会長挨拶

 
2023年10月5日
第18回定期大会 会長挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

 皆さま、おはようございます。構成員ならびにご関係の皆さま、国内外のご来賓の皆さま、本日は、ご多用の中、第18回定期大会にご参集いただき、まことにありがとうございます。

<はじめに>

 10月に入り、ようやく暑さも和らぎ、秋の気配を感じられるようになりました。今年の夏は、本当に暑い夏でした。全国的に観測記録を塗り替えるほど、真夏日や猛暑日が続きました。暑さは、観光やレジャーなどに出かける人を増やし、経済活動を活発にさせます。しかし、あまりの暑さは、生物の生育を阻害し、熱中症などの健康被害を誘発し、そして豪雨被害を引き起こすなど、良いことだけではありません。今年の夏も、全国各地で風水害による被害が多発したことは、皆さまの記憶に新しいところだというふうに思います。「異常気象ではないか」と疑われたことが、もはや当たり前のことになってしまったような気さえします。

<第17期の振り返りーコロナ禍を越えて>

 2021年10月、第17期の活動は、コロナ禍真っただ中の、普通の日常とは異なる状況の中でスタートをいたしました。コロナ禍が始まってから3年余り、それ以前とは異なる行動様式が、新たな様式として定着したものや、「変えるべきではなかった」と、元に戻すものもあったり、様々な経験を重ねて参りました。当たり前が当たり前ではなくなり、前例に囚われない取り組みを行わなければ、組織も、活動も維持できないという危機感をひしひしと感じながら、駆け抜けてきた2年間でした。「手探り」という表現がぴったりと合うような状況だったというふうに思います。

 労働組合は、Face to Face が基本、と先輩方から教えられ、膝を突き合わせて組合員や働く人の声に耳を傾けることが「当たり前」でしたが、それ自体が大きく制限される中、デジタルツールを介したコミュニケーションが「当たり前」に変化いたしました。手探りに加え、もどかしさを感じる日々でもありましたが、一方で、時間や距離を超えることができる利便性も発見でき、ある面では活動や参加者の幅を広げることにもつながりました。こうして2年間を振り返りますと、本当に工夫を重ねて労働運動を継続してきたことが思い出されます。皆さまも、苦労したこと、新たな発見に気づいたことがいくつか思い起こされるのではないでしょうか。

 構成組織、単組、地方連合会、それぞれの現場で取り組みを継続してきていただき、皆さまに心からの敬意と、感謝を表したいと思います。本当にお疲れ様でした。そして、ありがとうございました。

 また、経済や社会の状況も、生活者にとって厳しい2年間でした。コロナ禍の影響は、経済活動を委縮させ、辛い生活を送らざるを得なかった方々が大勢いらっしゃいました。ロシアによるウクライナ侵略も勃発し、その影響で原材料や燃料の価格が高騰し、さらに円安も加わって、急性インフレへと進みました。

 私は、この状況を「コロナ禍」「物価高」「円安」の「三重苦」であると称し、それに打ち勝つため「賃上げ」「賃上げ」「賃上げ」と連呼しながら、春季生活闘争に挑みました。目の前で起こった、この急性インフレを乗り越えるためには、賃上げすることが最も有効な解決策であることは明らかです。しかし、この30年にわたる慢性デフレの日本では、賃金が上がるということを経験せずに過ごしてきた労働者が大勢います。このことは、政府、経済界とも共通の認識となって、あの「政労使の意見交換」の場が設定され、大企業だけでなく中小企業でも賃上げが実現できるように、サプライチェーンにおける原材料費や労務費の価格転嫁の必要性が確認された結果、30年ぶりの高水準で賃上げが実現をしました。また、すべての働く人に賃上げを実感してもらうための手段の一つとして、最低賃金を引き上げるということも重要です。春季生活闘争の結果は、過去最大の最賃の引き上げにつながりました。

 長期にわたり苦戦してきた賃上げの取り組みが、様々な環境要因はあったものの、良い結果となり、2年間の取り組みの中でも最も大きな成果の一つとなったと思います。単組、構成組織の皆さまが、現場で粘り強く交渉を展開していただいた結果であり、皆さまのご努力に改めて敬意を表します。

