紙つぶて

 
2018年12月10日
連鎖

 「若い人がまた戦争にとられる時代が来ちゃ困る」。夫を戦地へ見送った経験を持つ母の口癖でした。その母が想像しなかった形の戦争が国際社会に影を落としています。米中の貿易戦争です。双方の輸出製品に照準を定め、高い関税を課し合う報復の応酬が世界経済の緊張を高めています。
 他方、対話と協調を軽んずる大国の振る舞いが世界の人々に与える影響も心配です。自国の利益だけを最優先する報道に触れるたびに「自分さえ良ければ良い」という感情が呼び起こされ、やがて、その感情を当然視する風潮が世界に伝播することです。まさに負の連鎖と言えましょう。
 先のアジア太平洋経済協力会議(APEC)、G20首脳会合でも、残念ながら世界に向け「保護主義と闘う」との発信はなされませんでした。ただし、だからと言って、働く人の努力が形となった製品を国家間の取引材料に利用してもいいと、お墨付きを与えられたわけではないはずです。
 今日も働く人たちが生み出した付加価値が国内で、そして、国境を越えて積み重なり、次々と連鎖しています。バリューチェーンと呼ぶにふさわしい営みです。だからこそ、多国間の対話と協調を非効率なものと遠ざける前に、既に、世界中で働く人の努力がつながり合う現実を見つめるべきです。私たちにはこの当たり前の事実を「連鎖」させる努力が求められています。

2018年12月10日の東京新聞・中日新聞夕刊に掲載