会長挨拶

 
2022年6月1日
第87回中央委員会 冒頭挨拶

日本労働組合総連合会
会長 芳野 友子

 第87回中央委員会にご参加の中央委員、役員、顧問・参与、関係団体、傍聴の皆さん、そして報道関係の皆さん、ご参集いただき誠にありがとうございます。
 本日は、2022春季生活闘争の中間まとめ、また今後の連合の組織・財政にかかわる重要な議案である中央会費制度の導入についてご審議をいただく予定です。ぜひ積極的なご論議をお願いしつつ、私からは5点にわたり所見を述べ、冒頭の挨拶とさせていただきたいと思います。

 まず1点目は、世界情勢とのかかわりについてです。
 ロシアによるウクライナ侵攻は、3か月余りが経過した今も先が見通せない状況です。この間、多くの民間人が無差別に攻撃され、残虐な行為の犠牲となっています。命と人権を奪い、平和なくらしと雇用を破壊する暴挙を決して許さず、即時撤退と平和回復の実現に向けて、それぞれの立場から非難の声を上げ続けることが重要です。同時に、ウクライナの働く仲間・国民の皆さんに寄り添う取り組みも引き続き求められています。
 新型コロナによる国民生活や経済への影響が続く中、ウクライナ侵攻などの影響により、世界規模で不確実性が高まり、原油や原材料、穀物などの価格が上昇し、国民生活に不安が生じています。一方、東アジアにおいては、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射という挑発的な動きが続いており、核・ミサイル開発の放棄、地域の安定に向けた国際社会の一層の連携強化が求められます。

 こうした中、先月、ドイツでG7参加国の労働組合リーダーによる会合(L7)が行われ、これに参加してまいりました。L7では、労働者やより広範な市民社会の利益のため、金融の安定、公正な税制、気候変動対策、安全衛生、デジタル化、民主的権利などについて、政治プロセスへの反映に向けてさまざまな議論が交わされました。また、L7としてショルツ独連邦首相と面会し、声明文を渡しました。一連の会合の中で、足元のさまざまな危機対応を含めて、欧州における包摂的な社会づくりに向けた意志の強さを改めて目の当たりにしました。世界で分断や対立・孤立の懸念が深まる中、このような労働運動ならではの枠組みをさらに発信することが重要だと感じているところです。
 不確実性が増す世の中にあって、労働運動として、民主的な社会を守り、すべての働く者の現在と将来の安全・安心を確保するため、お互いに知恵を出し合いながら、道を切り開いていかなければなりません。

 2点目は、2022春季生活闘争についてです。詳しくは後の議案に「中間まとめ(案)」がございますのでそちらに委ねたいと思いますが、要求提出から交渉、回答引き出しにご尽力いただきました組合と構成組織、地方連合会の皆さんに感謝申し上げます。5月6日の時点で概ね7割の組合が妥結済ですが、今なお納得できる回答を求め交渉を継続している仲間の皆さんがおられます。引き続き、構成組織、そして解決済みの組合、地方連合会、連合本部がともに連携して、その交渉を支援していくことが重要です。
 4月末の状況を見ますと、妥結済組合に占める賃金改善分獲得組合の割合が例年に比べて高くなっています。また、中小組合における「定昇相当込みの賃上げ」率が2%を超えたのは2018闘争以来、「賃上げ」分は集計を開始した2015闘争以降で最も高いなど、中小組合において「人への投資」と月例賃金にこだわり、賃金水準を意識した主体的な取り組みの成果がでているものと受け止めています。また、有期・短時間・契約などで働く方にかかわる取り組みも、賃上げは2017闘争以降、6年連続でフルタイム組合員の賃上げ率を上回り、雇用の安定や均等・均衡待遇実現に向けた取り組みも数多くの要求がなされ回答を引き出していただいています。
 春季生活闘争方針には毎年のように「労働組合が社会・経済の構造的な問題解決をはかる『けん引役』を果たす」と記載してまいりました。2022闘争については一定程度、この「けん引役」の役割を果たせたのではないか、と「中間まとめ(案)」では提起しています。
 同時に、「中間まとめ(案)」では、2023闘争以降の闘争に向けてこれから検討すべき課題も提起しています。「人への投資」と月例賃金へのこだわり、格差是正の取り組みは当然に継続する一方、国際情勢やコロナ禍の動向など見極めが必要な要素も数多く、またデジタルトランスフォーメーションやカーボンニュートラルにおける課題の克服なども労使での取り組みが必要です。引き続き「未来づくり春闘」を掲げつつ、「働くことを軸とする安心社会」に向けて歩みを進めるうえでの課題などについて、活発なご議論をお願いいたします。