 あわせて、三重苦の状況の中で、明日の生活に大きな不安を抱える人々の取り組みも重要な課題でした。全国の地方連合会の皆さまにおかれましては、フードバンクや子ども食堂の支援、あるいは給食費の無償化を実現するための署名活動、自治体への各種要請など、地域の生活者に寄り添った活動を続けていらっしゃいます。連合は、地方連合会の取り組みがあるからこそ、全国津々浦々に連合の旗を立てることができますし、それによって連合の存在価値を生み出していただけると強く感じております。地方連合会の皆さまも、走り続けたこの2年間を振り返り、厳しく辛いこともあったと思いますが、皆さまの取り組みが連合そのものであり、皆さまのご努力に心から感謝を申し上げたいというふうに思います。

 これまでも繰り返し申し上げて参りましたが、賃上げの流れを今年一度きりのものとせず、来年も再来年も継続していく必要があります。この認識を共有し、来る2024春季生活闘争につなげて参りましょう。

<ジェンダー平等・多様性推進を更に前へ>

 さて、第18期を迎えるにあたって、私が特に力を入れて取り組みたいことは2つございます。1つ目は、ジェンダー平等・多様性推進の取り組み、2つ目は「社会的な対話」の取り組みです。

女性に都合の良い社会を求めているわけではない。女性の人権を求め、誰もが安心して尊厳をもって生きられる社会・組織を創りたいと思っている。多様性の意見、マイノリティの意見が認められない組織は破綻するということである。

 今年度の教育文化協会「私の提言」の優秀賞を受賞した連合群馬の白井桂子(しらい・けいこ)さん、田中美貴子(たなか・みきこ)さんの論文の一節です。

 私は、女性初の連合会長としてこの2年間をスタートいたしました。女性というだけで、世間から注目を浴び続けてきたことは事実ですが、同時に、「連合のあらゆる取り組みにジェンダーの視点を入れる」ことも訴えて参りました。

 会長就任2年目の冬、2022年11月にITUC世界大会において、ジェンダー平等の理想の光景を目の当たりにしてきたときの高揚感はいまだに忘れることができません。世界大会の代議員において、女性が過半数を上回り、パリテを達成した会場の光景は、ジェンダー不平等が「当たり前」となっている日本の普段の景色とはあまりに違うことへの羨望と失望とが混在しながらも、理想の光景が現実に目の前に広がっている場面に立ち会えたことは、「あらゆる取り組みにジェンダーの視点を入れる」という目標を更に追求するためのモチベーションにつながりました。

 ご存知のとおり、日本のジェンダーギャップ指数は、125位と大きく低迷をしています。その要因は、政治・経済分野でのジェンダー不平等にあります。例えば、一見すると、性別に左右されない人事制度が用意されていても、その運用において、果たして平等が保たれていると言い切れる状態には至っていません。職場のことや組合員からの相談を思い出してみてください。

 責任ある仕事は男性にお願いして、女性には比較的簡単な仕事を割り当てていないでしょうか。

 そのことによって、女性がいくら頑張っても高い評価を付けることが困難になっていないでしょうか。

 女性というだけで、仕事の進め方や職場での接し方を過度に配慮しすぎてはいないでしょうか。

 見た目には、性別役割分担が払拭されているかのように見えても、中身が伴っていなければ、ジェンダー不平等が解消されるとは言えません。ジェンダー平等・多様性推進は、本質的には人権問題です。男性だからとか、女性だからとか、性別に関わらず、あるいは性的指向に関わらず、一人ひとりがその存在を尊重され、能力を発揮し、自己実現ができ、社会に参画することができることが望ましい社会です。これまでの男性中心の社会を脱して、一人ひとりが尊重される社会に作り替えていくことは、私たち労働組合が担わなければならない課題の中でも、大きな一つではないでしょうか。

 そのためにも、まずは労働組合自身も他人ごとではなく、ジブンゴトとして取り組んで参りましょう。ただでさえ労働組合役員の担い手不足が課題となっているのに、男性中心の、いわば徒弟(とてい)的な関係の中で、声がかけやすく男性ばかりで役員を受け継いでいくようなことをしていると、いつか必ず組織は破綻をします。これまで続けてこられたから大丈夫と高(たか)をくくっていても、これから先も存在し続ける保証はありません。慣習や過去のしがらみを引きずった組織運営は、女性だけでなく男性からも距離を置かれてしまうのではないでしょうか。

 女性が参加しやすい活動は、男性も参加しやすいのであって、それを生み出すには、女性の参画が前提となります。一刻も早くジェンダーバランスを確立する行動が求められています。そして、女性の組合役員を増やしていくための、飛び道具はありません。

