと思います。
 数日間の戦闘停止もありましたが、この間の武力攻撃の応酬とエスカレーションによって、あまりにも多くの一般市民、女性、こども、高齢者が犠牲となっています。また、人質として捉えられていることに胸が張り裂ける思いです。同時に、今後も一般市民の犠牲が増え続けていくであろうことに強い怒りを覚えます。何の罪もない市民に対する攻撃や拉致・監禁はいかなる理由があっても正当化できず、深刻に憂慮するとともに、最も強い言葉で非難します。
 連合はITUC、ITUC-APとともに、イスラエル、パレスチナ、そしてすべての関係者と国際社会が、平和のために行動することを強く求めています。そして、世界各地での紛争は、対話、国際法・人権法、国連安保理での対応などを通じた解決によってのみ、公正な結果をもたらすことができると信じて止みません。
 今年のG7議長国である日本政府に対しては、一日も早い停戦に向けたあらゆるチャネルを使った外交努力、そして、両国の在留邦人(イスラエル約1200名、パレスチナ約50名)の安全確保に万全を期すよう引き続き求めていきたいと思います。

 2つ目は、労働組合の力の源泉である組織拡大について触れたいと思います。
 「2023年組織拡大実績」は、102組合・101,468人となりました。加盟組合、構成組織、地方連合会など組織拡大に取り組んでいただいた成果です。各組織のご尽力に敬意を表します。ありがとうございました。引き続き、労働組合の必要性を社会に発信しながら、組織拡大目標の必達に向けて全力で取り組み、一人でも多くの仲間が結集し、働く者・生活者を取り巻く環境をより強く進めて参りたいと思います。

 最後に、中央会費制度への移行についてです。
 「組織登録・交付金等のあり方に係る作業部会」での検討を踏まえ、8月の第23回中央執行委員会にて執行部案をご確認いただき、10月中旬まで構成組織・地方連合会において組織討議を行い、意見集約しました。ご協力ありがとうございました。いただいたご意見を踏まえ、執行部案の一部修正を行い、先月開催した第2回中央執行委員会にて最終案を確認し、本日、議案としてご審議をいただきます。ぜひとも、真摯なご議論をよろしくお願いします。
 なお、2026年1月からの中央会費制度への移行に向けて、構成組織・地方連合会の皆さまとは引き続き対話を重ね、連携・協力して参りますので、制度移行に向けて最後までのご協力を重ねてお願いします。

 結びに、2024春季生活闘争に向けて、改めて皆さまとの心あわせを十分に行い、確実な成果へとつなげていくことを誓い合い、冒頭のご挨拶といたします。ともに頑張りましょう!ありがとうございました。

以上