会長挨拶

 
2022年12月1日
第89回中央委員会 冒頭挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

<はじめに>

 「昨今の価格高騰の影響から、パートの勤務日数を削減された。」
 「会社が赤字だからと日当を下げられた。既に1日1食のため、これ以上食費を切り詰められない。」
 「シングルマザーで、2人の子どもを育てている。7年働いていても、一度も賃金を上げてもらえず生活が苦しい。」

 連合本部に寄せられた、働く仲間からの悲痛な叫びの声です。私たちがめざす、「働くことを軸とする安心社会」とは、このような声が聞かれることのない社会のはずです。しかし、目の前に突き付けられているのは、今日・明日をどのようにして生き抜いていけばいいのかと絶望の淵に立たされている人々が少なからずいるという厳然たる事実です。
 私たちは、この辛く苦しいトンネルを抜け出し、希望ある未来をつくる大反転攻勢の一歩を踏み出すべく、本日、第89回中央委員会を開催いたします。
 ご参加いただいた中央委員、役員、顧問・参与、関係団体、傍聴の皆さま、そして報道関係の皆さま、改めましておはようございます。ご多忙の中、ご参加いただき誠にありがとうございます。

 通例では、現下の経済状況など情勢認識に触れるところですが、冒頭に働く仲間からの声を皆さまと共有させていただいたとおり、生活者を取り巻く環境は、非常に厳しい状況にあることは誰もが認識しているところです。東京都では、住民税非課税の170万世帯に、25kgのお米を現物支給するとの報道もありました。先進国の首都で、主食を現物支給しなければならない現実を重く受け止めなければなりません。
 私たち連合は、結成以来、働くものが報われる社会、誰一人取り残されることのない社会の実現をめざして努力し続けてきましたが道半ばであることを痛感せざるを得ません。このような状況の下、私たちは2023春季生活闘争を闘います。

<2023春季生活闘争について>

 本日の中央委員会では、2023春季生活闘争方針(案)を審議・ご確認をいただきます。10月20日の第13回中央執行委員会で、「基本構想」を提起し、中央討論集会や委員会など各種会議での議論を経て、11月24日の第14回中央執行委員会でご確認いただいた案をもって本日の中央委員会に議案として提起します。構成組織および地方連合会の皆さまには、中央討論集会を含め議論にご参加いただき、現在それぞれの闘争方針策定に向けて精力的に検討いただき御礼を申し上げます。闘争方針(案)の内容については後ほど提起されますので、ここでは2023闘争についての見解をいくつか申し述べたいと思います。
 冒頭でも触れましたとおり、いま日本の労働者は物価高・円安・コロナ禍の「三重苦」の中に置かれています。2022闘争は一定の成果を収めることができ、「労働組合が社会を動かしていく『けん引役』として一定の役割を果たすことができた」と総括をしました。しかし、世界に目を向けると依然として日本の賃金水準の回復は十分ではなく、1997年のピークに戻っておらず先進国のなかでは最下位争いをしています。
 そこに、新型コロナウイルスのパンデミックが襲い掛かった結果、中小企業労働者や非正規雇用で働く方、さらにはフリーランスの方など、より弱い立場の人ほどこのような経済ショックの影響を大きく受けてしまっていることが明らかになりました。そのような立場の人を無くしていかなければなりません。つまり、分配構造を変える必要があるということです。
 さらには、2021年後半から物価高が、また今年3月頃から円安・ドル高が進みました。同じように物価高に悩む他の先進諸国のような対応策が取れないのは、先に開催した春季生活闘争討論集会で東京大学の渡辺教授からご講演いただいたとおり、日本はいまだに90年代後半からの「慢性デフレ」から抜け出せていないからです。
 日本は、「慢性デフレ」から抜け出せずにいるうちに、エネルギー価格をメインとする輸入価格高騰が引き起こした「急性インフレ」に襲われてしまい、身動きができなくなっているのです。「慢性デフレ」から脱却し、家計と企業が「急性インフレ」に対応するためにはとにかく賃上げが必要です。
 現在、日本の実質賃金はマイナスで推移しており、賃金が物価に追いつかない状況が長く続けば、内需の6割を占める個人消費が落ち込み、世界経済の減速とあいまって深刻な不況を招く恐れがあります。すべての働く者の賃金をしっかりと引き上げていかなければなりません。
 中小企業の現場からは、「エネルギー・原材料価格の高騰は、企業収益を圧迫し、人材維持・確保のための賃上げ分も含めた価格転嫁ができなければ、事業を継続できない」との声があがっています。賃上げのネックとなっている最大の構造問題は、デフレマインドが払しょくできず、適正な価格転嫁がスムーズに進んでいないことにあります。政府は、労働者の7割を占める中小企業においても、5%程度の賃上げが実現できる環境を整えるべきです。
 今回、28年ぶりに賃金要求指標として5%を提起したことに世間の注目が集まっていますが、決して目先の物価高に対応するためだけではありません。2014闘争から積み上げてきた、「底上げ」「底支え」「格差是正」の取り組みの蓄積のうえに現下の状況を総合的に勘案したものであることを是非ご理解ください。
 私たちがめざし続ける社会は、「働くことを軸とする安心社会」です。2023闘争でも「未来づくり春闘」をかかげて取り組みます。その未来に向けた第一歩は、賃金も物価も、その結果として、GDP、つまり日本経済も安定的に上昇する姿へとステージを変えていくことです。そのスタートは賃上げであり、そのうねりを創り出すターニングポイントはこの2023闘争であり、実現できるか否かはここに集う私たちにかかっています。ともに力を合わせて闘い抜きましょう。