 職場の代表として、単組の代表として、産別の代表として、そして地域の代表として、「あなたに担ってもらいたい」という真摯な気持ちを伝えることから始めなければなりませんし、引き受けてもらうにあたって障害があるのであれば、その障害を取り除くことも一緒に考えていかなければなりません。向き合うということはそういうことだというふうに思います。

 嬉しいことに、第17期がスタートして間もないころ、育児休職中だった女性執行委員が組合役員として復職してくれたことを報告してくれました。職場では育児休職からの復職は当たり前の光景ですが、労働界では「職場の代表なのに休職することが許されるのか」などと、前時代的な感覚が根強く残っています。労働運動に関わりながら、子どもを産み育てるということへのハードルが職場以上に高い状況の中で、ご本人が復職するという強い意思を持ち、そして、それを受け入れ、環境を整えた構成組織や単組に心から敬意を表したいというふうに思います。

 労働界の意識も、少しずつですが、確実に変わってきています。構成組織や地方連合会との意見交換の場では、必ずジェンダーに関する課題が設定されるようになりましたし、学習会も積極的に行われています。これからは、意識を変えることだけでなく、先ほどご紹介した白井さん、田中さんの論文で提言されているような具体的な行動が重要になってきます。世界に取り残されることなく、組織が持続可能となるように、そして、何より一人ひとりが大切な人財として尊重される労働組合を作っていきましょう。

<あらゆる取り組みの基盤に社会的対話を>

 注力して参りたいことの2つ目に挙げた「社会的な対話」について触れておきたいというふうに思います。

 本年4月、「L7サミット2023」をOECD-TUAC、ITUCとともに東京で開催をいたしました。G7広島サミットへの政策提言を議論し、要請書を岸田首相に直接、お渡ししました。私はこのL7サミットにおいて、唯一の戦争被爆国のナショナルセンターとして、ロシアのウクライナ侵略を最大限の言葉で非難し、「核兵器のない平和で安定した国際社会は、世界の労働者が安心・安全な生活を維持するための絶対条件」であると訴えて参りました。

 この夏、広島の平和祈念式典での「こども代表」のお二人が話された「平和への誓い」に、次の一節がありました。

私たちにもできることがあります。
自分の思いを伝える前に、相手の気持ちを考えること。
友だちのよいところを見つけること。
みんなの笑顔のために自分の力を使うこと。

 優しい表現で綴られていますが、このメッセージには大人の私たちこそが大事にしなければならない意味が込められていると受け止めました。SNSがコミュニケーションの核であるかのような錯覚に陥る現在の社会では、一方的に自分の思いを伝えるだけになってしまい、それによって炎上することもしばしばみられます。コミュニケーションの語源は、ラテン語の「共有する」という意味だと言われているそうです。私たちが発する一つひとつの言葉や行動は、「相手の気持ちを考え」、「相手のよいところを見つけ」、「相手が笑顔になるために」使い、ふるまっているのか、改めて顧みることが大切だと思います。

 『令和5年版情報通信白書』によりますと、“人は「自らの見たいもの、信じたいものを信じる」という心理的特性を有しており、自身の興味のある情報だけにしか触れなくなり、あたかも情報の膜につつまれたかのような「フィルターバブル」と呼ばれる状態となる傾向にある”そうです。“このバブルの内側では、自身と似た考え・意見が多く集まり、反対のものは排除(フィルタリング)されるため、その存在そのものに気付きづらい”とも指摘しています。

 また、“SNS等で、自分と似た興味関心を持つユーザーが集まる場でコミュニケーションする結果、自分が発信した意見に似た意見が返ってきて、特定の意見や思想が増幅していく状態は「エコーチェンバー」と呼ばれ、何度も同じような意見を聞くことで、それが正しく、間違いのないものであると、より強く信じ込んでしまう傾向にある”そうです。そして、この“フィルターバブルやエコーチェンバーにより、インターネット上で集団分極化が発生して”おり、“意見や思想を極端化させた人々は考えが異なる他者を受け入れられず、話し合うことを拒否する傾向”にあり、“意見・思想の偏りが社会の分断を誘引し、民主主義を危険にさらす可能性もありうる”と警鐘を鳴らしています。

 インターネット上の課題であって、リアルの世界とは異なると斜(はす)に構えてはいられません。本年4月に公表した『連合および労働組合のイメージ調査』では、私たち連合への社会の認知度は6割弱で、身近な存在として感じてもらえるのは、わずか2割程度しかありません。ほぼ、労働組合の組織率の範囲でしか連合は存在していないに等しいと自覚する必要があります。

