日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子
<はじめに>
おはようございます。
中央委員、役員、顧問・参与、関係団体、傍聴の皆さま、そして報道関係の皆さま、本日は大変お忙しい中、ご参加いただきありがとうございます。連合第90回中央委員会の開会にあたり、ご挨拶申し上げます。
はじめに、5月5日のこどもの日に「石川県能登地方を震源とする地震」が発生しました。震度6強の大きな地震であり、お亡くなりになられた方、ケガを負われた方がいらっしゃいます。また、建物の被害も多数、発生しました。謹んでお悔やみを申し上げますとともに、ケガや被害にあわれた皆さまにお見舞いを申し上げます。関東でも5月11日の早朝に、千葉県南部を震源とする最大震度5強の地震が発生し、久しぶりの緊急地震速報に驚き、不安を感じた方も大勢いらっしゃったかと思います。
最近は、全国各地で強い揺れを感じる地震が相次いでいます。改めて身の回りの防災対策を確認し、安全を確保していただきたいと思います。また、これから夏に向けて、豪雨被害の発生も懸念されます。毎年、大きな災害が起きますので、こちらについても備えを十分にしていただきますよう、お互いに気を付けて参りましょう。
さて、私からは、この間の各種取り組みに関して5点にわたり、所見を申し述べ、中央委員会でのご議論に供したいと存じます。
<2023春季生活闘争について>
一つ目は、「2023春季生活闘争について」です。本日は、「2023闘争」の「中間まとめ」を提起し、ご議論いただきますが、ここまでの取り組みを見ますと、1993年以来の高水準で賃上げが実現しています。単組、構成組織、地方連合会の皆さま、特に現場で交渉に当たられた組合役員の皆さま、そして、現在進行形で交渉にあたっている皆さまのご奮闘に感謝し、敬意を表します。本当にありがとうございます。
また、「くらしをまもり、未来をつくる」を合言葉に、昨年末から始めた「連合緊急アクション」の取り組みによって、全国各地で賃上げへの機運を高め、日々の生活に困っている方々に支援の手を差し伸べていただきました。ラッピングカーの走行距離は、1か月余りで地球1周分に達しました。緊急支援カンパは、食料や日用品、学用品など段ボール40箱分もの支援の品を皆さまからご提供いただきました。数年ぶりに東京の目抜き通りをラッピングカーとともにパレードし、賃上げを訴え、国会にも請願行動を行い、多くの議員の方々と賃上げに向けたエールの交換もしました。全国各地で私たちの思いを訴えていただき、温かい手を差し伸べてくださったすべての皆さまに、心から感謝申し上げます。なお、もうしばらくすると夏休みがやってきます。生活困窮世帯の子どもたちの中には、長期のお休みで給食を食べることができないため、満足に食事ができず学校が再開するころには体重が減ってしまうという子どもたちがいます。引き続き、各地域で各種団体と連携したご支援などをお願いいたします。
前回の中央委員会で、「2023春季生活闘争」を「希望ある未来をつくる大反転攻勢の一歩を踏み出し、持続的な賃上げに向けたターニングポイントにする」ことを誓い合い、緊急アクションをはじめとして、各種の取り組みを進めてきました。その結果として、直近30年間で最高水準の賃上げが実現しました。しかし、コロナ禍の影響により、業績がまだまだ回復途上の業界では十分な賃上げができていないところや、価格転嫁が重要だと訴えてきたものの、それも十分に進んでいないところもあります。したがって、「2023闘争」が真の意味でターニングポイントであったと評価するためには、来年、再来年と賃上げを継続できるか否かに掛かっていることを肝に銘じていかなければなりません。そして、持続的な賃上げは、最低賃金の引き上げにも影響を及ぼしますし、労働組合に加入することが困難な方々にとっても、私たちが交渉した結果は好影響をもたらすこと、さらには労働組合に加入したり、新たに結成したりすることで、もっともっと働く環境が改善されることを訴えることも意識して取り組みを進めていきましょう。
一方で、賃上げが実現したとしても、経済が活性化していかなければ、さらなる賃上げは難しくなります。30年間も慢性デフレが続いてきたため、急に変えることは難しいと思いますが、安さを追い求めるだけでなく、商品やサービスの価値を認め、その裏側にいる多くの働く人を思い浮かべながら、消費行動につなげていただきたいと思います。こうした行動が、巡り巡って一人ひとりの賃金を向上させることにつながっていくものと信じています。
<社会対話について>
二つ目は、「社会対話について」です。先月半ばにG7広島サミットが開催されました。それに先立ち、4月上旬に連合がホストとなり、L7サミットを東京で開催しました。