<新しい資本主義について>

 一方、行き過ぎた資本主義によって、経済はもちろん、気候変動や人権などの問題に本気の対応が叫ばれる中、政府は、持続的な成長と分配の好循環を達成するためと称し、新しい資本主義の名の下、労働市場改革を推し進めようとしています。その手法として、労働移動、リスキリング、構造的賃上げが、アンサンブルのように唱えられています。
 わが国には、職業選択の自由があります。労働者が本人の意思で移動し、希望する労働条件のもとで就労し、職場に定着することが望ましい姿です。労働移動そのものが主たる政策目的であってはなりません。まして、労働移動の促進という理由で、解雇規制や労働法制の緩和につながるような議論は許されません。
 リスキリングとは、社会変化等を踏まえ、企業内で新たな業務の知識やスキルを習得するために行うものでもあり、労働移動に向けた手段のみを意味するものではありません。もちろん、スキルアップやキャリア形成のために不可欠ですが、非正規で働く方々なども含めて幅広く対応すべきものですし、企業を通じた学び直し支援策や従来からの能力開発支援、求職者への職業訓練も引き続き不可欠です。「働く人本位」で行われるべきです。
 構造的賃上げとは、いったい何を指すのでしょうか。労働者をリスキリングし、賃金の高い企業へと労働移動させることでしょうか。労働移動は、一つの企業にとってみれば、自社よりも賃金水準の低い企業からの労働者の流入と、自社の賃金水準に満足しない労働者の流出が繰り返されるだけであり、企業として賃上げの必要がなくなる可能性があります。持続的な成長と分配の好循環を達成するためには、短期・中長期にわたる賃上げが不可欠だということを繰り返し訴えたいと思います。
 世界が雇用・労働分野においても、よりディーセントな環境を構築していこうとする機運がある中で、個々の政策が不協和音を奏でるアンサンブルにならないよう連合はしっかりと正義を主張して参ります。

<組織基盤の拡大・強化>

 その上で、連合の主張に力を持たせていただくためには、巨大で強固な組織基盤は欠かせません。誰もが連合の声に聴き耳を立てて向き合うほどの組織づくりを継続していかなればなりません。
 現在、私たちは、徹底的に組織拡大にこだわる「連合組織拡大プラン2030」にもとづき、健全で持続可能な集団的労使関係の更なる構築を追求しています。「2022 組織拡大実績」は、合計 13万6,324人となりました。
 昨年度より減少するものの、コロナ禍により各組織の取り組みに制約がある中で、 13 万人を超える組織拡大実績は、各構成組織と地方連合会などが継続的に取り組んだ成果です。
 また、構成組織、地方連合会が自ら掲げた2022年10月から2025年9月までの3年間の「組織拡大目標」を、先般の中央執行委員会で確認をしました。具体的には、構成組織69万5,753名、地方連合会27万5,159名の計97万912名となっていますので、目標達成に向けてみんなで力を合わせて取り組み、連合全体の力を結集し、「連合組織拡大プラン2030」をより一層前進させて参りましょう。
 また、働く仲間の連帯という意味では、フリーランスの課題解決への対応も重要です。Wor-Qサポートセンターには、フリーランス当事者から大変な状況に置かれている生の声が届いています。彼ら・彼女らに起きている問題は、いずれ雇用労働者にも及ぶ問題であり、決して人ごとではありません。連合は、フリーランスの課題解決にも全力で対応していきます。
 加えて、本中央委員会では、2つの特別報告を予定しています。いずれも、組織基盤のさらなる強化に向けた重要な内容です。その1つは、「中央会費制度実行プラン」にもとづく、「組織登録・交付金等のあり方に係る作業部会」からの中間報告です。これまで、5回の作業部会を開催してきました。来年の6月に最終報告を予定しております。今回、その「中間報告」をいたします。
 もう1つは、「地域ゼネラル連合(仮称)創設PT」からの答申です。2021年12月から7回の会議を開催し、創設に向けた課題整理の議論を重ねてきましたので、答申として「特別報告」をいたします。

