- (1)平和で安定した国際社会は、世界の労働者が安心・安全な生活を維持するための前提条件である。しかし、地域紛争、国境を越えたテロ、宗教対立、領土問題、民族紛争などは絶えることなく、一般の労働者や市民が犠牲となり続けている。日本は、国連を中心とする国際協調主義に立ち、アジア・太平洋諸国との連携にもとづく地域の安定および世界平和の実現に向けて積極的な役割を果たさなければならない。特に核兵器廃絶に向けた核軍縮・不拡散は、世界平和を希求するうえでも、また被爆国民の立場からも重要課題であり、その必要性を世界に発信していくことはわが国の使命でもある。
2017年7月7日、国連で採択された「核兵器禁止条約」は、2020年10月24日に発効要件である50ヵ国の批准に達し、2021年1月22日に発効した。しかし、核保有国や核の傘の下にある国の多くは未批准となっている。同条約を核兵器廃絶の推進力としていくためには、署名・批准国の一層の拡大をはかり、核兵器廃絶に対する各国の対立を解消していくことが肝要である。いまだ世界には多くの核弾頭が存在している中、核軍縮の促進と核不拡散に向けた国際的な枠組みである「核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議」の果たす役割は極めて大きい。 - (2)世界経済は、ロシアのウクライナ軍事侵攻や中東情勢、高インフレーション・物価高などが相まって、減速局面を迎えている。各地域に目を向ければ、地政学的リスクとエネルギー危機、米国における政治・経済の不透明感と分断、ミャンマーをはじめとするアジアにおける民主主義の後退と人権蹂躙、アフリカにおける食糧・保健危機などにより、不確実性がいっそう増している。
- (3)2018年3月に署名され、12月30日に発効したTPP11協定、同じく2018年7月に署名、12月に国会で承認され、2019年2月1日発効の日EU経済連携協定において、労働に関わる項目やILO中核的労働基準の尊重・履行に関する規定が盛り込まれたことは評価できる。また、RCEPに関し、2018年11月にシンガポールで発出された「RCEP交渉に係る共同首脳声明」において「RCEPの様々なステークホルダーとの継続的な関与の価値を再確認する」と言及されたとおり、ステークホルダーとして労働組合を関与させることが重要である。欧米を中心に保護主義の台頭が懸念されるが、今後も公正で持続可能な成長を秩序ある市場経済のもとで追求するために、労働者の権利保護や環境への配慮など社会的側面を考慮した国際貿易ルールを早急に確立し、実効性を担保する必要がある。また、建設的な労使関係に基づいた企業の発展が労使双方に利益をもたらすこと、万一労使紛争が長期化すれば労使双方が甚大な損害を被りかねないことから、多国籍企業において建設的な労使関係を構築し、労使で対話を行うことで紛争を回避することが必要である。そのため、「OECD多国籍企業行動指針」やILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」の周知・遵守を徹底するとともに、「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)を着実に実施することは、政労使がそれぞれに、また連携して取り組むべき重要な課題である。
- (4)2015年9月の国連総会で、2030年を達成期限とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2030アジェンダ)が採択された。その中で掲げられた17の持続可能な開発目標(SDGs)および169のターゲットは、先進国と開発途上国が多様なステークホルダーとともに達成に向けて取り組む国際社会全体の普遍的な目標である。なかでも、目標8として「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワークの促進」が盛り込まれたことはとりわけ重要である。2016年に設置された「SDGs円卓会議」には、連合もその構成員として参加し、「SDGs実施指針」の策定など政府の取り組みに参画しているところである。「SDGs実施指針」において、「労働組合は、社会対話の担い手として」「ディーセント・ワークの実現や持続可能な経済社会の構築に重要な貢献を果たすことが期待される」と位置づけられている。日本としての国際的な役割と責任を果たすため、SDGsの達成に対する国内外の貢献について積極的に発信し、実践していくために、引き続き社会的パートナーの1つとして連合と連携していくことが求められる。
