連合見解

 
2014年07月17日
日本再興戦略等に対する連合の見解 ~誰のための「日本再興」なのか~
日本労働組合総連合会

はじめに

 政府は、6月24日、「日本再興戦略」改訂2014(以下「再興戦略2014」)と「経済財政運営と改革の基本方針2014」(以下「骨太方針2014」)を閣議決定した。これに対する全般的な評価は、同日、事務局長談話で発信した。本見解は、主な論点について、連合としての考え方を対置し、政府方針の課題や問題点をより明確になるよう整理した。この見解を踏まえ、連合は働く者の代表として、国会や審議会、予算編成等の対応に全力で取り組み、「働くことを軸とする安心社会」の実現をめざす。

I.総論

1.誰のための「日本再興」なのか?

 日本再興のための戦略とは、本来、傷んだ日本社会を立て直すための設計図であるべきだ。国民目線から、どこに向かってどのように再建していくのか、明確なメッセージ性がなければならない。 しかし、「再興戦略2014」の中心に描かれているのは、ヒト・モノ・カネを「稼ぐ力(=収益力)」の強化に総動員し、「世界で一番ビジネスがしやすい環境」を作り上げることであり、めざすべき社会像は示されていない。  「再興戦略2014」は、もっぱら企業や投資家の目線に立ち、一部の業界やその関係者の要望に沿う形で取りまとめられたものである。それを象徴するように、「『世界で一番ビジネスがしやすい環境』を作り上げていくためには、投資環境の改善に資する規制制度改革・・・などを講じていく必要がある」とし、その司令塔として「対日直接投資推進会議」を設けた。いわゆるアベノミクスを支えている一つが株価であり、株高を支えているのは外国人投資家である。短期利益を追求する投資家や企業へのメッセージが一番目におかれ、生活者・働く者のことは後回しにされている。戦後の日本社会を支えてきた分厚い中間層がやせ細り、ワーキングプアが増大するなど、社会の持続可能性が危機に陥っていることに対する問題意識や、それに対する処方箋は希薄である。

2.働く者を犠牲にして経済成長をめざすことは許されない。

 安倍総理は、「経済成長を取り戻し、アベノミクスの効果を全国津々浦々に波及させる」としているが、強者をより強くし経済を引っ張ってもらえれば、自然とその富が全体に浸透するというトリクルダウン型の発想では格差社会の流れを反転させることは困難だ。成長の果実が国民生活に分配されなかった2000年代の反省に立ち、経済成長モデル自体の転換が必要である。 リーマンショックを契機に世界の潮流は変わっている。短期利益最大化を追求したマネーの暴走や「利益は企業に。リスクとそのツケは国民に」という企業行動が率直に反省され、ディーセントな雇用を増やしていくことが経済再生のカギと位置づけられている。本年5月のOECD閣僚理事会・閣僚声明でも「主たる課題は、人々の社会的保護と能力強化という人間の安全保障を強化することによって、包摂的成長を達成することである」としており、格差拡大への懸念と包摂的成長の必要性について強調されている。 「再興戦略2014」は、こうした考え方と真逆である。「新たな労働時間制度」の創設、解雇の金銭解決制度の検討など労働者保護ルールの改悪を経済成長のための手段とし、働く者の犠牲の上に成長戦略を描いている。いわゆる経済的規制と同列に置き、その岩盤を政治力という「ドリル」で破壊することが、経済の新陳代謝を進めることにつながるという考え方は、言語道断である。いま行うべきは、劣化した雇用の立て直しを日本再興の中心に据え、格差社会に歯止めをかけ、ボトムアップを通じて経済の好循環を回していくことである

3.働く者が参画できないところで決められた成長戦略は問題だらけ。

 「再興戦略2014」は、わが国経済社会の立て直しという国民生活に直結する根本的なテーマであるにもかかわらず、その検討は政府寄りの一握りの人々を中心に行われ、閣議決定された。働く者の代表がその過程に参画できないなかで、労働者保護ルールなどを岩盤規制だと決めつけ、一方的に課題設定し方向性を打ち出していく手法は問題である。労働者保護ルールは、働く者が人たるに値する生活を営むための最低限のルールである。使う側の理屈だけで検討すべきものではない。 国民の多様な意見に耳を傾け、議論を通じ理解を深め、よりよい方向に舵取りをしていくのが政治の本来の役割である。巨大与党の数の論理におごることなく、民主主義の基本に立ち返るべきである。 連合は、国民生活に深く関わる重要政策の検討プロセスへの参画を求めていく。とりわけ、雇用・労働政策に係る議論は、ILOの三者構成原則に則り、労働政策審議会で必ず行うべきである

