参考人として陳述する佐保総合局長
政府提出の「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」(医療制度改革関連法案)の参考人質疑が5月31日、参議院厚生労働委員会で行われ、連合・佐保総合政策推進局長が参考人として出席し、意見陳述を行いました。
冒頭、連合の社会保障制度に関する考え方として、人口減少・超少子高齢化に伴い人材や財源が限られる中、効率的かつ良質な患者本位の医療提供体制と、それを支える医療保険制度によって、安心を担保していくことは極めて重要な課題であること、また、団塊ジュニア世代が高齢期を迎えることになる2035年に向けて、現在の「高齢者中心の社会保障」から、子ども・若者・現役世代から高齢期まで生涯を通じて、将来にわたって安心が確保される「全世代支援型社会保障」に再構築していく必要があることなどを発言しました。そのうえで、今回の政府法案に対する意見を述べました。
【政府法案に対する意見】
(1)後期高齢者医療における窓口負担割合の見直しについて
後期高齢者の2割負担を導入することについては、年齢ではなく支払能力に応じた負担への転換という意味で、前向きに受け止めている。
一方で、国会で議論されているとおり受診抑制が生じることは否めない。配慮措置が講じられるものの、負担が増えることによって、日常生活への支障や、受診控えによる健康悪化などの懸念も残る。応能負担への転換の必要性や、受診控えによる懸念点について、立憲民主党が提出した法案のように、保険料の賦課限度額の引き上げと国費による対応についても、検討する必要があると考える。今回の政府提出法案により、後期高齢者の窓口負担割合を引き上げるのであれば、その影響を確実に検証し、一定所得の基準の妥当性や配慮措置の継続等について検討すべき。
(2)保健事業における健診情報等の活用促進について
保健事業における健診情報等の活用促進として、保険者が事業主健診の結果を求めたら、事業主は保険者に本人同意無しでの提供を義務付ける内容が含まれている。これについては、センシティブな情報が本人同意無しで提供される点、先般省令改正がされ保険者間の特定健診情報が本人同意無しに引き継がれることとなったことと相まって、健診情報が広く共有され、本人がコントロールできなくなる恐れがある点、保険者が収集した情報が加入者の利益に確実につながるかといった点で、懸念がある。
そのため、保険者間の情報連携と同様にオプトアウト手続きを保障すること、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)業者など委託先を含め確実な情報管理や目的外利用の禁止措置などを保険者に課すこと、自己の個人情報の在りかが把握できる仕組みの構築、保険者は収集した健診情報とそれに基づく効果的な保健指導を情報提供者である加入者に確実に還元すること、国による指導監督を求めたい。
国においては、こうした情報を活用し、国の保健対策や医療政策の推進、公衆衛生の向上に生かしていくということも考えているのだと思うが、健診情報はあくまでも受診者本人のもの。その機微性に鑑みれば、こうした情報の取扱いに関する本人の権利を保障することも重要。保健医療の推進と権利保護の調和をはかるようお願いしたい。
(3)医療扶助におけるオンライン資格確認の導入について
法案には医療扶助におけるオンライン資格確認の導入が含まれているが、その前提としてマイナンバーカードに医療券の情報を入れるということが想定されている。しかし、医療扶助を受けている方のうち、現状どれだけの方がマイナンバーカードを保有しているのか。マイナンバーカードを取得していない方や、カードを取得していても紛失する方も想定される。健康や命にかかわる話なので、実態を確実に把握した上で、こうした仕組みの導入により被保護者の適切な受診が制限されることのないよう配慮し、実効性を確保いただきたい。
また、医療扶助の適正化も課題であり、被保護者も国民健康保険の被保険者とし、介護保険のように低所得者を含め保険料(税)と自己負担分を生活保護で手当てすることにより、保険者機能を効かせて医療機関の適正化を進めていただきたい。
その他、以下の点を陳述しました。
・ 傷病手当金の支給期間の通算化には賛成。傷病手当金は働く者の生活にとても重要な制度。治療と仕事の両立の推進という意味でも意義は大きくなっているので、将来にわたって制度を維持していくことが重要。
・ 任意継続被保険者制度の見直しに関して、任意継続被保険者は60歳未満の割合が大きく増えている。雇用や働き方の変化を反映しているとも考えられる。足下では、コロナによる雇用不安の高まりや賃金低下を踏まえ、保険料の臨時改定を認めるなどの検討も行いつつ、この制度は維持していくべき重要な制度。
・ 育休中の保険料免除要件の見直しについても反対するものではないが、事業主への積極的な働きかけを含め、男性の育児休業の取得促進の取り組み強化が必要。
・ 子どもに係る国保料等の均等割額の減額措置の導入は、子育て世帯、とりわけ、いわゆる非正規雇用で働きながら子育てされている世帯の経済的負担の軽減につながるものとして理解できるが、被用者は勤務先の企業規模や労働時間、賃金水準などにかかわらず社会保険を適用すべきであり、社会保険のさらなる適用拡大を進めるべき。また、コロナの影響により、出生数が大きく減少し、少子化が加速していることに危機感を抱いている。不妊治療の保険適用について検討が進められているが、それとともに、子育て支援と安心・安全な出産のため、妊娠・出産にかかる費用については、正常分娩を含めてすべて現物給付とし、産科医療の質の標準化を進めていただきたい。
その後、福島みずほ議員や足立信也議員をはじめ、与野党の議員と質疑を行いました。
連合は、構成組織・地方連合会、連合「患者本位の医療を確立する連絡会」や被用者保険関係団体などと連携し、将来にわたって安心と信頼の医療が確保されるよう、被保険者・患者・提供者の立場から政策実現に取り組んでいきます。
以 上