- (5)グローバル化の進展に伴い、国際的な人の移動が増加する中で、テロ、紛争、暴動の脅威が広がり、さらには自然災害や感染症などのリスクも増している。在外邦人の安全確保に向けた情報収集・危機管理体制の整備・強化をするため、在外公館の整備・拡充が求められる。また、増加する訪日外国人や日本在住外国人の安全対策のため必要な対策を講ずることも必要である。
国際政策<背景と考え方>
1.政府は、平和・人権を守る外交推進により、くらしの安心・安定・安全を確保する。
- (1)すべての核兵器の廃絶と未臨界を含む核実験の禁止を求める。
①包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効に向けた取り組みを実施する。
②核兵器用核分裂物質生産禁止条約(カットオフ条約:FMCT)の交渉促進に取り組む。
③核兵器禁止条約(NWC)の早期批准および核兵器廃絶の合意形成に向けた情報発信と外交努力を日本政府に求める。
④2025年の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議に向け、実効ある合意形成に向けた取り組みを推進する。
⑤北朝鮮の核兵器開発放棄を、国連決議と六ヶ国協議の枠組みにより進めるとともに、北東アジア非核化実現のため非核兵器地帯条約の検討に着手する。
- (2)北朝鮮による日本人拉致事件を早期に解決する。(「人権・平等政策」より再掲)
- (3)領土返還の意義についての国民的理解を促進させ、日本の領土である北方四島(択捉、国後、歯舞、色丹)の早期返還を実現し、日ロ平和条約を締結する。そのため、日ロ共同経済活動に関する協議の再開に向けた取り組みを推進する。
- (4)日本の領土である竹島の問題については、地域の安全確保と安定化をはかりつつ、早期解決に向けて国際社会の理解を深める。
- (5)在日米軍基地の整理・縮小に向けた取り組みを推進する。
①日米合意に基づく沖縄普天間基地の移転について早期実現をはかる。
②在沖縄米軍の移転実弾演習における協定を遵守し、住民の安全が確保されるよう求める。
③基地の整理・縮小に際し、基地で働く労働者の雇用・生活に配慮する。
④MVオスプレイの運用において、飛行の安全性、騒音規制及び低空飛行訓練等に係わる日米合同委員会の合意事項の遵守徹底を求めるとともに、運用の見直しをはかる。
- (6)日米地位協定の抜本的見直しをはかる。
①日米合同委員会を通じて締結される個々の施設及び区域に関する協定の内容について、関係地方自治体から、住民生活の安全確保及び福祉の向上をはかるため要請があった場合は、これを検討する旨を明記する。
②日米合同委員会の駐留軍等労働者の雇用条件については、「相互間で、別段の合意をする場合を除く」を削除し、国内法令遵守の徹底をはかる。
③法律第174号(駐留軍労働者の賃金・雇用条件)の内容は、日米地位協定に条文化し、雇用主・防衛大臣が主体的権限を持って団交当事者としての責任が果たせる体制を確立する。
④労働者が解雇され、かつ、雇用契約が終了していない場合、日本国の裁判所又は労働委員会の決定が最終的なものとなった旨の手続きの「適用」を改正し、日本国の裁判所又は労働委員会の最終決定に服する旨を明記する。
⑤日米合同委員会の合意事項を速やかに公表する旨を明記する。
⑥日本政府が、駐留軍等労働者に係わる公務を遂行するうえで、基地への立ち入りを求めた場合には制限しないことに同意する旨を明記する。
⑦基地が所在する地方自治体に対し、事前の通知後の施設及び区域への立ち入りを含め、公務を遂行する上で必要かつ適切なあらゆる援助を与える。
⑧航空機事故・山火事等合衆国軍隊の活動に起因して発生する公共の安全又は環境に影響を及ぼす可能性がある事件・事故については、基地内で発生した場合においても、速やかに事件・事故に関する情報を関係地方自治体に提供する。
⑨在日米軍の訓練・演習などの諸活動の実施については、政府及び地方自治体に事前に通知するとともに、日本の関係当局との協議の仕組みを設ける。
⑩在日米軍の演習、訓練、施設整備等の諸活動の実施に対しては、航空法等の日本の国内法を適用する旨の明記をする。