 そのような限られた世界の中の意見や常識が、本当に世の中から共感を得られるものなのか、あるいは、せっかく良い取り組みであっても、身内で称え合うだけにとどまってしまっているのではないか、冷静に目を向けなければなりません。だからこそ、自分たちの外の世界とのコミュニケーション、つまり「社会的な対話」がこれからの連合には非常に重要なポイントになってくるのだというふうに思っています。そして、その際に、自分の意見を一方的に主張するのではなく、相手と共有することが大切であり、そのことを通じて、連合を意識してもらい、身近に感じてもらうために、様々な方々との対話を大切にしていきたいというふうに思います。

 このような視点に立つと、「社会的な対話」も「ジェンダー平等・多様性推進の取り組み」も、組織拡大、組織の魅力化、情報発信、政策・制度の実現、そして、政治の取り組みと、連合のあらゆる取り組みのプラットフォームであると言っても過言ではありません。

 特徴的な点に絞ると、組織拡大については「連合組織拡大プラン2030」にもとづき、まずは2025年9月までの組織拡大目標の必達が鍵になりますが、ここでもジェンダーのバランスに配慮した取り組みが求められています。
 なお、昨日の報道にもありましたとおり、Amazonの配達員が配送中に追ったケガについて、横須賀労働基準監督署長は、当該配達員を労働者と認め労災保険法上の休業補償給付を決定しました。今回の決定は、労働者性を肯定した画期的な労災認定であり、連合としても高く評価をしたいと思います。今後も、連合は、アマゾン配達員労働組合の更なる組織拡大を支援して参ります。

 また、組織の財政基盤を強化するための中央会費制度への移行も着実に進めていかなければなりません。構成組織や地方連合会との徹底した対話によって、お互いに理解を深め、納得した形での移行が必要です。なお、中央会費制度が導入されれば、一人ひとりの組合員の負担はより均一化します。属性によって差をつけるような対応は許されないという責任が伴います。地域や組織などの中間団体にばかりに目を向けるのではなく、個々の組合員を常に意識した取り組みが必要です。

 政治について、この2年間で、2度の国政選挙と統一地方選が行われましたが、構成組織によって支持政党が分かれている中、皆さまには、相当なご苦労をおかけしたことと思います。組織一丸となって闘う体制を構築できず、結果、働く者・生活者の立場に立つ政治勢力を拡大できずにいることは忸怩たる思いがあります。それでも、連合は「政治方針」で掲げる「連合の求める政治」を希求し、そのための役割と責任を果たしていかなければなりません。女性の政治参画ももっと前に進めなければなりませんし、政策実現に向けては、昨年設立された「連合出身議員政治懇談会」との連携を軸に、連合フォーラム議員など幅広い政治家との連携も模索し、二大政党的体制のもう一翼を担う、働く者・生活者の立場に立つ政治勢力の結集・拡大をめざすしていかなければなりません。

 そして、冒頭で触れた賃上げの取り組みは、国を挙げた最重要課題として取り組んでいかなければならず、今次春季生活闘争のような「政労使の意見交換」は今後も絶対に必要ですし、働く者や生活者の生活を更に向上させるための様々な課題の解決のため、「政労の対話」が実現されるべきです。連合は対話の窓を常にオープンにして取り組んで参ります。

 より具体的な取り組みについては、後ほどご確認いただく第18期の運動方針に委ねますが、それらを基礎から支える重要な要素として、「ジェンダー平等・多様性推進の取り組み」、「社会的な対話の取り組み」を、地道に、かつ確実に進め、基礎を固めることに力を尽くして参りたいというふうに思います。

 あわせて、社会が変化するスピードが上がっています。組合員を取り巻く環境変化も速度を増しています。「誰一人取り残されることのない社会」を目指す連合自身が、世の中の変化、組合員をめぐる課題の変化に取り残されることの無いように、スピード感をもって取り組みを進めて参りたいというふうに思います。コロナ禍の経験を踏まえ、未知の課題に対しても、トライ・アンド・エラーを繰り返し、果敢に挑戦して参ります。ぜひとも、皆さまのご協力をお願いいたします。

<結び>

 結びに、第17期の取り組みへご尽力いただきました皆さまに、改めて心から感謝を申し上げますとともに、第18期に向かって、連合に集う皆さまや連合を応援してくださる皆さまの力を一つに結集し、その輪を広げられるよう取り組んで参りたいというふうに思います。引き続きのご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げ、私からの挨拶といたします。

 ともに頑張りましょう!ご清聴ありがとうございました。

以上