会長挨拶

 
2022年10月6日
第88回中央委員会 冒頭挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

 第88回中央委員会にご参加の中央委員、役員、顧問・参与、関係団体、傍聴の皆さま、そして報道関係の皆さま、おはようございます。ご多忙の中、それぞれお集り頂きましたことに心より感謝申し上げます。
 まずは、この間、全国各地で大雨などによる災害が発生しています。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復旧をお祈り申し上げたいと思います。

 本日の中央委員会は、連合第17期の折り返し地点にあたります。本日は、後半年度に向けた活動計画(案)、予算(案)の審議などを予定しております。積極的なご議論をお願いいたします。私からは当面する課題と今後の運動の方向性について所見を述べ、冒頭の挨拶とさせていただきますが、その前にウクライナを巡る取り組みついてのご報告とお礼を申し上げたいと思います。
 ロシアによるウクライナ侵攻からすでに7か月が経過し、今なお戦火が止む見通しは立っていません。こうした中、連合本部は8月末に、日本ユニセフ協会と国連UNHCR協会に対して、皆さまからお預かりしたカンパ金の目録を贈呈させていただきました。ウクライナの避難民や子どもたちの希望に繋がる活用を期待するとともに、この場を借りて皆さまのご厚情に改めて感謝を申し上げます。

 次に、9月27日に行われた安倍元総理の「国葬儀」への対応について触れておきたいと思います。
 まず、政府は、法的根拠や国会関与のあり方など様々な問題を抱え、国民の理解が広がらない中で行われる結果になったことを重く受け止めるべきと考えます。国権の最高機関である国会の関与をおろそかにし、閣議決定だけで進めようとしたことは、議会制民主主義や立憲主義を軽視し、安倍政権以降の一強政治のおごりといわざるを得ないと考えます。今回の検証と今後のあり方については、国会で与野党が議論することで一致したと承知しています。このような事態が繰り返されぬよう、国会と政府での真摯な議論を求めたいと考えます。
 今回の出席については、政府からの案内を踏まえ、三役会、中央執行委員会に報告したうえで対応してまいりました。問題を残したままの実施は受け入れがたいとの立場でしたが、その一方では、政労使三者構成の一角であるナショナルセンターとして、国際社会が参加する式典に対応する責任、あるいは諸問題の検証と、総理大臣経験者が凶弾に倒れたことへの弔意の区別、そして、立憲民主党、国民民主党の対応を念頭に置きながらも、連合としての主体的な判断、以上の点を勘案し、極めて難しい、苦渋の判断でしたが、連合会長としては、弔意を示す一点において出席せざるを得ないと判断いたしました。この間いただいたご意見についてはそれぞれ受け止めつつ、今回の「国葬儀」には問題があるとの立場に立ちつつも、弔意を示す一点においての判断であったことについて、ご理解いただければと思います。

情勢認識
(コロナ禍と生活の現状)

 さて、コロナ禍はようやく第7波が落ち着きを見せていますが、次の波も懸念されるなど、依然として収束の見通しが立っていません。こうした中で感染防止と社会経済活動の両立に向けて日々現場で尽力されているすべての働く仲間の皆さま方に、重ねて敬意を表したいと思います。
 今年3月下旬に行動制限が解除されたことを受け、4-6月期のGDP改定値は大幅に上方修正され、街角の景気実感についても「持ち直しが続く」と示されるなど、数値上は改善傾向にあることが窺えます。しかし、税や社会保険料が上がる一方で、賃金は上がらず、円安による資源や食料の輸入価格上昇による支出増を受けて家計や企業の実質所得が減少するなど、コロナ禍前に戻ったとは到底実感できない状況にあります。連合の労働相談にも、生活の厳しさを訴える声が寄せられています。その一例をご紹介したいと思います。

  • 〇毎月の家計のやりくりが大変で、生かされている感じ。何の希望も夢もなく、生きている価値がない
  • 〇自分がコロナに感染し、母親も感染して亡くなった。給料が5万円しかない
  • 〇コロナ禍前までは月給制で働いていたが、時給制のアルバイトにされ、12時間勤務でも残業代もなかった。大学生と中学生の子どもがおり、妻も非正規雇用なのでこの先の生活が不安