 3点目は、「ジェンダー平等」についてです。
 5月27日に開催された「男女共同参画会議」において、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2022」の原案が議論されました。
 その中には、「女性の経済的自立を『新しい資本主義』の中核と位置付け、女性が直面する課題を一つ一つ解決し、令和の時代において女性が経済的に自立して生きられる社会を実現する必要がある」と盛り込まれました。
 現在、女性雇用者の半数以上が非正規雇用で働いており、正社員で見ても、女性の賃金は男性の7割にとどまっています。
 また、結婚や出産を理由に5割もの女性が第1子出産を機に離職しており、現役時代の低賃金や不安定雇用は、高齢女性の貧困にもつながっていきます。
 私たちは、あらゆる機会を通じて、男女間賃金格差の是正を訴えてきましたが、今こそその実現に向けて、社会全体で取り組むべきです。
 その最前線に立つべきは労働組合に他なりません。性別、年齢、国籍、障がいの有無、就労形態などにかかわらず、多様な人たちの声により丁寧に、慎重に耳を傾け、対話を重ねながら、すべての人が平等で差別されることのない社会の実現に向けて、これまでの取り組みをさらに発展させ、加速化をはかる必要があります。
 冒頭、L7に触れましたが、今回参加した労働組合のリーダーの半数が女性でした。改めて、日本の遅れを痛感した次第です。
 現在、連合が取り組んでいる「ジェンダー平等推進計画」フェーズ1に着実に取り組み、意思決定の場への女性の参画を進めていく必要があります。私もその先頭に立って取り組むことの決意を述べておきたいと思います。
 また、いわゆる非正規雇用や曖昧な雇用で働く人たちに対する取り組みも重要です。連合として4月を「フリーランス月間」としましたが、社会の持続可能性に関わる様々な困難な課題があるなかで最も困難な状況に置かれるのは、フリーランスやパート・有期・派遣契約などの形態で働く人、外国人、学生などです。引き続き、取り組みを進めていくとともに、現場の意見をきちんと聞くことで、労働運動がさらなる前進を果たせるよう全力で取り組んでまいります。

 4点目は、組織拡大・強化についてです。この半年間の組織拡大実績については後ほどの報告に委ねますが、全体として、各構成組織、地方連合会による努力が着実に積み重ねられた結果、コロナ禍で労働組合活動が様々に制約を受けてきたにもかかわらず、704万人の登録人員を維持することができました。この間のそれぞれのご尽力に心より敬意を表したいと思います。
 その上で、さらなる組織拡大に向け、組織拡大目標を再設定し拡大に取り組むとともに、組織強化を通じた組合員の減少に歯止めをかける取り組みを強化していく。とりわけ、身近で働く有期・短時間労働者の仲間を対象に組織拡大に取り組み、集団的労使関係の輪を広げる取り組みを展開していくことが重要です。

 最後に、政治の取り組みについてです。
 7月10日と見込まれる第26回参議院選挙の投開票日まで、残すところ1ヵ月余りとなりました。連合は、2月17日の第5回中央執行委員会で「第26回参議院選挙の基本方針(補強・修正)」を確認し、以降、推薦手続きを進め、本日現在、比例代表選挙では構成組織が擁立する9名、選挙区選挙では46名の推薦を決定しています。
 選挙区選挙については、各地方連合会を中心に、各選挙区で立憲民主党や国民民主党の地方組織、他団体などとの協議・調整が進められてきたことと思います。また、比例代表選挙については、各構成組織において、擁立組織・支援組織を中心に、候補者名の周知活動が展開されていることと思います。ご努力・ご奮闘に改めて深く敬意を表します。
 先月5月19日の第8回中央執行委員会では、「対応方針」を確認しました。その中で記載したとおり、この間、様々な情勢変化がありましたが、連合としては、最後までブレずに“人物重視・候補者本位”で臨んでいきたいと思います。
 今次参議院選挙に臨むにあたり、私たちは真に働く者・生活者の立場に立つ候補者なのかどうか、十分かつ慎重に見極めたうえで、推薦を決定してきました。特にコロナ禍での物流の混乱などに加えてウクライナ情勢が急激な物価上昇をもたらしている中、各党の主張はバラマキ合戦の様相を呈しており、むしろ円安を助長し兼ねないものとなっています。そのような中にあって、働く者・生活者にとって必要な対策を訴える候補者を国政の場に送り出すことは、生活者優先の政治を掲げる私たち連合の責務であると言っても過言ではありません。
 また、参議院選挙が終わるとその先の3年間は国政選挙がないと言われています。しかも、参議院議員の任期は6年です。そのため、今次参議院選挙の結果は、その後の国会の勢力図を一定期間にわたって規定することになります。そのもとで、まだ続くであろうコロナ禍を克服できるのか、とりわけ困窮の度合いを深めている非正規雇用の労働者やフリーランス、女性や若者の切実な思いを含めて、広く世の中に今次参議院選挙の意義を訴えかけていくことが連合の役割ではないかと考えています。
 このように、今次参議院選挙はこの先の日本の政治の方向性を決める極めて重要な闘いです。「政権選択選挙ではないから、中間選挙だから」と気を緩めることなく、引き続き、構成組織・地方連合会・連合本部全体で700万組合員に行動を呼びかけていきたいと思います。本日は中央委員会に続き、心合わせ・力合わせの場として総決起集会を予定しておりますので、ご協力をお願いします。

 そのほかにもさまざま重要課題があります。全ての課題に触れることはできませんが、足らざるところはこの後の議論の中で補足をしていただきたいと思います。すべては一人一人の熱意から始まるということだと思います。皆さんの活発な議論をお願いし、冒頭の挨拶とさせていただきます。どうかよろしくお願いいたします。ともに頑張りましょう。ありがとうございました。

以上