L7に参加した各国の代表者とは、現在の世界について、気候変動、コロナ禍、エネルギーや食糧、さらにはウクライナ侵略など、様々な危機に覆われた不確実性に満ちた時代であるとの認識で一致しました。そのうえで、このような「危機の時代」において、労働者の権利を確保していくためには、市民レベルから世界レベルに至る各層での様々な団体との「社会対話」が重要であることを確認しました。もっとも、社会対話の必要性は、ILOをはじめとして従来から訴えられてきたことです。改めてその重要性を再認識するとともに、課題解決へ向けた、より具体的で有効な手段として機能させていく必要があります。
例えば、GXの進展に伴う産業構造の変化への対応には、「公正な移行」が欠かせず、その実現にあたっては、当事者である労働者と、政府や企業などとの社会対話が大前提とならなければなりません。
あるいは、政府が唱える「三位一体の労働改革」において、リスキリングによる能力向上、職務給の導入、円滑な労働移動の促進が掲げられていますが、「仕事の世界」と「学びの世界」とを円滑に移行するための手段の一つとしても社会対話が必要だと言われていますし、これらの労働改革は労働者の視点から懸念すべき点もあるため、政府の会議ではその旨を訴え続けています。
他方、「2023春闘」の期間中には、政府の「新しい資本主義実現会議」において、賃上げや価格転嫁を何度も訴えましたし、岸田首相との個別会談、「政労使の意見交換」への参加、各経済団体との意見交換など、考えうる限りの社会対話を実施した結果、職場での労使交渉を後押しする効果もあったのではないかと思います。このように様々な課題を解決するにあたって社会対話が重要な手段と認識され、現にその推進が求められていることを踏まえ、私たち連合も、より積極的に社会対話を実施して参りたいと思います。
<統一地方選挙について>
三つ目は、「第20回統一地方選挙について」です。地方連合会、構成組織の皆さまの全国各地での取り組みに心より感謝申し上げます。地方選挙は、組合員の日々の生活に密接した、“日常生活の中の選挙”と言ってもよいと思います。生活圏内の様々な課題をどのように解決していくのか、地域の活性化をいかにして実現していくのかなど各候補者が有権者に身近な政策を戦わせて行われる選挙です。しかしながら、ほとんどの選挙で投票率が前回に比べて低下しています。また、町村議会選挙では30%ほどが無投票当選となり、議員の担い手不足という課題も改めて浮き彫りになりました。一方、女性首長や女性議員の増加が見られ、自治体によっては議員の過半数が女性議員となり、パリテを達成した議会も増えたそうです。
社会環境や時代の変化により、地域住民にとって地方自治はますます重要性が増しているものの、住民の地域政治への参画の低下という課題があり、一方でジェンダー平等が少しずつ進展しているという特徴が見られた選挙であったと受け止めています。
なお、連合推薦候補者の状況を見ますと、693名の組織内候補者が当選しました。前回と比べて42名の減少となりましたが、その減少幅は少なくなりました。当選者のうち女性は290名で、前回より55名増加しております。この結果は、今後の政治活動を展望するうえで、まさに基盤となるものであり、地方連合会と構成組織の地道な取り組みに深く敬意を表したいと思います。
これらの結果を踏まえながら、来る衆院選に向けて、連合が掲げる二大政党的体制の確立をめざし、大同小異、一致団結した取り組みを進めて参りたいと思います。改めて皆さまのご理解とご協力をお願い申し上げます。
<組織拡大について>
四つ目は、組織拡大について触れておきたいと思います。
本年4月の連合登録人員数は、699万人となり、700万人をわずかに割りこみました。近年は、年間13万人程度の新規加入者を仲間に迎え入れることができましたが、減少に転じてしまったことは残念でなりません。退職者の増加や組合の解散など、明らかな減少要因に加えて、コロナ禍の影響もあって新入社員などへの勧誘が困難な状況が続いたことが、登録人員の減少につながっています。
労働組合の真価は、団結にあります。労働組合への期待を過小評価する声も聞こえますが、私は思いを共有する仲間との団結や連帯によって、互いに支え合い、助け合って、「働く」ということをより良いものにしていきたいと思います。
また、私たちが団結することによって、労働組合の有無に関わらずすべての働く方々や、様々な生活者を応援する力にもなり得るものと思っています。例えば、フリーランスの取り組みについて、「Wor-Q」を通じてフリーランスの皆さまが緩やかに連携し、連合とつながることによって、様々な課題解決の糸口を見つけていく過程は、ある種の団結とも言えますし、先に述べた社会対話の積み重ねの結果であるとも言えます。そのような関係の中で企画された「フリーランス・サミット2023」は、フリーランスの皆さまや関係する皆さまの連帯を表す象徴的な取り組みであったと思います。ご関係の皆さまに感謝申し上げたいと思います。