 連合には年間約18,000件の相談が寄せられていますが、長引くコロナ禍で、パート・有期・派遣契約で働く方、フリーランス、いわゆる「曖昧な雇用」で働く方、さらには女性や外国人など、弱い立場・不安定な立場にある人ほど深刻な影響を被っており、セーフティネットの強化を急ぐ必要があります。

(さらなる「人への投資」の必要性)

 今年8月の全国消費者物価指数は、前年同月比2.8%上昇となり、消費税増税の影響を除けば1991年9月以来、31年ぶりの伸び率となりました。数値だけを見れば、政府と日銀が掲げる2%の物価上昇目標を上回っていますが、賃上げが追いついておらず、家計の厳しさが増していることは先ほど申し述べたとおりです。
 2022春季生活闘争は、コロナ禍の影響がまだまだ色濃い中、交渉にあたられた各組合と支援いただいた構成組織および地方連合会の皆さまのご尽力で、2015闘争以来の高い賃上げを実現することができました。この流れを地域別最低賃金の引き上げに波及させ、過去最高の全国加重平均31円となったことは、「格差是正」と「底上げ」に向けた大きな成果だと考えております。この「賃上げの流れ」を2023春季生活闘争にもつなげていかなければなりません。
 2022闘争の方針策定時にも強調してお伝えしましたが、日本の賃金水準は長期間停滞しています。先進国の中では最下位争いをし、アジアの中でもすでにトップとは言い難いのが現実です。この賃金水準の停滞こそが、経済の長期停滞と様々な格差につながる構造的課題の原因の一つになっています。経済の後追いではなく、経済・社会の原動力となる「人への投資」をより一層積極的に行うことで、この状況を変えていかなければなりません。
 また、現下の物価高が労働者の生活と中小企業などの経営を圧迫しています。これは、主にエネルギー価格等の輸入物価の高騰がもたらしているもので、為替レートの動きを含め注視が必要です。政府は適正な価格転嫁や取引の適正化などの取り組みを促していますが、その実効性が課題です。
 2023闘争の具体的な検討はこれからですが、日本の経済と社会を新たなステージへと変えていく転換点とすべく、引き続き「未来づくり春闘」をかかげ、私たち組織労働者の取り組みが日本の未来をつくるということをお互いにしっかりと意識しながら、進めていきたいと思います。

(組織強化・拡大、集団的労使関係の構築)

 ご存じのとおり、現在の労働組合の組織率は16.9%であり、圧倒的多数の労働者が集団的労使関係に守られていません。労働運動は、本来、すべての働く仲間を代表した運動です。その中心となる労働組合は、雇用形態の枠を超えて職場を代表する組織でなければなりません。誰かを犠牲にして身を守るのではなく、「1人の100歩よりも100人の1歩」といわれるように、同じ職場で働くすべての労働者が仲間だという意識をもって運動を進めることが重要です。連合は徹底的に組織拡大にこだわる「連合組織拡大プラン2030」や、「職場から始めよう運動」の取り組みに加え、曖昧な雇用やフリーランスとして働く人の課題解決サイトである「Wor-Q(ワーク)」など、新たな運動も展開しています。職場であっても地域にあっても、すべての働く仲間とともに「必ずそばにいる存在」となるべく、集団的労使関係の輪を広げるとともに、「なんのための、誰のための、労働運動であるべきか」を常に自らに問い続けながら、社会の共感を得られる運動を進めていくことが求められています。

(政治の取り組み)