4.働く現場の実態を軽視した政策の羅列であり戦略とは言えない。

 「再興戦略2014」には、雇用制度改革、女性の活躍推進、立地競争力の更なる強化、金融・資本市場の活性化などの個別政策が羅列されているが、実態と乖離し政策効果が疑わしい政策も少なからず含まれている。 人口減少社会に対応するため女性がもっと活躍できる社会づくりを目玉政策の一つとして掲げているが、多くの働く女性が悩んでいる長時間労働の是正や性別役割分担意識の払拭、雇用における男女間格差の解消などは棚上げにされている。 また、法人税率引き下げについても、過去の引き下げが国内投資の増加にどれだけ効果があったのかについてはまったく説明がない。 「再興戦略2014」は、2022年度まで平均で名目3%程度、実質2%程度の成長を確固たるものにする第一歩であるとしているが、めざすべき経済社会の姿が明確にされ、それと整合性のあるパッケージとして個別政策が配置されてはじめて、10年後を展望した戦略といえる。 連合は、「働くことを軸とする安心社会」の実現をめざし、2020年を目途に実現すべき政策パッケージをとりまとめ、政策制度実現活動に取り組んできた。引き続き、働く者の代表として、日本再興に主体的に関与していく

主な課題についての見解は以下の通りである。

II.各論

1.労働時間規制の緩和

(1)「時間ではなく成果で評価される労働時間制度」(いわゆるホワイトカラー・イグゼンプション)の創設

 政府は、「一定の年収要件(例えば少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者」を対象として、「労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した『新たな労働時間制度』を創設する」としている。これは、労働基準法によって使用者に義務づけられている“1日8時間・1週40時間”といった労働時間規制や“休憩・休日の付与”、“時間外・休日労働に対する割増賃金の支払い”といった規制を対象労働者については適用しないこととするものである。 こうした制度が創設された場合、労働時間に関する基本的かつ最低限のルールの保護さえ受けられなくなるために、成果のみ求められれば、対象となる労働者について更なる長時間労働を助長することになるのは明らかである。ワーク・ライフ・バランスに反し、過重労働による精神疾患や過労自殺、過労死等の健康・安全を害する事態を招く制度を容認することはできない。 政府は、毎年100名を超える方が過労死で亡くなっている現実を直視し、“残業代ゼロ”制度を創設するのではなく“過労死ゼロ”を実現する施策こそ早急に講じるべきである。 連合は、すべての労働者を対象とする「勤務間インターバル規制の導入」や「労働時間の量的上限規制の法定化」といった長時間労働防止策や、実効的な休日・休暇の取得促進策を講じるべきと考える。

(2)「裁量労働制の新たな枠組み」の構築

 政府は、「企業の中核部門・研究開発部門等で裁量的に働く労働者」を対象として「『裁量労働制の新たな枠組み』を構築する」としている。これは、企画・立案・調査・分析といった業務(企画業務)や研究・開発といった業務(専門業務)に従事する労働者を対象として既に導入されている裁量労働制とは別に、本社等で働く一層幅広い労働者を対象としうる裁量労働制を新たに設けようとするものである。 裁量労働制とは、仕事の進め方について労働者の裁量の幅が大きい業務について、実際の労働時間数にかかわらず労使協定等で決めた一定の労働時間数だけ労働したものとみなす制度である。 したがって、仕事の進め方に真に裁量が認められる労働者に限ってその対象としなければ、裁量労働制の名のもとに労働時間規制の網が事実上かからなくなり、結果として長時間労働・過重労働を生み出すことになりかねない。 連合は、「裁量労働制の新たな枠組み」の構築や既存の裁量労働制の見直しにあたっては、長時間労働防止や対象労働者の健康確保の観点から、適正な労働時間管理や健康・福祉確保措置の充実等こそ措置されるべきであり、対象者の安易な拡大等は行うべきでないと考える。

