事務局長談話

 
2025年08月04日
厚生労働省「労災保険制度の在り方に関する研究会」中間報告書に対する談話
日本労働組合総連合会
事務局長 清水 秀行

1.労災保険制度の全体的検証が行われたことに意義はあるが、懸念点もある
 7月30日、厚生労働省「労災保険制度の在り方に関する研究会」(座長:小畑 史子京都大学大学院人間・環境学研究科教授)は、労災保険制度全般にかかわる検討結果をまとめた中間報告書をとりまとめた。労災保険制度発足から80年になろうとする中、働き方の多様化など環境が大きく変化することを踏まえた全体的な制度検証が行われたことに意義はあるが、その内容には懸念すべき点もある。

2.適用範囲の拡大や遺族(補償)等年金の支給要件の見直しは進めるべき
 中間報告書では、労災保険の「適用」「給付」「徴収」の3分野ごとに、制度的課題と見直しの方向性が示された。「適用」の分野では、強制適用の対象とされていない小規模個人経営の農林水産事業者への適用拡大の検討や、特別加入制度の適正化などが提起されている。本来、労働者として保護を受けることができる範囲の議論を十分尽くすべきである。その上で、これらの見直しは労災保険制度の拡充および信頼性向上の観点から重要である。「給付」の分野で示された遺族(補償)等年金にかかる夫と妻の支給要件の差の解消については、給付水準などの維持を前提に進めるべきである。

3.特別支給金の保険給付化などは被災労働者の保護の後退を招きかない
 他方、中間報告書には、被災労働者や遺族の保護の後退を招きかねない点もある。「給付」の分野では、議論が十分尽くされないまま特別支給金の保険給付化について言及がされているが、保険給付化がされた場合、損害賠償との相殺対象となり被災労働者や遺族の生活が脅かされる懸念があるため認められない。また、労災保険給付の消滅時効は「統一的な見解が得られなかった」とされたが、被災労働者らが早期に請求権を失うことがあってはならず、当然5年にすべきである。
 さらに「徴収」の分野で存続が妥当とされたメリット制は、労災隠しの原因となっていないか一層の検証が必要である。加えて、労災支給決定事実などの事業主への伝達は、事業主からの被災労働者らへ不当な圧力が生じる懸念がある。

4.政策・運動の両面から労災保険制度の発展に取り組む
 労災保険制度は、被災労働者と遺族の迅速かつ公正な保護を目的とする重要な社会的セーフティネットである。今後は労働政策審議会において制度の見直しの具体的な議論が行われる見込みであるが、連合は労災保険制度のセーフティネット機能強化に向けて政策的に対応をはかる。同時に、「連合フリーランス労災保険センター」の運営を含む運動を強化し、もって制度の健全な発展と運営に取り組んでいく。

以 上