⑪在日米兵による犯罪に対しては、日本の国内法を適用し、公訴が提起される前に、日本国の当局から被疑者の起訴前拘禁の移転の要請がある場合には速やかに応ずる旨を明記する。
⑫基地・施設使用時における周辺地域の環境保全について、米軍への義務付けを求める。
⑬基地・施設返還時における汚染浄化等を含む原状回復、ならびに基地周辺地域の環境保全について、米軍への義務付けを求める。
- (7)人権や労働者の権利を侵害している国に対し、ILOなどの国際機関や関係諸国と連携して、改善につながる措置を講ずる。引き続きミャンマーに対し、民主化の進展を着実に進めるための積極的な支援を行う。
2.政府は、質の高い雇用を伴う公正で持続可能な経済・社会の構築に向け、国際機関や政府間会合の機能強化と社会対話を促進する。
- (1)グローバル化する経済に対する公正なガバナンスの確保に向け、国連をはじめとする国際機関やG20などの政府間会合において実効性ある経済・金融、労働政策を策定する。
①雇用・労働問題をG20議論の中心に据え、L20、B20との協議を常設化するなど社会的パートナーとの対話を促進する。また、成長戦略と雇用政策の一貫性を担保する観点から、雇用労働大臣・財務大臣合同会合が継続開催されるよう準備会合などで働きかける。
②APEC(アジア太平洋経済協力)、ASEM(アジア欧州会合)などの政府間会合やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、ADB(アジア開発銀行)などの国際金融機関において社会対話が促進され、グローバル・ジョブズ・パクト(注1)の原則に基づきディーセント・ワーク・アジェンダ(注2)が推進されるよう働きかける。
- (2)WTO(世界貿易機関)を中心とした多角的自由貿易体制や二国間および地域内のFTA/EPAに労働条項・環境条項を組み込むことにより、公正で持続可能なものとする。(「産業政策」参照)
- (3)TPP11や日EU経済連携協定において、労働条項・環境条項が盛り込まれ、とりわけ労働条項ではILO中核的労働基準における権利の維持が謳われているが、これらの実効性を担保する体制づくりを行う。
- (4)国際金融機関が実施する各種事業において、中核的労働基準が遵守されるメカニズムを構築する。
-
①IMFが融資を行う場合、当該国労働組合と事前協議を行い、当該国政府に対しても当該労働組合との事前協議を義務づける
②世銀グループやADBなどの各国際開発金融機関が行うプログラム/プロジェクトについて、入札を希望する企業に対しては中核的労働基準の遵守を義務づける。また、監視メカニズムを設け、労働組合を含むステークホルダーと共同で雇用状況・労使関係等への影響の調査を行う。
③世銀グループは、2018年に発効した新たなセーフガード政策である「環境・社会フレームワーク」に規定されている労働者の保護が確実に実施されるよう、モニタリングに労働組合を関与させる。
- (注1)グローバル・ジョブズ・パクト(仕事に関する世界協定)~ 2009年のILO総会で採択された文書。雇用を中心とした経済回復に向けて、政労使が取り組むべき基本原則を示している。
- (注2)ディーセント・ワーク・アジェンダ~ ディーセント・ワークの実現に向けた取組み課題。具体的には、4つの戦略目標(①仕事の創出、②仕事における権利の保障、③社会的保護の拡充、④社会対話の促進)、および、横断的目標としてのジェンダー平等の推進を通じて実現することとされている。
3.政府は、中核的労働基準などの尊重・遵守とILO条約批准を促進し、ディーセント・ワークを実現する。
- (1)採択されたILO条約すべての批准と批准した条約の完全な国内実施が重要との認識に立ちつつ、とりわけ「連合が優先的に取り組むILO条約」(注3)にもとづき、未批准条約の批准と既批准条約の国内適用・遵守を促進する。
①ILO中核10条約のうち、未批准の第111号条約を中心に早期批准に向け、日本政府の「ビジネスと人権に関する行動計画」も踏まえ、関係府省間の連携を強化し、実効性ある取り組みを求める。
②「中核的労働基準10条約以外で政策的重要性や社会的要請を踏まえて批准を求めていくべきと考える条約」についても、国内における課題を整理し、環境を整備する。
③ILO結社の自由委員会の累次の勧告およびILO基準適用委員会・個別審査の結論に沿い、公務員の労働基本権回復に向けた取り組みを進める。(「行政・司法制度改革」参照)