2.「判決による金銭救済ができる仕組み」(解雇の金銭解決制度)の導入

 政府は、「主要先進国において判決による金銭救済ができる仕組みが各国の雇用システムの実態に応じて整備されている」ことを理由に、「透明で客観的な労働紛争解決システム」を構築するとして、“解雇の金銭解決制度”を導入しようとしている。 この制度は、2003年の労働基準法改正に際しても労働政策審議会で議論されたところであるが、“解雇が有効か無効かを争う裁判を行った結果、たとえ労働者が解雇無効(不当解雇)の判決を勝ちえたとしても、会社が解決金を支払いさえすれば雇用終了として取扱い、労働者を職場復帰させなくともよい”という仕組みである。 したがって、こうした制度が導入された場合には、[1]労働者が職場復帰を望んだとしてもその道が閉ざされてしまい、労働者の尊厳が傷つけられる、[2]使用者側からの金銭解決の申し立てが認められた場合には「金さえ払えば解雇できる」といった風潮が広まりかねない、[3]現在でも裁判上の和解や労働審判によって金銭解決を行うことも可能であるため労働者にとって救済手段の多様化にはつながらない、といった問題が生じることは明らかである。したがって、連合は、本制度の導入を決して容認することはできない。 しかも、政府は「金銭救済ができる仕組み」といった表現を用いることであたかも労働者が救済される制度整備を行うかのように話をすり替え、数々の問題点や危険性を糊塗している。こうした表現は国民を欺くものと言わざるを得ない。 さらに、政府はこの制度の導入是非を議論するに先立って、裁判所の協力のもと労働審判や裁判における和解事案での解決金額等の分析・整理を行うとしている。この点についても、[1]非公開とされている労働審判等について、その記録を行政府が閲覧するというのであれば、法的根拠が十分にあるのか疑問である、[2]解雇事案における解決金額の水準は、事案の内容等に応じて相当幅があるものであるところ、そうした諸事情を斟酌せずに平均値の算出等を行うのだとすれば、本質を見誤った分析となるおそれが高い、といった問題を指摘しうる。 このように「解雇の金銭解決制度」やその導入議論の進め方には大きな問題がある以上、連合は、労働者の救済手段の多様化をはかること等を名目に解雇ルールの緩和をはかろうとする「解雇の金銭解決制度」の導入には断固反対する

3.外国人が日本で活躍できる社会にむけた制度改正

(1)外国人技能実習制度の拡大

 政府は、労働の担い手を生み出すことを目的に、「対象職種の拡大、技能実習期間の延長(最大3年間→最大5年間)、受け入れ枠の拡大」といった形で外国人技能実習制度を見直そうとしている。 この制度は、本来、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力する国際貢献を目的としているが、その運営実態をみると、制度の本旨を逸脱して単純労働者(安価な労働力)の受入れ手段となってしまっている。また、労働関係法令違反や外国人技能実習生への人権侵害といった問題事例も多発している。 こうした実態にかんがみれば、わが国の労働力不足を理由として外国人技能実習制度の拡大をはかるのではなく、まずは本旨に立ち返った制度の適正化に向けた施策こそ、講じるべきである。その際、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等以上の報酬」の支払いを定めている法務省令の実効性を担保するため、職種・作業ごとに最低年収基準を定めるといった取り組みを行うべきである。 また、介護分野への拡大意向が強く示されているが、意思疎通の欠如によって不測の事故をまねくことのないよう日本語によるコミュニケーション能力は必要不可欠である。また、社会問題となっている認知症に対するケアにおいてこうした能力がこれまで以上に求められるなど、介護サービス特有の課題が存在している。こうした課題があることから、介護分野への拡大は行うべきではない。

(2)国家戦略特区を用いた外国人家事支援人材の受け入れ

 政府は、女性の活躍推進等を理由として、「国家戦略特区において、外国人家事支援人材の受け入れを可能とする」措置を行うとしている。 しかし、家事支援分野については、家庭内という閉鎖された場所での労働となることから差別や虐待等があっても表面化しにくいといった課題が指摘されており、こうした課題を抱える家事労働者の労働条件改善をはかるため、2011年6月にはILOが「家事労働者条約(第189号)」を採択するに至っている(日本は未批准)。 家事労働者をめぐる人権問題への取り組みが国際的に進められているにもかかわらず関連条約の批准さえ行えていない状況下で「家事は女性が担うもの」という固定的な性別役割分担の発想に基づき外国人家事支援人材を受け入れることについては、日本語コミュニケーションを前提としない外国人材の受け入れニーズが国民の間に存在しているとはいえない状態にあることにも鑑み、たとえ国家戦略特区という限られた範囲であったとしても行うべきでない

