連合ニュース 2021年

 
2021年10月06日
連合第17回定期大会 会長挨拶
2021年10月6日
日本労働組合総連合会
会  長 神津  里季生
 
 ご参集の皆さん、おはようございます。第17回定期大会の冒頭に当たりまして、一言ご挨拶を申し述べたいと思います。連合としての諸課題・各項目の深掘りについては、後ほどの運動方針議論に委ねさせていただき、ここでは過去から未来への時間軸のなかで、そして世界の広がりのなかで、今、この日本という国に住まう私たちとして、意識を強く持つべきと考える事柄を中心に、お話をさせていただきたいと思います。
 
コロナ禍で露呈した社会的セーフティネットの脆弱性
 連合第16期の2年間は、その大半が新型コロナウイルスとの闘いに明け暮れるなかとなりました。足もと、全国で緊急事態宣言が解除はされましたが、依然として、感染拡大に予断を許さぬ状況が続いています。このようななかで、今この瞬間も、私たちの命とくらしは多くの働く仲間によって支えられています。また、組合役員の皆さん方は、対面の活動に制約を受けるなかにあっても、組合員の声や悩みに正面から向き合い、寄り添い、そして、できることを着実に取り組んでこられました。
 この間のすべての皆さん方の大変なご苦労とご奮闘に、心より敬意を表しておきたいと思います。
 
 コロナ禍で、わが国の社会的セーフティネットは、あまりにも脆弱であることが露呈をしました。その影響は、多くの働く仲間とその家族に及んでいることは言うまでもありません。そしてとりわけ、既存の制度では守られていない範囲の方々の、雇用や就労が、真っ先に不安定な状況に追い込まれました。パート・有期・派遣等の雇用形態で働く仲間や、フリーランスなどのいわゆる「曖昧な雇用」で働く仲間、そして、女性、ひとり親家庭、外国人労働者、アルバイトで生計を立てている学生など、より弱い立場にある方々ほど、深刻な影響を受けてしまっているのであります。
 このことは、連合がかねてから訴え続けてきた多くの問題・課題が、コロナ禍でより際立って顕在化してしまったものと言わざるを得ません。
 
不安定雇用の増加や賃金の低迷~安いニッポン
 そもそもわが国は、人々のくらしの基盤的な力を弱め続けて今日に至っているのであり、このこと自体、極めて大きな問題です。
 この四半世紀、働く仲間を取り巻く状況が厳しさを増すなかで、不安定な雇用の増加をはじめ、中間所得層の地盤沈下、貧困の固定化、格差の深刻化が大きく進んでしまったのであります。そういったなかで、人々が意欲を持って将来に向けた展望を持つことが妨げられているのであります。
 私たち労働組合にとって根源的な取り組み対象である賃金の状況はどうでしょうか。連合加盟という集団的労使関係に守られたなかに限って言えば、コロナ禍にあっても、2021春季生活闘争では、各組合の懸命な交渉により、2014年以来の賃上げの流れを断ち切ることなく、そして中小の賃上げが大手を上回る、あるいは有期・短時間・契約等で働く仲間の時給アップ率が全体平均を上回るという傾向を維持しています。
 このこと自体は極めて意義深いことであり、かつては考えられなかったことです。しかしわが国全体でみたときにどうでしょうか。この間も一貫して賃金上昇が続いてきた主要先進国とは全く異なり、わが国全体の賃金水準は、1997年以降の低下傾向から未だに脱することができません。消費も上向くことなく、国内の商品やサービスの価格も付加価値に見合った水準にはほど遠く、「安いニッポン」と言われるまでに低迷する状況に陥っているのです。
 
労働組合はなぜ必要なのか?
 私たちはだからこそ、賃上げのうねりを社会全体のものとし、波及力を備えたものとすべく、闘い続けていかなければなりません。そしてそのためにも、労働組合を社会にあまねくつくっていかなければなりません。
 労働組合がなぜ必要なのか?それはもちろん集団的労使関係における交渉力を備えた機能を労働側が持たなければ、賃金上昇に向けたインパクトが具現化しないということは間違いなくあります。しかし、それだけでしょうか?
 私たち連合は2013年以来、連合本部が前面に出て組織拡大に力を入れて以降、組織人員をほぼ一貫して増やし続けています。かつて660万人台にまで落ち込んだ組織人員を700万を超えるまでに回復をさせてきました。関わる方々の大変な努力の集積がこの数字には込められているのであり、あらためて敬意を表しておきたいと思います。
 そしてそうであるだけに、私は、労働組合という存在が、世の中の多くの人々にとっては未だに縁遠いものであって、本来の、自分たち自身の持ち物になり得るのだという意識になっていないことを大変もどかしく思うのです。これはいわば、ニワトリと卵の関係なのですが、そういった自分たち自身のものだという意識を持つことこそが、労働組合の必要性の核心だと思うのです。
 端的に申し述べるならば、人々が自分たちの権利意識をもっと明確なものとし、そのもとで、労働組合というものは自分たち自身の持っている貴重なツールなのだという、その認識を持ちうるような社会にしていかなければ、働く者本位の社会は実現せず、そして、ひいては民主主義も本物にならないということなのです。
 一方では、未だに連合に対して「正社員クラブ」などと揶揄する人たちがそこここにいます。その言葉がどれだけ働く者のなかでの分断を生じ、労働組合という存在を自分とは無縁のものと感じさせてしまっているか、私たちはこのような障壁にも立ち向かっていかなければならないのであります。
 