<政治に関する取り組み>

 さて、本年7月の参議院議員選挙を踏まえ、8月に第2次岸田改造内閣が発足しましたが、この1か月あまりの間に立て続けに3人の閣僚が辞任をしました。旧統一教会問題、死刑を巡る不適切な発言、政治資金の不適切な処理、と理由はそれぞれです。
 政権に対する国民の不信感は高まり、内閣支持率は3割程度まで落ち込んでいます。どのような政策を行うにしても、政府に対する信頼があるか否かによって、その推進力は異なってくることは明らかです。政治家の皆さんには、国民の負託に応えられる誠実さをもって職責を果たしていただきたいと思います。
 その上で、来年は統一地方選挙が行われます。連合は、この選挙を「地域と住民の暮らしを守るため、働く者・生活者の立場に立った政治勢力の拡大と地域基盤の強化、および政策実現のために極めて重要な闘い」と位置づけています。
 4年前の前回の統一地方選挙のときと比べても、国民生活や地方を取り巻く環境は、悪化していると言わざるを得ません。少子高齢化・人口減少に歯止めがかからない、大規模な自然災害が後を絶たない、新型コロナウイルス感染症により人命が失われ社会・経済活動が停滞をしている、など社会の基盤が揺らいでいます。このような状況の中で行われる統一地方選挙は、それぞれの地域での暮らしを守る戦いになることは間違いありません。統一地方選挙も、国政選挙と同様に、投票率は下落の一途をたどっており、住民の地方政治への関心が小さくなっています。地方政治の重要性は大きくなる一方で、政治への関心が低下する反比例の状況では、住民が一体となって地域を育て、盛り上げ、自らの命と暮らしを守ることへつなげていくことは困難です。連合は、働く者・生活者の立場にたった政策の実現に尽くすため、その仲間である組織内候補の積極的な擁立と女性候補の積極的な擁立もあわせて行うことで、政治への関心も高める努力をはかっていきたいと思います。構成組織、地方連合会の皆さまには是非とも積極的な取り組みをお願いいたします。

<結び:ジェンダー平等>

 先月、オーストラリア・メルボルンで、ITUC世界大会が開催されました。世界中から約1,200名が集まり、正規の代議員の50.84%が女性参加者でした。203050を待たず、パリテを達成することができました。女性の参加者が少し上回りましたが、概ね男女同数で大会が構成されたことは大変意義深く、世界レベルではジェンダー平等が当たり前の状況になっています。そのような中、ITUCの新会長に郷野晶子・連合参与が就任をしました。長らく国際労働運動に携わられた実績により、世界の労働運動のけん引役に就任されたことは、出身元となる連合にとって大変名誉なことであり、しっかりと支えていかなければなりません。郷野新会長と、連合会長である私と、女性がそれぞれのトップを務める姿を通して、さまざまな場所で、さまざまな場面でガラスの天井を突き破ろうと努力している女性の皆さんの一助となれたら嬉しく思います。
 その一方で、現実に目を向けますと、今年のジェンダーギャップ指数において、日本は、146か国中116位とおよそジェンダー平等とはほど遠い状況にあります。「すべての取り組みにジェンダー平等を!」の掛け声をこれからも繰り返し申し上げて参りますので、構成組織、地方連合会におかれましても、引き続き、取り組みの強化をお願いしたいと思います。以上、冒頭のご挨拶といたします。ともに頑張りましょう!ありがとうございました。

以上