4.「未来を創る若者の雇用・育成のための総合的対策」の推進

 政府は、「若者雇用対策が社会全体で推進されるよう、総合的な対策について検討を行い、法的整備が必要なものについては、次期通常国会への法案提出をめざす」としている。また、検討する項目として、[1]キャリア教育や職業教育・職業訓練機会の充実、[2]求人条件や若者の採用・定着状況等の適切な開示、[3]若者の「使い捨て」が疑われる企業等への対応策の充実強化、[4]フリーター・ニートの就労支援の充実、等を挙げている。 すべての若年者への良質な就労機会を実現するためには、若者を使い捨てるブラック企業対策や若者の就労支援の強化が必要であり、法違反に適正・厳格に対応するための労働基準監督官の増員、3年以内離職率の開示の徹底、学校段階での労働教育や、労働者・経営者に対する労働法教育の推進、地域若者サポートステーションの拡充、等の多面的な対策が求められる。 連合は、すべての若年者への良質な就労機会の実現をめざし、2012年に「連合の若年者雇用対策」を策定するとともに、政府の「雇用戦略対話」や労働政策審議会等の場において、積極的に意見提言を行ってきた。「再興戦略2014」に盛り込まれた総合的対策の方向性は概ね連合の考え方に沿うものであり、労使の若年者雇用に関わる代表が参画する労働政策審議会において具体策の検討を急ぐべきである。

5.「女性が輝く社会」にむけた施策

(1)基本的理念に関わる課題

 社会正義と経済効率の観点から、女性がこれまで以上にさまざまな分野で活躍していくことは大変重要である。しかし、「再興戦略2014」の基本的理念においては、女性を経済的な観点からのみ「活用」することによって経済成長を果たすという考え方が先行している。こうした考えは、女性を経済成長の「モノ」や「道具」と捉えてしまうことに繋がりかねない。 「再興戦略2014」に欠けているのは、性別役割分担意識等の性差別意識の是正、そして格差是正の観点である。女性を軽視する発言問題などが示すように、性差別意識の是正なしに、女性が輝く社会の実現はない。また、女性の過半数が非正規労働に従事し、女性労働者の半数近くが年収200万円以下であるという実態を直視せず、その改善につながらない施策は女性の二極化を招く。全ての「女性が輝く社会」の実現には、性差別の是正や格差是正に関する施策こそ進める必要がある。 政府は、「2020年に指導的地位に占める女性の割合30%」を掲げている。この実現に向けては、ポジティブアクションについての規定が既にある男女雇用機会均等法など既存法の見直しをまず検討すべきであり、新法制定等はこの検討が十分になされた後の議論である。

(2)仕事と生活の両立支援

 「女性が輝く社会」を実現するために、安全で安心して子どもを預けられる環境を整備することは大前提である。保育や介護のサービスが不十分であるが故に就業を断念する女性は多く、社会的インフラの整備は急務である。育児や介護の社会的サービスを利用しつつ、男女がともに仕事と子育て・介護を両立しながら働くためには、まず性別役割分担意識や働き方の見直しが重要であり、「再興戦略2014」に掲げられているテレワークの推進だけで解決する問題ではない。 同時に、女性が社会で活躍するためには、男性の家事・育児・介護への積極的な参画が重要である。世界経済フォーラムは、男女間格差を図る指標として毎年ジェンダー・ギャップ指数(GGI)を発表している。日本は105位(2013年)と低位であり、経済分野および政治分野における男女間格差が大きいことが影響している。一方、上位は男性の家事・育児・介護への参画が進んでいる北欧諸国が占めており、格差を解消するためには、男性の意識改革についての取り組みも同時に行う必要がある。 性別役割分担を前提とした男性の働き方は、長時間労働につながっている。30代男性の2割近くは週の労働時間が60時間を超え、日本の男性が家事に費やす時間はOECDの調査によれば1日のうち1時間程度しかない。男女がともに仕事と生活を両立できる社会の構築をめざし、社会環境の整備、働き方の見直しを進めていく必要がある。

