紙つぶて

 
2018年8月13日
静かなる語り

 四〇度超えで知名度を上げた岐阜県多治見市に十六年間、住んでいました。子供たちも地元の学校に通い、愛着があります。ただ、各地の猛暑でそのブランドにもやや陰りということでしょうか。市民にとっては「お日様。少しでも陰って」かもしれませんが。皆さん。ご自愛ください。
 平成最後の夏。観測史上初の気温を日々、塗り替える記録と記憶に刻まれる年になりました。一方、気象予報士の「命の危険にかかわる…」という必死の警鐘に早くも慣れを感じる自分がいます。戒めなくてはいけません。
 そうした猛暑の中、七十三回目の終戦記念日を迎えます。命の尊さと恒久平和を誓い合いたいと思います。正真正銘の「命の危険」をくぐり抜けた方々の「静かなる語り」は年々、細っています。重みを増すその一語一語に耳を傾ける私たちの態度、その確かさが頼りです。一年に一度めぐる八月一五日の意味をかみしめたいと思います。
 旧満州の地、奥深く。七十三年前の八月十四日。若い兵隊さんが祖国を目指し走りだします。一面の高粱畑を走っては倒れ、倒れた拍子に運よく手のひらに収まった野菜らしきものを泥のまま頬張っては、また、走り。故郷の土を再び踏んだ時の思いは簡単に文字には綴れません。暑い夏、今はそうして命をつないでくれた亡き父の静かなる語りに耳を澄ましたい。

2018年8月13日の東京新聞・中日新聞夕刊に掲載