④批准を妨げている課題を政労使で共有化するなど、協議を加速させるため、第144号条約(三者の間の協議(国際労働基準))に基づき設置されたILO懇談会の運営を改める。
- (2)ILOの実施する開発協力活動に対し、財政支援も含め、密接かつ実効的に協力する。とりわけ、中核的労働基準の尊重・遵守、雇用創出、社会保護の拡充、社会対話の推進、ジェンダー平等などに向けた活動を重視する。
- (3)国連改革が進む中にあっても、ILOの三者構成主義、国際労働基準、社会対話などの基本的原則や価値を維持するとともに、世界各地の国別事務所などの組織機構を含めILOの政策立案・調整・実施機能を確保する。
- (注3)「連合が優先的に取り組むILO条約」(第12回中央執行委員会(2022.9.15)確認)
4.多国籍企業が社会的責任を果たしていくよう、日系および外資系の多国籍企業に関する取り組みをより一層強化する。
- (1)多国籍企業における建設的な労使関係の構築と労使の対話による紛争回避のため、在外公館や関係省庁が連携し、各日系企業がILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」(注4)や「OECD多国籍企業行動指針」を遵守するよう、周知徹底をはかる。また、「行動指針」加盟国の在日商工会議所などに対しても周知をはかる。
- (2)政府は、企業の社会的責任(CSR)履行の観点から、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(注5)に基づき日本政府が策定した「ビジネスと人権に関する国別行動計画」に沿って、サプライチェーンを含め責任ある企業行動を支援する。策定から5年後の計画に見直しに向け、政府とステークホルダーの対話を充実させる。また、労使による国際枠組み協定(グローバル枠組み協定)締結、国連グローバル・コンパクト登録、児童労働撲滅、フェアトレード実施などに積極的に取り組む企業への優遇策について検討する。
- (3)政府は、策定した「ビジネスと人権に関する国別行動計画」に沿って、日本NCP(注6)の運用改善のため人的・財政的な拡充をはかる。また、日本NCP委員会(注7)がOECD多国籍企業行動指針の普及に加え、労使紛争の早期解決に関して実質的な議論を行う場となるよう努め、必要に応じて、在外企業の労務管理に精通した専門家を加える。
- (4)政府は、開発途上国、新興国におけるソフト面のインフラ整備支援に、「労使関係についての人材育成」を組み込むことにより、多国籍企業における建設的労使関係の構築や、生産性の向上、労働安全衛生の確保などの取り組みを促進し、当該国の発展に寄与する。その実施に当たっては、(公財)国際労働財団(JILAF)などを活用する。
- (5)政府は、租税回避防止のための国際的連携の動きが強まる中、租税回避地対策の強化や租税条約の締結などに取り組む。(「税制改革」より再掲)
- (6)政府は、グローバル企業の低税率国への利益移転等に伴う国際的な課税ベースの浸食を食い止めるため、「BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト」の勧告を踏まえ、中小企業の負担増に配慮しつつ国内法を整備する。また、国境を越える資金の流れの透明化に向けたルールを策定する。(「税制改革」より再掲)
- (7)CSR調達の取り組み促進に向けて、2025年日本国際博覧会協会は、「持続可能性に配慮した調達コード」に則り、全ての物品・サービスの受注者(サプライヤーおよびライセンシー)がILO中核的労働基準をはじめとする労働に関する国際的な基準を遵守するよう周知徹底をはかる。調達コードの不遵守またはその疑いが生じた場合の通報受付窓口については、効果的なものとなるよう整備する。国・地方自治体は同コードを採用する。(「産業政策」より再掲)
- (注4)ILO「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(2017年改訂版)」~2017年3月のILO理事会にて改定。サプライチェーンやデューデリジェンスについての言及があり、また、同宣言の実施メカニズムについて規定されている。