(3)働き方に中立的な税制・社会保障制度等への見直し

 女性の就労に対して抑制的な制度の見直しをはかるとしているが、働き方に中立的な税制や社会保障制度とは、女性に限定されるものではない。 短時間労働者の就業調整理由では、本人の所得税負担の問題が最も多く、次いで社会保険料負担の問題、配偶者控除の問題が多い。配偶者控除に関しては、配偶者特別控除により世帯単位での「手取りの逆転現象」は制度上すでに解消されており、制度に関する正しい知識の周知・啓発を行う必要がある。今後は、配偶者控除の扶養控除への整理統合、所得再分配機能の強化や所得控除から税額控除ないしは手当への振り替えなど、人的控除全体のあり方を含め幅広く検討すべきである。 社会保障については、被用者保険における被扶養者の基準が年収130万円となっており、これが就労を抑制する「130万円の壁」となっている。本来はすべての雇用労働者に社会保険を原則適用すべきだが、当面は短時間労働者に対する適用拡大をめざし、労働時間要件1/2以上、年収65万円以上のいずれかを要件として適用すべきである。 男女がともに働き続けることができる社会に向けては、税や社会保障制度の見直しにあわせ、新たに税と社会保険料を負担する働き方を選択することとなる女性に対し、再就職や非正規労働者から正規労働者へ転換するための職業訓練やスキルアップの支援など、総合的な就労促進策を充実させることが重要である。

6.社会保障改革

(1)生活保護・生活困窮者対策

 生活保護制度は、生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としている。また、生活保護基準は、様々な生活に困窮する方への政策の参照基準となっている。このため、見直しは慎重に行うべきである。現在、多人数世帯の生活扶助基準の引き下げが進行しており、「貧困の連鎖」を引き起こさないためにも、各種扶助基準のさらなる見直しは行うべきではない。 生活困窮者対策については、生活困窮者自立支援制度の施行に向けて、制度の周知をはかるとともに、地域の実態に見合った包括的・個別的支援体制を全国的に構築する必要がある

(2)医療・介護提供体制の適正化と保険者機能の強化

 医療・介護制度の最大の問題は、急速に進む少子高齢社会と、それに対応すべき持続可能な制度設計である。 医療保険については、被用者保険と地域保険を両立しつつ、保険者機能を十分に発揮でき、皆保険制度を維持することが必要である。被用者医療保険および国民健康保険では、加入者の年齢構成、所得の違いなど、構造的に抱える財政リスクの解消や、負担の公平性・納得性の確保が重要となっている。したがって、制度改革に向けては、国、自治体、保険者、事業主、加入者で支え合う社会連帯の考え方を基本に置き検討すべきである。 提供体制については、医療・介護一括法の成立を踏まえ、医療機関の機能分化と連携強化、介護との連携、人材確保に向けて、都道府県の取り組みの実効性を確保するため、検討・実施体制を強化し、被保険者や地域住民の意見を反映しつつ、着実に実行すべきである。 介護保険制度については、介護職員の処遇改善に向けた処遇改善加算の継続と引き上げ、地域包括ケアシステムの構築のため、地域包括支援センターの機能強化に向けて、財源の確保が求められる。

(3)公的・準公的資金の運用等の見直し

 公的年金の積立金は、厚生年金保険法等の規定にもとづき、専ら被保険者の利益のために、長期的な観点から安全かつ確実な運用を堅持すべきものであり、「日本経済への貢献」が目的ではない。金融・資本市場の活性化を目的に、政府の政策として「公的・準公的資金の運用等の見直し」を「再興戦略2014」に記載すること自体、不適切であり、証券市場に対して誤ったメッセージとなりかねない。 運用は、財政検証で設定された年金財政上必要な利回りを確保することが目的であり、高リスクをとってまで収益の最大化を追求するために、ポートフォリオの見直しを行うことは、被保険者の利益につながらない。単年度の年金収入に占める積立金の割合は、年度によって大きく変動しているが、1990年以降、安定運用に努めたGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用が、結果として厚生年金基金の運用を上回っている点を直視すべきである。 公的年金の場合、積立金の運用の目的は「専ら被保険者の利益のため」に他ならない。GPIFは、財政検証の結果を踏まえ、年金財政上必要な利回りを安全かつ確実な運用により確保するとともに、保険料拠出者の意思が確実に反映されるガバナンス体制を構築すべきである

