6月3日、「第10回新しい地方経済・生活環境創生会議」(議長:伊東地方創生相)が首相官邸で開催されました。今回の会合では、「地方創生2.0の基本構想(案)」について意見交換が行われました。
芳野会長は所用のため参加できず、以下の内容の意見書を提出しました。
〇目指す姿
地方創生2.0では、複数の政策パッケージにおいて、「10年後に目指す姿(社会像)として定量的なものを提示する」とされたが、これまでの取り組みの反省や今後の経済・社会情勢の変化を充分に反映するためにも、「定量的なもの」は複数設定することを基本とし、具体的な策定にあたっては、取り組みの状況や進捗が都度確認できるよう、具体的かつ明瞭なものとすることが必要である。
〇「豊かな」生活環境
地域で安心して暮らし、働き続けることができるようにするためには、医療・介護・保育・福祉などの社会保障サービスを必要なときに切れ目なく利用できるようにすることが重要であり、人材確保を中心に、地域ごとに異なる需給の変化に計画的に対応していくことが求められることから、【10年後に目指す姿】の「定量的なもの」は、「地域の医療・介護サービスの需給見通し(10年後)を作成し、その達成に向けてサービスを維持・確保する取組が行われている地方公共団体の割合」と修正すべきである。
〇地域の働き方・職場改革を起点とした社会変革
「2.地方創生2.0の基本姿勢・視点」に記載された通り、特に地域社会には「男は仕事・女は家庭」などといった固定的性別役割分担意識が根深く残っており、若者や女性にも選ばれる地方となるためには、「働き方・職場改革」だけでなく、地域社会の変革が必要である。また、【10年後に目指す姿】として掲げた「女性のM字カーブとL字カーブ解消」に向けても、長時間労働を前提とした働き方を見直すとともに、女性への家事・育児・介護負担の偏りの是正、家族間・社会における慣習や慣行の見直しのための政策が必要である。
〇女性の起業を通じた新たな職場の創出
起業家に対して強い立場にある投資家や取引先などによるハラスメントが問題となっており、特に女性起業家は半数以上がセクシュアル・ハラスメント被害を受けているとの調査結果もある。女性の起業支援の強化とあわせ、投資家への研修など、女性起業家に対するハラスメント防止に向けた各種施策や相談体制の整備・支援に取り組むべきである。
〇副業・兼業の推進
地方公共団体等の職員を含め副業・兼業については、事実上の任命権者等から強制 または強要されるものでなく、労働者の自由意志で行うものである。また、長時間労働による健康被害防止の観点から労働時間の厳格な管理が行われるよう、企業・団体への指導監督の徹底とともに、一層の周知をはかることが必要である。
副業・兼業の推進について、地方公共団体等が各々の地域の実情に即して、自ら決めるべき事項であり、国は、長時間労働など、副業・兼業の留意点などについて周知し、地方公共団体等による適切な対応につなげていくことが重要である。
〇「交通空白」の解消等に向けた地域交通のリ・デザインの全面展開
「交通空白」の解消策として「公共・日本版ライドシェア等の普及」が示されているが、国土交通省の「取り組み方針2025」では、地域の足対策として「全国の自治体において、タクシー、乗合タクシー、日本版ライドシェアや公共ライドシェア等(以下、タクシー等という)を地域住民が利用できる状態を目指す」とされており、基本構想においても「タクシー等の確保」と表現を統一すべきである。
〇若者・子育て世帯に寄り添った結婚、妊娠・出産の希望を叶える支援
地域で安心して暮らし、働き続けるためには、社会保障サービスを必要なときに切れ目なく利用できるようにすることが重要であることから、「周産期から産後における健診・分娩等のアクセス確保、保育機能を中心とした総合拠点の整備やこどもの居場所づくり、悩みを抱えるこどもの見守りなど、これから子育てを考える世代が地方で安心して暮らし、働き、活躍できるよう、医療・介護・保育・福祉などを担う人材とサービスの確保に取り組む」と記載すべきである。
〇避難所の生活環境の抜本的改善をはじめとした地域の防災力強化
スフィア基準は、いわば最低基準であることから、一部の避難所がスフィア基準を満たせばよいというものではなく、すべての避難所がスフィア基準を満たす必要があることから、「トイレやベッド等の整備等、すべての避難所がスフィア基準を満たすよう」と記載すべきである。
〇産官学共創に向けた拠点の形成
政策例として「若手研究者が各地域で中心になり革新的・挑戦的な研究に取り組む共創の場のプログラムなどを推進する」ことが示されているが、若手研究者が、各地域で研究に取り組むためには、「雇用の不安なしに安心して研究できる環境整備」も重要であり、「若手研究者が雇用の不安なしに各地域で中心になり革新的・挑戦的な研究に取り組む共創の場のプログラムなどを推進する」と記載すべきである。
〇GX・DX分野における大規模投資の促進や人材の育成・確保
「公正な移行」の考え方を基底とし、大規模投資によって新たに生みだされる雇用や地域の産官学が連携して育成・確保した人材の雇用については、良質なものとすることが必要であるため、「こうした大規模投資をさらに促進するとともに、『公正な移行』の観点から、新たに生み出される雇用はグリーンでディーセントなものとする。加えて、既存産業の高付加価値化や・・・(略)・・・推進する。そうした人材の雇用についても、地域経済を支えることから同様にグリーンでディーセントなものとする」と記載すべきである。
以上