- (注5)国連「ビジネスと人権に関する指導原則」~2011年に国連人権理事会で承認された、全ての国と企業が尊重すべきグローバル基準。人権を保護する国家の義務、人権を尊重する企業の責任、救済へのアクセスの3つの柱で構成されている。2020年10月、政府は同「国別行動計画」を発表した。
- (注6)NCP(ナショナル・コンタクト・ポイント)~『OECD多国籍企業行動指針』の普及・実施、問題解決の支援のために、各国政府等に置かれている連絡窓口のこと。日本NCPは、外務省、厚生労働省、経済産業省により構成されている。
- (注7)日本NCP委員会~『OECD多国籍企業行動指針』の普及・実施のため、日本NCP、連合、経団連で構成される委員会。
5.政府は、持続可能な開発目標(SDGs)(注8)にもとづき、グローバルにバランスの取れた、持続可能な社会開発に向けた取り組みを推進する。
- (1)「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」(政府策定)に基づき、国内外の取り組みを着実に進める。
①「SDGsアクションプラン」作成などの場面において、労働組合を含むステークホルダーを参加させ、持続可能な開発目標推進本部の機能強化をはかる。とりわけ国際労働組合総連合(ITUC)が重点目標に位置づける目標1、5、8、10、13、16に関する議論には労働組合を必ず参加させる。あわせて、財源確保策についても具体化させる。
②開発途上国におけるSDGs実施体制の構築、戦略作りに対する支援を行う。
③SDGsの国内での認知度向上を国民運動として取り組む。とくに、あらゆるステークホルダーと連携し、普及・啓発活動のための体制および予算措置を具体化させる。
- (2)SDGs達成をめざす観点から、ODA(政府開発援助)を人間の安全保障の理念に立脚した開発途上国の社会・経済開発や地球規模課題の解決に活用する。
①理念・目的・基本原則の確立、手続の透明性確保、実施体制の強化に向け、ODA基本法を早期に制定する。
②(公財)国際労働財団(JILAF)などを活用し、労働、教育などの社会開発分野におけるODA、特にSDGsの目標8に関してディーセント・ワークの推進に向けた雇用の創出、労働者の権利保護、社会対話の促進、社会保護の土台整備などについての規模・内容の拡充をはかる。
③ODA事業において、サプライチェーンも含め、中核的労働基準の遵守を徹底する。
④ODA事業のうち、気候変動に関するプロジェクトについては、「公正な移行」に沿った対策を講じる。(「環境政策」参照)
⑤国連が先進諸国に対し目標として求めているODAのGNI(国民総所得)比0.7%に向けた道筋を示す。
- (3)国際レベルで資金の投機的な動きを抑制するため、金融取引税などの国際連帯税導入について、国内における合意形成と国際合意を早期にはかる。その税収は主に貧困撲滅や気候変動対策の財源として活用する。(「税制改革」より再掲)
- (注8)持続可能な開発目標(SDGs)~ 2015年9月採択。ミレニアム開発目標(MDGs)の後継であり、17の目標と169のターゲットからなる。
- 目標1
- あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
- 目標2
- 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
- 目標3
- あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
- 目標4
- すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
- 目標5
- ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う
- 目標6
- すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
- 目標7
- すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
- 目標8
- 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
- 目標9
- 強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
- 目標10