連合運動の基盤は、組織力、団結力であることを改めて自覚し、苦しいけれども少しずつ、一歩ずつ、組織拡大に努力して参りましょう。
<ジェンダー平等・多様性推進について>
五つ目は、「ジェンダー平等・多様性推進について」触れたいと思います。
G7広島サミットを前に、LGBT理解増進法案が提出されました。差別禁止が明確に定められておらず、「性自認」や「差別は許されない」などの表現も修正され、2021年に超党派の議連で合意した案から大幅に後退した内容になりました。G7の中で唯一、LGBTQへの差別禁止や同性婚を認めていない国が日本です。報道関係の世論調査では、差別禁止の法整備や同性婚を認めることに賛成する人は、いずれも過半数以上であり、政府・与党の感覚とは距離感があるように見えます。
G7の議長国として、他の先進国から周回遅れといわれても仕方のない人権感覚の低さを何とか取り戻そうとして努力していることは認めたいと思いますが、中途半端な中身となり、本当に守るべき人権が守られない状態になることは、避けなければなりません。
あらゆる差別は禁止されるべきです。3.8国際女性デーにおいて緊急アピールも採択しましたが、連合は、性的指向・性自認に関する差別を禁止する法律の制定に取り組むとともに差別禁止の主旨を盛り込めるよう、国会審議を通じて働きかけて参ります。
さて、皆さんは、「クミジョ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。昨年開催した2022連合中央女性集会でのパネルトークにおいて、武庫川女子大学の本田一成先生が「オッサンの壁とクミジョの壁・崖」というテーマでご登壇いただいた際に用いられた、本田先生の研究の過程で生み出された造語です。女性の労働組合役員だけのことを指しているのではなく、労働組合に関わる女性を広く言い表すものだそうです。同様に、男性の方は「クミダン」と言うそうです。
ジェンダー平等・多様性推進の取り組みを進めていくにあたって、避けて通ることができない大きな課題の一つに、労働界でのジェンダー平等があります。この会場の景色を見渡してみてください。残念ながら、「クミジョ」が多くいるとは言えません。連合全体を見渡しても、女性組合員比率37.2%に対し、女性執行委員比率は構成組織17.2%、地方連合会14.6%となっています。連合としても、「ジェンダー平等推進計画フェーズ1」として、女性組合員比率に応じた意思決定の場への参画機会の確保に重点を置いた取り組みを現在展開しています。本日ご参加いただいている皆さまは労働界のリーダー層の皆さまであり、ジェンダー平等を推進することの重要性、必要性は十分にご理解いただいており、「クミジョ」を増やすことに努力されていることは、私も承知しています。しかし、そのような皆さまをもってしても、機関会議でさえご覧のとおり「クミジョ」がまだまだ少ないという現在地点を、私たちは認識しなければなりません。
連合の労働相談ホットラインに、「職場に労働組合はあるが、女性は加入できず頼ることができない」「同じ業務内容、勤務体系、勤務年数なのに同僚の男性と比べて賃金が低いのは女性だからだとはっきり言われた」という相談が寄せられました。今どき、このようにあからさまな差別的扱いをしている職場があるのかと驚かれる方もいるかと思いますが、見方を変えれば、「クミジョ」と「クミダン」を分け隔てなく扱ってきたのか、自らを改めて振り返る事例でもあるように感じております。
昨年暮れにオーストラリアで開催されましたITUC世界大会では代議員のパリテが達成された会場の景色を目の当たりにして参りました。今年4月に開催したL7やG7雇用労働大臣会合でも、参加者の半数は女性でした。
常に海外が一歩も二歩もリードするその後ろ姿を追いかける状況から、世界と肩を並べて歩むことができるように、「ジェンダー平等推進計画フェーズ1」の最終年に向けて、女性参画の取り組みを一層加速させるべく、皆さまのこれまで以上の努力をお願い申し上げます。
<結び>
結びに、本日は、特別報告として「組織登録・交付金等のあり方に係る作業部会」の最終報告をさせていただきます。この間、10回におよぶ作業部会の開催、構成組織や地方連合会への各種調査の実施など、改めて、皆さまのご協力に感謝申し上げます。今後は、本年8月に最終報告をもとに執行部案を提起し、組織討議を経て、12月の第91回中央委員会において、組織決定できるよう、丁寧に検討を進めて参りますので、引き続きご協力をお願いしますとともに、この間の様々な取り組みへのご理解とご協力に改めて感謝申し上げ、冒頭のご挨拶とさせていただきます。ともに頑張りましょう!ご清聴、ありがとうございました。
以上