 続いて、7月10日に行われた参議院選挙についてです。全国各地で奮闘された構成組織・地方連合会の皆さまに心より敬意を表します。9月15日の第12回中央執行委員会で「取り組みのまとめ」が確認されましたが、連合は、今次参議院選挙で55名の候補者を推薦したものの、当選者は22名と非常に厳しい結果となりました。とりわけ比例代表では、構成組織が擁立する候補者全員の必勝に向けて、700万組合員に行動を呼びかけましたが、前回に続いて現職を落選させてしまい、痛恨の極みです。
 連合としても、この状況を何としても変えなければならないという強い危機感を持っています。厳しい政治情勢が続く中にあっても、働く者・生活者のための政策実現に向けた歩みを着実に進めていかなければなりませんし、与野党が互いに政策で切磋琢磨する二大政党的体制の確立のために、引き続き役割と責任を果たしていかなければなりません。国民生活に関わる課題が山積する中、臨時国会が開会し、与野党の論戦が繰り広げられています。連合としても、組合員からの共感が得られ、期待に応えられる存在になっているか、今一度、自らの立ち位置を自覚したうえで、組合員に寄り添い、職場や生活の場における課題を丁寧にくみ上げ、政策として打ち出し、それに賛同する政党・政治家を支援していくという営みを追求することが重要です。後半年度の課題としてしっかり取り組んでいきたいと考えています。
 来年4月には統一地方選挙があります。地域に根差した政策を実現するとともに、野党勢力の細分化・弱体化が常態化する中で、働く者・生活者の立場に立つ政治勢力の結集・拡大をめざしていくための基盤を、今一度、全国各地でつくる重要な闘いとなります。対応方針は今月20日の第13回中央執行委員会で確立する予定ですが、構成組織・地方連合会の皆さまと十分に心合わせしながら、闘う体制を構築していきたいと思います。

(第17期の後半年度に向けて)

 この後ご議論いただく「2023年度活動計画(案)」ですが、長期化するコロナ禍の中、この間の経験と知見を踏まえながら、私たち自身も変化に対応したコミュニケーションの多様化など、「新しい運動様式」に引き続き挑戦することとしています。
 すべての働く人にとって連合や労働組合が「必ずそばにいる存在」となるべく、次世代を担う若い世代の視点も取り入れながら、連合の旗のもとで皆さんとともに取り組める運動を模索していきたいと思います。
 ジェンダー平等・多様性の取り組みも重要です。日本の場合、ジェンダーギャップ指数は146カ国中116位と男女平等の実現が極めて遅れており、取り組みの加速化が必要です。最近出された国連の報告書は、世界各国で男女平等を保障し、女性に対する差別を禁止する法律が整備されるまでには286年という途方もない時間がかかる、と指摘しましたが、とてもそこまで待てません。あらゆる差別の解消は持続可能な社会の基盤であり、取り組みの加速が必要です。私は昨年10月の連合定期大会において、男女平等参画の推進を連合運動の中心に位置づけていくと申し上げました。今後とも、連合のすべての取り組みにジェンダーの視点を盛り込む重要性を発信し続けていきたいと思います。

結びに

 最後に「人財」について述べたいと思います。コロナ禍は従来のビジネスモデルのあり方だけでなく、私たちの働き方やくらし、さらには組合活動にも多大な影響を与えました。いつの時代においても困難な選択を迫られる場面は多々ありますが、課題を解決し、労働組合も、企業も、組織として成長していくその源泉は「人財」であり、健全な労使関係こそが、わが国の強みに他なりません。
 この度、『月刊連合』の取材で、駅伝でお馴染みの青山学院大学陸上競技部の原晋(はら・すすむ)監督との対談の機会を得ました。原監督からは、大きな目標の達成には、未来の姿をイメージし、そこに向けた小さな成功体験の積み重ねが大切であることや、コロナ禍で社会が分断され、『共助』の精神が失われてきている中、労働組合は重要な「共助」の仕組みであるとのお話をいただきました。
 労働運動がめざすものは、組合員のみならず、すべての働く仲間・生活者の幸せの追求に他なりません。これまでとは異なる局面での運動展開が求められていますが、私たち連合は、取り巻く環境の変化に対応し、すべての働く仲間・生活者の先頭に立ち、誰一人取り残されることのない持続的で包括的な社会の実現に向けて、一つひとつの課題解決を着実に前進させてまいりましょう。皆さま方におかれましては、連合運動への引き続きのお力添えをお願い申し上げ、冒頭の挨拶といたします。ともに頑張りましょう!

以上