社会を覆う意識
 わが国の社会は長期にわたり将来不安に覆われてきたなかで、「社会のことより自分のこと」「将来のことより今のこと」といった認識が社会に蔓延していると言われています。まさに「今だけ金だけ自分だけ」、自己責任論のなれの果てであります。
 その一方では、職場や社会の中で、対立状態を許さない強い「同調圧力」があるとの指摘もあります。これは、先日、連合総研と連合の共催による「未来塾」でご講義をいただきました、ワークルール検定の生みの親、北海道大学名誉教授の道幸哲也(どうこう てつなり)先生の問題指摘なのでありますが、自主性や多様性が重視されていても、それは建前上のレベルにとどまり、異端や対立が好まれないことから、結局は意見を交わしたり議論したりすることを避け、忖度(そんたく)をする、あるいは無関心を決め込むなどの姿勢につながっているというものです。
 その結果、権威にあらがわないという意識、長いものには巻かれろという弱さも、私たち日本の社会に根強くはびこっているのではないでしょうか。
 私は、人類にとって、大自然の力はまさに恵みの源泉でもあり、一方では災害をもたらす脅威でもあり、限りなく謙虚になるべき対象だと思います。カーボンニュートラルの議論のベースもそういう文脈でしょう。しかし人為的な権威、あるいは人間そのものが上位の立場を笠に着た権威などは、百害あって一利なしであり、ときに、さもしいものであるということを、私たちはもっと強く意識すべきではないでしょうか。様々なハラスメントは、被害者に精神的・身体的苦痛を与え、人格や尊厳を侵害するのみならず、就業環境全体を極度に悪化させるもので、まさに人権問題であります。過労死・過労自殺が未だに後を絶たないのもここに根本原因があるのです。
 様々な問題が顕在化し、その対策が進み始めた今こそ、この流れを本物にしなければならないということも強調をしておきたいと思います。
 労働組合こそが、私たち連合こそが、先頭に立って社会の意識を本来の姿に変えていかなければならないのであります。「私たちが未来を変える」、2年前の連合結成30周年に誓い合ったこの言葉の本質はここにあるのだということを、今、強く訴えておきたいと思います。
 
誰もが将来に希望の持てる社会へ
 一方で、わが国の今後の経済社会・産業社会の行く末を見通したとき、道のりは決して容易ではないということも認識せざるを得ません。
 わが国の社会は、人口減少と超少子化・高齢化が確実に進行しているのにもかかわらず、短期的視点からの弥縫策が繰り返されてきた結果、所得再分配機能の強化は先送りされ、将来世代への負担の付け回しにも歯止めがかからないままとなっています。
 また、AI、IoTなどの技術革新やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展が加速する様相を見せてはいますが、一方で、コロナ禍で頼りになるはずの各種給付金や支援金などが滞った様をみても明らかなように、肝腎なところでのデジタル化の遅れも明らかになりました。人々にあまねくその特質が享受されるという、DXの本来の姿が置き去りになっているからに他ならないと考えます。
 さらには「2050年カーボンニュートラル」の動向を含む気候変動の問題など、包摂的で持続可能な社会づくりに向けて、克服していかなければならない課題は、まさに山積しています。
 だからこそ、多様性のなかから、人々の前向きな活力、自律的な意欲が引き出されるということがなくてはなりません。そして、しっかりと議論を重ね、あるべき姿を確立し、堂々とそこに向かって主張を重ねていくという力が必要なのであります。自主自律のなかからしかそれは生まれてこないのであります。
 労働組合があまねく組織され、明示的な権利が保障されること、そして政労使の力合わせにより、雇用と生活保障のセーフティネットが確立されることこそが、それらの力を引き出すのであって、わが国社会の持続的発展の最大の鍵を握っているということをあらためて強調しておきたいと思います。
 コロナ禍を克服するとともに、今後の不確実な環境変化に適応しつつ、ジェンダー平等、人権、一人ひとりの多様性が尊重され誰もが将来に希望の持てる社会、そして地域が中心となり支え合い・助け合いが日常に根付いた社会へと、結びつけていかなければなりません。重要課題先送り体質を、これ以上野放しにすることは許されません。
 