(4)少子化対策、育児・家事支援環境の拡充

 子ども・子育て支援については、人口急減・超高齢化対策としての少子化対策という観点だけではなく、すべての子どもの最善の利益を最大の目標とすべきである。その上で、子ども・子育て新制度の前倒しである待機児童解消加速化プランの推進や保育の質の改善を含めて必要とされている、1兆円超の財源確保を確実に行うべきである。 育児・家事支援環境の拡充を、女性の活躍促進という限定された観点で取り上げるべきではない。 「放課後子ども総合プラン」における、「放課後児童クラブ」と「放課後子供教室」の一体的な運用にあたっては、放課後児童クラブの実施水準の低下につながらないよう慎重に検討すべきである。

7.経済の好循環および持続可能な経済社会づくり

(1)経済再生と財政健全化の両立

 財政健全化は持続的な経済成長の基盤であり、将来世代へ負担を先送りしないためにも重要な課題である。しかし、2013年度補正予算や2014年度当初予算の中身を見ると、公共事業の積み増しをはじめ、財政規律に配慮した予算編成とは言えない。まずはこのような問題を真摯に反省し、国・地方を合わせた基礎的財政収支(PB)について2015年度の赤字の対GDP比半減(対2010年度比)という目標の着実な達成をめざすべきである。 「骨太方針2014」では「より効果的に成長・発展に資する歳出となるよう重点化・効率化を図る」とあるが、実行にあたっては、潜在的需要が大きく、雇用創出効果の高い、医療・介護、子育て、環境・エネルギー、観光などの分野に予算・税制措置、経済的規制の見直しなどの施策を集中し、産業政策と雇用政策を一体的に推進すべきである。

 2020年度のPB黒字化に向けた具体的な道筋は未だ示されておらず、内閣府の試算でも目標達成は見込めていない。中期的な予算編成の枠組みを定め、新規国債発行額や歳出額の上限を設けるなど、市場からの信認が得られる中期財政計画を示す必要がある。加えて、政府は、財政健全化の必要性を国民に訴え、理解を得られるよう取り組みを進めるべきである。

(2)税制改革(法人税引き下げ)

 法人税改革は、わが国の立地競争力の強化や企業の競争力強化が、国内雇用と賃金の増加につながり、堅い内需に支えられた経済の好循環を創出することにこそ意義がある。そのためには、引き下げ分が企業の国内投資や雇用と賃金の増加に確実に充当されること、それを担保する政策とセットで実行することが必要である。加えて、これまでの数次にわたった法人税引き下げなど、実施済の減税措置の効果検証が求められる。 同時に、社会保障制度の維持・充実と財政難の緩和のために消費増税を受け入れた国民全体の理解と納得を得るため、政府は法人税改革の目的・必要性について説明を尽くすべきである。また、法人税率引き下げの前提となる恒久的な代替財源確保について、まずは法人税の枠内での税収中立を基本とすべきである。 具体的な法人税改革に際しては、[1]租税特別措置等のゼロベースでの見直し、[2]中小企業への配慮を行った上で原則すべての企業への外形標準課税の導入、[3]中小法人に対する軽減税率(基本税率の1/2程度)の維持、を行うべきである。 今後は、国民生活の安定・安心と財政規律の観点から、法人税改革のみならず、所得税・消費税・資産税のあり方など、中長期的な税制改革についても幅広く検討していく必要がある。

(3)地域活性化

 「地域活性化の鍵は、若者を含めた魅力ある雇用の場を実現できるかどうかにかかっている」との課題認識や、地域の特色ある資源を活かした産業の推進、地域に魅力ある雇用の場の創出といった施策の方向性は評価できる。そのためには、地域の特色を生かした農林水産業、中小企業、地場産業の育成支援や、新事業の展開、地域の雇用の創出など、産業政策と雇用政策を一体的に推進することが重要である。 各地域に設置されている地方産業競争力協議会については、従来の産官学の連携に地域の金融機関を加えることで、地域資源の有効活用など、地域経済の好循環をはかるとしている。しかし、地域の発展には安定的な雇用が不可欠であり、地域の労働力で消費者でもある労働者の代表が参画することで、「産官学金労」が一体となり、自立的で持続可能な地域活性化策を検討・推進する必要がある。