- 各国内及び各国間の不平等を是正する
- 目標11
- 包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
- 目標12
- 持続可能な生産消費形態を確保する
- 目標13
- 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
- 目標14
- 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
- 目標15
- 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
- 目標16
- 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
- 目標17
- 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する
6.政府は、グローバル化の進展に伴って増加する人権擁護など諸課題への対応を強化する。
- (1)テロ、紛争、暴動の脅威の拡大や自然災害、感染症などに対応するため、以下の取り組みを行う。
①在外公館の体制強化をはかり、海外安全情報の収集に万全を期すとともに、在外邦人への情報提供や安全確保など危機管理に関する取り組みを一層強化する。
②災害発生時には、関係省庁、NGOや民間ボランティア、各国の援助隊・関係機関と連携して迅速に支援体制を築き、早期復旧・復興をはかる。
③訪日外国人旅行者が日本滞在中に自然災害によって被災した際には、在日本各国大使館・領事館と連携してスムーズな帰国に向けた必要な措置を講ずる。
- (2)日本在住外国人の人権を守るため、以下の取り組みを行う。
①永住外国人への地方参政権の付与については、国民的な議論と合意のうえで対応する。(「政治改革」より再掲)
②合法的に滞在し、就業している外国人が、滞在の延長、定住、永住などを希望する場合には、安定的に長期間滞在することを可能とするため、在留許可基準の明確化と手続きの簡素化をはかる。
③生活分野、労働分野に関する法制、公的支援制度や公共サービスについて、外国語文による案内を配備するなど、外国人も利用しやすい環境を整備する。
- (3)「人身取引対策行動計画2014」などに基づき、労働搾取の防止、人身取引被害者の保護・未然防止と被害者支援の強化に努める。また、ILO「1930年の強制労働条約の2014年の議定書」を批准する。
- (4)真に保護するべき難民に対する保護強化の観点から、難民条約等国際的な理念に則り、難民認定制度や運用を改善し、包括的保護制度を確立する。また、第三国定住の拡大および「難民保護法」の制定を目指し、早急に検討を進める。
7.国連「ビジネスと人権に関する指導原則」にもとづき、ビジネスと人権に関する課題への取り組みを推進する。
- (1)政府は、「ビジネスと人権に関する国別行動計画」や「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(注9)について、ビジネスと人権をめぐる状況が絶えず変化していることなどを踏まえ、実施状況や実効性などの検証を通じ、一定の期限を区切った見直しを行う。あわせて、人権デュー・ディリジェンス義務化の世界的潮流を踏まえ、義務化(法制化)を見据えた議論を行う。
- (2)政府は、個別企業・産業・地域では解決の難しい構造的な課題への対処に向けて、ディーセント・ワークの実現に向けた①未批准のILO中核的労働基準の早期批准および既批准条約の完全実施、②ジェンダー平等の実現・ハラスメントの禁止、③外国人労働者の人権尊重、④差別の禁止(人種、民族、宗教、肌の色、性別、年齢、疾病、障害、門地、性的指向・性自認等)、⑤中小企業への支援強化・公正取引の実現、⑥公共調達における透明性確保、⑦日本NCPおよび日本NCP委員会の機能強化などに取り組む。
- (3)地方自治体は、公共調達(公契約)や民間業務委託などにおいても、ビジネスと人権に関する問題が発生し得ることを踏まえ、適切な策を講じる。
- (注9)「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」~ 2022年9月に策定された、企業による人権尊重の取り組みに関するガイドライン。企業に対し、人権デュー・ディリジェンスの実施を求めている。