ニューノーマルの運動スタイル構築とその広がりに向けて
 一方で、足もとにおいて、私たち自身の問題として、コロナ禍の現状を直視し、ニューノーマルの運動スタイルを構築していくことが求められています。
 フェイス・トゥ・フェイスによる取り組みの力を再認識するとともに、リアルとオンラインそれぞれの良さを活かし、融合し、組織内のコミュニケーション力を高めていかなければなりません。その基盤をもとに、連合がすべての働く仲間とともに「必ずそばにいる存在」となっていくことが問われています。これは、第17期連合運動の基軸に据えているものでもあります。
 これまで労働組合活動と距離のあった働く仲間、あるいは連合の存在を知り得なかった働く仲間との関係づくりを進め、誰もが参加・関与しやすくなるようにすることで、労働組合への理解を広げていくことが必要であります。いわゆる「曖昧な雇用」などで働く仲間と連合が緩やかにつながる、「働く(Work)みんなの連合サポートQ」、愛称Wor-Q(ワーク)を稼働させたことも、一つの象徴的な取り組みとして触れておきたいと思います。
 ワールドワイドの視点もこれまで以上に意識する必要があります。
 2年前の定期大会の挨拶では、労働組合の歴史、そのレンジの感覚について触れさせていただきました。産業革命下    の英国に端を発した労働組合の歴史は、まだ、たかだか200年程度のものです。その中間点にILOの結成があります。102年前のことです。そして私たち連合はまる32年。考えてみれば、世界の労働組合の歴史のなかで32年間、包摂的社会、働く者本位の政策実現をめざして、団結を保ちながら一歩ずつ前に進んできたことの意味は極めて大きいものがあると思います。さらに世界の先進的な潮流を取り込みながら相乗効果をあげていかなければなりません。
 その一方では、苦しんでいる多くの国々の働く仲間のことを考えていかなければなりません。途上国の多くは労働組合がなかったり、あっても組織率はわずかというのが実態であります。したがって模範となるべき労使関係もその姿を見出し難く、富を生み出しそれを分配していくという機能がほとんどないのです。
 かろうじてその機能があったとしても、圧政・暴政によってそれがないがしろにされるケースが後を絶ちません。ミャンマー、アフガニスタン、香港のような状況は、私たちの身近な地域に生じているのであります。
 ITUC(国際労働組合総連合)の仲間とともに、手を差し伸べていかなければなりません。国際労働運動の持つ意味とその重要性をあらためて訴えておきたいと思います。
 
政治について
 項目の最後に、政治の関係について触れておきたいと思います。
 私たち連合は、この間、わが国の民主主義が危機に瀕していると警鐘を鳴らし続けてきました。コロナ禍における政府の対策においても、あいまいで中途半端な政策推進、不十分な説明などにより国民の政治不信が増しています。包摂的な社会を実現するためにも、民主主義を正しく機能させることが不可欠です。先行きが不確実なことによる社会不安や分断を防ぐため、政策決定プロセスの透明化など、国民に対する政治・行政の説明責任の発揮を求めていくことが重要です。
 新型コロナウイルスによって露呈した社会の脆弱さを正していくためには、連合のめざす「働くことを軸とする安心社会」の実現は待ったなしです。そのために、次期総選挙における働く者・生活者の立場に立つ政治勢力の拡大は極めて重要であります。
 加えて、その流れを、来年夏の参議院選挙での勝利につなげていかなければなりません。そのためにも、立憲民主党、国民民主党には、政策協定で明確にした事柄、即ち「誰一人取り残さない包摂社会」「政策資源の積極投入による雇用のセーフティネット」「税財政の構造改革を通じた持続可能な社会」等の実現に向けた連携・協力をより確かなものとし、働く者・生活者の期待に応え得る、もう一つの選択肢となることを求め続けていかなければなりません。
 来たるべき決戦に向け、連合本部・構成組織・地方連合会・地域協議会が一丸となって、組織内候補者はもとより、連合推薦候補者全員の必勝をめざすことを、あらためてこの場で確認し合いたいと思います。
 政治権力とは、私たちが、自分たちのなかから統治能力の長けたものを代表として担ぎ出し、命とくらしを守る行政能力を発揮するように任せたものに他なりません。そのことが正常に働き、政治権力の謙虚な意識構造があってはじめて社会は進化をしていくのだと思います。それをあるべき形に持って行くためには、一人ひとりが、投票という行為を必ず遂行することが、なくてはなりません。
 わが国のなかで最も真摯に政治に向き合う集団として、しっかりと本義に立ち返りながら取り組んでいきましょう、そのことをお願いしておきたいと思います。
 
おわりに
 最期に一言、感謝の意を述べて私の挨拶を終えたいと思います。運動は人から人へのリレーであります。私は今期をもって退任をし、運動を側面からサポートする側に回らせていただきます。この間、直接間接に支えていただいたすべての皆さん方に心よりの感謝を申し上げておきたいと思います。
 そしてとりわけ、この間、30周年の節目にあって、連合の来し方を振り返りそこから将来を展望していくこと、さらには今後の改革の姿・そのマインドを根付かせるという、それぞれの大事業をものにしていただいた逢見会長代行・相原事務局長のお二人に心からの敬意を表するものであります。
 そして、連合に集う皆さんの思いが一丸となって新体制を支え、働く仲間すべての幸せを実現していくことを、心より祈念を申し上げます。
 ありがとうございました。ともにがんばりましょう!
以上