(4)中小企業に対する施策

 「再興戦略2014」が、中堅・中小企業・小規模事業者に対するきめ細かい支援を行うことを重視し、地域の活性化に視点を置いていることは評価できる。活力ある中堅・中小企業・小規模事業者を育てるためには、それを担う人材の育成が必須であり、そのためにも技能・技術の継承やその保護、技術・技能者への社会的評価システムの確立、そして、そこで働く者の処遇を改善し、賃金及び労働条件の底上げをはかることが重要である

 また、地域活性化関連施策をワンパッケージで実現する伴走支援プラットフォームの構築により集中的に政策資源を投入するとしているが、現在の中堅・中小企業・小規模事業者への様々な支援策について、あまり活用されていないのが実情であり、支援策の周知徹底など実効性を高めていくことが先決である。 地域の特色ある産業を全国津々浦々で育成するためには、消費税率引き上げ分の価格転嫁のみならず、下請いじめなどに対する行政の監視体制を強化し、中堅・中小企業・小規模事業者が適正な製品・サービス価格のもと公正な取引が行われる環境整備が必要である

8.公務員制度改革

 女性の採用・登用促進や若手の育成、ワーク・ライフ・バランスの推進など評価できる点もあるが、公務員の労働基本権の回復について盛り込まれていないことは問題である。政府は、これまで再三にわたりILOから勧告を受けている事実を真摯に受け止め、第186通常国会で成立した「国家公務員法の一部を改正する法律」においても見送られた自律的労使関係制度の確立に向けた措置を早急に講じるべきである。 また、「平成27年度以降5年で10%以上のペース」といった定員削減目標が掲げられている。この間、大幅な財政赤字を背景として、定員削減と新規採用者数の縮減が行われてきたが、職場や業務運営の実態を顧みることもなく、数ありきの目標設定は、東日本大震災からの復興・再生や国民生活の安心・安全を支える良質な公共サービスの確実な実施に支障をきたすことや、不安定・低処遇である臨時職員・非常勤職員をなし崩し的に増加させることが懸念される。安倍政権がデフレ脱却や健全な経済成長をめざすのであれば、今求められていることは、必要な人材を確保することである。

9.教育機会の均等

 「再興戦略2014」には、「『世界でトップレベルの雇用環境』を実現していくためには、教育改革と労働分野の改革を連動させ、キャリア教育及びプロフェッショナル教育を強化することで、海外との競争にも打ち勝てる人材を大量に輩出するシステムの構築が必要である」とある。 しかし現実には、生活保護の受給世帯数が160万世帯(2014年4月時点)を超えるなど、「貧困の連鎖」によって、教育を受ける機会の格差拡大の懸念がある。海外との競争に打ち勝てる人材の輩出も必要かもしれないが、日本の成長を支える人材確保の基盤をつくるには、家庭の経済状況にかかわらず、すべての子どもたちに教育を受ける機会を保障し、格差是正と底上げにつなげていくことこそが必要である。 そのためには、特に公的な財政負担割合が低い、就学前教育や高等教育にかかわる家計の負担を軽減するために、幼児教育の段階的無償化や高等教育における給付型奨学金の拡充などを通じて、教育費に関する公的支援を充実させることに最優先で取り組むべきである。

10.職務発明制度

 「再興戦略2014」には、「企業のメリットと発明者のインセンティブが両立するような職務発明制度の改善」の例として、特許に関する権利を「発明者たる従業者」から「企業」(法人)に帰属させることが挙げられている。法人帰属となり、企業が従業者へのインセンティブを自由に決められるようになると、従業者が現在受けている利益の切り下げにつながる可能性がある。そもそも権利帰属の原則を変える立法事実がないにもかかわらず、このような見直しが検討されていることは問題である。 わが国が、「技術イノベーションの推進/世界最高の知財立国」をめざすのであれば、何よりイノベーションを生み出す人を大事にしなければならない。そのような視点を欠いた制度の改善では、むしろ優秀な人材が海外に流出してしまうという本末転倒の結果をも招きかねない。発明を生み出す研究者・技術者の発明意欲の向上につながるよう、従業者のインセンティブが確保されることを前提とした制度の検討を行うべきである

(参考:6月24日付 事務局長談話)




以上